3-17 ルェイジーとリームォのジャンケン。 その1
ルェイジーとリームォは、買い物をし終わったあと、白龍省の公園の前を通りかかった。
ルェイジーは、小さな二つの白い影を見て、歩くのを止めた。
「アイヤ!! あの二人は、ホンホンとリャンリャンアルネ!!」
リームォもそれに反応する。
「ふたりゅとも、なにしてりゅ……」
「アイヤ、あのいつも通りの格好クンフー、修行アルネ!!」
「ふたりゅに、あいさつしゅりゅ……」
「リームォ、挨拶しに行こうアルネ!!」
ルェイジーとリームォは、ホンホンとリャンリャンの前に近づいた。
二人は、ヤーイーに教わったじゃんけんで、目の前の物事を解決しようとしていた。
「じゃーんけん……」
「アイヤ!! ホンホンリャンリャン、何してアルか?」
二人は同時にルェイジーに振り向く。
「ルェイジー、ジャンケンよ!!」
「ルェイジーさん、ジャンケンです!!」
「おお、いいことアルネ!! ジャンケンで平等に解決良いことアルネ!!」
二人は、顔を曇らせうつむき加減で、唇をとんがらせる。
「その表情、どうしたアルネ?」
リャンリャンはルェイジーの顔を見上げる。
「それがタイミングがぁ、むずかしいんです……」
ある意味、正しい。
武道を極めし者は、驚異的な動体視力を持ってしまって、なかなかタイミングが合わないのだという。
さらには、ホンホンリャンリャンのような一つも狂わない正確さを求めるのだったら、対等に解決するということは一周して、相当難しいのだ。
「そうアルネ、わかったアル!! ルェイジーおねーさんが、お手本見せてあげるアルネ!!」
「あたち、ルェイジーおねーたま、協力しゅりゅ……」
ホンホンとリャンリャンが壊してしまった、池、ベンチ、などに赤いコーンが周辺を囲っていて「補修中」という札が下がっている。
花壇の付近の外套などは無事だった。
そして、リームォとルェイジーは、4メータほど距離を置く。
ホンホンとリャンリャンは、少し首をかしげる。
「なんで、距離をおくの?」
「なんで、きょりをおくのでしょう?」
ルェイジーは、両方の眉を吊り上げ、リームォに対し掌と拳を合わせて一礼。
「ジャンケンの師匠、リームォ老子お願いします……アルネ!!」
リームォは、無表情のままお辞儀をする。
「うむ、でちよ、おたゃがいにぜんりょくをちゅくしょお……」
そして、ルェイジーは劈掛拳の構えをさせる。
リームォは、六合蟷螂拳の構えだ。
「なんで、クンフーの構えをするの?」
「なんで、クンフーのかまえがでてくるのでしょう?」
向かい合っている二人の隣りでは、太極拳のゆったりとした、優雅な曲がラジオから流れている。
全員、太極拳の套路をゆっくりと行いながら、練功をさせている。
とっても、平和だ。
そして、二人はついに初めの言葉を放った。
「……ジャン!!!!!」
ルェイジーは、深呼吸をさせ拳を握る。
拳を限界まで勢いよく、後ろに水平へと持っていく。
空気を巻き上げる衝撃波が巻き起こり、補修中の池を囲っている赤いコーンはなぎ倒され、
その隣にある木々の枝がその風圧で折れそうになりながらも耐えている。
リームォも同じように拳を後ろへと持っていく。
その瞬間、衝撃波が太極拳を行っている一般市民へと襲い、
あまりの強風に全員吹っ飛ばされる。
あらゆる住民は散り散りになり、阿鼻叫喚の声が公園に響き渡る。
「うあああああああ!!! 殺人ジャンケンだああああああ!!」
「助けてーーーー!!!! 風圧で息があああああ!!!」
「おい、これはやばいぞ!!! 新しすぎて何の警報だ!!! そうかジャンケン警報だ!!! 誰か、誰かー!!!!」
スピーカーから、どこかで聞いたことあるような声がする。
「こほん、シャオイェン警報と、えっと、ジャンケン警報が入りました。シャオイェン警報は、九龍城国でずっと24時間ほど放送されますが、ジャンケン警報は白龍省の公園で警報が発令されました。
近隣の住民の方々は、なるべくルェイジーさんとリームォさんとの付近に近づかないようにご注意してください。
彼女たちの圧倒的ジャンケンによる破壊力は、大地を削り、木々をなぎ倒し、ありとあらゆる公園内の物質が粉々に砕かれていきます。
そして、そのままこのシャオイェンは、レイレイさんがいないため、24時間しゃべり続けます。最近、九龍城国では……」
彼女の声が、スピーカーでこだまする。
公園の周辺にある住宅地は、次々と窓のシャッターを下ろしていく。
それぞれが順繰りにおろしていくので、ハーモニーを奏でているみたいだ。
「……ケン!!!!!!!!」
ルェイジーとリームォは同時に叫ぶ。
ルェイジーは、練功させた全身で、驚異的な破壊力の一歩を踏む。
その威力は知れず、岩を敷き詰めた地面だというのに、ルェイジーを中心に30メーターほどの陥没を掘る。
砕けた岩の破片は、ふわりと浮いて、彼女の白く健康な色の顔やチャイナドレスをかすめていく。
リームォも、最大初速の一歩を踏み出し、その風圧は彼女の周辺に大きな花壇の土をえぐり、整備された芝は全部茶色くひっくり返る。
美しくも咲いていた花は無残にも根っこから抉り出され、白い花が風に流れて、リームォの小さな顔を撫でる。
ルェイジーは、限界まで力の入った拳を、リームォ側へと再び持っていく。
一般人だったら、普通のことで済むが、チャイナガールズたちのジャンケンは危険だ!!!
吹きすさんだ風は、今度は逆流になり、木々の葉や枝が二人に吸い込まれていく。
ありとあらゆる破片が、今度は逆方向へと向かっていくのだ。
あまりの風圧に、ホンホンとリャンリャンも、棍を岩に突き刺し両手で掴まって何とか耐えている。
二人は、まるで日本の鯉のぼりのように体が完全に横へと浮いている。
「すごすぎる!! 二人ともこれが真剣な、真のジャンケンなんだね!!」
「すごいです、すごいです!! 色々なものがどっかに飛んで行ってしまいました!!!」
リームォも、ルェイジーの方向へと腕を振るう。
その瞬間、木々や外套につかまっていた住民が、「アイヤー!!!」「アイヤー!!!」という声とともに、次々と横へ吹っ飛ばされていく。
そして、ルェイジーとリームォの間には真空の渦が起き始め、小竜巻が起き始めていたのだ。
その竜巻は、さらなる激流を呼び、本当の竜巻が作り上げられたのだ。
突発的すぎる、人工的な竜巻に乗りながら、二人もグルグルまわりながら風へと乗る。
ついに、ジャンケンも佳境だ。
ジャンケンが空中戦へと変化した瞬間だった!!
100メータほど上空へ飛んだ後、二人はついに両手を出した。
ルェイジーとリームォは夏場のじめついた熱気を肺に含み、さらに同時に口を開いた。
「……ポン!!!!!!!!!!!」
「……ポンアルネ!!!!!!!!」
その判定は、大きな手が「ぱー」小さな手も「ぱー」だったのだ!!!
二人は、宙を浮きながらも、急加速で落ちていく。
「アイヤ!! リームォ老子、あいこアルネ!!」
「もういちどょ、じゃんけんしゅりゅ……」
二人は、音速で落下していく!!
チャイナガールズたちの戦闘は、音速に近いスピードで動いている。
二人は、そんなのには慣れっこだった。
ミサイルが落とし込まれたような爆音を放ちながら、二人は同時に地面へと両足を落とした。
岩で敷き詰めた公園は、すでに後を残さず、土をえぐりながら、二人を中心に吹っ飛んでいく。
6メータほど建っていた外套は、ランプを完全に砕き、地面根底からへし折れ、そのまま抉り出されて、公園の場外ホームランへと吹っ飛んでいった!!
さすがの、ホンホンとリャンリャンも、たまらず、六角棍を握りしめたまま、遥かなる上空へと吹っ飛ばされていく。
彼女たちは、声を同時にそろえて、お空の点になる。
「ジャンケンって、とっても危険だったのねーーーー!!!」
「ジャンケンって、とっても刺激的だったんですねーーーー!!!」
二つの星は、きらりと光り、どっかにいったのだった。
そして、二人の周辺には、「破壊」という二文字がしかなかった。
二人は、周辺の異変にようやく気付く。
ルェイジーは、紫色のポニーテールを左右に振りながら叫ぶ。
「アイヤ!!! みんな、どこ行ったアルか?」
「ホンホンもリャンリャンもみんな……いにゃい……」
遠くのほうでは、シャオイェンがずっと喋っている。
「シャオイェン警報、1時間ようやく経過です。人の時間の概念は非常に面白くて、0歳児の時は、
0倍なのですよ。
そして、年齢を重ねるごとにその感覚は倍々に増えていきます。
つまり、私の年齢は16歳なので、16倍なわけで……」
ルェイジーちゃんの中国語講座!!
目上の人に対する、中国語について。
「アイヤー!!ルェイジーアルネ!! 今日は、中国語講座を教えるネ。
銀龍や金龍に、隊長以外でも読んでる言葉、みな、気づいたアルか?
あれは、おとなと書いて「ターレン」と発音するネ!
尊敬する人に話すときは、必ずつけた方がいいネ!! それと、せんせいと、書いて、
シェンシンと呼ぶアルネ!! つまり、ルェイジーは、皆の先生だから「ルェイジーシェンシン」カッコウ良いアルネ!!
シェンシンは、本当は男性につかうアルネ。
けれど、銀龍ターレンは、女の中の男!! アルネ。
男に負けじという意味も込めて、隊内ではシェンシンと使っているアルネ!!
ちなみに、今はなくなってしまった制度アルけど、国になる前の九龍城のときは、皆三つぐらい名前持っていたそうアルよ!!
本名、英語名、通り名。
九龍城砦だったときは、本当に人が一杯いすぎて、学校の時は区別するためにあだ名をつけられたアルよ!!
あっ! そういえば銀龍の場合は、英語は「シルバードラゴン」ね!!
かなりカッコいいアルネ!
ルェイジー、負けちゃったアル!!
それでは、次をお楽しみアルネ!!
人生の悩みでも何でも、感想、お待ちしてアル!!
それでは、ザイジィェン、アルネ!!」




