5-90 ここは龍の国、カォルンセングォ。 その3
「その通りだ!」と、龍が彫られた自動ドアの方向から中年らしき男性の声がした。
チャンは後ろに顔を向けると、そこにはオリーブドラブ色の、軍の制服をキレイに着こなしている中年の男性が立っていた。
後ろには十人ほどの兵士が銃口を全員に向けている。
ヨウは、振り向きざまに、口を開けたまま声が出なかったようだ。
「ヨウ大佐、きみはよくやってくれた。国際テロリストの、チャン・ツィイーを捕らえることが出来た。中将殿、ツィイーを拘束してくれ」
一言告げると、背の高い男二人がすぐさまツィイーの左右に腕を通す。
ツィイーは観念したのか、一切反抗しなくなっていた。
「よくやってくれた、大佐。きみはもう我々の部隊には必要ない!! 私の命令に逆らい、姉を探すためだけにこの作戦を勝手に立案。
私の部隊を無断で率いて、しかもその部隊は壊滅。きみは国として必要がないのだ」
「書記長。お言葉かもしれませんが、私は国の未来のために、全てを捧げています!!」
「きみは捧げるのかね?」
「はい……」
「全ては、中華人民共和国の為に、死んでくれたまえ」と、拳銃を構えようとした瞬間に、書記長が横へ10メーターほど吹っ飛んだ。
おかっぱ頭の赤い髪の女子が、書記長を蹴り上げ、吹っ飛ばしていたのだ。
キリリとした眉に、耳には梅の花のピアス。
シャオイェンだ。
「きまりましたね。この蹴り技は、書記長キックと名付けましょう!!!」
彼女が叫ぶと同時に、中国国防部の兵士が赤い中国服を着ている女の子に銃口を向け、発砲させる。
銀龍は、銀色のバリアをはったまま、兵士へ突撃をする。
二名ほどそのまま大理石の壁まで5メートル吹っ飛び、激突して気絶。
更に、もう四名ほどがメイヨウたちに銃口を向けた。
発砲をするが、薄青いバリアに守られた。
レイレイが、メイヨウの前に立っていた。
「私の名前は、朱雀部隊小隊長レイ・レイレイ!!」
金色の七星剣を銃口を向けた兵士に向ける。
「メイヨウちゃんや、龍王様に銃口を向けるとは、無礼者!!」
兵士は、トリガーを引こうとしたら、両腕がなくなっていた。
叫ぶ暇もなく、地面に落ちている小銃がバラバラに刻まれる。
「あなた、兵士ですよね……。死にに来ている覚悟はありますか?」と、レイレイは赤く光る瞳で相手を見下ろしていた。
七星剣を一気に振りかぶり、地面に金色の剣を突き立てると同時に、二人の兵士は気絶した。
書記長は、腰を抜かしながらも、拳銃をシャオイェンに向けている。
シャオイェンは、うっすらと笑顔を出しながら、相手を見下していた。
「へえ、面白いですね。中華人民共和国の書記長をキックできる機会なんてそうそうないですね。
さあ、撃ってみてください!! 私たちに銃やミサイルなどは、紙みたいなものですよ!!」
書記長は、震える手でトリガーを引く。
弾丸がゆっくりと右へと回転しながら、シャオイェンの胸元に来る。
が、梅花双刀であっという間に弾かれた。
書記長は、腰を抜かしつつも、トリガーを全て引く。
完全に近接だというのに、全ての弾丸が弾かれ、撃鉄が叩く音だけが虚しく響いた。
「な、なんだ、お前たちは!! バケモノなのか!!」
シャオイェンは、ニヤリと笑う。
「へえ、バケモノ!! 非常に良い響きですねえ!!」と、梅花双刀の切っ先を書記長の首元に寄せる。
「あなたは、それでも国を動かす人ですか? それと、銀龍ターレンからの要望なのですが、
今のうちに降伏しておいた方が良いですよ? 私たちはチャイナガールズ。
私達を倒したければ、ミサイルでも、核兵器でもなく、徒手空拳で我々を倒してください」
「お、お前らの要望は何なんだ!! た、頼む、兵士はどうでも良いから、私を助けれくれ!!」
その言葉を聞いた瞬間、シャオイェンは相手を見下しながら、陰湿な笑い方をする。
「ふふふふふ……兵士さんはどうでも良いのですね?」
「ああ、そんなのはどうでもいい!! 私は自分の命が助かれば、何も言うことはない!!」
言葉を全て告げると、シャオイェンは梅花双刀をしまった。
「だ、そうです。ヨウさん……」
ヨウは、その言葉をずっと聞いていて、口を開けたままだった。
だが、ヨウは肩を揺らしつつ、笑い始める。
「ふふ……銀龍さん、ありがとうございます。ようやく目が覚めました。
私は国を信じて、軍人をやってきましたが、あなたが予測した通りでした」
ヨウは、スーツについているバッヂを外し、胸元に並べられている部隊章など全て外した。
「な、なんだ? どうした、いったいどういうことだ?」
「それは、こちらのセリフですよ……書記長。私をどう処理つもりでしたか? これ以上、事を荒だてることはしたくありません。
お願いします……真実を告げられなかったら、私はあなたを殺しますよ?」
銀龍は、ヨウの傍まで歩いてヨウと二人揃って並ぶ。
ヨウは、書記長に詰問する。
「さあ、今作戦で最も重要な事があります。毒ガスコマンダー鷺沼を捕らえて、その後の計画を教えて下さい。私をどうするつもりでしたか?」
「お前は、今作戦でこの九龍城国内で名誉の死を遂げ、そして国の犠牲になるのだ」
銀龍は、隣でせせら笑う。
「へっ……なんだよぉ、それよぉ。テメェらの失態がよぉ、オレ達にも迷惑被ったんだぜぇ?
映画だってそんな陳腐な話描かねぇ。さすが、金龍とユーさんの情報だ。
正確、迅速。あの二人が揃うと、まるで預言者だな!!」
「貴様ら、我々の土地を借りきっている。元はこの国は、我々の領土だった!!」
「領土じゃねぇよぉ、テメェさん。うちらに行った仕打ち、忘れてねぇだろぉ?
オレ達を追い出そうとしたときのことをよぉ。ゴミ溜め、廃墟、薄汚い場所、中国の恥。
色々と言われていたがよぉ、そこには人々の生活があったんだよぉ。
にも関わらずよぉ、テメェらは追い出そうとした事実は変わらねぇ。
500年以上前だが、オレ達はそれを未だ納得してねぇ。いつでも宣戦布告しに来な!! そん時は、全軍よこしてオレ達と戦え!!
この九龍城国はなぁ、テメェさんたちの国とは格がちげぇんだよ!!」
「貴様、銀龍と言ったな……」
「ああ、そうでぇ。本名はワンシェンメイ、皆から銀龍と呼ばれていらぁ。この国のもめごとはよぉ、オレが大体引き受けていらぁ……」
書記長はゆっくりと立ち上がる。
「貴様の国は、資本主義だったな」
「ああ、そうでぇ。それがどうした?」
「共産主義の方が、祖国統一の為に有力だと私は信じている……」
「ふーん、それでぇ? その共産主義に飽き飽きしてよぉ、沢山の人達がよぉオレ達の国に逃げ込んでくるぜぇ。
国を否定してもいられる。安心して眠れる。そして、人として立派に生活できるんだってよぉ。
とてもじゃねぇが、一緒の土地にあるような国じゃねぇな。
未だ、ロクに墓参りすらよぉ、できねぇって言ってんぜぇ? いいけぇ、共産主義っていうのはなぁ、管理しやすい。
だけどよぉ、自由がないっていうのはよぉ、生きにくくて苦しいもんだぜぇ? お分かりぃ? 中国共産主義者の書記長様よぉ」
男は、完全に顔を怒りで歪めさせて、兵士に指示を出した。
「おい、お前ら、ツィイーとケガしたやつらを運べ!」
兵士たちは敬礼をさせると、そのまま両腕を回収させつつ、龍が描かれている自動ドアを潜った。
「銀龍さん……ありがとうございます」
銀龍は、中国キセルを拾い上げると、口先部分の所を布で拭き、くわえる。
ヨウの腰の辺りを二回たたいた。
「ヨウさんよぉ、良いってことよぉ……」と、言葉を吐き捨てると、銀龍はヨウの右頬に平手打ちをした。
パワードスーツを着用しているので、威力が突き抜け、ヨウの体格でも二メーターほど吹っ飛び、眼鏡が外れた。
「二度と心配させんじゃねぇ!! そんなにオレ達が信用なかったのか!! オレはテメェを認めていたんだ!! オレは初めて傭兵以外のヤツを信じた!! オレはテメェを助けるのはここまでだ!! だがなぁ、もし本当に考えるのならばだ。
一度だけチャンスをやらぁ。ここは九龍城国。アジアの中でもカオスだが、移民の誰でも受け入れる国だ!!
あとは、テメェさんの頭でっかちなクソ頭で判断しやがれ!!」
ヨウは、瞳を大きく開き、地面に転がった眼鏡を拾い上げてかけなおした。
エレベーターへ振り向くと、中国国防部を追いかけて行った。
銀龍の後ろからミンメイが歩いてくる。
「シェンメイ大姐、彼、大丈夫でしょうか?」
「んあ? あとはヤツ次第でぇ。もしオレ達が迎え入れることが出来たらよ、色々と手続き頼むぜ?」
「勿論、あとはターチェに任せます」
「そうだなぁ、ヨウさんをフリーターにするのも勿体ないぜぇ?」
二人は、背の高い青年の姿を見つめていた。