4-65 レイレイとシャオイェンの帰還
レイレイとシャオイェン回です。
-------N.A.Y.562年 8月17日 18時00分---------
レイレイとシャオイェンが事務所に到着したのは、銀龍に伝達した時よりも、更に30分遅れてしまった。
――当たり前である。
肋骨は骨折していて、シャオイェンは完全にバトルドレスの背中側までがない。
二人とも、想像以上に疲労している。
レイレイは、銀龍の黒いソファーを借りつつ、頭を垂れている。
シャオイェンは、腕を組んだまま、銀龍を待っていた。
銀龍はさらに綿密な計画をレッドバニーガールズのメンバーとも練っているからだ。
ふと、シャオイェンは珍しく真っ暗な九龍城国の街を見下ろしながら、口を開いた。
「レイレイ小隊長……」
「何よ、シャオイェン?」
「私の予想ですが、恐らく銀龍ターレンはあなたと私を外そうという動きが出ると思います」
「何で……よ?」
レイレイは、緊張感が切れていて、疲れているのか、もしくは肋骨が痛むのか、たまに言葉が途切れる。
「我々が確実に疲労しているからです。立っているのも何とかな状態。到着予定よりも30分遅れたこと。
全ては銀龍ターレンの、判断です」
「まだ、メイヨウちゃんを取り戻していないじゃない!! 私は引き下がらないわよ!!! ぐ……!!」
思わずレイレイは叫び、左側の肋骨をおさえる。
「あまり叫ばないでください、レイレイ小隊長」と、シャオイェンはレイレイの傍でしゃがみ込む。
そして、座っているレイレイと視線を合わせた。
「私はターレンの前に、あなたの為に戦っているのです。ですから、あなたは余計にりきまないでください……」
「……知ってるわよ。アンタさ……。チャイナガールズに初めて入った時の事覚えている?」
「……ええ、まあ覚えていますけど……」
「アンタ、本当に初めて入ってきたときは、どうしようかと思ったわ。私も小隊長になりたてで不安だったんだよね……」
「ええ、それも理解しています」
「アンタは、本当に面倒のかかる子だったわよ。初めは何を考えているくらいに分からなかった。
戦闘中でも怖がらないし、笑わない。それに、ちょっとしたジョーダンも通じない。
空気は読めないし、好きな事に関してはずっと喋るし……」
「はい……あの時は本当にお世話になりました。
私も今までは田舎であまりコミュニケーションらしいコミュニケーションをしていなかったので、何を話せばいいのか全く分かりませんでした」
「そうね、アンタは本当に成長したわ……郑 红老師と最近なかなか会えないんだけど、元気かしらね?」
「まあ、元気そうでしたよ……」と、シャオイェンは視線を風呂場の脱衣場側の内扉へ視線を向ける。
そこには、リームォが一人で立っていた。
「リームォちゃん……お久しぶりね」
二人の前に駆け寄ると、左胸をおさえているレイレイの頭を撫でた。
「いちゃいのいちゃいの……とんでけぇ……」
「はいはい、分かったわよ。私は大丈夫よ」と、口角をあげて安心したようにレイレイは微笑む。
「リームォさん……。そういえば皆さんはどうしたんですか?」
「みんな、じゅんびしてりゅ……」
「私も手伝わなくちゃ……」
「ぎんりゅ……まだまだかいぎ……ながびゅく……」
「うん、でもね、リームォちゃん。私にはまだやることがあるの? 分かってくれる?」
「レイレイ小隊長、もう少し休んでください。
私もここまでズタズタにされたバトルドレスを着替えなければなりませんし、パーティカルロイド粒子も補充しなければ次へは進めません」
リームォに続いて、シェンリュが出てくる。
Tシャツに、ホットパンツ姿で、頭にタオルを巻いている。
どうやら大浴場に入っていたようだ。
「あ、レイレイさん、大丈夫!?」
レイレイは、痛みにこらえながらも笑顔を見せた。
こらえるたびに、力を入れてしまうので、右側の耳元にぶら下がっている、七星剣のピアスが揺れる。
「シェンリュちゃんこそ、大丈夫だった?」
「いやいや、アタイよりも自身の心配してよ。
レイレイさん、それよりもここまで追い詰める相手も相当手練れだったみたいよね!!
後で戦闘データを見てみたいわ。個別データは無事よね? ね!!」
シェンリュがグイグイとレイレイに迫ってくる。
レイレイは、思わず右手を出した。
「ごめん、シェンリュちゃん。それは後でいいでしょ?」
「ゴメン……アタイが悪かったわ。それよりも休んだ方が良いよ、レイレイさん……」と、シェンリュはみんなの手伝いをしに、倉庫へ向かう。
「りーむぉも……みんにゃのてちゅだいすりゅ……」
「はいはい、行ってらっしゃい」と、言葉を捨てるレイレイなどいざ知らず、シェンリュの跡をついていくリームォ。
その光景をずっと見ている、シャオイェンの姿をレイレイは見ていた。
「ふ……いいもんですね……」
彼女は、瞳を細めて二人のその背中を見ていた。
「さてと、私はバトルドレスの補充も含めて、用意していきます」
シャオイェンの背中を見つつ、レイレイは自身の視界がぼやけていくのが分かった。
「これは……さすがに……」と、言葉をもらすと同時に、黒いソファーに倒れこんで、瞼を落とした。
彼女は黒いコールタールのようなものに絡まれるような錯覚を覚えた。
ずっと闇が絡みついていて、離さないような感覚。
彼女の疲労と、ケガの痛みと、今までの緊張感が全て切れるという、同時の出来事であった。
・各省ごとの特徴。
九龍城国内では、各省ごとに様々な特徴が出ている。
それを以下に記す。
老龍省……住民は老人が多く、最もお金回りが少ないところでもある。
病院の内科が多い。
その為、最近では龍王がサッカー競技場を作って、経済を回そうという流れがある。
それと、病院も結構多い。
碧龍省……緑が多く、人工的に作られた自然が多い地域。
山というほどではないが、公園や、自然なところを作り上げているので、
普通に鳥が住んでいる。
よって、住民はその公園を管理する人や、自然を利用したいと思っている人が住んでいるので、
人口の比率は少ない。
紅龍省……パーティカルロイド粒子などの熱工学などを利用している地域。
見た目は普通の住宅街なのだが、ここの地域はパーティカルロイド粒子を利用して、
ガスのようなシステムを作っているところ。
黄龍省……電気街、日本で言うなればアキハバラみたいなところ。
電脳九龍城というゲームセンターがある。
その為、銀龍が好きそうなBL本や、ファリンが好きそうな本なども売っている。
パーティカルロイド粒子の仕様頻度も黄龍省がダントツだ。
青龍省……各地域の中でもかなり蒸留水の使用率が高い。それは、つまり飲食店などが非常に激戦区であり、一般家庭の人々もかなり多いという意味でもある。かなり栄えていて、非常に夜でも人が遊んでいたり、ぶらついていたりする。
黒龍省……口コミなど、非常に住民たちのコミュニティがとても濃い省。
情報は財産であり、文化であると人々は思っていて、ネットよりも口コミの方が信頼性がある。
防犯カメラの設置数もダントツに多いが、住民の人々は情報によって守られていると思っている。
牙龍省……老龍省は内科が多く、牙龍省は外科が多い。
自動AIシステムによる救急車があって、ここでは緊急の用事はほとんどないので、
ほぼ救急車などない。
白龍省……九龍城塞の頃の状態の、文化的なものが多い省。
その為、文化遺産が多いので、お城のような形のアパートや、
お寺が多い。最も中華人民共和国の名残がある地域。