4-16 闇夜の遠足。その2
チンヨウとユーはランタンを静かに置く。
一番初めに声を出したのはチャオだ。
「みんな、遠くから妙な足音が聞こえないか?」
全員が足を止めた場所はちょうど道の方向が変わるところだった。
一通なので、上から排気ファンの音が降り注いでいる。
水たまりを踏みこむ、素早い速度の足音がする。
ユーはリュックをそっとその場に置くと、鉄鍋と中華包丁を用意した。
探検家みたいな恰好をしているので、頭のヘッドライトのスイッチを入れる。
チャオは形意拳の構えをさせる。
チンヨウは両手指先をつまむような形をさせて、腰を落とす。レイレイと同じ螳螂拳だ。
「ユー、なんだよ、その装備……ふざけてるのかよ?」
「おねーさんはね、ふざけてないわよ。情報によるとほぼ普通の刃物じゃない。相手の回る刃物。
手裏剣? ていうんだっけ? 跳ね返すこともできるわ」
「まあ、そうかもしれないけれどよ……」
ルェイジーは、両手を広げ腰を落とす。
「パーティカルロイド起動、気功ユニットオンアルネ……」
ルェイジーの頭から足先まで、全身に薄青い幾何学模様が全身を巡る。
「戦闘準備、オッケーアルネ?」
ルェイジーとチンヨウは前側を警戒している。
その後ろでは、チャオとユーが、構えている。
チンヨウが声を押し殺しながら口を開く。
「チャオ、ここは毒ガス食らっても大丈夫か?」
「ああ、真上に排気ファンがある、それと通路下にも小さな排気ファンがいくつかあるはずだ」
そして、チンヨウは鋭いまなざしを更に細くさせた。
遠くの方からゆらりと影が近づいてくるのだ。
「誰か、来るぞ!!」
「う、うひひひぃいいいい!!」
ランタンに灯され、奥から人が出てくる。
しかし、首が前ではなく、後ろを向いている。
ルェイジーはその男に見覚えがあった。
「チンヨウシェンシン、中国国防部の人アルネ!! 死んでいるはずアルネ!!」
だが、キョンシーのように男はゆっくりと歩いているのだ。
しかも、口も動くはずないのに、声が出ている。
「うひひいぃ!! おじさんとあそぼうよぉぉぉおおおおおお!!」
ルェイジーは危険を察知したのか、すぐさま後ろの二人に呼び掛けた。
「まずいアルネ、みんな跳弾に気をつけるアルネ!!」
男は銃口をチンヨウに向ける。
ルェイジーはすぐにチンヨウの目の前に出てくる。
男の銃口から光が幾度も放ち、ルェイジーの薄青いハニカム構造のバリアが発生する。
跳弾はユーとチャオの足元や周辺の壁に当たり、運よく免れる。
ルェイジーは高速で相手に近づく。
片足を一歩踏み込み、相手の鳩尾へと掌底を放った。
相手は20メータほど吹っ飛び、壁に激突する音はした。
チンヨウは、すぐに判断を下す。
「皆、反対方向へ逃げるぞ!!」
チャオとユーに話しかけるが、チャオとユーはそのもう一方向へは行こうとしなかった。
「チンヨウシェンシン、ちょっと無理みたい」
「どういうことだ?」
置いたランタンの影から両腕から血を流したままの、中国国防部の男が歩いてきているのだ。
よく見ると右手には銃口の先に装着するナイフ、バヨネットが白い布の切れ端で巻かれている。
鋼鉄製のヘルメットをかぶっている男が、喋り始めた。
「うひうひうひうひひひひぃぃいいいい!! 拙者は、服部半蔵!! 忍法分身の術!!」
「分身? 何それ? おねーさんはね、こういうのが得意なのよ!!」
チャオよりもユーが先手をきる。
相手がユーにナイフをかざそうとするが、中華鍋で相手の右手を薙いだ。
そして、中華包丁で、両足を一刀両断。
相手は左横壁方向へ崩れ落ち、ユーはすぐさま薙いだ中華鍋で相手の顔面を思いっきり叩いた。
男の右隣の壁と中華鍋とで挟まれたのだ。
強烈な一撃が炸裂する!!
男はそのまま崩れ落ちた。
ベストから布を取り出し、血だらけになった中華包丁を撫でる。
「ふう、調理師のおねーさんに歯向かっちゃ、いけないんだぞ」と、ユーはルェイジーへ振り向いた。
チャオは、戦闘経験だけは豊富なので、嫌な予感しかしなかった。
形意拳の構えを崩さない。
「チャオくん、どうしたの?」
「……やばいよユー……。コイツまだ動こうとしている。下がってくれよ」
ユーが下がろうとした瞬間だった。
「うひひひひぃぃいいい!! ぎゃばばっぎゃばばばがばばばばばぁあああぁあああ!!」
両手、両足すらないのに、ありとあらゆる動きがおかしくなっている。
よもや、人とは言えない怪物の動きだ。
「ぎゃばばばあああ!!」
仰向け状態なのだが、背中と腰の筋肉を動かして、ジャンプしてきた。
チャオは、一歩踏み込み、練功。
全身の気はチャオの上丹田から下丹田までハイサイクルで気が巡る。
右手で握りこぶしを作る。
ぎりり、と岩を砕くほどの限界まで拳が作られる。
相手がユーの目の前まで来たとき、チャオは全力で叫んだ。
「第二拳没有射击!!!! (二の打ち要らずの方拳)」
たった一歩だけはずみこみ、その拳を相手へ。
相手のぐちゃぐちゃになった顔に拳がめり込む。
あらゆる気という気が、力となって伝わり、それは50メーターほどぶっ飛んだ。
「チャオくんありがと!!」
「とにかく、逃げないといけないアルネ!」
ルェイジーとチンヨウが前を向くと、先ほどルェイジーが倒した男が再び向かってくる。
頭が後ろを向いてしまって、ぶら下がっている。
ルェイジーはすかさず駆け寄り、相手の胸元に左拳を叩き込み、腰に手をかけて相手を投げた。
相手は仰向けの状態となり、ユーが両腕両足を中華包丁で切断。
「おねーさん、朝からあまり汗かきたくないんだよ?」
チンヨウはユーたちに顔を向けて叫ぶ。
「皆、逃げよう!!」
チャオとチンヨウはランタンを回収。
ユーはリュックを急いで回収し、一同全員は走り始めた。
チンヨウとルェイジー、ユーにチャオは狭い通路の中、駆け出し始める。
ユーは、左手に中華包丁、右手に中華鍋。
「昔からあるゾンビ映画みたい!!」
「キョンシーじゃねーのかよ!!」
「動きはキョンシーじゃないわ、素早すぎる!!」
ルェイジーとチンヨウは突如足を止める。
「また、一人来たアルネ!!」
チンヨウはすぐさま腰を落とし、螳螂拳の構えをさせる。
相手との距離は30メータほどだ。
小銃も所持していて、銃口もこちらを向けている。
ルェイジーとチンヨウは同時に視線を合わせる。
「ルェイジー君、すまない」
ルェイジーにランタンを放った。
「アイヤ!! 了解アルネ!!」
ランタンを受け取ると、ルェイジーはとっさに相手の目の前に15メータほど出てくる。
バリアが出力され、15発の弾丸全てを弾く。
チンヨウは右サイドの壁を蹴り、相手側の顔面に鋭いキックをお見舞いする。
男は仰向けに倒れたところを、チンヨウは相手の銃を奪い、あっという間にバラバラにした。
男はすぐさま攻撃方法を切り替える。
右手からナイフを取り出し、チンヨウへ。
チンヨウは身をよじらせ、かわし、相手の腕を取る。
身体全身を横へ一回転させ持っている右手の肩に全身の体重を乗っける。
骨を滅茶苦茶にする、鈍い音が響く。
それでも男は動こうとしていた。
チンヨウは、あることに気づく。
「こいつ、バトルドレスを装着しているのか?」
男の馬鹿力も限界に来た時、チンヨウはある判断を下す。
「ユーさん、中華包丁を貸してください!!」
ユーは左手の中華包丁を投げた。
チンヨウは右手で華麗に受け取り、背中の襟元に中華包丁を無理やり差し込み、そのまま一気にさいだ。
相手の上半身オリーブドラブ色の服が真っ二つになり、相手の動きは止まった。
一番意味不明そうな顔をさせている、チャオが口を開く。
「どういうことだよ?」
チンヨウは、話しながら中華包丁をユーに放る。
「パーティカルロイドシェルを組み込まれているということは、バリアもそうだが、ある程度馬鹿力を出せるようになっている」
ユーは手慣れた手つきで、中華包丁を受け取った。
「ふうん、そうなんだ。おねーさん、わかっちゃった」
「わけわかんねぇよ、ユー……」
「筋力増強スーツよ。凄く薄型だけど、力を補強させているから、それで死体を動かしているのね?」
「その通りだ。つまり、動く死体の正体はハッキングだ」
ルェイジーは首をかしげる。
「アイヤ? はっきんぐ?」
「つまり、乗っ取りよ。ルェイジーちゃん。初速度計算しているじゃない。バリアって。それだけ超精密高性能な中央演算処理行っているのよね」
「もっと、大型タイプとなると、自動操縦がある程度可能なバトルドレスもあるな」
「確かに、自動操縦である程度、パワードスーツ動かせるアルネ!」
「あれの人間版というやつだ」
「なるほど、分かったアルネ。人を倒すよりも、服を壊せばいいアルネ!!」
「その通りだ。だが、とんでもないバカ力だな」
「でも、今回はあのゴキブリみたいなヤツ来なかったからよかったものの、来たらおねーさん、ぞっとするわ……」
「そうだな、とにかく牙龍会を目指そう……」
一同は更に深い闇の中へと進んでいく。
朝……18歳、男性。
拳龍会所属。
身長160センチ。
黒髪、黒い瞳、髪ミドルまでボッサボサ。
浅黒い肌。
口元には黒いバンダナを巻いて、ボロボロの黒いマントを羽織っている。
地下組織裏九龍城国の中でも、最強の暗殺形意拳使い。
彼の放つ方拳は、チャイナガールズでさえ、手に負えないぐらい、威力が強い。
二のうちいらずの拳も持っていて、ポンケンを放つだけで、人は吹っ飛びます。
ありとあらゆる闇を見てきたので、瞳は薄暗く、殺人となってもいとも容易く出来る。
拳銃などを持っていたとしても、素早く突撃し、引き金を引く前に事を処理しようとするので、どんな輩でもひく。
今回は、ルェイジーと共に神龍会と組むことになる。
必殺技
二の打ち要らずの方拳
第二拳没有射击 Dì èr quán méiyǒu shèjí




