3-6 銀龍ターレン「劉龍飯店」に来店。 その3
次の日。
銀龍は、珍しくチャイナドレスではなく、黒い地味なダボダボな中国服を着ている。
孤児院を巡った後、劉龍飯店の目の前にやってきた、銀龍。
五年前、新しく変えた入り口も、既に年季が入り始め、ガラス扉の端々に黒いカビみたいなものが出てきている。
「まあ、あれから五年も経てば、あたりめぇだろうな」
キセルをくわえ、入り口を入った瞬間、火薬の音と匂いが立ち込める。
クラッカーの音だ。
「銀龍、祝你生日快乐お誕生日おめでとうアルネ!!」
口元から落としそうになったキセルをくわえなおす。
「テ、テメェら……」
そこには、ど派手な衣装の金龍が、椅子に座り足を組んでいる。
金色のスパンコールドレスを着ているのだ。
そこから始まり、マーメイ、リームォ、イェチン、ホンホン、リャンリャン、
シェンリュがいた。
銀龍は、金龍の姿を見て鼻で笑う。
「金龍、ある意味ここじゃ一番似合わねぇよ……」
金龍は、微笑しながら、眉一つ動かさい。
「相棒のパーティーだっていうのに、おめかししないのは私のポリシーに反するわ」
「へっ……」
銀龍は、一歩踏み出し、ルェイジーの前にやってきて、肩を回す。
「ルェイジーちゃんさぁ、ありがとよ。後でつけといてくれや。全部払ってやる!」
「ルェイジー、銀龍のためアル!!」
無邪気に笑う、ルェイジー。
ホンホンとリャンリャンは、何を考えているのか分からないが、いつも通りのバトルドレスを着ている。
銀龍は二人の前にたたずむ。
左右の三つ編みを後ろにまわしている髪形、ホンホンが口を開く。
「銀龍、おめでとう! あたしもこういう風に祝われたいわ!!」
左右の三つ編みを両サイドにまとめている女の子が話す。リャンリャンだ。
「ホンホンも、きっとそういうふうになれるわ。めざすのよ、私たちのクンフーはまだまだ高められるから」
銀龍は、その姿を見ると、察した。
クンフーの演武の練習を行っていたのだろう。
「ホンホン、リャンリャン、たまには休めよぉ。強くなりてぇのは分かるがよぉ」
「銀龍さぁん」と、後ろから呼びかけられたので、銀龍は振り向く。
「お、マーメイとリームォか。わりぃな、来てもらっちまって」
「いえいえ、そんなことないですぅ」
銀龍は、少し腰を落とし、リームォと視線を合わす。
「リームォも、ありがとよ」
「ぎんりゅ、おめでとぉう……」
銀龍は、ツインテールになっている頭のてっぺんを撫でる。
撫でまわすたびに、ネコみたいにリームォの瞼が閉じる。
「ぎんりゅ、だいしゅき……」
長髪に、左右両端の前髪だけをまとめている女の子に銀龍は近づく。
「イェチン、田舎に帰っていたのによぉ。しかも河南省。遠いぜぇ……」
「アイヨー大丈夫よ。ルェイジーの企画は大成功ね」
ルェイジーは、お得意のタワーチャーハンを作った。
姉のマーメイに肩車をさせてもらって、リームォがチャーハンの頂からお皿を取り分けている。
銀龍もそれを頬張り、紹興酒を飲む。
スマートコンタクトレンズから通信が入る。
データ量が多いのか、かなり遠くの方からの連絡なのか、開くのに多少時間がかかった。
開いたら、画面の前でお団子頭二つの女の子が笑顔で手を振っている。
レイレイだ。
「銀龍大人お誕生日おめでとう!! 私、福建省出身だからそっちに行けなくてごめんなさい」
隣からは、眉毛がキリリとしている女の子。
シャオイェンだ。
「銀龍隊長、おめでとうございます。誕生日はここまで生きてこられたということで、祝うものです。
私もそちらへ行くことは出来ませんが、せめてこの動画からでもお祝いの言葉を伝えます」
「ったく、堅苦しいぜぇ……シャオイェン」
レイレイは、シャオイェンを無理やりどかし、画面の前にまたやってくる。
「シャオイェンは、面倒くさいからこれにしてと。銀龍ターレン、せめてこれだけでも流しておくわ!」
と、画面いっぱいに拳が広がり、「わぁぁああ!!」という声と共にカメラに地面が映し出される。
カメラの三脚が倒れてしまったらしい。
「クンフーはいいから、たまには休めよぉ」
と、今度は他から通信が入ってくる。
ファリンからだ。
また、動画メッセージなので間が空く。
ゲージが一杯になったら、動画が開いた。
いつもは頭に鈴の飾りをつけているが、長髪で眼鏡をしている。
「銀龍ターレンおめでとう……。僕は、銀龍を尊敬しています。そして……」
と、紙にペンを入れて、この間見せてもらったボーイズラブ、同人誌の一枚絵を見せる。
「これ、僕んちから送るよ」
銀龍は、ニヤニヤしながら、キセルに火をいれる。
「うぉお、楽しみだぜぇ……」
リームォは、ニヤニヤしている銀龍をよそに、目の前にあるパイコー麺をすする。
「ぎんりゅ……たのちそぅ……、」
ルェイジーは、赤いチャイナ服で皆に料理を振舞っている。
「アイヤ、お昼よりも忙しいアルネ!!」
今度は、ホンホンとリャンリャンが、そこら中にある椅子やテーブルをどけて、
六角棍を同時に合わせて演武を行っている。
「ったくよぉ、そうぞうしぃぜぇ……」
また、動画メッセージだ。
ウィンドウが開く。
ハミルトン綾からだ。
「はいはーいミス銀龍。おっと違ったわね。シェンメイ31歳のお誕生日おめでとう。まあ、まだまだお互いにやりたいこといっぱいあるから、これからもよろしくね。それと、演習があるんだけど、視察に来る? パワードスーツのミヤビの実践投入を目指して、試験運用するのよ。
ま、とにかくこれからもよろしく!! またねー」
「へっ、仕事の話しは後にしろよぉ」
シェンリュが銀龍の肩に手を置いた。
銀龍は振り向く。
「銀龍ターレン、おめでとう」
「サンキュな、シェンリュ」
「うん、いつもありがとうございます」
「よせやい、かしこまるんじゃねぇ」
銀龍は、鼻をこすり、シェンリュとちょっとした会話をし、彼女は再びテーブルに戻る。
その後も、通信の着信は鳴りやまなかった。
外れにいるチャイナガールズ達が面白おかしく動画メッセージを送ってきてくれている。
「オレはぁ、幸せもんだぜぇ」
そばにチャーハンを持ってきたルェイジーが、真顔で近づいてきた。
「銀龍、何か言ったアルか?」
「いんや、何でもねぇ。ルェイジー悪りぃ、紹興酒もう一つくれや……」
ルェイジーは、屈託のない笑顔をさせ、「了解アルネ!!」と厨房にオーダーする。
銀龍は、紹興酒を口に含ませ顔を赤らめながら、チャイナガールズ達の笑顔あふれる店内をずっと眺めていた。




