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1-22 ルェイジーちゃん、新技獲得!!!!!

  

 演習が終わり、チャイナガールズ全員は三ツ群島にあるホテルに宿泊した。


 ようやく酒が飲める時間になった深夜ごろ、銀龍は酒に口をつけながら、とある科学雑誌を読みふけっていた。


 九龍城国サイエンスという雑誌だ。


 パーティカルロイド技術が進み、気功の流れもついに可視化され、その技術も既に50年ほどたった。


 そして、最近のクンフー使いの間では、かなり重要視されているのが「プラシーボ効果」が見直されているという記事だった。


 プラシーボ効果とは、例えば医者が単なる風邪薬を用意し、実はガンが治る薬ですと飲ませ続けた結果、ガンが治ってしまうという身体現象の事である。


 今のは極端な例なのかもしれないが、実はクンフーもある意味そこに近いところがあるのも事実だ。


 そして、何を思ったのか、銀龍はその記事を読んでニヤニヤした。


「これはぁ使えるぜ……」と、つぶやいて、ベッドの中に入る。



 ――――翌日。



 銀龍は、こっそりとルェイジーを一人でユグドシアル大陸のキャンプ場に呼び出したつもりだった。


 しかし、ルェイジーについてきてしまった朱雀部隊のリームォもいる。


 彼女は、よく行方不明になるのだが、今回はルェイジーの持ってきた旅行用トランクの中に隠れて入っていたらしい。


 銀龍は、「メンドクセ」と言いつつ、マーメイに速攻で連絡。


「宜しくお願いしますぅ」と、マーメイと連絡を切った。


 青いチャイナドレスを着ている女の子の隣には、リームォが口を開けたまま、ぼーっとして突っ立っている。


 ルェイジーは、きょとんとした顔で銀龍を見つめる。


「銀龍、何アルネ?」


 銀龍は、キセルをくわえたまま、ルェイジーに肩を回す。


「ルェイジーちゃんさぁ、もっと強くなりてぇかい?」


 ルェイジーは目を点にして、キョトンとした顔をさせたあと、両方の眉を吊り上げる。


「当たり前アル! ルェイジー、もっとご飯食べたいアル!」


 銀龍は、ニヤリと表情を変える。


「いいかぁ、ルェイジーちゃん。九龍城国には色々な拳法があるよな。例えば、酔拳。酔えば酔うほど強くなるなんて言われている、ア、レ」


 ルェイジーは、うんうんと首を縦に振り、素直にうなずいている。


「実はなぁ、もっとすんげぇ拳法があるんだよ。知りてぇかい?」


 ルェイジーは、完全に聞き入って、話に食いついてきた。


「知りたいアル、知りたいアル!!」


「それはなぁ……空腹拳だ!!」


 ルェイジーは、目をカッと開く。


 ただでさえ丸い目が、更に大きくなる。


「く、空腹拳アルかーーー!!」


 銀龍は言葉をつづけた。


「かの老子もよぉ、使われていたと言われてなぁ、そりゃあもう()えーのなんの……」


「ル、ルェイジーにも、マスターできるアルか!!」


「おう、テメェだったら間違いねぇ。お腹がすいた瞬間を、想像してみろぉ」


 銀龍は周辺を探し、すぐそばにある10メーターばかりの岩を見上げる。


「お、これなんか、いいじゃねーか」


 銀龍は、キセルでその巨大な岩に指し示す。


「ルェイジー、気功ユニットだけで、打ってみろ」


 ルェイジーは、自身の身長の何倍もある岩の手前で、深呼吸をしてみた。


 高さは10メーターもある、とてつもなく大きな岩だ。


 そして、彼女は瞼を落とし、大好きなチャーハンを頭の中に浮かべる。


 八極拳の構えをし、お腹がすき過ぎた時の自分を全身全霊をこめて想像した。

 

 「気功ユニット全開アルーーーーーーーー!!!!」

 

 ルェイジーの紫色のポニーテールがゆっくりと揺らぎだし、金色に輝きだした彼女は口を開く。


「お、な、か、す、い、た、ネーーーーーーーーーー!!」


 そして、彼女は岩に向けて、縦の拳を突き出した。


 拳が岩にクリーンヒットし、何も起こっていないように見えた。


 次の瞬間、岩全てにひびが入り、更に砕け散り、破砕した勢いはとどまらず、四方八方の、森林に向けて直立した大木が全てなぎ倒された。


 さすがの、銀龍も、あまりの破壊力に顔を苦笑いさせる。


 「な、なはは……マジかよぉ」


 プラシーボ効果を利用したつもりだったのが、とんでもない怪物が目の前にいることを忘れていた。


 ルェイジーは、両手を合わせ胸元に持ってくると、ぴょんぴょんジャンプし紫色のポニーテールが揺れる。


 彼女は、最大限に喜びを表現したのだ。


「すごいアルー!! ルェイジー、これで食べるのにも困らないアルー!!」


 気功ユニットのエネルギー源は不明な点が多いが、一つだけわかっていることがある。


 それは、精神力によって、強くもなるときも弱くもなるときもあるということだ。


 リームォは、目をキラキラさせ、感動している。


「しゅ、しゅごい、ルェイジーおねーたま、つおい。あたちもやってみる」


 リームォは、ちっちゃいおにぎりみたいな両手拳をつくり、左右の腰にあてる。


「おなかしゅいたー」と、言った瞬間、銀龍の長髪がスクリューして巻き上がり、


 今度は後ろから何かが通り過ぎ、風が巻き起こり、銀龍の眼前に長髪が暴れる。


 リームォが、銀龍の右側と左側を往復していたのだ。


 そして、銀龍の目の前にいつの間にかいた。


 それは、口では形容できない速度だった。


 リームォは、「でけたー」と言いながら、ルェイジーと両手を合わせて同時にぴょんぴょん飛んでいる。


「リームォもすごいアルネー!! さっすが、銀龍アルネ!!」


 銀龍は、苦笑いしながら、そっぽを向いた。


「純粋さって、こえー」


 と、つぶやいたのは、ただ喜ぶ二人には聞こえていなかった。



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