1-15 レイレイのやせ我慢
マーメイ、リームォ、ホンホンは完全に相手の策略にハマっていまい、あっさり捕まってしまった。
相手も格闘技に精通しているし、疲労困憊のマーメイに瞬時にジャンプし、近づき、ストレートパンチをかました。
マーメイはとっさに防御行動を行ったものの、腹部に強烈な衝撃を受け、バトルドレスが完全に破壊されたのだ。
それからは、リームォとホンホンは同時に攻撃するが、
パーティカルロイドコアの10分の1のパワーの差はとてつもなく大きいのもあった。
ここは、チャイナガールズ全員が入るくらいの、巨大なテントの中だ。
三人は、バトルドレスを脱がされ、下着姿のまま黒いロープみたいのでグルグル巻きにされていて、OD色のシートに横に倒されている。
「グルグルまき、ひさびさぁ」
「リームォ、わたしたちはぁ、負けてしまったのですよぉ。わかっているのですかぁ」
ホンホンは、口をへの字に曲げてムスっとした顔だ。
「あたしは、まだ負けてないわよ!!」
「ほんほん、まけをみとめりゅ、だいじ」
レイレイは、しゃがんで化粧っ気のある顔をリームォに向ける。
「リームォの言っていることは、妥当だし大事ね。たまには負けを認めたら? ホンホン」
リームォは、あまりにも良い意味で変わり果てたレイレイを、瞳をキラキラさせて見上げる。
そのおっきな瞳は、あまりにも輝きすぎて、星のようだ。
「れいれい、きれぇい……」
「ありがと、リームォ」
眉根を寄せ、姉は口を開く。
「んもぉ、リームォ、わざわざ捕まりにいっちゃだめでしょぉ」
レイレイは、笑う。
「あはは、リームォらしいね」
「リームォ、すてきなれでぃになりゅ」
ルェイジーが、背中が開いている着物の腰帯を振り回しながら、クルクル回る。
「リームォも捕まったアルかー!! どお? 似合うアルネ?」
リームォは、あまりにも見違えたルェイジーに感動しているようだ。
「おおー、しゅてき……」
捕獲されると、隊内の通信ではなく、全体がわかる通信に自動的に切り替わる。
通信網をいじってるのは、おそらくあの綾というオーナーが操っているのだろう。
シェンリュは、耳に入ってきた会話内容を聞いていたので状況を理解した。
「あーあ、また捕まっちゃったよ」
寝そべったまま、ホンホンが叫ぶ。
「誰? リャンリャン?」
「違うわ、二人ほど」
ルェイジーは、クルクル回転しまくっている。
シェンリュは、遠くで見ながら、いつまで回転するのだろうと考えていた。
「シェンリュ、捕まったのリーシーとシャオイェン、アルネ!!
イェチンは、流石ネ!! 何とか逃げ切ったアルよ!!」
シェンリュは、リーシー達が何を思ってイェチンを逃したのか、考える。
「あたい達の、敗因って何かしら?」
レイレイもその分析に付き合う。
「相手とのパーティカルロイドの差かな?」
シェンリュは、金色の扇を仰ぎながら、考える。
「それだけじゃないわ。あたい達は情報が不足しすぎてたんじゃないの?」
二人が一生懸命に分析をしている後ろで、
ルェイジーが右へ一回転すると、リームォが「おおー」と目を輝かせ、
次は左へ一回転すると、リームォがまた「おおー」と目を輝かせている。
回るたびに、リームォの瞳がキラキラ輝く。
どんな戦闘でもそうだが、相手の情報を集める。
実は、クンフーでもそうだ。
相手の攻撃を防御するときに、気で攻撃を読み取る技術がある。
相手と手の甲を合わせて気を読み取る訓練があり、太極拳が一番採用されている。
それを「聴頸」と言っていて、太極拳が流れを見たり読んだりするのはそういうためだ。
「つまり、情報不足も一つの敗因ね。だからこそ、濃密な情報を持っているイェチンを向かわせたわけね」
「あんらぁ、結構良い考えじゃなぁい。レイレイちゃあん」
オカマ二人が、一人ずつ抱えてテントに入ってくる。
瞼を落としたまま、リーシーもマーメイの隣に並ばせられた。
「捕まってしまいたしねぇ。リーシーさぁん」
リーシーは、ゆっくりとした口調で話す。
「そうなのよね~。どうしようかしら~~」
天然、二人組の会話の横に、更に短髪で耳に梅の花のピアスをしている、シャオイェンが並ばせられる。
「この繊維、よくできています。チャイナドレス、つまりバトルドレスを装着していたとしても、早々には切れるような繊維ではありません。
しかし、この状況を打開するには非常に困難なところがあり……」
真面目に状況を説明するシャオイェン。
リームォは、ひたすら「おおー、おおー!!」と叫んでいる。
そして、更にテントを開け、銀龍が姿をあらわした。
全員を見渡し、両耳にしている、扇状のピアスが揺れた。
「あーあ、テメェら無残だぜ。っとによぉ」
リームォが、銀龍を見上げている。
「ぎんりゅ……こんにちはぁ……」
自信の腕をくみ、眉をしかめたままだ。
「しょーがねぇなぁ。テメェら、ま、元気にしているならば、大丈夫か」
銀龍の後ろから、金龍も割り込んで入ってくる。
「あらあら、面白い絵図ね」
金龍はほくそ笑み、耳の裏に一指し指を添え、両方の瞳が青く光る。
スマートコンタクトレンズで、全員の晒されている姿を静止画で撮っているのだ。
銀龍は、鼻で笑いつつ「遊ぶのが目的じゃねぇんだぜ、金龍」と、髪をかきむしりながらキセルをポーチから取り出す。
金龍は「あら、そうだったわ」と、言いながら、救急箱のような形をさせたシートの上に箱を置いた。
「誰か怪我してねぇか? テメェらこんなところで嘘つくんじゃねーぞ!」
金龍は、すぐにレイレイを見つめた。
レイレイは、思わず目をそらす。
「レイレイさん、肩を見せて?」
レイレイは、着ているドレスをずらし、若く血色の良い肩を顕わにさせた。
「これは、脱臼しているわね」
銀龍は金龍の肩に左手を乗っけ「それ、見せてみろ」と、彼女の肩を見た。
「分かった、金龍、ハンカチを貸してくれ」
金龍の細い指からハンカチを受け取り、椅子に座っているレイレイと、顔を合わせた。
「レイレイよぉ、我慢はいけねぇ。いいか? 我慢するのは兵士として死を選んでいるようなもんだぜぇ」
「すみません、銀龍ターレン……」
「なぁに、わかりゃーいいのよぉ」と、レイレイにハンカチを渡す。
「ターレン、これは?」
「良いからよぉ、それを噛んでいろぉ」
レイレイは、ゆっくりとハンカチを噛んだ。
レイレイの細い二の腕から肩にかけて、銀龍は瞼を落とし、深呼吸をする。
気の流れを読み、適切な処置をするためだ。
そして、かなりくぼんで、落ちている個所を見つける。
「ここだ」と、呟くとレイレイが「んーーーー!!んーーーーーーーーー!!」と、想像以上に痛いので、両目から涙を流す。
カクンと、レイレイの腕と肩の付け根の陥没したところがなくなり、彼女は口元からハンカチをこぼし
た。
「よし、よく頑張ったぜぇ。麻酔なんて待ってらんねぇし、金龍の針や灸をやりながらなんてできねぇからな。
他に、いてぇ奴はいねぇか?」
金龍は、そのまま即座に箱から針を取り出し、彼女の肩を中心に、針を刺した。
レイレイは、ずっと泣いている。
「テメェらがどんなに強くても、痛むということは、人であることには変わりねぇ。風邪だってひくし、生理痛だってある。
これだけは女として生まれた以上、どんな時でも逆らえねぇ。お、それと、オレは二日酔いか……」
金龍は、施術しながら口を開く。
「銀龍の言うとおり、人は人でいる限り、痛みには逆らえません。皆さんも何か違和感があったら、私たちに相談して頂戴」
どでかいオカマ達は、銀龍の目の前に来る。
「あらぁ、言葉の割には美人さんねぇ。あなた……」
さすがの銀龍もどでかい白塗りの顔にひく。
「お、おお、ありがとぉよ」
「もっと、血なまぐさいかと思ったら、香水のチョイスもよいじゃななぁあいん」
銀龍は、キセルを口元からはずす。
「テメェらも、もっとムサイかと思っていたぜぇ。ま、またこいつらの世話頼むぜぇ」
「まかせてぇん」
リームォが、銀龍と金龍を見上げている。「きんりゅ、ぎんりゅ……、、どこにいく?」
「他の部隊の方の後方支援だ。これから、またテントを配りに行く。テメェら、しっかり休んでおけよ……」
銀龍と金龍は背中を見せて、大きなテントを出ていった。