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1-16 三日目、野営準備

 

 すでに暗がりに差し掛かっていて、彼女たちの体力回復のことも考慮しなければいけない。


 一分一秒でも休ませてあげなければならない。


 銀龍と金龍はそのままジープに乗り、イェチンと通信している。


「イェチン、どこら辺にいる? GPS情報を送ってくれ」


「アイヨ、銀龍ターレン、ここね」


 彼女たちは、ほとんど何もない荒野で四人集まっていた。


「悪い、レイレイがケガしていたもんだから、そっち寄ってから来たわ」


 ほとんどもう夜になっている。


 とにかく、明かりをつけようとパーティカルロイドシェルを組み込んだランタンのスイッチを入れる。


「いいから、ちゃちゃっと、テントを張ろうぜ」


 銀龍の指示通り、チャイナガールズはさっさとテントを立てた。


 そして、焚火を用意し、金龍が中華鍋を振るう。


「我々が作らなくても良いんでしょうか?」


 白虎の刺繍を背負っている、ヤーイーが質問をしてきた。


「良いんだよ、テメェら、一分一秒でも休めや。うちは傭兵だが、ホワイト企業だ。忘れんじゃねぇ」


 銀龍もよくわかっているが、実は九龍城国の専属傭兵であるチャイナガールズは結構なホワイト企業だったりする。


 戦時下には休む暇もなく、ただひたすら命を消費される傭兵とは方向性が異なっていて、有給休暇、国家栄誉休暇、育休、


 産休の制度もしっかりとあるのだ。


 変わっている休暇もあって、結婚休暇もそのうちの一つだ。


 ここまでするのには、銀龍も相当時間がかかった。


 5歳からクンフーを初め、10歳の時には一応お姫様としていたが、しっくりこなかった。


 このままずっと上品に生きていようとはどっかで思っていなかったのだ。


 檻が大嫌いな銀龍は、母親に一度相談したことがある。


 そして、現在の姫の役割を担っているのが、現在の「声龍」妹の明美ミンメイだ。


 ミンメイには申し訳ないことをしたと思っている。


 自身にはどうしても合わないからだ。


 ミンメイは、すでに結婚していて、息子もいる。


 息子は10歳ぐらいで、あとちょっとすれば成人だ。


 銀龍は椅子に座りこみ、ずっと考え事をしていた。


 あまりにもしゃべらないので、左右の三つ編みをそれぞれまとめている、女の子が口を開く。


 白いチャイナドレスを着ている、白虎隊のホンホンとそっくりの、リャンリャンだ。


「銀龍様、なにをかんがえているんですか?」


 幼い声で、リャンリャンは呼びかけている。


 ホンホンは元気はつらつだが、リャンリャンは真逆の、おしとやかな雰囲気が残っている、女の子らしい、女の子だ。


「いや、ちょっとな。九龍城国のことを思い出していた」


「九龍城国はとってもよいところだとおもっています。

銀龍様のこじいんで、そだてられたときから、私とホンホンはかならず銀龍様のもとではたらくと、ちかっていました」


 銀龍は、涙袋が緩みかける。


「ありがとよぉ、リャンリャン」


 金龍は、それなりに手慣れた手つきで、山椒を中華鍋に入れる。


 そして、また中華鍋を振り回した。


 イェチンは、椅子に座ったまま、髪をほぐす。


「しかし、銀龍ターレン、あの化け物どものパーティカルロイドコア外せない?」


「アイツらなぁ。ほんとに久々に見たぜ。見かけも姿も、そして、嗜好も化け物だぜ」


 金龍は、最後の仕上げに中華鍋をひたすら振っていた。


 仕上げが終わったらしく、金龍がうまく量を調節し、人数分わける。


 シャンシャン頭の鈴を鳴らせ、ファリンが蓮華とお皿を配った。


 山椒の香りが鼻腔をつき、余計にお腹がすく。


 四川風麻婆豆腐だ。


「金龍、特製の麻婆豆腐だ。みんな食おうぜ」


 全員が、適当に麻婆豆腐をほおばる。


「うめぇな、劉龍飯店ほどじゃあないが、なかなかのもんだぜ、金龍」


 金龍は、椅子に座り、エプロンを外す。


 スタイルの良い四肢があらわになる。


「あら、ありがとう」


 これで、三日目のブリーフィングが整った。


 銀龍、金龍、ヤーイー、リャンリャン、ファリン、合流したイェチンだ。


「そうだな、今回の演習で勝利をおさめるためには、パーティカルロイドコアを外せれば、オレ達の勝利だな」


 金龍は、口紅をつけないようにと、舌を軽く出しながら、麻婆豆腐を食べる。


 男を誘っているようにしか見えない。


「そうね、ただし、あの難攻不落なミニ要塞をいかに1枚目のバリアをはがすかにかかっているわ」


 イェチンは、眉をしかめた。


「1枚目だけでも大苦戦だったよ」


 ヤーイーが、口を開いた。


「少しは何か弱点をあげてよ。とてもじゃないけれど、勝てない」


 ファリンは、何かを思いついたのか、銀龍においでと手を振る。


 銀龍は、しかめっ面のまま「なんだよぉ」と、ファリンに近づいた。


「ほうほう、なるほど。ファリンはチームワークしかないって言ってるぜ?」


 リャンリャンが話す。


「そうなると、一番むずかしいのは相手が三人あつまるということですよね」


 金龍は、静かにハンカチで口元をふく。


「しかも、露骨にアイツら三人相手にしたら、確実に全滅だわ」


「じゃあ、どうすればいいのよ!」


 銀龍は、紹興酒を飲みながら、ヤーイーとイェチン二人を鎮める。


「ケンカすんじゃねぇ、酒がまずくなる」


 だが、イェチンが何かを思いついたらしい。


「そうだ、そういえば、私のクンフー、得意技でやったら、相手のバトルドレスが剥がれたわ!!」


 銀龍の瞳が青くなる。


 隊員全員の戦闘録画記録は全てハミルトン綾の方にデーターベースがあるのだ。


 イェチンの戦闘記録を見ているのだ。


「そうだな、イェチンの技は使えるかもしれねぇ。今のところ、ああいうバリア内部からズタズタにできるような技はイェチンぐらいしかできないんじゃねぇ? オメェさんがもうちょっと勇気があればな、あの技かましてやりゃあ良かったんだけどよぉ」


 イェチンは、顔を俯いていた。


「銀龍ターレン、怖くてできなかったよ」


「ま、それも経験っつー奴だぜぇ。銃には屈しないのに、オカマには屈するってかぁ。ちょいと笑えらぁ」


 銀龍のからかいに、金龍が待ったをかける。


「ま、それぐらいにしといたら、銀龍」


 イェチンは青龍のなかでもパワーファイターというより、直接的な威力よりも後々のダメージの威力が強かったりする。


 例えば、必殺技の、高速回転して蹴りを放つが、その蹴りの速度が全開に達すると、空気の摩擦で相手をズタズタにする凶器と化す。


 そんな芸当ができるのは、今のところイェチンぐらいだ。


「バトルドレスをズタズタにできれば、あとはあの要塞どものアタッチメントを外す。


 そして、アタッチメントを外した瞬間、全力でクンフーを叩き込めや」


 ヤーイーは、ちょっとした疑問を銀龍に話す。


「銀龍ターレン、今日お酒飲んでるんですけど、どうやって帰るんですか?」


 銀龍は、顔を赤らめながら、酒を飲んでいる。


「え? 泊ってくに決まってんだろぉ」


 金龍は、説明を捕捉する。


「もう一つ、テントを持ってきているわ。簡易的なやつだけどね」


 全員、食事を終え、ほぼ全員が寝ているときだった。


 ファリンだけが、皿を洗っている。


「いやー、思っている以上に速く、決着がついちまいそうだなぁ」


 金龍は、キセルを取り出し、焚火から小さな枝を取り、火をつけた。


「そうね、でも、想像以上の結果が出そうよ」


「パワードスーツ相手でも、徒手空拳で勝てるかぁ。今更だけどよぉ、他の傭兵部隊も恐怖するだろうなぁ」


 キセルをくわえ、お団子頭をほどく、金龍。


 ずっと結っていたので、少しパーマがかかったような髪の毛になっている。


「ふう、少しは落ち着けそうね」


「一日、余っちまうなぁ」


「五日間は長かったかしら?」


「まあな、でもよ、一日ぐらい、何かいれてもいいよな」


「クンフー修行でもさせる? 自己実習みたいな」


 ファリンは、頭の髪飾りをシャンシャン鳴らせ、金龍と銀龍の目の前にある椅子に座る。


「僕も、もっと強くなりたい!!」


 部隊内では珍しい光景かもしれないが、銀龍と金龍のみになるとこの位は喋れる女の子なのだ。


 三人以上になると、恥ずかしくて話せないらしい。


「んあー、そうだな、明日の状況次第で考えるわ。お、ファリン、そういえばまた別の同人誌描いてくれよ」


「わかった、僕、また描くよ」


 金龍は、煙を吐く。


「まあ、どんな秘密があるのか分からないけれど、程々にしなさいね、銀龍」


 銀龍は唇をへの字に曲げ、股を広げる。


 美人なのに、ギャップが激しい。


「うるせぇ、乙女のたしなみだ」


 いつも涼しい顔の金龍は珍しく大笑いする。


「うふふふ! 銀龍が乙女のたしなみだって!! 綾ちんもきいたら、大笑いするか、苦笑いものよぉ!」


 銀龍は、大きな瞳をしているファリンと視線を合わせる。


「なぁ、秘密ぐらいあったっていーじゃねーかよぉ。これもコミュニケーションなんだよ。なぁ、ファリン」


 ファリンは、恋をしている乙女みたいに、顔を赤らめてうつむいて、無言でうなずく。


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