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1-27 銀龍、套路お披露目。


 銀龍は、再び石造りのバルコニーにある、ベンチに座る。


 金龍と綾との会話を聞いていた。


「あやちん、これどういうことなの?」


「依頼よ。あなた達に依頼」


「ビッグバンコステロとやりあうの?」


 声だけでも伝わってくる。


 金龍は、汚物にふたをするような声色をしていた。


「ビッグバンコステロは、最低最悪な傭兵集団よ。それで、今回パワードスーツ、あ、ミヤビちゃんね?

ミヤビを運搬したいんだけど、こいつらがかっさらっていく可能性が大きいわ。というか、以前から付け狙われているから始末して頂戴」


「嫌よぉ、こいつらさ、犯罪の塊じゃない」


 銀龍にもその名高い、悪さは聞いている。


 傭兵とは聞こえが良いものの、賊の部類に入る。


 恐喝、強盗、人身売買、殺人、強姦、器物破損、詐欺。


 あらゆる汚物を混ぜたような感じのチームだ。


 九龍城国の、ドラゴンマフィアともつながっているという噂もあるくらいだ。


 金龍が一番嫌がる、いろいろな意味で最悪なウェットワークだ。


「雑魚いけど、死体処理もどうするの?」


「それは、うちらでやるわ。ミヤビちゃんが無事運搬されて、更に死体処理していても別に大丈夫よ」

 何気に、一番めんどいのは散らかした後だ。


 散らかした後の処理は金も時間も非常にかかる。


 演習と戦場は全く違うのだ。


「わかったわ、銀龍聞いている?」


 銀龍は、ベンチに座ったまま答える。


「ああ、聞いてる。いんじゃね、受けようぜ。綾ちゃんに借りつくっときゃ、なんか良いことあるでしょうよ」


「あらあら、銀龍さん。お金も弾むわよ」


「金も欲しいけど、パーティカルロイドコアにしてくれや」


 基本的に、傭兵の相場は決まっているが、勝利した時には選べるようになっている。


 金額でもらうチームもいれば、資源でもらうチームもいる。


 そのバランスも契約時前だったら、決められるのだ。


「そう、どのくらい?」


「報酬の半分ぐらいをパーティカルロイドコアにしてくれよ」


「半分ね、私も異論はないわ。うちもフェイロンだけでは、今後がないと思っているのよ」


「じゃ、決まりね! 奴らをぶっ殺してちょうだい」


「へいへい、了解よぉ」


 銀龍はポーチをベンチに置いた。


 少しぐらい、置いておいても大丈夫だろう。


 彼女は、ベンチから立ち上がった。


 そして、背伸びをし、気合を入れるために、うっすらと月明かりが照らす、闇夜の中、太極拳でもある中国扇子の演武をした。


 誰が見てようが、構わなかった。


 こういう時は、本能に従ってしたいときにするべきだ。


 拳を突き出し、扇子を広げる。


 そのまま胸元の辺りで身体を一回転させ、片足つま先立ちをさせる。


 広げている扇子を勢いよく閉じる。


 左足を少し落とし、アキレス腱伸ばしをするような姿勢をさせ、中腰以下の姿勢になる。


 また、扇子をまた再び広げた。


 それを終えたら、深呼吸をし、丹田を意識する。


 丹田とは、上丹田、中丹田、下丹田という風に3種類ある。


 上丹田は眉間の辺り、中丹田はみぞおちの辺り、下丹田は女性だったら子宮の辺りだ。


 肝心かなめな、発頸を行うための、畜頸を行う。


 頸を蓄積することで、消費は少なく、威力は最大の拳が打てるようになる。


 そして、今度は本当の拳を混ぜた演武を行う。


 扇を閉じ、姿勢を低くする。


 左足を軸に、下段回し蹴りを行い、両手を広げて、体の動きを止める。


 体制を直立に立て直し、今度は、左右両手を広げ、華麗に両手を回したのち、拳を縦に突きだす。


 銀色のチャイナドレスの裾がふわりと浮き、沈む。


 次は、身体を大きく回転させ、銀色のハイヒールを履いたまま、身を屈ませるように、両足を巻き込み、しゃがんだ。


 また直立し、背筋を伸ばし、深呼吸をし、気を整えた。


 そして、どこからもなく拍手の音が聞こえた。


 拍手の犯人を見て、銀龍は想像以上に顔を真っ赤にさせる。


「やあ、お見事。九龍城国の演武なんて生で初めて見た。しかも、素敵なレディのね。君は僕が見込んだ女性だけあったね。色っぽいよ」


 他の人物に見られた方が、数倍マシだった。


 銀龍は、真っ赤にしたまま反撃する言葉を思いつかない。


 演武など、チーム内でも見たことあるのはルェイジーか、マーメイぐらいだけだからだ。


 完成度はまだまだ低いため、裸にされるよりも恥ずかしくなる。


「テ、テメェ、いつからいた!」


「テメェという呼び方は、少しぐらい控えてほしいな。ハミルトンと、せめて言ってくれよ」


「ハ、ハミルトン、いつから」


「ん? 君を遠くでベンチで見かけたから、またやってきただけだよ。それに、そのベンチの上に乗っかっているポーチもそのままにしたら危ないしね」


 銀龍は、ポーチの事などどうでもいいくらい、恥ずかしすぎてどっかに行きたかった。


「テ、テテ、テメェ。これを誰かに話ししたら、ぶったおすぞ!!」


 翔は、青い瞳を細めて、笑う。


「はは、君は僕を倒せないよ。立場とかそういうものを振り回すのも大嫌いだし、そんなのは貴族のやることじゃない。誰にも話さないから、交渉ぐらいさせて下さいよ」


 銀龍は、下唇を噛みながら、耳が真っ赤だ。


 何も言えず、珍しく俯いている。


「君は僕のことを、翔と呼んでくれ。それで十分だ」


 銀龍は顔を赤らめながら上目遣いで、自信よりも背の高い翔を見上げる。


「それだけでいいのか?」


「いいよ、別に。ファイブズの権力なんてこれっぽちも振り回したくない。そんなので女性を手に入れるのは、正直クズのみだ。これは、君たちのクンフーというやつと同じポリシーかもね? 僕は、古臭いかもしれないが、騎士道を重んじるタイプなんだよ。じゃあね、また会おう。シェンメイ……」


「テ、テメェ……」と、口は汚いものの、銀龍は顔をもっと真っ赤にさせて、去っていく赤い軍服を着ている青年の背中をずっと見ていた。


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