1-17 イェチン、夢の中で。
イェチンは、一度体験したことを、夢でもう一度見ていた。
あれは、銀龍と初めて出会った時の事であっ10歳の時、チャイナガールズの試験を受けたことがある。
イェチンはなかなかの成績で、最終選考まで残った時の事だった。
夕日の中、銀龍はイェチンを九龍城国の中央省の屋上にまで連れてきてくれた。
中央省は、真ん中にある城と言われているビルがあるが、高さは300メータほどである。
その為、夕日に染まっていく街並みがどこからでも見渡せる、絶景ポイントである。
銀龍は、銀色のポーチからキセルを取り出す。
「悪い、えーと……」
「アイヨ、名前覚えてほしい。イェチンだよ」
「すまね、イェチン吸っていいか?」
「大丈夫、パパがよく吸っている」
「そうか、イェチンは本当にうちの部隊で良かったのか? もっと良い所もいっぱいあるのによぉ」
イェチンの幼いころなので、短い髪が揺れる。
この時は、そんなに髪を伸ばしていなかったのだ。
「わたしは、銀龍さんの考え方が好きだよ。孤児院に寄付しているという噂もあるし、傭兵のイメージはもっと悪かった」
銀龍の黒く長い髪と、キセルの煙が川に流れるように波の形を描く。
「オレは、昔からこの中央省、恵まれた環境に住んでいたんだ……。
けれどよぉ、恵まれない女の子たちはどうなる? 掃きだめの水をすすりながら、暮らさなくちゃ
あいけねぇのかよぉ。オレは、そんな国大嫌いだ」
イェチンは、10歳ながらに、何とか銀龍を理解しようと努力していたのだ。
「むずかしい言葉はまだ分からない。でも、銀龍ターレンのためだったら、ここにずっといれるよ」
「そうかい、イェチン。オレはな、普通が大嫌いなんだ。だから、お前さんみたいな普通の子が勤まるような仕事じゃねぇかと思ってんだ」
銀龍はイェチンを言葉でしっかりと、否定する。
そして「だが」と、銀龍はキセルを口元から外した。
「普通の子の感覚も一人ぐらいは必要だ。非常識は、時に歯止めが利かなくなる時がある。
オメェさんの、女の子の常識という事を皆に教えてやってくれ」
銀龍は踵を返し、まだ幼さが残っているイェチンに手を差し出した。
「オメェさんの力が必要だ。皆を、オレを助けてくれ」
イェチンは、澄んだ瞳で銀龍の手を見つつ、彼女の手を取った。
「銀龍大人あなたに全てを預けます」
その後、イェチンは合格していた。
それは、銀龍の判断なのか金龍の判断なのかは分からない。
だが、イェチンは更なるクンフー修行に力が入ったのは、間違いなかった。




