1-4 シェンリュ、リベンジマッチ!!
「あらま、皆可愛いわねぇ……可愛すぎるわねぇ!!」
初めは穏やかだった声が、突如爆ぜる。
目の前の相手が、背筋に手を入れ、巨大なバズーカー砲をにょっきりと取り出した。
ルェイジーは、両目をつぶりつつマンガみたいに、滝のような大量の涙を流す。
「アイヤー!! そんなのどっから出したアル!!」
そんな言葉なども気にせず、レイレイとルェイジー目掛けて、バズーカーの砲身が横に薙ぎ払われる。
普通、重いものを持ったときは、速くそんなに振り回せない。
――要塞は違う。
一振りしただけで、周辺の草木、木々が揺れる。
レイレイたちはすぐさま背中から離れたが、バズーカーの的になったのはシェンリュ。
バズーカーなのに、超ゼロ距離射撃だった。
「いぇぇぇええええええええええ!! あんたも死ぬわよ!」
オカマの、べっとりに塗られた深紅の口紅がゆがむ。
「ボスの為だったら、本望よ!」
レイレイは、彼女の名前を言おうと「シェ……」と口を開こうとした瞬間だった。
地面を揺らす爆発が起き、木々に住んでいる小鳥たちが空めがけて逃げていく。
シェンリュは、バリアのおかげで衝撃に耐えられたが、せきこんでいた。
緑色のパンツスタイルの彼女の服も焦げだらけで、胸の辺りやズボンなどところどころが裂けてしまっている。
「げほ、ば、化け物……。傷一つついていないじゃない」
化け物は、バズーカの砲身をスライドさせ、バズーカのから薬きょうを捨てる。
空薬莢はまだ熱をまだ帯びていて、赤い土をぐしゃりと潰しつつ、薬莢の下敷きになったカラカラになっている雑草が燃える。
また、背中から弾丸を片手で取り出し、バズーカーにセットする。
「あんら、緑色の子猫ちゃん。とっても素敵な姿。
あんたたちの、バリアは1.5枚でしょ? バリアは一応持続可能だけれど、一度壊れてしまうと、元に戻るには時間がかかるのはご存じよね! つまり、一枚壊せば、あと0.5まぁい……」
シェンリュは、肩を大きく揺らし、息が激しい。
両目に涙をためながら、それでも、クンフーを叩き込もうとしていた。
「あらあら、もう降参かしら?」
シェンリュは、下唇を噛みしめると、それでも拳を握り、相手の割れた腹筋に拳を打ち付ける。
「アタイは、アタイはぁ!」
そして、そのオカマは背筋を伸ばしなおした。
「子猫ちゃんたち、良いからしらぁん? 銀龍さんは気づいていないかもしれないけれどぉ、あんたたちに決定的に足りないものがあるわ!
美しさが、圧倒的に足りていないわぁん!! 金龍さんは、この演習での特別ルールを言ってくれていたのからん?」
レイレイの目が青く光っている。
スマートコンタクトレンズをしているので、遠くのところもよく見えるのだ。
マッスルな男の背中を見ながら、草木の茂みに隠れ、命からがら、300メートル先の方で捕らえられたシュンリュを見ていた。
彼女は、訝しげな顔をする。
「特別ルール? なんなのそれ?」
その言葉は、ルェイジーの耳にも入っている。
「レイレイ、それ、美味しいアルか?」
オカマは、ボディビルダーのように足先から頭の頂きまで力を入れ、ポージングをさせた。
「それはねぇ、アンタたちの捕虜になり、捕虜はキレイになってもらうのよお!」
その言葉を聞いた瞬間、レイレイの部隊以外の全員の声が響く。
「え?……ええーーーー!!!!」
あんまりにも大きな声を出し過ぎたせいか、他の小隊も一目散に逃げる声が聞こえる。
遠くの方では、「まっちなさーい」と、野太い声が過ぎ去っていく。
残りのメンバーの阿鼻叫喚の声が遠くからでも聞こえるくらいだ。
「キャー! 助けてー!!!! そこはダメだよ!!」
「アイヨー、早く逃げないと!!」
「私のクンフー、まだまだわね」
森林周辺外でも、想像以上の戦闘が行われていたらしい。
街が爆風でぶっ飛び、直立している木々は次々と横へと倒れる。
そこら中で、爆風と爆発、爆炎が次々と起こった。
「リームォ、キレイになりゅたい……」
「もぉ、リームォ、さっさと逃げるわよぉ」
「ホンホン式白虎拳! え? なんであたしが空に吹っ飛ばされているのぉ!」
更に、もう一人の野太い声。
「もっともっとぉ、おっにげなさぁーい」
「玄武部隊隊長が~お相手します~~。あれ~私が~飛んでいるような~~」
「ホワッチャァアアアア!! ジークンドーは完璧? じゃ……なかった。わあああ!!」
初日は、完全カオス状態になってしまっていた。
チャイナドレスを着ている少女たちが散々吹っ飛ばされて、何度も何度も挑むかたちとなっている。
作戦も何もない状態となってしまったのだ。
耳が痛くなるぐらい、銀龍の大声が内耳から聞こえてくる。
「テメェら、もっと連携を使いやがれぇ!! リームォ、大人のレディに憧れるからって、わざと捕まえられに行くんじゃねぇ!! いい加減にしろー!!!! テメェらーーーーーーーーー!!」
そして、唖然としていたシェンリュには、いつの間にか極太の黒いロープのようなものを巻き付けられていた。
「え?」
金髪オカマは他の仲間たちに大声で叫んだ。
「みんなー!! 獲物を捕まえたわよ!! 森林奥に来てちょうだい!!」
その連絡の数秒後だった。
突如、シェンリュの目の前にオカマが飛来してきたのだ!
シェンリュは、思わず「ひぃっ!」と小さい口から言葉をもらす。
オカマの格好は、青いメイド服を着こんでいた。
何となく、色合い的には空軍を想定させる色だ。
「さあさん、あなたには美しくなる権利がぁ、あるのよぉ!!!」
シェンリュの小さい顔を余裕で覆う、どでかい顔。
白塗りで、短髪の髪だが、白塗りでなくともシェンリュはひいているだろう。
更には、どこからか現れたのかが不明なオカマが森林の奥から透明からOD色のメイド服姿で現れた。
――光学迷彩。
周辺と一体化し、半透明になるこの世界でも結構使われている技術だ。
「あんらぁ、見れば見るほど、超原石じゃあんん!! あなた、名前はなんていうのかしらぁ」
シェンリュは、眉根を寄せて上目遣いで、ぼそりと言う。
「あ、アタイの名前は、げ、玄武部隊所属、陶 深緑……」
オカマ二人は両手を合わせ野太い声がハーモニーを奏でる。
「「「あんらー、超超超超超超! かーわーいー」」」
青いメイド服を着ているオカマは、どこからともなくテントを張り始めている。
「いい? レディには見られちゃいけない秘密があるのよぉ……」
気持ち悪いぐらいにねっとりとした声色をさせながら、オリーブドラブ色のメイドオカマが、シェンリュに香水を振りかける。
シェンリュは、顔がただただひきつっている表情しかできないでいた。
「女の子はねぇ、もっと美しくならなくちゃ!!」
いつの間にかテントが張られていた。
どういう物理学な行動原理で、そんなに物事を早くこなせるのか、もはやシェンリュには意味不明だった。
グルグル巻きになったシェンリュは、ひょいと担ぎ上げられ、テントへ運ばれていく。
ひたすら、テント内ではシェンリュの叫び声が聞こえた。
「な、何するのぉ!? バトルドレスを、ぬ、脱がさないで!! ちょ、そこは、くすぐったい!! あはは!! あ、何このお茶……美味しい!!」
テントを密かに静観していた、レイレイと、ルェイジーは目を見開き、疑った。
暗がりの奥から、クレオパトラのような金龍と勝負できるような、金色の美少女がそこから出てきた。
何気に、似合っていたのか、二人は絶句していた。
「う、美しいアルネ……」
「キレイになったけれど、何かそういう問題じゃないんじゃない?」
――――その瞬間だ。
二人が茂みに身を潜めていたら、ドカン! と、音がした。
既に、青いメイド服の怪物が、レイレイとルェイジーの後ろにいた。
レイレイは、冷静さを保つのに、ようやくだった。
レイレイとテントの距離は約300メートルぐらいあるはずだ。
その場所を、ジャンプして一瞬にしてここまでやってきたのだ。
彼女は、すぐさま後ろへ振り返り、ハイヒールで相手の太い脛を蹴る。
伊達に朱雀部隊の小隊長をやっているわけではない。
相手の脛を蹴った後、気功ユニットを全開にして、相手との50メータ以上、距離をとった。
レイレイは、何とか助かったが、甲高い声が響く。
「ひえぇ、レイレイ助けてアルー!! もっと可愛くなってしまうアルー!!」
レイレイは、体制を立て直そうと、とりあえず振り返ることなく、逃亡せざるを得なかった。
「レイレイ、レイレイーーーーー!!」
甲高いルェイジーの声を背にした。
レイレイは小隊長としても、一人の戦士、クンフーの達人としても惨敗したのだった。