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チャイナガールズ!!~スーパーカンフーハイパワーチーム~  作者: 乾ヒロキ
カオルンセングォ毒ガスパラダイス編
168/178

5-88 ここは龍の国、カォルンセングォ。 その1

 


 -------N.A.Y.562年8月18日 14時00分---------



 ヨウとツィイーは、お互いににらみ合っていた。


 ヨウは、眉根を寄せて眼鏡をかけなおした。


「姉さん、とても残念だ。あなたを撃つしかないようだ」


 二人は、ずっと膠着状態で、もうかれこれ30分ほど経っている。


 龍王は、銀龍とユーには手を出すなと言われていた。


 銀龍は、ヨウの方を振り向くと、瞳が薄青くなる。


 パーティカルロイド粒子を完全にオフにする指令を出したのだ。


 パワードスーツのまま、ヨウの銃口の目の前を目標に銀龍はゆっくりと歩いてくる。


「ヨウさんよぉ。オレはなぁ、傭兵やりながらも、人を信じるということが一番重要だと思っているんだぜぇ?」


 赤い絨毯に敷き詰められた階段は、銀龍の銀色の鋼鉄製ハイヒールですら、音が鳴らない。


 金属を全身に包んでいるので銀龍の身体に、そのくらい加重されているのに、かなり厚いという証拠だ。


 階段を降り終えると、銀龍はツィイーとヨウの間へと、突っ伏した。


 ヨウの銃口におびえることなく、彼を見つめた。


「銀龍さん、邪魔です!! どいてください!!」


「ヨウさん、やめろよぉ。コイツはどう話したって話の通じる相手じゃねぇ。なんだったらよぉ……」


 銀龍はヨウの拳銃を、胸の谷間に銃口をくっつけた。


「だったらよぉ、オレごと撃っちまえ」


 階段上部にいるユーが、銀龍を助けようとしたが、ミンメイが制した。


 ユーは、眉根を寄せて龍王の背中に向けて声を出す。


「龍王様、ですが……」


「やめてください、ユー調理師。私の姉はあのような事では死ぬような方ではありません。


 よっぽど、信用しているみたいですね。あの中国国防部のヨウ大佐という方を」


 銀龍は、小さい体躯をヨウに寄せる。


「いいけぇ? 外すんじゃねーぞ? 例えフェイロンだとしても、拳銃の至近距離だったら、装甲ぐらいは突き抜けると思うぜぇ? 飛行能力がけぇ分、装甲はかなり薄い。それが、フェイロンだ」


 銀龍の後ろで、ツィイーが何かをしようとしたが、銀龍に制された。


「ツィイー、あわよくばオレを殺せるなんて思っているだろーがよぉ。無駄だぜぇ?

妹がすぐにでもよぉ、テメェさんに催眠術をかければ、あっという間に攻撃できなくなるだろうし、更には三刀のユーまでいるんだぜぇ?

しかもよぉ、弟さんまでもよぉウザい追っかけっこも、されなくなるっつぅもんだ」


 ツィイーは、鉄尺を逆手に持ったまま、腕をぶら下げた。


「弟……じゃないわ」


「ま、どうでも良いんだわ、今は。テメェさんは、本当にオレを撃てるのか?」


 銀龍の膨らんだ乳房の間、鳩尾に銃口をくっつける。


「ヨウさんよぉ、ちょいと屈んでもらえねぇか?」


 銀龍は、長いまつげを下ろしつつ、何かヨウの耳元で伝えた。


 ヨウは大きく瞳を開けると、拳銃を手からぶら下げて、赤いカーペットへと黒鉄の塊を落とした。


「そ、そんな……!!」


 ツィイーは、鉄尺を腰ベルトにかけると、右手をレディースーツの懐に手を入れ、二つ折の携帯電話を取り出した。


「あなた達、そこまでよ!! いい? この起爆装置を押すことで、今まで仕掛けた毒ガスが爆発するわ!!」


 銀龍は顔だけ、後ろへと向けた。


「ほほぉう……やってみろよぉ……」


 ヨウは、目の前の銀龍に向かって叫んだ。


「いや、マズいです、銀龍さん!! 今までは少量の致死性の毒ガスでしたが、あれだけの量の毒ガスが充満すれば、国として復興することも難しくなります!!」


「へっ、また国作れば良いだろぉよぉ。オレ達はなぁ、たまたまここにいるだけだぜぇ。いいからよぉ、さっさと毒ガスのトリガーを引きな?」


 ツィイーがボタンを押そうとした時だ。


 一人の少女の声が、この場一帯の空間を支配した。


「やめてください、ツィイー!! それいじょうは、なりません!!」


 メイヨウは、リームォに身体を預けながらも、歩いてくる。


 後続には朱雀部隊の二人の姿もあった。


「おいおい、テメェら、非常口守っていろと言っただろぉよぉ!!」


 レイレイは、しかめっ面で銀龍に声をかけた。


「今回は、私の好奇心よ、ターレン!! 龍王様の真の姿を見たかったのです!!」


「まあ、隠すつもりもなかったがよぉ、その話しはあとだぜぇ?」


 メイヨウは、身体を引きずりながらも、リームォに声をかけた。


「リームォさん、だいじょうぶです」と、一言だけ声をかけると幼い力で、千鳥足になりながら歩く。


 彼女は、途中よろけて前のめりに倒れる。


「メイヨウ様!!」と、叫ぶとメイヨウの傍にツィイーがしゃがみ込んだ。


「手を、かさないでください。おねがいします」


 メイヨウは、力を振り絞り、立ち上がる。そのまま歩いて、ツィイーを越えると彼女の目の前で両手を広げた。


 龍王の間にて、彼女のまぶしい背中を見つめるとツィイーは涙を流した。


 幼く小さい背中が、ツィイーを包むように大きく感じたのだ。


 ツィイーの父親が見たかったのは、きっと彼女の背中なのだ。


 気づけば、黒く染められた女性は、吊り上がりの瞳を閉ざすと涙があふれたのだ。


 メイヨウは龍王を見上げながら、叫ぶ。


「龍王様、お願いします。わたしに発言のきかいをおあたえください!!」


 銀龍は、両手を腰にあてて、隣りのミンメイに視線を移した。


「ふーん、そうけぇ? んで、どうするんでぇ? 龍王様、ミンメイよぉ?」


 ミンメイは、台座の上から全員を見渡している。


「そうですね、銀龍大姐ターチェ。我々一族が、メイヨウを追い出したのは事実。

いっその事、九龍城国カォルンセングォをメイヨウに任せるのはどうでしょうか?」


 銀龍はキセルを歯で挟んだまま、愉快そうに唇の端を吊り上げる。


「へぇ、おもしれぇ。さすが、オレの妹だけあるぜぇ。メイヨウに判断を任せるわ。

どんな国でも、嘘なんて言うもんはいっぱいあるぜぇ?

けどよぉ、お前さんメイヨウにこの国を任せてみるのもありだなぁ?」


 ツィイーが、すぐに反論をした。


「お前ら……。今までないがしろにしてきて、私達とメイヨウの一族がどれだけ苦渋を飲まされてきたと……知ってのことか!!!」


「うるせぇ、テメェの意見なんざ聞いちゃいねぇ。メイヨウとミンメイがなぁ、話してんだよぉ」


 メイヨウは、眉根を寄せてうつむいていた。


 とても、判断に困っているという表情だ。


 国の事など、彼女に判断をゆだねるには、あまりにもその女の子は幼すぎている。とても荷が重い選択を、龍王も分かっていてやっているのだ。


 ミンメイは、右手を胸の上にそえて薄い唇を動かす。


「我々を滅ぼすのもありではないでしょうか? 全ての性根を消して、事実良くなる国もあります。

国民が本当に救われるのでしたら、この身など別に必要などありません!」


 ツィイーは、鋭い眼光を階段頂上にいるミンメイに向けた。


 ミンメイの眼前には鉄尺の先端が、薄茶色の瞳ギリギリで止まった。瞬時に台座の頂きまで駆け寄り、鉄尺で刺そうとしたのだ。


 だが、銀龍も同時に移動し、ヨウが膝をついている階下から台座上まで移動して横から鉄尺を握っている、細く青白い手首を掴んでいた。


 ユーも無言で中華包丁の柄を握っていた。ミンメイは、後ろにいるユーに手で制していたのだ。


 銀龍は、ツィイーの真っ黒な瞳を見つめていた。


 ツィイーの力も相当なものだが、パワードスーツの力には勝てない。


 それでも、鉄尺を持っている銀龍の手がたまに震えている。


「テメェ、執念にもほどがあるぜぇ? ミンメイをやったところでよぉ何にも変わらねぇ」


 ツィイーは、歯を食いしばると、眉間にシワを刻み、銀龍を右横から睨んでいた。


「私達の一族は、国を守りたかった、作りたかった!!! だけど、あなた達のせいで全てが消えた!!

私達の居場所はどこにある!」


「そうけぇ、オレはなぁ居場所が欲しければなぁ、こんな事せずに自分で作ればいいだけじゃねぇかよぉ。

そしてな、人を殺しただけで成り立った国は大体滅びているんだぜぇ?

チャン・ツィイーよぉ。

本当の革命っていうのを教えてやるよぉ?

誰も傷つけず、誰も殺さず、成立させるっていうのがよぉ……」


 ツィイーが無理くり、鉄尺を押し返そうとしているが、一切進まない。


「革命っていうやつじゃねぇのかよぉ!!」


 フルパワーのパワードスーツは、そのまま片手でツィイーを持ち上げる。


 彼女の青白い手首からうっすらと血が滲み始めると、ついに鉄尺を落とした。


 階段の上で「ぐぁぁぁあああああ!!」と、ツィイーが叫ぶ。


「テメェさん、一度手首を引きちぎらないとわからねぇみてぇだな?」


 銀龍の顔が影になり、瞳が銀色にぼやりと浮きあがる。


 銀色の瞳は残酷にも相手を道具か物に話しかけるような口調で、ツィイーの顔を見つめて話し始めた。


「いいけぇ? よく聞けぇ? テメェさんの一族がどうのこうのとかは知らねぇ。

てか、どうでも良い。

けどよぉ、小さな9歳ぐれぇの女の子よぉ、テメェさんの恨みつらみのみでよぉ、巻き込んだのがよぉオレにはどうにこうにも許せねぇんだぜぇ?

ドラゴンテロリストのツィイーさんよぉ? おわかりぃ?」


 銀龍に、とんと、小さな何かが腰に衝突した。


 銀色の瞳が、腰の辺りに視線を運ぶ。


 小さな女の子が、命がけで階段を駆け登り銀龍の腰に抱き着いたのだ。


「銀龍様、おやめください!! わたしは大丈夫です!!」


 銀龍は、片手のみで軽々しくツィイーを階段の上から放り投げる。


 ツィイーは、階段からしりもちをついた状態で、絨毯に放り投げられた。


 彼女は、赤く染まった右手首を左手で握りうなだれてる。


 メイヨウは、階段からすぐに駆け降り、ツィイーの傍でしゃがむ。


「大丈夫ですか、ツィイーさん!!」


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