5-85 真実の裏九龍城国。その2
ツィイーは動かない身体のまま、口だけは自由に動くのか、龍王を睨んだままだ。
「何が、避難システムよ。国民全員を催眠状態、適度に操っているのが、国なんて言うのかしら?」
「では、お伺いしましょう。ツィイー元黒龍会会長。国を動かすためには、もう幾千年も続いていることですが、国に所属する限りは、国民をコントロールすることは必ず行われています。
小さいころから植え付けられた、正義ともいえるシステムです。
それは、国が教える教育、街の構造、ましてやそこら辺にあるプロパガンダ。
情報戦術ですね。これは、どの国家も必ず行っていること。
そして、我々の一族の場合は、お金の一枚一枚にも誰がどのように使っているのか、ある程度分かるように、システマティックになっています。
まだ、催眠の方が、自由があるとは思いませんか?
弾圧すら起こらず、国民が幸せに暮らし、生活する。
どこぞやの、隣の国のように弾圧し、暴力で鎮圧させ、更には家族のお墓参りですら、拘束される。
それは、本当の自由でしょうか? 民主主義とは、一体どういうものなのでしょうか?
あなたは、この国を支えることが出来ますか?」
「自由!? そんな自由なんて!! 国民を洗脳し、自分の都合の良いように回しているだけじゃない!!」
「では、あなたにお伺いしましょう。今回のようなテロの場合、私の能力が無ければ、どれほどの被害が出ていたのか?
そして、その被害は、もっと拡大し、混乱し、国民の命の危険の確率も上がったでしょう。
ですが、私の声龍の力により、あっという間に避難がすみました。
あなたでしたら、混乱した国民をどのように避難できますでしょうか?
私は、いつでも王として龍王として、退く覚悟はできています。
あなたのやり方は少々頂けなかったのは、事実!! 前代の龍王でしたら、聞く耳すらなかったのかもしれません。ですが、私は違う。
一言でも話していただければ、何かしらの改善、もしくは変革をもたらしたのかも知らなかったのに……。
選択の間違えは、国益の最大の損失です。
あなたは、それを行おうとした時点で、国の者としての資格はありません!」
ツィイーは、ありとあらゆる怒りをミンメイに込めた。
だが、ミンメイは両手の黒い柄を、諸手で軽々と受け止めた。
「私の声の能力は通じないのですね。
ユー調理師の情報によると、あなたは非常に諦めが悪く、目標を掲げようなものならば必ず執行するまで諦めない。
正直、様々な人々を見てきましたが、あなたはかなり強靭な精神力です。
良いでしょう。私と力比べも、一考。
私は性格上、銀龍、シェンメイに言われたとおり、戦闘に不向きなタイプなのかもしれませんが、
決して弱いという意味でもありません。あしからずです」
ツィイーがどれだけ力を入れても、彼女の細い身体には似つかわしくない、パワードスーツで押されているような錯覚をうけた。
彼女は、額に汗を浮かばせつつ、一言だけ叫ぶ。
「バ、バカな!! 私の滅殺蟷螂拳でも押し返されるだと!?」
「私は、相手も洗脳することも可能ですが、私自身も洗脳させることも可能なのです。
声だけが、洗脳の道具ではありません。
私は、様々な化粧の種類を変えることにより、自身の身体的パワーを、生身ながらにパワードスーツクラスの力を出すことが可能なのです。
スピードやパワーは、スーツ装着時の銀龍や金龍に劣るものの、等しい力を出すことは容易いことなのです」
ツィイーは徐々に押し返そうとしているが、相手は微動だにしないのだ。
「ぐ、貴様ぁ!! どれだけ偽善ぶっても、声を操り、謝った人物像を作り上げ、更には国民を欺いているなど、誰が信じるのか!!!」
「私達一族は、女性しか生まれなくなりました。
なので、わたくしの代で龍王という虚像は終わらせるつもりだったところ、あなたという存在が、このような事態まで広がるとは正直思いませんでした。
これも良い機会でしょう。私は、ありのままの事を国民に伝えるつもりでした」
「国民が、納得すると思うのか!?」
壁を押しているような諸手に、徐々にツィイーが押されていく。
「それは、国民全てに委ねようと思います」
「バカな、それでは本当に私が道化なのではないか!?」と、ツィイーが八重歯をあらわにした瞬間、銀龍が突撃してきた。
ツィイーは、後ろへとはずみ、大きく跳躍し、階段下に着地をさせて、勢いを殺した。
銀龍の超絶的なパワーとスピードの銀色の球体をかわしたのだった。
「銀龍、貴様ぁああああ!!」
銀龍は、ミンメイのすぐ右横に低空飛空から、着陸する。
玉座の目の前に到着したのだ。
銀に染まった鎧から、マニュピュレーターを動作させてキセルをくわえた。
「へ、テメェさん、良いカンしてるぜぇ? 今の突撃、普通の奴だったらよぉ、とっくに吹っ飛んでんぜぇ?」
「お前だけでもせめて!!」
「おうおう、パワードスーツをパージ(脱いだ)した方が良いか?」
「ぐ、私をどこまで、愚弄する!!」
銀龍は、完全に唇の端を吊り上げ、牙を剥いた。
「へへ、これでもよぉ、褒めてんだぜぇ? 龍王までたどり着いた奴なんて聞いた事ねぇ? 大体、オレ達チャイナガールズがテロリストは始末してきたしな。
だが、暗闇の中よりもどす黒いテメェらの事なんざ、気づきもしなかったぜぇ。
ドラゴンテロリスト。今回は良い勉強になった。テロリスト計画はご利用的にな。ということをよぉ、改めて教えられたぜぇ?」
ツィイーは、銀龍を見上げていたが、殺気を感じて右隣に顔を向けた。
ヨウが、仰向けになったまま、ツィイーに銃口を向けていた。
「ツィイー姉さん、俺と一緒に逃げよう!!」
「あなたも、しつこいわね!! 私はドラゴンテロリストのツィイー!! この九龍城国をひっくり返すためだけの存在よ!!」
ヨウは、拳銃を構えたまま、自身の体躯を起こし始める。
「姉さん、これだけ言っても無理かい? あの時、結び紐でオレに飾り物をくれたじゃないか。こんなことは、やめよう!! 誰が幸せになるんだ!! メイヨウか!? それとも、姉さんあなたなのか!?
こんなこと、誰もが得しない。
あなたは、メイヨウを協力者として迎え入れることもできない。できるはずがない!!」
「私が、メイヨウ様の事をどれだけ思っているのか、分かっているのかしら?」
「しらないよ、姉さん。僕たちの間にはそれだけとても深い溝が出来たんだ。まだ、その溝は埋められると、俺は思っている」
「私は……元黒龍会会長、チャン・ツィイー!! それだけの女よ!!」
「よく言えば、古風。悪く言えば頑固。変わっていないよな、姉さん!!」
ツィイーは銃口を目の前にして、胸をはる。
白いブラウスから形の良い胸をつきだしたのだ。
「もし、仮にあなたの姉だとしたら、あなたに撃てるはずがないわ」
銀龍は、二人のやり取りを見下ろしつつ、叫ぶ。
「おい、ヨウさん!! やめろ!! どうあがいてもヤツは抵抗するつもりだぜ!!」
「銀龍さん、黙って頂けますか? これは、姉さんと私の問題です」
「なるほどだぜぇ、おっしゃる通りだな。プライベートには首はつっこめねぇな?」と、銀龍はせせら笑っていた。