2-5 我らは華形、青龍部隊!!
そして、最後の同時刻。
イェチンは木に登って遠くをのぞいている。
「アイヨー、敵発見よ」
ルェイジーは甲高い声をさせながら、ピョンピョンはずむ。
「アイヤー!! 見つけたアルネ!!! ご飯のために倒すアルネ!!」
マーメイは身長が高いので、すぐに確認できた。
「確かにぃ、あれはぁ、哨戒兵さんですねぇ」
おっとりしている声をさせながら、両目が青くなっている。
イェチンは、ひらりと華麗に木の枝から降りた。
「アイヨー、どうする? マーメイ小隊長」
「そうですねぇ、銀龍隊長さんにぃ、連絡しますねぇ」
すぐに、銀龍の声が三人の耳に響く。
「おい、テメェら、常時回線開いてんだろうがよぉ!! メンドクセ、テメェらは自由にやりやがれ!! ちなみにだが、そこの見ている位置は、ちょうどど真ん中だ!!」
マーメイは答える。
「つまりぃ、朱雀部隊さんとぉ、白虎部隊さんとの間ぁなんですねぇ」
「そうだよ、いいから、さっさと突撃しろよぉ!!」
マーメイは、自信の身長と同じぐらいの長い槍を、地面から抜く。
マーメイの得意武器は中国槍だ。
イェチンは、小さな鞘から二つの刃物を抜く。
双匕首と言われる、30センチほどのナイフみたいな刃物だ。
ルェイジーは、片手で刀を構えた。
ルェイジーの得意器械は、苗刀と言われている、日本から逆輸入された刀だ。
「パーティカルロイド起動ぅ、気功ユニットぉ、オンですぅ」
全員の全身に幾何学模様が巡る。
「みなさぁん、準備はぁ、いいですかぁ?」
既に、ルェイジーとイェチンは突撃している。
「待ってぇ、下さいぃ」と、マーメイは二人を追う。
朱雀部隊や白虎部隊とは異なり、完全に青龍部隊は真っ向勝負だった。
相手の連絡網もそこまで馬鹿にはできない。
敵部隊は、速攻で青いチャイナドレスと中国服を着ている影を発見。
あっという間に初動対処で行動できた。
3人ずつで交代しながら攻撃すれば、大丈夫だ。
前面部隊なので、特に弾丸の給弾数も多く、全ては準備万端だった。
相手側はそう思っていた。
だが。
チャイナガールズとの距離、約200メータの出来事だった。
「クッソ、あいつらなんで弾丸をかすめることもできねぇんだよお!!」
モヒカン姿の男が一言そう漏らす。
「なんなんだよぉ!! 人間じゃねーよおおおお!!!」
一抹の悪夢を見せつけられているような気がしてくる。
急速な弾丸の消費をふせぐために、三点バースト射撃で狙っているが、青い影はタイミングよく全てかわしてくる。
「おい、もう100メーターまで来たぞおおお!!」
「ひ、ひいいい!!」
あと、50メータぐらいまで来たところだ。
真ん中にいた、モヒカン男の胸に刀が突き刺さった。
即死だ。
50メータのところから、ルェイジーは刀を投げていたのだ。
ルェイジーは、「アイヤ!!」と言いつつ、更に左側の男を狙う。
男は近づく青い悪魔に向けてトリガーを引く。
運悪く、男の小銃は音がしなくなった。
空薬莢が排出されず、引っかかり、トリガーが引けなくなる現象が起こってしまった。
男は即座に小銃を捨て、ナイフを取り出そうと、ルェイジーと対峙しようとした瞬間、彼女の飛び蹴りが飛んできた。
男の後方にあったテントをなぎ倒し、そのままどっかのマンガのように、ずっと後方へと吹っ飛び、200メーター以上転がっていった。
見てくれはコミカルだが、男の体は一切動かない。
「う、うわああ!! て、てめぇらムチャクチャだ!!」
男は左側にいる、ルェイジーに向けて小銃を構えるが、素早く小銃の安全圏内に移動。
男に急近接した瞬間、彼女は叫ぶ。
「ご飯、ちょうだい、アルネ!!」
と、左手で小銃を握り引っ張る。
小銃は彼女の握力によって、ひしゃげ、右足と右肘を同時に突き出し、相手を勢いよく吹っ飛ばす。
あまりの破壊力に、男のみぞおちは陥没し、真後ろに吹っ飛び、そこにイェチン。
「アイヨー!! 吹っ飛べ!!」
イェチンは、タイミングよく一回転し、中国靴で、男の体に回し蹴りをかます。
その軌道は、真ん中のテントをなぎ倒し、吹っ飛んだ。
テントが倒れると、しゃがみ込んだまま弾丸を込めている途中の男が二人。
弾倉を交換し終え、しゃがんでいた男は、イェチンに銃口を向けるが、弾丸は虚しく赤い土をえぐり、土煙が巻き上がる。
彼女は跳躍し、空中で水平に横回転し小銃と弾倉ごと、着地時に真っ二つに切断。
男の弾倉は暴発し、爆竹みたいに小爆発を起こし、ショットガンの弾丸みたいに男の目の前ではじける。
「いってぇよおお!!」と、男は言っているが、イェチンは容赦ない。
一本のナイフを、男の喉元に突き立てる。
「カハッ!!! ごぶふぅぅうううう!!」
男は叫び声だか断末魔なのか分からない言葉をもらし、動かない。
イェチンの真横にいた男は準備を終えて、トリガーを引こうとした。
が、指が無くなっていることに気づいた。
イェチンは即座にナイフを投げていたのだ。
右太ももにナイフが突き刺さっている。
オリーブドラブの服からナイフの刃先を中心にして赤い血が滲み、広がる。
「あがああああああぁぁあぁああ!!! がびょおぉ!!」
ようやく、痛みが巡ってきた瞬間に、喉に熱いものが流れ、男は動かなくなった。
これで、あと5人。
イェチンは、倒れた男の右足からナイフを抜く。
男は一瞬だけ足元が痙攣させたが、二度と動くことはなかった。
もう一つのテントの様子がおかしい。
入り口が閉じられているからだ。
二人は静かすぎるので、戦場での直感が働いた。
テントから弾丸が突き抜け、イェチンは跳躍し、かわし、ルェイジーは急速な軌道を描き、銃口の軌道を免れる。
ようやくマーメイがルェイジーの後ろに到着した。
「なんかぁ、ドンパチやっていますねぇ」
「アイヨー、マーメイ隊長。ドンパチはいつもの事ね」
「マーメイ、相手の行動が見えないアルネ!!」
「他のぉ、テントとはぁ、様子がぁ違いますねぇ」
マーメイは、にっこりとしながら、槍の先端で四隅の紐を切っていく。
「多分ですねぇ、人質とかぁ何かをぉ考えているのですよぉ」
マーメイは、槍でテントをくずし、切断しながら引っぺがす。
ゆっくりとした口調のわりには、冷静で状況判断がプロフェッショナルなのだ。
OD色のテントを素早く切断、破片がキレイに宙を舞う。
ベレー帽を被った小太りな男が、全裸で褐色肌の女の子を人質にしている。
彼女の細い首根っこに太い腕を回し、盾にしている。
その周辺には、男どもが小銃で銃口を向けたまま、下す気配などない。
真ん中にいる褐色肌の女の子を捕らえている、ベレー帽の男の口が開く。
「コ、コイツがどうなっても……ぎゃあああああ!!」
ベレー帽の男が喋っている途中、左目にナイフが突き刺さる。
イェチンのナイフ投げのスピードは正確、かつ速い。
男には、銀色の光が走ったようにしか見えなかっただろう。
即座にマーメイが槍の棒の部分、槍杵で褐色肌の女の子と男とを引きはがす。
伊達に、要人警護などの依頼も受けてきたわけではないのだ。
女の子は数歩、前のめりによろけ、ルェイジーがやせ細った女の子を保護する。
「もう、大丈夫アルネ!!」
褐色肌の女の子はゆっくり頷き、嗚咽をもらし残り少ない水分を涙で全て流した。
太ももの部分には赤いしずくがしたたり落ちる。
毎日明るいルェイジーでも、眉をしかめる。
「もう、本当に大丈夫アルヨ」と、か細く弱っている女の子をルェイジーは優しく抱きしめた。
周辺の男たちがトリガーを引く前に、事はすべて終わっていた。
そして、蒼龍部隊二名によって、あっという間に残りの四人は始末された。
意識があるのは、ベレー帽をかぶっている男一人。
青い龍二名は、ゴミやネズミを見つめるような瞳で、小太りな男を見下げている。
「アイヨ、あの子に何をしたのよ」
「あらあらぁ、イェチンさん、感情的になってはいけませんよぉ。幾度となくぅ、みてきたじゃぁないですかぁ」
そして、二名に対し、もう一名の声が聞こえる。
「ルェイジーちゃん、久々怒ったアルネ!!」
二人は後ろにいるルェイジーを見つめた。
空は真夏の青空、白い雲が太陽をふさぎ、ルェイジーの顔が少し暗くなり瞳が蒼く光る。
「アイヨー、もっと感情的になってる人がいたよ」
「あらあらぁ、もう知らないですねぇ」
と、二名はその場を退いた。
両方の膝をついたまま、うつむいている男を見下げながら、ルェイジーはたたずむ。
「がぁっ!!いてぇよぉ!!」
男のナイフが刺さった柄の部分から、血がこぼれ落ち、OD色のシートを真っ赤に濡らし、右目からは涙を流している。
目の前にたたずむ、小柄な女の子を男は見上げた。
「うぇっ!!てめぇらさえ来なければ!! さっさと新型パワードスーツを奪ってぇ!!」
見下げた蒼い瞳は醜悪な男を、鏡みたいに映す。
「話したいことは……それだけアルか?」
「て、てめぇらぁああああ!!! ぶっ殺してやぶぅ!!!」
「そうアルか? なら、これをあげるアルネ!!」と、ルェイジーは瞼を落とし、静かに深呼吸をさせる。
ルェイジーの体内で、上丹田、中丹田、下丹田、そしてまた上丹田と高速に気が巡る。
劈掛拳の構えをさせ、ルェイジーは拳を握る。
大きな瞳を見開き、両方の眉毛を吊り上げた。
「気功ユニット全開アルーーーー!!!」
ルェイジーの全身の気が更に高速に回り始め、一歩踏み込み練功をさせる。
彼女を中心に10メーターほどのクレーターができ、大地をえぐる。
赤い土煙が巻きあがり、その煙は彼女の顔をかすめる。
ベレー帽をかぶっている男はあり得なさすぎる出来事に「うひぃぃぃいいい!!」と叫ぶしかない。
そして、彼女は方拳を作り、しゃがみ込むように男の腹部へと拳を縦に一度だけ撃ち出した。
「二の打ち要らずの拳 两个没有拳头的战斗、アルネ!!!!!」
拳にバリアが発生し、太った男は高速で押し出され、500メーターほど吹っ飛んで行った。
途中、男の四肢がたえられなくなり、ところどころ、ちぎれ、赤い土に血の軌跡を残していった。
「銀龍隊長さぁん」と、マーメイは連絡。
「状況は分かっている。捕虜は、既に金龍をトラックで向かわせている。
こっちで保護だ。テメェらは前進。
しっかしよぉ、ルェイジー、テメェも鬼だぜぇ。人相手に何やってんだよぉ?」
「アイヤ? 何か悪いことしたアルか?」
「いや良い。テメェら覚悟と準備はいいか!! こっちはフェイロンもスタンバったぜ!!! いよいよ大詰めだ!!」
蒼龍部隊は同時に返事をする。
「了解!!」
イェチンは、外れにあるテントを見つけ、二人に話す。
「二人とも先行ってね!!」
ルェイジーは、振り向きざまに言う。
「アイヤ、おしっこアルか?」
イェチンは「そんなとこよー」と、明るく笑う。
そして、個人回線で銀龍に繋いだ。
「銀龍ターレン、不審なテントを見つけました。恐らく捕虜のテントと思われます。今のルェイジーには見せたくありません。彼女が見てしまったら、怒りのあまり手が付けられなくなるかも……」
「そうか、分かった。気をつけろ、フェイロンで向かう!!」
イェチンは、外れのテントに向かった。




