5-82 闇の真実。
-------N.A.Y.562年8月18日 青龍部隊と同時刻---------
全身真っ黒なレディーススーツに身を纏っている女性は、黒いハイヒールで階段を駆け上がった。
ここは、非常用階段だ。
数名に別れて249階まで、全員がここへと集まってきた。
扉を前にして、彼女はハイヒールの足を止めた。
この非常用扉を抜ければ、龍王の間という場所に到達できる。
九龍城国は、屋上階合わせて250階建ての円錐型の超高層ビルだ。
その一階下が、龍王の間と言われている空間となっている。
ツィイーは、右手に持っている毒ガスの起爆スイッチを見下ろすと、黒く淀んだ微笑をさせる。
「ふふ、ついに我らが一族の願いが……」
ツィイーの後ろには、スラリとした体に細面の顔、サングラスをしている男がとなりに立っている。
気絶したままのメイヨウを肩に担ぎ上げたまま、静かに口を開いた。
彼のサングラスに、情報が映しこまれる。
対チャイナガールズのGPSが表示されているのだ。
中央省のビルの断面図に、金の点と赤い点がこの龍王の間へと集まってきているのだ。
銀の点は、既に龍王の間へと到着していた。
「姐さん、マズくないですか? 全員ここに集まってきていますぜえ?」
チャン・ツィイーは、手下どもを30人ほど連れまわしながら、何とかここまで来ている。
彼らは、ツィイーを囲むように階段の上段に並んでいたり、サングラスの男、田 文海の裏に連なっている。
ツィイーは、紫色の唇を歪ませた。
「そんなのは、見積もり通りよ。それよりも、龍王の姿を見ることが一番じゃないかしら?」
「姐さんさあ、ここにいる確証はあるんですかい?」
「間違いなくいるわ。知ってる? チャイナガールズ警報の場合、龍王は必ず国と一緒にいなければならない。
このルールは昔からずっと伝わってきていることよ?」
「亡命出来そうなんですがね……」
「私はね、この国の取り仕切っているヤツ等は大嫌いだけれど、ここは好きよ?
あらゆる難民を受け入れてくれるし、まだまだ発展できる可能性を秘めているわ」
ツィイーは、シィェンの右肩に抱えられている、小さな女の子の顔を見つめる。
「だからね、我々一族は、彼女と一緒に捨てられてしまったのよ。だからこそ、再び国をここで取り戻すことに、全ての意味があるの……」
「俺は、姐さんについていくだけですぜ……」
「田 文海?」
シィェンは、煙草を取り出して口にくわえた。
シィウェンとはまた異なるデザインの、サングラスをしている黒服の男が、サングラスを中指でかけなおすと粒子ライターを取り出した。
「おう、ありがてぇ」と、煙草の先端をつける。
「ふう、何でしょうか? 姐さん?」
「このプロジェクトが成功したら、私をもっと利用しなさい? そして、あなたの事ももっと利用させてもらうわ……」
「俺は、アンタについていくだけだ。お互い様だぜ……」
ツィイーは「ふふ、そうね。あなたに会えたのは、唯一の幸運だったわ……」と、黒く微笑んだ。
「さてと、皆、準備はいい? 最後のツメよ? 我々ドラゴンテロリストは、ここを占拠するのよ!!」
ツィイーは、腰ベルトにぶら下げている鉄尺を両手に持った。
「我らが一族、この復讐をついに晴らすべき!!」と、非常階段の扉のドアノブを下ろした。
黒服達が左右に別れて、ツィイーを守るように警戒。
だだっ広間には、大理石の床が敷き詰められていて、目の前には巨大な龍が彫られた扉が目の前にある。
扉の奥には超高層エレベーターらしきものがあり、249階から1階までわずか数分で到着する。
ツィイーは、黒いハイヒールが沈んでいるので、赤いカーペットをなぞるように視線を右側へと向けた。
今の場所も、ただでさえ広いのだが右側へ行けば更に広がっていそうだ。
ツィイーは黒いハイヒールで赤いカーペットを踏みつけながら、追っていく。
彼女に続き、シィェンと数十名の黒服達がそれぞれが足を踏み鳴らしていく。
カーペットの奥の方には階段状になっている台座があり、その頂上には白い垂幕が四方に囲まれていて、
玉座に座っている男性らしき影が浮かんでいた。
ツィイーは作戦通り、龍王の間へと到着したのだ。
深呼吸を一度させると、横隔膜が広がり、スタイルの良い胸が更に強調されて、大声で叫んだ。
「ようやく、到着したわ!! 龍王。いや、王 明美 (ワン ミンメイ)!! 貴様の命もらうぞ!!」
垂幕が上がると、そこには男性ではなく、ショートカットの女性がそこにはいた。
玉座に座っているため、両足を折って座っている。
その右隣には、フェイロンを着用した銀龍が腕を組んでいて、左隣には全身を真っ赤なチャイナドレスを着ている女性が左隣に立っていた。
女性の姿は、チャイナガールズのようなチャイナドレスではなく、パンツスタイルだ。
銀龍は、階下にも聞こえるように、親切に大声で叫んだ。
「よう、初めましてだぜぇ、オレの名前はワンシェンメイ。
まあ、名前ぐらいはよぉ、聞いたことあると思うぜ? ドラゴンマフィアさんよぉ?
テメェさんたち、なかなかに無茶苦茶しやがる。オレはなぁ、割と嫌いじゃねーぜぇ?
おかげさまでよぉ、毒ガスコマンダー鷺沼を捕らえることが出来た!!」
左隣の青い髪の女性。
ユーは、腰に手をあてて叫ぶ。
「まさか、調査していた龍が、メイヨウ様だなんて気づかなかったわ!! メイヨウ様を返しなさい!! おねーさんが叩きのめしちゃうぞ!!」
派手に金色の装飾が施されている帽子をはずし、隣りの赤い中国服を着ているユーに手渡した。
「ユーさん、わたくしは彼女に用事があるのです。状況次第では和解することも不可能ではないかと思っています」
ユーは、彼女の言葉に逆らうことなく、その帽子を受け取り、片膝をついた。
ミンメイは、膝を真っすぐにさせて黒い女を見下げながら、玉座から立ち上がった。
「チャン・ツィイー。昔、黒龍についていた、代々から伝わっていた侍女ですね?」
ツィイーは、眉根を限界まで寄せて、眉毛を吊り上げている。
「アンタ達が、私達一族を追いやった、恨み代々から受け継がれているわ!!!」
「そうですね、過去は消し去ることは出来ません。ここでひいて頂けるのならば、罪に咎めることもありません」
ツィイーは、どす黒く濁った笑みをさせつつ、相手を見上げている。
「はは、よく言うわね!! 私がこの時をどれだけのぞんだことか!!」
ミンメイは、袖がそぎ落とされた赤い中国服を着用していて、胸元にはソフトボールぐらいの大きさの赤い宝石がぶら下がっている。
「私も、探していたのです。ワンメイヨウの事を……」
「うるさいわね、私達黒龍一族毎、切り捨てたヤツ等に言われたくないわ!!」
「それは、昔の事です。代々、王家は80年ほど前から女系の家系になってしまいました。
亡き私の祖父。王 豹の意思をそのまま引き継ぐしかなかったのです。
いきなり、女系になったところで、国民は納得するのでしょうか?
せめて、私の能力、声龍の能力を使用し、国民を納得させるしかなかったのです」
「うるさい!! うるさい!! 黙れ!! 私たち一族は、昼だろうが、夜だろうが眠れなかった!!
全ては、邪魔者扱いされたメイヨウ様を守ることしかできなかった!! 気がおかしくなりそうだったのよ!!」
銀龍は、瞼を少しだけ落とし、ツィイーを見下ろした。
「ったくよぉ、ミンメイ。言っただろぉ? テメェさんはなぁ、相も変わらず優しすぎるぜぇ。聞く耳なんてもたねぇってよぉ」
帽子を専用の台座に置いたユーは、龍王の横へと並ぶ。
「やはり、龍王様、彼らは危険すぎます!! さっさと捕まえて、中国国防部に引き渡しましょうよ」
ミンメイは、眉をひそめて、唇をへの字に曲げた。
「本当はあなた達を救いたかったのですが。
銀龍大姐ユー調理師。最悪、彼らと対峙しなければなりませんが、覚悟はよろしいでしょうか?」
銀龍は、冷めた瞳で相手を見下げている。
「おっと、ちょっと待ってくれよ、龍王。いや、ミンメイ。大体察しはついているがよぉ。この中に一人巻き添えを食らわしたくないやつがいる」
ユーは、ボブの髪を左手で振り上げて、瞳を細めた。
「龍王様意外だと、わたし、おねーさんのことなんじゃない?」
銀龍は、眉を歪ませて鼻で笑った。
「へっ、五爪龍王五爪龍会とは恐れ入ったもんだぜぇ?
まさかねぇ、オレも知らなかった。裏九龍城国を監視しつつ、龍を探す機関を新設したなんてよぉ」
「だってさ、知られちゃうと諜報機関としての役目、ゼロでしょ? あなた達のような超絶的な特殊な人たち、もっと龍が必要な訳よ。国としても」
「んで、オレですら教えていられなかった、ドラゴンテロリストについて、ちょいと語ってもらおうけぇ? ツィイーさんよお?」
ツィイーは、奥歯を噛みしめつつ、言葉を絞り出す。
「ええ、教えてあげるわ。心龍様と我々一族との関係を!!」