5-86 追いつめられた者ども その1
-------N.A.Y.562年8月18日 13時30分---------
シィェンは、どさくさに紛れて、メイヨウを抱えたままエレベーターに到着していた。
エレベーターの扉が開くと、金色のチャイナドレスを纏った美女が、キセルをくわえたまま突っ伏していた。
彼女の周辺には、緑色のチャイナドレスを着ている十代らしき女の子たちが金龍を囲うように三名立っていた。
金色の女は、キセルを赤い唇からはずすと女の色香のある声を出した。
「あら、初めましてかしら? シィェンさん? ツィイーさんはどちら?」
「く、想像以上に速かったな、金龍!」
「ま、別に毒ガスコマンダーの手が無ければ、そこまでして妨害にはならないわ? あなた達の刺客など、ユグドシアル大陸でずっと戦ってきた私達と比べれば、素人も同然」
一番年長者と思われる女性が口を開いた。
「あらあら~ここから、逃げられると~~思っていたんですか~~?」
シィェンは、一歩後ずさりを始める。
サングラスをしている女の子が、両手に持っている兵器を構え始める。
「ボク、いつでも準備オッケーだよ? 金龍シェンシン」
彼女と同時に、緑色のチャイナドレスを着ている女性の中では一番背の高い女性が瞳を細めて両手のノコギリみたいな刃物を構える。
「アタイが一番初めに行こうか? 金龍シェンシン!!」
「いいから、エレベーターから出るわよ? みんな」
また、一歩、足を後ろに動かす。
一歩だけ、金色のハイヒールを踏み込むと、同時に周りの緑色のチャイナドレスの少女たちも動く。
「なかなか、やるじゃーないですか……」
シィェンは、後ずさりをしながら、大きな龍が描かれている扉を越えて、非常口の方へと向かった。
「ちょ、待ちなさい!!」
シェンリュが前かがみにかけだそうとしたが、金龍は金色の中国扇子でシェンリュを止めた。
「やめなさい、こういう時は、他の小隊に任せるべきよ? 私達は、ここから逃げようとする者達を無力化しましょう。まあ、ほとんど終わっているかもしれないけれどね?」
シェンリュは、口をへの字に曲げると、八斬双刀をしまう。
「ま、加勢しすぎても邪魔になるときもあるしね? ね、ファリン?」
「う、うん、まあそうだね」
リーシーは、関公大刀の刃を振り下ろす。
笑い顔にも間違えられる顔だが、そのまなざしは真剣だ。
「さ~皆さん、ここから出ようとする人たちは~~容赦なく取り締まりましょう~~。
あら、金龍さん~~珍しく、表情が出ていますよ~~」
金龍は、不敵な笑みを隠さずに、出てしまっていたのだ。
「さてと、今回はどういう風に、オチがつくのか楽しみだわ……」
シィェンは、龍王の間の手前の非常階段へとメイヨウを抱え上げたまま、ドアノブに手をかけた。
だが、己の危険信号を察知し、ドアノブから手を引っ込めた。
鋼鉄製の扉を通して、大声が響いたのだ。
「无形的速度削减(見えない速度の斬撃)!!」
何十キロもあるという鋼鉄製の非常口の扉が、赤い線が縦横無尽に走る。と、同時に爆発物を放り投げるように飛散した。
「ふーっ、相手も手際が良いわね」という声と共に、吹っ飛んだ入り口の奥から赤いチャイナドレスの少女がドレスの裾を揺らし出てくる。
赤いチャイナドレスを纏った、金色の剣を振り下ろし、お団子頭二つの少女は何か黒い影らしきものへと振り向いた。
サングラスに革のジャンパーを履いている男、シィェンと目があったのだ。
二人は「あ」と同時に声をもらすと、レイレイは、前のめりになって、相手を睨んだ。
「見つけたわ! シィェェエエエン!!」
そう叫ぶと同時に、シィェンは龍王の間へと振り返り、逃げようとした。
レイレイは命令を下した。
「リームォちゃん!!」
リームォは「ききょーゆにっちょーぜんきゃいー!!」と叫ぶと同時に、シィェンが抱え上げていたメイヨウが手元からいなくなった。
「くっ!! お前ら!!」
シィェンが、叫ぶと、周辺を警戒していた五名の黒服が、シィェンの元に駆け寄る。
レイレイは、七星剣の柄を両手で握り、後ろから出てきたシャオイェンは、梅花双刀を両手に構えた。
リームォはレイレイの後ろに戻ると、メイヨウを静かに寝かす。
リームォは、まあるい口を大きく開けて、つたない言葉でメイヨウに話しかける。
「めいようたゃん!! めいようたゃん!!」
レイレイはリームォに指令を出した。
「リームォちゃんは、メイヨウちゃんの保護、よろしくね!!」
リームォは、まあるい口を動かすと「りょうきゃい!!」と、掌を額につけて敬礼をする。
シィェンは、唇の端を歪曲させた。
かなり追いつめられている状況下にも関わらずだ。
「さすがだな、レイ・レイレイ。俺には知恵も、強さもない。ましてや姐さんみたいな度胸もない。だがなあ、それでも俺はあがくんだ。
明らかにこの国は間違っているとな!!」
シィェンは、右胸に手を伸ばすと同時に、黒服達も銃口を向ける。
弾丸が、毎秒に渡って右回転を穿ち、レイレイの方に向かう。
レイレイは、七星剣を縦に振りかざし、弾丸を切断。
彼女の右隣を追い越すのは、おかっぱ頭の女の子、シャオイェンだ。
黒服達は、レイレイからシャオイェンへと銃口を向ける。
三発ほぼ同人シャオイェンに向かう。
シャオイェンは、梅花双刀を振りかざし、全ての弾丸を弾き落とす。
レイレイには、二名とシィェンの銃口が向けられる。
彼女に容赦なく弾丸が空を走る。
レイレイは、一発だけ落とすと、ハニカム構造の薄青いバリアが発生し、二発は彼女を保護した。
シャオイェンは、あっという間に黒服達の傍まで到着すると、身を急激に屈ませた状態で、黒服の胴体をバツ字に描く。
七星剣に組み込まれたパーティカルロイド粒子が、高振動を起こし熱を帯びながら、黒服の衣類、皮膚、骨、内臓なども容赦なく貫通していく。
黒服は、叫ぶ暇もなく四つに分解された。
その真後ろにいた黒服は、トリガーを引こうとしたら、シャオイェンは、器用に刃を払う。
オート拳銃の弾倉ごとぶった切ると、弾丸はクラスター爆弾のように爆ぜると、サングラスを貫通して黒服の右目に入る。
黒服は、右目をおさえながら、地面をのたうち回った。
残り一名の黒服は、ズボンの右ポケットから鮮やかに折り畳みナイフを取り出す。
シャオイェンに右、左へと刺突を行う。
彼女は、身体を左右にずらし、刃をかわす。
相手の弱点、懐に入り込もうとしたら、膝蹴りが来た。
シャオイェンは、その膝蹴りをまともに食らうが、後ろへと転がり、勢いは何とか殺した。
「やりますねえ……」と、シャオイェンは屈んだ状態からゆっくりと立ち上がる。
黒服は、唇を歪めると、黒い笑みでシャオイェンを見下げていた。
「ですが、まあ、肉を切って骨を断つという、日本語がありますが、その通りでしたね」
黒服が、一気にシャオイェンに間合いをつめようとしたが、突如ナイフが粉々に砕け、自身の右手も地面へと落下した。
「う、うぎゃあああああ!!」
右手から血しぶきで地面を真っ赤な血で濡らし、男は両膝をつく。
黒服は、ない右腕をおさえつつ、目の前に赤い影が浮かんだ。
男は赤い影から、ヒール、パンツスタイルの裾へと順繰りに見上げると、サングラスにおかっぱの少女の顔が反射して浮かび上がる。
「いいですか? テロも結構ですが、私達に歯向かった時点で」
梅花双刀の刃同時に天井へ掲げられた。
「あなた達の負けなのです!!」
男は、叫ぶ事も出来ずに、みじん切りにされた。