4-68 カォルンセングォゴキブリホイホイ大作戦!! その1
-------N.A.Y.562年 8月18日 10時30分---------
チャイナガールズ警報を出してから5時間ほど経過した。
人々でいつも賑わう表側の九龍城国だが、ここまでキレイに静まりかえっているのは初めてだった。
住民たちは、既に九龍城国から脱出して、外側の中国の方面へ全員避難しているのだ。
いざというとき、中国政府も協力するように出来ている。
九龍城国は、中国政府よりも実質的に権力が強い。
なぜならば、パーティカルロイド粒子を集められるような国が付近にはなく、ここまで条件の良い輸入相手もいないからだ。
誰もいない省、誰もいない街、誰もいない国。
金龍の想像以上に、住民たちは早々と国から非難することが出来たのだ。
銀龍は中国キセルをくわえたまま、口を開く。
ヨウの中国国防部をのぞいて、中央省に集まっているのだ。
いつもの自動扉の手前には、銀龍から始まりホンホンがいない、いつも通りのチャイナガールズのメンバー。
裏九龍城国の一部の人間、さらにはバニーガールズの一部が、勢ぞろいしているのだ。
チンヨウとチャオは、スマートコンタクトレンズをすることが出来ないので、耳にイヤホンをつけている。
「これ、すげーな。皆の声が良く聞こえるぜ!!」
チンヨウは、チャオを見下ろしながら、話した。
「チャオくん、きみは物事を知らなさすぎだ、もっと視野を広げて学びなさい」
「わかったよーチンヨウさん」
ルェイジーはポニーテールを揺らしながら、イェチンとマーメイに囲まれている。
「アイヤ、ルェイジー。なんか注射針を刺されたアルネ!!」
青髪が片目で隠れている背の高い女性が、小さな口を開いた。
「なんかぁ、パーティカルロイド粒子のエネルギーを利用したナノマシンらしいですよぉ?
それを取り込むことでぇ神経麻痺を防ぐみたいですよぉ」
「なのましん? アイヤ!! 食べ物アルネ!!」
「アイヨー、ルェイジー。ナノマシンは食べ物じゃないよー。ナノマシンは、小さいロボットよー」
「アイヤ!! なのましん、チャーハンに振りかければおいしくなるアルか?」
イェチンは、両手を返して首を振った。
「アイヨー、ルェイジーはいつもご飯につながるよー……」
銀龍は、キセルをポーチにしまい込むと叫んだ。
「はいはい、テメェさんたち、黙りな!」
銀龍を中心にして、バニーマム、アスペルギルス、金龍と並んでいる。
「作戦手前で、テメェらに朗報がある。今入った情報によると、ホンホンの状態が安定した」
それを聞いて、リャンリャンが一番大きく反応したのか、六角棍を振り上げてジャンプした。
「ほんとうですか!!」
「ああ、そうだ。まだ眠ったままだが、意識が回復したのは間違いねぇ。これも、レッドバニーガールズのお陰だ!!」
喜ぶチャイナガールズ達をよそに、金龍は作戦説明をする。
「喜ぶのは作戦が全てうまくいってから喜んでください。それでは、作戦を説明します。
今作戦は複雑になります。全てを同時に並行して作戦を成功させなければなりません。
要点として4項目です。
一つ目は、毒ガスコマンダー鷺沼をバリヤーが張られた特別製の牢獄に入れることが最優先事項です。
二つ目は、黒龍会の、殲滅もしくは捕らえること。
三つめは、メイヨウさんの救出。
四つ目は、行方不明であるヨウ大佐の捜索です。
今回はレッドバニーガールズの、アスペルギルスさんの協力により、毒ガス対抗策としてのナノマシンと薬品とのマルチハイブリッドにより私達の神経系がおかされることは無くなりました。
それと、対毒ガスコマンダー用のガスを皆さんにお配りしました」
「テメェら、全員スプレー缶を持ったかぁ?」
防護マスクをしているアスペルギルスが、もごもごと口を開く。
「その缶は、毒ガスコマンダーがもっとも嫌っているガスです。無害なのですが、彼はこのガスを嫌っています」
ルェイジーは、両目をバツ字にさせて目をつぶり、元気よく手をあげている。
「アイヤ!! 了解アルネ!!」
コミカルなルェイジーに気を止めることなく、金龍は続ける。
「今回は、部隊を我々の普段通りの部隊に小隊編成を戻します。この任務……」
金龍は、こほんと咳ばらいをさせ、一息つくと赤い唇を動かす。
「カォルンセングォゴキブリホイホイ作戦は、同時並行に全てを解決しなければ、私達に明日などありません。
銀龍と朱雀部隊は、メイヨウさんの奪還とツィイーのテロ活動の防止。
青龍部隊は、表側の九龍城国で毒ガスコマンダーのパーティカルロイド製の牢獄への誘導。
玄武部隊は、金龍こと私と一緒に行方不明である中国国防部のヨウ大佐の捜索です。
白虎部隊は、裏九龍城国での毒ガスコマンダーの追い出し。
裏九龍城国の方々は、白虎部隊と一緒に毒ガスコマンダーを徐々に追いつめて行ってください。
裏九龍城国に関しては、あなた達の方が遥かに上です」
防護マスクをしているミリタリーコートの少女がもごもごと、何かを再び話し始めている。
音声に遅延があるのか、多少遅れて彼女の可愛らしくも冷静沈着で落ち着いた声が聞こえた。
「先日説明させていただきましたが、念のためもう一度通達させていただきます。
この土地を、A~I地区まで英語表記でブロック単位で統一させてもらいました」
チンヨウとチャオのぞく、全員の瞳が薄青くなる。
目の前にウィンドウが開き、九龍城国を上空から撮影された平面図が広がり、各ブロックごとに区切られているのだ。
時計回りに、上から老龍省、碧龍省、銅龍省、紅龍省、黄龍省、青龍省、黒龍省、牙龍省、白龍省という順になっている。
「音声のみの方もいるので、念のため説明します。
老龍省はA、碧龍省はB、銅龍省はC、紅龍省はD、黄龍省はE、青龍省はF、黒龍省はG、牙龍省はH、白龍省はIになります。
そして、各ブロックごとの数字が高くなればなるほど、中心部に近いです。
更に、裏九龍城国ではダッシュと表記させていただきました。
例えば、Iダッシュの50となれば、かなり闇市場に近い場所となります。
わたくし、アスペルギルスの説明は以上となります」
金龍は、アスペルギルスの説明が終わると再び口を開いた。
「本作戦の成功は、困難で難しい事が容易に想像できます。
ユグドシアル大陸の演習がオモチャ遊びになるほど、ちゃちなものになるでしょう」
金龍の説明が終わると、銀龍は中国扇子を腰ベルトのポーチから取りだし、広げて顔をあおいだ。
鷺沼の戦闘の時は銀色の中国扇子だったが、そのまま失ってしまったので、赤い色に金色の花柄が豪勢に装飾されている中国扇子だ。
「いっかぁ? 今回は、全てにおいて同時並行だ。今までオレ達でこの国の事は、何とかなってたぜぇ。
だがなぁ、裏九龍城国の会長たちや、バニーガールズのヤツら。
更には今避難している住民の人達。九龍城国は誰一人としてかけてしまってはいけねぇ。
オレ達の国にはチンケな毒ガスでくたばるのが勿体ねぇほどの価値がある!! 必ず成功させてやろうぜぇ!! 気をつけぇい!!」
銀龍の言葉を聞いたチャイナガールズは身をこわばらせて、瞬時に直立した。
「敬礼!!」と、銀龍の号令が聞こえると同時に、全員掌を額の辺りに持っていった。
「我ら、チャイナガールズは、九龍城国のために!!」
全員声を揃えて叫んだのだった。