3-4 銀龍ターレン「劉龍飯店」に来店。 その1
ここは、庶民がやってくる「劉龍飯店」
青龍省のメイン道路沿いに存在しているお店で、毎日庶民の人達がやってくる超人気店だ。
紫色のポニーテールを揺らしながら女の子は、お客さんにできたての料理を配膳している。
赤いテーブルに座っている男性のお客さんが、彼女に言葉をかける。
「ルェイジーちゃん、こっちもチャーハンもう一つ追加!」
「アイヤー、待ってねアルー!! 店長、チャーハン追加アル!」
調理場では、タバコをふかしながら「あいよ」と、不愛想な小太りのおじさんが卵を溶きいれ、中華鍋を振るう。
「へい、お待ち! ルェイジーちゃん、さっきのお客さん所、持っていって」
「了解アル!」と、すぐにお客さん所にチャーハンを持っていく。
そして、お世辞にもキレイとは言えない、くたびれたお店の入り口からもの珍しいお客がやってきた。
ルェイジーの傭兵部隊長でもある、銀龍だ。
今日は、プライベートなので、かなり気合の入った銀色のチャイナドレスではなく、緑色のチャイナドレスを着ている。
完全、私物で武装しているというやつだ。
かなり使い込まれている庶民の中華料理店なので、それでも銀龍がきらびやかに見えた。
「店長、銀龍来たアル!」
「久々だな、じゃあ奥の席に座ってもらっておいて」
店長がいつも使用している、特別席だ。
銀龍は、金色の花柄が装飾されたポーチから、ゆっくりとキセルを取り出した。
「ルェイジー、チャーハンを頼む」
「銀龍、今日はどうしたアルか?」
「アルかじゃねーよ、たまに食べたくなるんだ、ここのチャーハン滅茶苦茶うまいからよ。中央省みてぇな、こじゃたもん食うよりも好きなんだよ」
ルェイジーは、どうしてもクセなのか、敬礼をする。
「アイヤ、了解アル!」
「了解アルじゃねーよ! プライベートだっつってんだろーよー」
そんな言葉を無視し、ルェイジーは、店長に注文を頼んだ。
銀龍は、キセルをくわえ、九龍城国新聞を見つめる。
パーティカルロイドの流通同行を見ていた。
最近、値上がりをしていて、九龍城国も非常に潤っているのが分かる。
それは、インフラから始まり、市民の金銭の使い方、更には中国との取引等など、街だった頃は中国の評価も悪く、かつスラムなんて言われていたが、そんなのは昔のイメージと比べると非常に良くなったものだ。
さすがの、銀龍もまだ産まれてきていないのだから、よく知らない。
だが、スラムは一応まだ残っているところもある。
通称裏九龍城国。
ドラゴンマフィアの巣窟だ。
ドラゴンマフィアは、非常に屈強な集団とは聞いたことがある。
会として存在していて、銀龍も数名顔見知りはいる。
彼らの特徴は、バトルドレスを装着せず破壊的なクンフーを操ると言われている。
ようは、破門された奴らが、更なる強さを目指し抜いた、闇に落ちたクンフー使いの成れの果てだ。
しかも、拳法の中でも暗黒太極拳は、群を抜いてヤバイと言われているらしい。
更に昔に遡ると、九龍城国は九龍城砦と呼ばれていて、アジアのスラム街だったそうだ。
そして、その情報は、昔の九龍城砦は、あくまで、伝えられてきたことや、残っているネットのデータサーバから知ったことだ。
500年以上前となれば、残っている史実も段々とぼやけてしまうのは仕方がない。
それが、デジタルだろうが、アナログだろうが、ひたすら変わっていく。
しかし、唯一変わらないものは、クンフーだった。
「銀龍、お待ちでアル!!」
銀龍は眉をしかめる。
「テメェ、お待ちどー様アルだろが!! 相変わらず変わんねぇな、その接客よぉ……」
少し時間が経ったので、昼時は過ぎたのか、お客が減ってきた。
ったくよぉ、と、言葉を吐き出し、テーブルにあるマッチを擦り、キセルに火を入れる。
クンフー時事通信というコーナーに目を通す。
どうやら、最強のクンフーの使い手同士の試合があったらしい。
銀龍にとっては、試合の結果などどうでもよかった。
暗殺拳として扱っているクンフーだが、傍若無人に振るうのは好んでいない。
本来のクンフーは、相手同士を尊敬しあう形で、お互いに切磋琢磨でモチベーションを高めあうものなのだ。
格闘技と拳法との差は歴然なのだ。
破壊をするだけでは、本来の拳法ではなく、ただ単に強くなればなるほど闇に飲み込まれる。
使いたい、倒したい。
破壊したい衝動に駆られてしまうという、格闘技とはアヘンと一緒なのだ。
その中毒性に駆られると、いつか、同じ道へと堕ちる。
伝わっているかどうかは、分からないが、チャイナガールズには、そこを一番教えているつもりだ。
銀龍は、雑に足を組みながら、チャーハンを食べている。
昼時も過ぎたせいか、周辺にいたお客さんもちらほらと、帰っていく。
ルェイジーが、新聞を読んでいる銀龍に絡んでくる。
「銀龍、お酒飲まないアルか?」
「あん? たまにはいいかな。テメェ、接客よりも商売は上手いんだからよぉ。しょうがねぇな、紹興酒頼むわ」
ぴょんぴょん、弾みながらルェイジーは店長に紹興酒を注文した。
「アイヤ、持ってきたアルヨ!」
「サンキュー」と、暖かい紹興酒を小さな口先につけながら、銀龍はチャーハンを頬張る。
「店長、相変わらずうめぇな」
厨房で耳を澄ませていた店長が、笑う。
不愛想なので、珍しい。
「昔から銀龍さんにはお世話になってますからね」
ルェイジーは、赤いチャイナドレスの裾を揺らしながら、銀龍のテーブルに両手をつく。
「銀龍、今度ルェイジーと遊びに行かないアルか?」
「何で、テメェと遊びに行かなくちゃあいけねーんだよぉ。イェチンやリームォとかと行きやがれ」
ルェイジーは、目を丸くさせ、涙を流す。
「銀龍、冷たいアル……」
銀龍は、レンゲを置き終え、新聞を閉じる。
「わーったよぉ、付き合えばいーんだろぉ」
厨房の上には額縁が飾ってある。
銀龍はその額縁の写真を見た。
ルェイジーがまだ幼く、店長も不愛想だが、少し若い。
銀龍は、銀色のチャイナドレスを着て、しかめっ面だ。
「そういやぁ、あれから5年ぐらい経つんだよなぁ」




