1-18 よう、目ざめの調子はどうでぇ?
イェチンは、自分が泣いていることに気づいて、起きた。
いつも整えている自慢の髪は、ぼさぼさになっていて、他の隊員たちはまだ寝ている。
Tシャツ、短パンの寝間着だったので、中国服、つまりバトルドレスに着替え、黒い靴を履き、外に出た。
朝日がもう少しで出る頃だった。
そして、イェチンは、足先、背中、頭上まで気の流れを意識し、深呼吸をし吐く。
横隔膜が広がり、イェチンの小さな胸が膨らんだ。
そして、右足を半歩踏み出してから拳を縦に突き出す。
次は、身体全身を横へ一回転させると、キレイな髪の毛と一緒にふわりと広がる。
両足を巻き込むような感じで、鷹が羽ばたくような恰好をさせた。
両足に気を溜めて、空中二回ひねりを行いながら、回転蹴りを行い、着地。
そして、再び深呼吸して、両手を合わせる。
「いやぁ、お見事だぜぇ、イェチン」
その言葉にちょっと、ビクッとさせる。
振り向けば、銀龍がいた。
「よう、お目ざめかい?」
「アイヨー!! お、おはようございます、銀龍ターレン」
「おはよう、ふあーあ」女である計らいも、素振りもなく、大口を開けてあくびをさせている。
「銀龍ターレン、最近忘れていることがありました」
「んだよぉ、珍しく真面目だな。何忘れていたんだ?」
「毎日のルーティーンで、全てを忘れていました。私のクンフーも、あなたの事も、そして皆の事も」
「ま、たまに分かるぜぇ、慣れちまうと忘れんだ、そういうのはぁ。イェチン、こっち来てからどれ位だ?」
「アイヨ、7年になります」
銀龍は、朝日に照らされるイェチンを見つめながら、キセルをくわえて笑う。
「へっ、テメェは、ルェイジーの隣でずっとアイヨーと言ってりゃいんだよ。それぐらいがちょうどいいんだぜぇ。
いいか? 気負うな。気負うと良いクンフーは出ねぇし、良い拳も出ねぇし、良い蹴りも出ねぇ。そういうこった……」
銀龍は再びあくびしながら、二度寝しようとテントへと戻った。




