4-71 カォルンセングォゴキブリホイホイ大作戦!! その4
鷺沼は階段下に着地し終えると、そこには、黒い中国服を着ている、瞳の鋭い男性が腕を組んで待っていた。
彼の後ろには、白いチャイナドレス姿の女性と、白い中国服を着ている女の子が傍にいる。
「私の名前はインチンヨウ。服部半蔵鷺沼、覚悟!」
鷺沼は、涙を流しながら、リャンリャンから奪った棒で、縦にふるう。
チンヨウは、身体を即座に左へとずらす。
鷺沼にスキが生まれた瞬間、チンヨウは相手のみぞおち目掛けて掌底を出す。
「貴様如きに、兵器など必要ない!!」
鷺沼は、棒を捨てつつ、チンヨウの攻撃を受け止める。
そのまま壁まで押し出されると、壁に両足で蹴り飛ばし、隣りのコンクリート製の屋根に足を着地させ、再び他の逃げ道へ行こうとしている。
「やーいーたいちょう!!」
ヤーイーは再び両膝を折り曲げて、鋼鉄ハイヒールで鷺沼の後ろを追う。
リャンリャンは、両手足を使って、壁を登り切った。
チンヨウは、階段を駆け登る。
四人全員に囲まれつつ、鷺沼は後ずさりをする。
「貴様らぁああああ! 毒ガスがきかないだとおおおおお!!!」と、甲高い声をあげながら鷺沼は叫んだ。
ヤーイーは、笑いながら両手を腰にあてる。
両目が白く光っているのだ。
「あんたが人体実験している間、こっちも対策を速攻で練ったのよ!! それで……」
リャンリャンは、六角棍の先端を鷺沼に向ける。
「わたしとおなじようなひとを……どれくらい、あやめたのでしょうか?
ほんほんが……どれだけくるしんだのか……あなたにはわからないでしょう!!」と、涙を散らした。
チャオは、身体上半身を覆っているマントを広げつつ、口元をスカーフで隠す。
「俺は勘違いしていたよ。あんたのような闇一色に染まった奴にはなれねーっていうことさあ!!」
チャオが接近しようと、相手に駆け込もうとした時だ。
鷺沼が鎌を使用するわけでもなく、黒装束の懐から何かを取り出した。
ヤーイーは動体視力で、それが何なのかは分かった。
――スタングレネードだ。
非殺傷武器ではあるが、リャンリャンは落ちたピンだけで判断し、爆弾と思ってチャオの右側面から体当たりをした。
「あぶないです!!」
チャオと一緒にリャンリャンは老龍省の入り口横のコンクリート製の壁に激突した。
「いってぇ!!」
全員、目の奥が痛くなり、ようやく落ち着いたころには鷺沼の姿はいなかった。
「く、逃がしたのかしら!!」
チンヨウは、老龍省の扉に指を差した。
「あれを見ろ、老龍省の扉が半開きになっている!」
ヤーイーは、額の汗をぬぐった。
「ふう、うまく行ったみたいね……」
リャンリャンはチャオに抱き着いたままだ。
「どけよ、チビ!!」
「ちびじゃありません!!」
リャンリャンは、眉毛を吊り上げながら相変わらず怒っているが、チャオは右頬を掻きながら、照れくさそうに視線を外した。
「おまえはチビだ。け、けどよ……ありがとうな……」
チンヨウは、腕を組みつつチャオのその姿を見て、唇のはしを珍しく吊り上げた。
ヤーイーはその光景をよそに、アスペルギルスに連絡を入れる。
「アスペルギルスさん!」
「はい、何でしょうか?」
「ターゲットが、Aダッシュのブロック8の出入り口へとまんまと行ってくれたわ!!」
「ありがとうございます。老龍省の辺りには、ヘリウムガスがふんだんに含まれた仕掛け罠を沢山つけておきました。
出入り口までたっぷりと泣いてもらいましょう!!」
「それにしてもさ、ターゲットは何でヘリウムガスが嫌いなの? アスペルギルスさん?」
「端的に言えば、とある爆発事故をきっかけに、彼はそれがトラウマになったのです。
更に私情を持ち込ませていただくと、製薬会社勤務時代、私は彼のやり方が気に食わなかったのです。
毒ガスの為に人体実験などなんとも思わない。
確かに、戦争は医療技術を格段に引き上げます。
ですが、私は彼の人の魂をもてあそぶさまには、どうしても許せなかった……」
ヤーイーは、顔をしかめさせた。
「そうね……ユグドシアル大陸でも似たような思いをしたことがあったから、アスペルギルスさんの気持ちもわかるわ……」
「……はい……私は細菌兵器を生み出せる能力もありますが、私の夢は細菌兵器の相対する存在になることです」
「ま、赤バニさんたちも色々なのね……」
「私の怨恨などほんの一部なのです。そのうち、あなた達と相対する模擬演習でもやりたいところですね」
ヤーイーは、トンファーを両手に持ち、闇市場を見下ろした。
「……そうね、いつか腕試しでもやろうかしらね……」
整備された闇市場でも空調が配備されていて、ヤーイーの白いチャイナドレスのお尻側の裾が、ふわりと浮き上がり流れた。
《世界観設定》
・中国との関係について。
完全に独立国として設立された九龍城国だが、その関係は微妙だ。
元から九龍城塞の時から快くは思っていなかったらしく、完全に住民を追い出そうとしたからだ。
その割には、色々な解決不能な問題を九龍城国側へ持ってきたり、何とかしてくれという依頼が多い。
戦力というか、軍としての数は多いものの、今まであった中国国防部としての華々しい戦力はもう既に期待できない。
パーティカルロイドができたことによって、今までの戦争のセオリーが覆されたからだ。
少人数でいかにシステマティックに戦争を出来るかがこの世の全てであり、理となってしまった。
NAY562年現在、中国国防部は軍縮化されつつも、パーティカルロイド粒子は他の傭兵から輸入するということになってしまっている。