1-14 玄武部隊隊長 万儷杏(俪杏) バンリーシー
更に、彼女たちは攻撃の手を止めない。
イェチンは、役目を終え、赤い中国服のシャオイェンと交代。
要塞の目の前に立った瞬間、叫ぶ。
「最快的速度决策技术(赤き閃光の突き)!!」
指先を相手の筋骨隆々な前面ボディーに高速で、あらゆる突きを全て行う。
「痛いわぁ!! 痛いわぁ!!」
快感なのか、よくわからないが、とにかくきいているようである。
そして、マイペースな口調で、緑色の影と交代。
リーシーは、いつも瞼を閉じていて、口調もマイペースなのだが、
本気を出すときは、うっすらと瞼が開くときがある。
それが、この時なのだ。
「気功ユニット、全開!!」
両手拳を腰にあてる。
背中に背負っている玄武の刺繍が金色に輝く。
そして、更に太極拳の構えを再度構えなおし、全身に気を循環させる。
「さ~、行くわよ~!!!」
語尾に力を入れ、緑色の瞳がうっすらと見えた。
「リーシー式兰采花!!!(リーシー式らんさいか)」
まずは相手の顔面に両手拳を1打目、肩に拳を二打目、手とうを両腕に三打目、
太ももに拳をめり込ませて四打目、両手拳を急所へと五打目、そして、
掌底を相手のみぞおちへ強力にあてる。
その実、1秒以内で全てを叩き込んだ。
速すぎる打撃速度により、皮膚を叩き込む音ではなく、軽く爆発音に変わっている。
円を描くように、風圧の華が広がり、オカマに全ての攻撃がめり込んだ。
そのスピードは凄まじく、極まったのか、リーシーの攻撃にはバリアが発生していた。
オカマの皮膚が全て拳の形を残しながらめり込み、要塞が真後ろへ吹っ飛んだ。
森林を突き抜け、川まで放り出され、岩に激突し、ようやく吹っ飛んだ要塞は止まる。
イェチンは手ごたえを感じたのか、真のバリアと融合させたクンフーに恐怖した。
「アイヨー、なんという威力。恐ろしい」
三人は、そのまま川辺へと進んだ。
川辺では、岩の手前で相手が白目をむいて気絶しているのを確認した。
だが、全員はその相手の剥がれたバトルドレスの奥側に緑色に光る、
みぞおちに注目していた。
シャオイェンは、無表情のまま口を開く。
「これは、パーティカルロイドコアですね。アタッチメントのようなもので、いつでも取り外し可能なのかもしれません」
リーシーは、苦笑いをする。
いつも瞼が閉じているので、笑っているのかどうかは分かりにくいが、
シャオイェンよりは表情が変わる方だ。
「間違いないわね~。彼らは同じような施術を受けているかも~」
イェチンはパンツのポケットに入れていた、櫛を取り出し、戦闘で乱れた髪をすく。
「パーティカルドイロコア一個で、パワードスーツ一個分の硬さとパワーだよね。そりゃあ強いわけだよ」
相手がピクリと動く。
「ふふ、やるわねぇ」
すぐさま、オカマは立ち上がった。
三人ともども、すぐに構えなおす。
普通は、立ち上がれないはずだ。
白目をむいていたはずなのに、なぜか立ち上がれるのだ。
イェチンは、すぐに櫛をしまい、鷹のように爪をたてる。
「アイヨー!! タフすぎる」
「パーティーは、これからよぉ!!」
オカマがにやけながらも口を開く。
余裕であるのは変わりはないようだ。
「アンタたちのぉ、チームワークの錬度はすさまじぃものねぇ。さすがのアタシもぉ、ちょいとヤバかったわぁ。マリーン!!」
三人は、しまった!! と、同時に思った。
川辺から突如、水を得た魚ではなく、オカマが出てきた。
「マリーンマグドガルぅ、行くわよん!」
川辺から飛び上がり、ずっしりと重い身体が地面へと着地する。
どれくらい水の中にいたのかは分からなかったが、相当訓練されているのは間違いないのは、
全員察知していた。
「あらまぁ、随分とぉ、おとこらしくなったじゃなぁい……。グリーン……」
「ちょっとぉ、お色直ししたいけれどねぇ」
「そうね、まずは、子猫ちゃんたちを籠に入れないとねぇ」
三人はそれぞれの構えをさせながら、背中を合わせた。
「アイヨー、ピンチだね」
「さすがに、二人は想定外でした。他の部隊が追っている可能性もあります」
「どうしよ~かしら~」
「アイヨ、また逃げる?」
構えを崩さないまま、リーシーが口を開く。
「最悪、あなた達は逃げなさいね~」
イェチンは、眉をしかめる。
「どうして?」
「私が、一発勝負で?采花を出すわ~。ただし、その瞬間相手を吹っ飛ばせるかどうか分からないけど~」
イェチンは、なぜ彼女が小隊長になれたのか少し理解できた。
実力よりも、どうやって隊を残していくかの方に頭を切り替えているのだ。
そして、シャオイェンも口を開く。
「リーシー小隊長、分かりました。私もなるべくサポートします」
「何を……言っているのよ~、逃げないと~」
「例え、私のクンフーが足りなくとも、それでも全力を持って相手しなければ、向こうにも失礼です。そして、何よりあなたの事も部隊は違えと言えど、尊敬しているということです」
イェチンも、腹をくくらざるおえなかった。
「分かった、皆に付き合うよ」
イェチンは、青龍部隊の二人が凄すぎて、気づいていなかった。
チームワークの重要性もそうだが、目の前の事に対して向き合うということを、改めて気づかされた。
イェチンは、何事もソツなくこなせるタイプではあるが、別に傭兵でなくても良かった。
しかし、自分はなぜかここを選んでいた。
九龍城国では、別に他の仕事でもやっていればいいのだ。
だが、彼女は銀龍と出会ったことで、ここを目指す気になったのだ。
彼女の頭の中で、フラッシュバックする。
夕日の中、黒い髪は風で揺れ、右手を差し出す銀龍の姿が思い浮かんだ。
銀龍は、言葉や言動は乱暴だが、本当は優しくて、懐が大きく、子供好きなのだ。
イェチンは、たまたまその姿を見た時、ここへ入ろうと思い、更なるクンフーの修行に明け暮れた。
そして、気づけばここにいたのだ。
そうだ、あの時銀龍に誓ったのだ。
あの人に、全てを預けると。
イェチンも、掌を作り直し構える。
徐々に二人の怪物が近づいてくる。距離は5メーターぐらいだ。
リーシーが初手を取る。
マリーンの方だ。
気功ユニットを全開で、拳を握り、リーシー式?采花を出す。
爆発音とも言える連続攻撃だったが、相手には全く通じない。
リーシーが言葉を詰まらせた瞬間だ。
相手は最大級のアッパーカットをかました。
それは、もはや普通のアッパーカットとは威力が異なり、
オカマの拳の軌道によって、土がえぐられ、草木はなくなり、砂利ごとリーシーが上空へ吹っ飛ばされた。
上空を上昇中の、リーシーの緑色のチャイナドレスの裾がひらひらと舞う。
次にイェチンが蹴り技をマリーンに入れようとした瞬間、グリーンマグドガルに吹っ飛ばされる。
何とか、こらえ、身軽な身体を一回転させ、着地する。
足元にはタイヤのブレーキ跡みたいに、4メータほど土が抉られていた跡だ。
凄い衝撃なのが伝わる。
「こ、これはまずいわね」
既に気づいたときは、シャオイェンが捕まっていた。
先ほどのタックルの初手を食らったのだろう。
減速状態でも、このパワー。
イェチンは、相手にかなわないなりに考えている。
背中には川が流れていて、目の前にはオカマの影が二つ、ゆっくりと近づいてくる。
そして、上空を吹っ飛ばされたリーシーが気絶したまま落下してきているのが分かった。
リーシーのバトルドレスは、既に尽きているのが見るからにして分かった。
このままだと、リーシーが重傷を負ってしまう。
イェチンは、逃げたくてしょうがなかったが、自身の意思とは真逆に身体が動いてしまった。
気功ユニット全開で跳躍し、リーシーをかばう。
彼女の体を抱え、着地した。
リーシーの一本にまとめられた三つ編みが完全にほどけてしまっている。
バトルドレスである、緑色のチャイナ服もズタズタだ。
打撃ばかりでなく、風圧の威力なのか、斬撃も入っているのが、イェチンには、よけいにぞっとした。
バリアがなかったら、彼女の細い肉体など、確実にバラバラになっている衝撃だったのを、イェチンは一瞬で理解した。
彼女の肩を揺らしながら、「リーシー、リーシー!!」と叫ぶ。
リーシーは、瞳をうっすらと開ける。
「イェチン、逃げなさい。あなたは、他の部隊に伝達するのよ~。パーティカルロイドの通信ももうできない。だから、情報を伝達しなさい~」
イェチンは下唇を噛んで、頷く。
「大丈夫よ~、イェチン。あくまで演習。けれど、九龍城国の傭兵として、あなたは任務を全うしなさい」
イェチンは、体制を立て直すべく、他の小隊と合流しようと、向かった。