4-60 チャイナガールズ混成部隊VSドラゴンテロリスト!! その9
どこにもレイリンは見当たらない。
かなりのスピードで動いているので、赤いコートの女性が現在どこにいるのか分からない。
忠実に銀龍から教わった言葉をサラっと、シャオイェンは言ってみた。
「レイレイ小隊長、クンフーには気という概念があります。気と言うものは、武林書や今まで先人たちが培ってきた体の使い方です。
そして、気は相手を捕らえること。聴頸という技術があります。
相手と拳を交わすことによって、相手の動きを初動で読み切るという。
あなたはあの赤いコートの女性とかなりの数の拳を交わしてきたはずです。
レイレイ小隊長、あなただったら彼女がどのような動きをするのか、分かるはずです。
私はあなたを信じるのみです!!」
レイレイは、銀龍から教わったことを思い出してきた。
瞼を落とし、純粋に気を巡らす。
例え、見えないとしても、風圧や流れる大気などで、分かるはずだ。
聞こえるのは、相手が動けば、その風圧はレイレイの白い顔を撫でる。
レイレイは心の中で、火が灯るのを感じていた。
大きな瞳が、更に大きく見開く。
「シャオイェン、前に転がって!!」
レイレイとシャオイェンは同時に前転をさせる。
天井から、レイリンが垂直に足技を落としてきた。
その足技の威力は、かなりの衝撃で、床下のレンガにヒビが入り、割れ、レイリンの足首までめり込んでいく。
そして、彼女の足首を中心にして、5メーターほどのクレーターができた。
時の流れがゆっくりとなっている中、レイリンとレイレイはお互いに視線を合わせていた。
レイレイは、左右両方の眉毛が跳ね上げると叫ぶ。
「久々に私でも満足できるほど、アンタは強かったわ!! 私は強い人と戦えば戦うほど、強くなれるの!! そして……」
完全に足をめりこませるほどの強い攻撃だったので、完全にレイリンのスキが生まれてしまっている。
レイレイの瞳が赤く光り、まっすぐにレイリンに向けられる。
「気功ユニット全開!!」と、レイレイが叫ぶとレイリンの前に超高速で近づいた。
レイレイの動きが速すぎるのか、レイリンも完全に無防備だ。
レイレイは両拳を腰にもってきて、叫ぶ。
「红色残像的推力(赤き残像の突き手)!!」
アインシュタインの理論を持っている、レイリンですら避けることが出来ない突き手が彼女を襲う。
手の赤い残像しか見えない。
レイリンは、笑顔を何とか出していたが、その余裕も既になくなりつつある。
レイレイの突き手の威力に、完全に押された。
その突き手をはじこうと思おうものならば、パーティカルロイドをつんでいるコートが徐々に切れていくのだ。
あまりのスピードに、レイリンの白い頬にも赤い筋が入り、頬から血の線が顎までつたう。
耳たぶ、髪の毛、二の腕に赤い傷が毎秒で刻まれていくのだ。
レイリンは必死に防御を行おうとするが、それでもレイレイの動きは止まらない。
レイリンは見切れずに、右腕に鋭い突きをくらい、顔をゆがませた瞬間、後ろにはシャオイェンが立っていた。
レイレイが交戦している間に地面に落ちていた梅花双刀を回収していた。
シャオイェンの赤いおかっぱの髪が、波打つようにゆっくりと揺れる。
殺気を感じ、レイリンは思わず振り向こうとしたが間に合わなかった。
シャオイェンは、梅花双刀でレイリンの背中を器用にバツ字切りにし、切り刻んだ。
服一枚、薄皮一枚切り刻むなど、梅花双刀使いであるシャオイェンにはたやすいことなのだ。
彼女の肌が顕わになると、背中には天女のタトゥーが入っていた。
レイリンのスマートコンタクトレンズから、真っ赤なエラーが表示され続ける。
素早く動くための、自分を包んでもらうバリアが使えなくなってしまったのだ。
「やはり、そうでしたか。あなたは、我々よりも素早く動ける分、そのコートはバリアーを犠牲にしていたのですね。
つまり、音速に対してあなたは全て自力でかわしていた。
その技術に、私は感服しました。
しかし、そのコートは万能ではなかったのですね……」
シャオイェンは、彼女の背中を見ながら淡々と話す。
「背中のタトゥーは、天女ですか……。何のために入れているかは分かりませんが、天女の羽衣で飛ぶという伝承がありましたよね?」
レイリンは、完全に敗北を認めたのか、形意拳の構えを解いた。
「せ、せめて、アンタ達の銀龍、金龍のように能力のタトゥーだったら良かったアル……」
レイレイは、その言葉を聞いて、眉をしかめた。
「まさか、それって……七天女じゃない?」
「七天女って、傭兵部隊じゃなかったっけ?」
「そうアル、非合法の傭兵部隊アル……。けど、極悪NPO法人に借金させられまくって……。
現在は勘当アル……あなた達を倒せば、七天女の名前が広がる!!
そうすれば、私、また七天女に戻れるアル!!」
「まあ、あなたの出自などは後で事情聴取しますよ……一応現在戦闘中のため、それとこれとは別です。
仕事に私情は挟まない主義なので……。
キッチリ、落とし前はつけてもらいますよ!! レイレイ小隊長!!」
シャオイェンが叫ぶと、レイレイは返事をした。
「はいよ、シャオイェン!!」
レイレイとシャオイェンは同時にレイリンの側頭部にハイキックをかました。
レイリンは完全に逃げどころを失い、それを受け止めるしかなかった。
彼女は完全に黒い瞳がぐるりと回り、両膝を赤いカーペットの上に沈ませ、レイレイを目の前にうつぶせに倒れた。
レイレイは、耐え忍んでいた左胸の肋骨に手をあてる。
「ぐっ……久々の激戦だったわね……」
痛みのあまり、奥歯を噛みしめるしかないので、自然に左足が傾く。
「レイレイ小隊長。とりあえず、まずは気絶しているユーターチェの介抱をしましょう……」
シャオイェンは、中国服がドレスのようになっているので、レイレイにちょっとした意見を言ってみる。
「あのさ、シャオイェン……たまにはチャイナドレスでも着てみれば?」
シャオイェンはユーの所まで歩きつつ、背中から珍しく笑い顔を見せた。
「ふふ……たまには、良いかもしれませんね?」
シャオイェンは、ユーの上半身を抱え上げ、揺らした。
「ほら、ユーターチェ……。チャオさんがやってきましたよ?」
「え!! 本当!! チャオ君どこなの?」
勢いよく立ち上がり、アジト内部をそこらじゅうを探しまくる。
レイレイは、半分あきれ顔で、ユーを見続けていた。
「余程、好きみたいね? でも、想像以上に元気そうでよかったわ……」
「それと、通信妨害の機械を破壊しないと、銀龍ターレンと連絡取れませんね?」
「そうよね……。あ、後片付けが大変だわ。それと、メイヨウちゃんの居場所をあのクソ男から尋問しないと!!」
テーブルの上に注目すると、男はずっと仰向けになったまま、舌を出している。
シャオイェンは、鋭い視線を向けつつ、ため息をついた。
「まったく、本当にこれだけの才能と言いますか、心理戦を持ち込めるんでしたら、他の事に使ってくださいよ……」
ユーは拳を握り、指の関節を鳴らした。
その表情は、銀龍がブチ切れた時の顔と被る。
「ふふ、おねーさんが、尋問してあげよーかしら?」
シャオイェンは、レイレイの小さな耳に口許を寄せ、ひそひそ声で通達した。
「ユーターチェの、あの顔……どっかで見覚え有りませんか?」
レイレイは、顔をひきつらせながら、笑う。
決して、肋骨の痛みでひきつった顔ではない。
「ええ、あれはターレンが完全にブチギレタ顔ね……」
ユーは、テーブルの上まで跳躍し、気絶しているチーミンの前で仁王立ちする。
「さあ、どうやって調理しようかしら……」と、チーミンの中国服の胸倉を掴み、チーミンの顔に拳を入れる。
「起きるまで、殴ってあげるわ……おねーさんを怒らすとどうなるかぁっ!!」
レイレイとシャオイェンはその光景を、冷静に見つめていた。
「あー、怖いわー。まだ金龍シェンシンにやられた方がマシよ……」
「さすが、ユーターチェ!! 半殺しですね!!」
シャオイェンは、目がキラキラしていた。
<キャラクター設定>
レイリン
年齢24才ぐらい
女性
身長160センチぐらい
肌の色 黄色
瞳 黒
人種 中国(湖南省長沙市)
利き腕 右手
クンフースタイル アインシュタイン式形意拳(五行拳のほとんどで対応)
得意技
得意武器
一人称 私
誕生日
所属部隊 黒龍会(一時的)
BWH 体重
チャンツーイーに雇われた、フリーランサーの女性。
相対性理論が好きで、地球から離れれば離れるほど時間の流れが遅くなると信じている。
その為、実質地面から離れれば離れるほど滅茶苦茶速くなる。
ルェイジーと同じ方言を使っていて、中国、湖南省長沙市の農村の産まれ。
奨学金を出したNPOが超悪徳だと判明。
借りた奨学金が数十倍に膨らみ凄まじい負債をかかえることになった。
相対性理論に基づいた五行拳の使い手。
自身が速くなればなるほど相手よりも上回るという独自の考え方を持っている。
頭脳派なため、相手の挙動に対して、どの様に動けばいいのか
たえず頭のなかでイメージしながら戦う。
その為、形意拳を踏襲しているが、形意拳の中の五行拳のみで戦う。
土火木金水の通りの動きをし、チャイナガールズに立ちはだかる。
レイリンのコートはパーティカルロイドシステムを搭載していて、
極薄の粒子を身体全体に覆い、空気の抵抗を極力なくしているため、
跳躍時、非常に空中戦で素早く動けるということだ。
背中には、天女のタトゥーが入っている。
傭兵集団である「七天女」の一人。
現在はフリーランス業を営んでいるが、「七天女」から連絡が入れば、すぐに集まらなければならない。
背中の天女のタトゥーは、あくまでシンボルとしてのタトゥーでしかない。