1-3 チーム第2部隊VS金髪ゴリラ!!
今回の演習のフィールド範囲は広く、亜熱帯のような樹海、市街地、果ては荒野まである。
演習場の入り口には、そびえたつ廃鉄塔。
200年ほど前は、電気という放射能のエネルギーに頼っていたが、そのエネルギーもいまだ使われているが、ほとんど衰退しつつある。
パーティカルロイドという素粒子技術によって、ほとんどが塗り替えられつつあったのだ。
ここは演習場とはいえ、かなり本格的に作ってあり、特に森林部は非常によくできている。
玄武部隊であるシェンリュは、高くそびえたつ大木の中で相手が来るのをずっと待っていた。
彼女は、銀龍がなぜこのような変な演習を行うのか狙いが分からない。
パーティカルロイドシステムのおかげで、様々な物が便利となった。
こと、秘匿回線端末にしてもそうだ。
情報を通信するにしても、旧時代はイヤホンという物体を使用されていたそうだが、バトルドレスを着ることでほとんどのものがスマート化されていった。
シェンリュの内耳から声が聞こえる。
甲高く、独特な口調の声。
「――シェンリュ、聞いているアルか? シェンリュ?」
シェンリュは、ハッとして声を出す。
「ルェイジー、ご、ごめん、聞いてるわよ」
「さっきから、様子おかしいアルネ。夜ご飯は、ルェイジー流超チャーハン作ってあげるネ」
そう聞いて、シェンリュは苦笑いをさせる。
ルェイジーのチャーハンは確かにおいしい。
しかし、チャーハンが美味しいとかどうとかいう問題ではない。
彼女は彼女の基準でご飯を作るので、ルェイジー基準のご飯の量は、鉄塔のようにチャーハンが積み上げられているのだ。
気遣いをしてくれているので、シェンリュは、目を細める。
「ありがと、ルェイジー」
「とにかく、元気出すアルネ。元気出さないと、良いクンフー出せないアルネ!」
話している二人の間に、もう一人の声が聞こえる。
「ルェイジーのタワーチャーハンはともかく、彼女の言う通り、拳に迷いが出たらもっと相手にのみこまれるわ」
朱雀部隊小隊長、レイレイ。
チャイナガールズの中でも、最も速く動けるスピードスター。
シェンリュは、ただ黙って聞いていた。
「あなたのクンフーに迷いはなかったわ。相手の実力はうちらが持っているフェイロン並みよ」
九龍城国専用、パワードスーツ「飛龍」パワードスーツの中でも異常に飛行時間が長いのは、銀龍が乗っていた時を見ており、九龍城国にずっと住んでいるシェンリュも、小さなころ見上げていたのでよく覚えている。
銀龍、金龍のみ操れるパワードスーツで、その機動力は他の傭兵界隈でも有名だ。
パーティカルロイドコアを丸々一個使用するし、高コストなため早々には扱わない代物ではある。
なるべく徒手空拳でしとめる、九龍城国のプライドの問題でもある。
今回の遠征では必要ないし、ユグドシアル大陸に輸送するだけでも、かなりのコスト高なのである。
「ありがとう、レイレイ。アタイ、がんばる!」
「良いってことよ、早速来たわね」
敵影を発見したらしく、全員が声を抑え始める。
「12時の方向、金髪ゴリラ発見アルネ!!」
12時の方向ということは、ほぼ真正面からきているということだ。
レイレイとルェイジーは左右に別れていて、その奥側にシェンリュがいる。
三人で同時攻撃、デルタアタックは基本である。
相手が真ん中に来た時に、全員で同時攻撃ということだ。
シェンリュにも相手の姿がはっきりとわかる。
ルェイジーの声が聞こえる。
「あれ、さっきのお化けアルネー!!」
「全員、お化けじゃない……」と、シェンリュは思わず声を出す。
要塞の影が、三人に囲まれた状態で足を止めた。
そして、白いメイド服のオカマが、ポケットに手を入れた。
シェンリュは身構えた!
――相手も生粋の傭兵。
威嚇のために拳銃か武器か、何かの暗器か!?
金髪ゴリラは、コンパクトを取りだし、顔全体にぽんぽんとパフをぬってお色直しをしている。
ルェイジーの通信が入る。
「お色直し、発見アルネ!」
シェンリュは、一気にやる気がなくなった。
「あたい達のあいて……なんであいつらなんだろう」
レイレイの通信。
「みんな、相手に隙があるわ。いくわよ!!」
「アイね! アル!!」
「了解!!」と、シェンリュも大木から着地。
気功ユニットによる最大初速で、腹に膝蹴りを入れ、背中にはレイレイのハイヒールがヒット。
ルェイジーは相手の横腹を正拳突きだった。
三人同時の攻撃は当たる。
しかし、白い要塞はびくともしない。