1-13 戦え!! 第3部隊VSムキムキメイドオカマ!!
イェチンは、長髪になっている髪を振りながら、森林の中を走っていた。
確実にオカマに狙われているのは分かっている。
そしてしゃがみ込み跳躍。
中国靴のまま、太い木の枝に乗る。
身体を屈まさせ、切れている息をストップ。
肺いっぱいに酸素を取り込むので、小さな胸も膨らむ。
相手が見えないここまでの恐怖は、イェチンは体験したことはなかった。
イェチンは、声を抑え気味にしつぶやく。
「アイヨー、敵は強すぎるよ。ルェイジーは捕まっちゃったけれど、私は捕まらないよ」
イェチンの耳の中から声が聞こえる。
「周辺を警戒して。そうしないと、どうしてもやられるわ」
その声は、とても真面目で、誰よりも無感情な声だ。
シャオイェンは冷静に、しかも合理的に言葉を重ねる。
「イェチンさん、怖いのもわかるし、誰だって見えない敵は怖いです。けれど、対処できなくはないと私は思います。相手は見えない。けれど、相手が全く存在していないわけではないです。だからこそ、対処できるはずです。私はそう信じています」
イェチンは、シャオイェンの言っていることはよくわかっている。
分かっているよ。と、その言葉を返す。
「けれど、相手がほぼ見えない限りは、私自信との戦い、間違いない」
リーシーは、二人の会話に入ってくる。
間延びしている声で、ゆっくりとしゃべる。
「相手が~見えないんだよね~。これは~~結構苦戦しそうよね~」
玄武部隊長の、リーシーはいつでもこんな感じで話ししていて、イェチンは自身の小隊長のマーメイと、似て非なるゆっくり感を味わっている。
そんなリーシーが、なぜ今まで小隊長をやってこれたのか、不思議に思った。
言葉を一つおいて、イェチンは森林の奥から草木が不自然に揺れるところを発見する。
「シッ、木々が動いた」
揺れた草木の奥から、リスがとたとた駆け出したのだ。
イェチンは胸をなでおろした。
「アイヨ、気のせいだったよ……」
そして、イェチンがのっかっている木が揺れるのを感じる。
「え? 地震?」
耳の内側からシャオイェンの声が聞こえる。
「地震じゃない! イェチンの大木が揺れてるのよ」
イェチンはぐらつく身体を何とかしながら、木の枝から幹の部分、真下を見た。
瞳を凝らしてみると半透明であるが、大オカマが大木に抱き着き、大木を引っこ抜こうとしている。
とんでもないバカ力だ。
「アイヨー!!!! すぐ下りないと!!」
イェチンは何とかバランスを保ちつつ、大木が抜けると同時に、ジャンプをする。
空中前回りで一回転し、全ての両指の第二関節を折り曲げ、両腕を胸元で交差。
そして、彼女は叫んだ。
「パーティカルロイドシステム起動!! 気功ユニットオン!!」
右片足で、身体を屈まさせ、その拳のまま空へ羽ばたかせた。
彼女のクンフーは、鷹爪翻子拳なのだ。
イェチンは、化粧っ気のある、赤い唇の端を歪めさせる。
「見えなかった。けれど、そこにいるのは分かるわ!!」
見えない相手に対して、猛ダッシュしようとする。
だが、突如目の前が真っ暗になる。
ヤバい!!
すぐに身を伏し、黒い物体をかわす。
イェチンの長い髪が揺らぎ、その物体が後頭部を過ぎ去っていく。
黒い物体によって、細い大木が根こそぎ倒れていく。
大木が横へ振り払われていたのだ。
小柄だったのが幸いなのか、イェチンは即座に地面へ投げたので無事だった。
立ち上がり、鷹爪翻子拳の構えを立て直す。
相手との距離は、約5メートル。
大木の長さは5メートル以上なので、いつでもここまで届く。
「あらあらぁ、そろそろ小細工なしで行こうかしら、、、、」
半透明に見えていた姿が、徐々に色を帯びていく。
巨大なオカマが大木を片手で担いでいた。
オカマの恰好は、オリーブドラブ色のメイド服を着ており、
半透明になれるのも、そのバトルドレスの恩恵なのだろう。
せめてステルス迷彩を解くことができれば……。
イェチンは、そう判断した。
白塗り、金髪オバケは口を開く。
「あんらぁ、あなたなかなか良い美学を持っているわねぇ。美しさは、武器なのよ!!」
イェチンは、小柄でカワイイタイプだが、黒い瞳には殺気を宿して相手の言葉に答える。
「アイヨ、良くみてるわね。私、お化粧大好きなのよ!!」
オカマは、牙のような歯を見せ、笑顔になる。
「あんらぁ、ますます、た、い、ぷ」
イェチンの左右両側から、緑色の人影と赤色の人影が二つ降りる。
玄武部隊小隊長リーシーと、朱雀部隊のシャオイェンだ。
「力強すぎて、気持ち悪いな~」と、言い放つと、リーシーが眉をしかめながら、すらりと空気を撫でるように両手を出して、スレンダーな右足を落とし、左足を伸ばした。
呉式太極拳、彼女のクンフーだ。
シャオイェンは、冷静に真面目に状況を分析しつつ、無表情のまま両指をつまむ指先を作る。
シャオイェンのクンフーは、梅花蟷螂拳。
リームォとはまた性質の異なるクンフーである。
「相手は相当のバカ力です。あの力があるということは、そこら中にある、木々も武器になるということです」
緑と赤の者達は、下丹田に力をこめ、気功ユニットへ気を流す。
二人の声が爆発する。
「「パーティカルロイドシステム起動!! 気功ユニットオン」」
オカマが大木を片手で横に振る。
リーシーが「任せて!!」と叫び、大木に掌底をさせる。
気功ユニットとバリアを混ぜ合わせたような防御壁が広がり、大木を何とか止める。
シャオイェンは、横に薙ぎ払わられる大木を跳躍、かわし、大木の上に乗り、相手に近寄ろうとダッシュ。
オカマが大木を両手で掴む。
オカマを支えている大木にも見えるその足は、土にめり込みそのまま垂直に木を持ち上げる。
シャオイェンは体制を崩し、相手の顔目掛けて突きを放つ。
だが、顔面に拳は当たるものの、全く効果がない。
彼女はオカマの後ろに着地。
オカマは振り向きざまにセリフを吐き捨てる。
「あらあらぁ、やるわねぇ!!」
その瞬間、シャオイェンが首を上げて、叫ぶ。
「任せたわよ! イェチン!!」
オカマはその瞬間、視線を青空へ。
イェチンは、オカマが立てた大木の枝を掴んで、一気に空中を飛翔していたのだ。
「アイヨ、私のスペシャル技、行くよ!!」
青い影が、超高速回転をさせ、軽く竜巻のような風が巻き起こる。
風圧で、再度たてられた大木の皮が剥がれながら、青い影が真横に回転しながら差しせまってくるのだ。
「あらぁ、雑技団もビックリねぇん!!」
彼女の中国靴のかかとが、オカマの頭頂部を直撃する。
「私の全てを受け取れ! 旋风脚涉及一切(全てを巻き込む旋風脚)!!!」
イェチンの回転速度は衰えず、踵からは透明の青いバリアが発生し、オカマの脳天を勝ち割った。
あまりの衝撃に、六角形を集めて作られたバリアが空中に散乱し、砕け散る。
最大回転力は、やがてイェチンを中心にかまいたちとなり、要塞の頭上からつま先まで通り抜けていく。
そして、風圧による回転力は、要塞のメイド服を次々と切っていき、メイド服は耐えられなくなり、バトルドレスが裂けていくのだ。