4-44 黒龍会とドラゴンテロリスト。
-------N.A.Y.562年 8月17日 14時00分---------
真っ暗な中、メイヨウは瞳をゆっくりと開けた。
目の前には、赤いコートの女が自分の右側にいて、細長い顔に丸いサングラスをかけていて、革ジャンを着ている男が左側に立っている。
メイヨウは自身の身体周辺を見回す。
固い紐で上半身を巻き付けられていて、身動きができない。
ようやく、焦点が定まり、周辺を更に見渡す。
縛られている足元には、赤い下地のカーペットが敷き詰められていて、段差がある台座の上に自信がいることにメイヨウは気づいた。
周辺は赤と金色に装飾された様々な飾りや、壺、テーブルなどが置いてある。
部屋の広さはかなり広く、ここがどこなのか、今まで気絶していたメイヨウは分からなかった。
丸いサングラスをしている男はメイヨウを見下ろしつつ、唇のはしを吊り上げ、笑っていた。
「メイヨウ様がおきられたみたいだ……。おい、チーミン……チャン・ツィイー様を呼んできてもらえないか?」
細い顔の男は、メイヨウの位置から見て、右側出入り口真横に寄りかかっている白い中国服の男に視線を向けた。
金髪でオールバックで、色は薄緑色の中国服だ。
首には金色のネックレスを下げていて、幼いメイヨウですら分かるような、いかにも下品な感じだった。
男は、右手に何かを持っていた。
フラットブラックに塗られている、黒龍会のバッヂだ。
それを粒子灯にかざすようにして仰いでいた。
「おおう、良いぜ~。なあ、俺はいつまで黒龍会にいればいいんだよ? 田 文海さんよお?」
「それは、もういいと思うぜ? 我々ドラゴンテロリストの掟は分かっているよな?」
薄緑色の中国服を着ている男は、前歯を見せて、笑った。
「ああ、分かっているぜ。我々は、あらゆる手段をもって、目的を達成する……」
「ああ、そうだ。チャンツィイー様、姉さんを呼んで来い……」
「へーへー、分かりましたよ」と、男はバッヂを親指で跳ね上げキャッチし、身体を翻し出入り口へ消えた。
背の低い、赤いコートの女性が、丸いサングラスの男に視線を運ぶ。
声から察するに、想像以上に年齢は上のようだった。
「ふーん、で、あいつは来るアル?」
「ああ、お前さんも好きだな……」
「一度、やりあってみたかったアル。あの、チャイナガールズと一戦交えてみたいアル」
「お前さんを雇うための条件のうちの一つをな、聞いてやっているんだぜ……。
ほーう、それはそれは……。だが、レイリンお前はなぜあの赤いチャイナドレスを着ている女を選んだ?」
「そりゃ、私の方が速いアル!!!」
丸いサングラスをしている男は、唇の端を歪め、真っ黒く笑う。
「なるほどね。はは、それはまた見ものだな!」
「現在、チャイナガールズはどういう編成になっているアル?」
「銀龍と、金龍は四人だ。第二部隊、金龍側は現在闇市場に向かっている。そろそろ、闇市場でルェイジー達と合流だな。
それと、第一部隊、銀龍側は毒ガスコマンダーと接触、闇市場に向かっている途中だ……。そして、朱雀部隊隊長レイレイ。
第三部隊側は俺たちと交戦する予定だ。
計画の為には、なるべくバラバラにさせたい。まあ、十分バラバラになったけどな? それと……あのウザい中国国防部の、ヨウというやつは、チャイナガールズの戦略を聞かずに、俺達をひたすら嗅ぎまわっている。おかげさまで、今回の計画にも最大限利用させてもらうつもりだ……。
散々毒ガスコマンダーが、ハッキングをかけている」
全ての行動が筒抜けになっている。
メイヨウは、ずっとその言葉を聞いていて、下唇を噛みしめ顔を俯かせた。
――奥歯に力が入る。
ロープを食いちぎって、今すぐにでも銀龍と金龍にこの事を知らせたい。
メイヨウはあがこうとするが、下手にあがくと殺されるかもしれないのだ。
リスキーな事は出来ない。
自分自身の無力を思い知らされた。
コツリ、コツリと、右側出入り口の方から音が鳴り響く。
真っ黒いハイヒールがのぞき、青白い顔の女性が入ってきた。
その女性の姿は、真っ黒いレディーススーツに、黒い腰ベルト。
そこには、二本の中国兵器がぶら下がっている。
メイヨウも、その中国兵器は見たことがあった。
「鉄尺」と言われている兵器だ。
その兵器の時点で、彼女の中国拳法が何なのか察しはついた。
彼女は薄紫色の唇を吊り上げた。
そして、うっすらと笑いながら、真っ赤な台座を登り終えてメイヨウを見下ろす。
メイヨウは、その顔に全く覚えはなかったが、何か懐かしい感じもし、不思議な感覚だった。
よく見ると、彼女の顔は吊り上がりの瞳に、右目真下には涙ボクロがあり、
髪は三つ編みを巻いて後頭部でお団子のように一つにまとめて結っている。
銀龍と似て、非なる美しさと儚さを何か持っているような感じだった。
薄紫色の唇が、華のように赤く美しく咲き、動く。
「お目ざめですか? メイヨウ様……」と、突如面識のないメイヨウに抱きついた。
メイヨウは見上げたまま、丸く大きな黒い瞳が細かく揺れる。
裏九龍城国でも、冷静だったメイヨウですら、さすがに動揺していた。
「あなたは……誰ですか?」
チャンツィイーという女性は、メイヨウの肩に静かに手を添えた。
「メイヨウ様、覚えていないのも無理はありません。あなたは記憶の改ざんを受けています……」
その言葉を聞くと、なぜかメイヨウの小さな胸が激しく動き始める。
それも、尋常ではないスピードで、身体全身を蠢く血がグルグルと回っている。
胸が膨らみ、沈む。
そして、小さな額から汗がこぼれ始めた。
「そして、あなたはこれからその記憶が引き出され始めます。あなたは、龍王の素質を持っているのです……」
青く白い女性の顔の肌は、絹のようにきめ細かく、美しい。
そして、その女性の身体周辺から赤と黒が混じった炎のようなものが見えた。
「あなたは、世界中に散らばった龍の一人です」
周辺を見渡すと、それぞれの人物に色が付与されていることに気づいた。
たまに、極まれにメイヨウはこのような景色になるときがあったのだ。
「あなたはお気づきではないかもしれませんが、「心龍」(シンロン)なのです……」
メイヨウを見下げているレイリンは、静かに言葉を放つ。
「だ、大丈夫アルか……」
「うるさい、黙っていて!! 彼女は、今華ひらこうとしているのよ!!!」
メイヨウも分かっていた。
尋常ではない、呼吸の速さだ。
肩も揺れてきた。
「わたしは……わたしは……シンロンではありません。チャイナガールズのメイヨウです……」
肩が揺れるたびに、メイヨウの両耳に飾られている結び紐でできた、赤い耳飾りが揺れる。
「シィェン? 縄をほどいてあげて……」
「ですが、姉さん。逃げられてでもしたら……」
「大丈夫よ。彼女はそこまでしての気力はないはずだわ……」
「はい、分かりました……」
縄がほどかれたら、メイヨウは息を切らしながら、立ち上がる。
「銀龍様にお伝えしないと……」
彼女は立ち上がるが、沸騰したお湯を直接入れ込まれたような熱さが全身を駆け巡る。
そして、前のめりになった瞬間に、膝から崩れ落ちた。
チャンツィイーは、彼女を抱きかかえると、静かに彼女を寝かさせた。
そして、赤い中国服のボタンに手をかけて、彼女を脱がせた。
ゆっくりと仰向けにさせると、チャンツィイーは突如笑い始めた。
「ふふ、はは、あはははははははは!!! やっぱり、彼女は本物だったわ!!!」
メイヨウの背中には、真っ黒な四本爪の黒い龍が描かれており、銀龍や金龍と同じようなタトゥーだった。
「最高よ!! 彼女は、最高の龍王よ!!!」
「しっかし、驚きですぜ、姉さん。記憶が覚醒すると、タトゥーが出る技術なんて」
「ま、昔からあるわよ。体の温度と、記憶が解放されるとタトゥーが出るのよ。さすが、初代老龍!! やってくれるわね!!
ふふ、これから大規模テロ活動よ!! この国を変えてやる準備はできてるわよね!!!」
「了解です、姉さん。俺はいわれた通り、更なる準備は終わっていますぜ……」
「私も、ほぼ計画通りの動き、できるアル!!」
「さあ、ドラゴンテロリスト。いいえ、私の祖父の無念。晴らさせて貰うわ!!」
メイヨウは、身体を伏せたまま、「ぎんりゅうさま……」と、一言だけもらし、疲労を抱えたまま闇へと再び沈んでいった。
<キャラクター紹介>
張 子怡
年齢33才ぐらい
女性
身長168センチ
髪は黒色、頭上に巻き上げている髪を乗っけて金色の櫛で止めている。
肌の色 黄色 右目下に涙ほくろ有
瞳 黒
人種 裏九龍城国(不明)
利き腕 右手
クンフースタイル 滅殺蟷螂拳
得意技 全てを欺く
得意武器 鉄尺(日本のサイみたいな兵器、先は尖っていない)
一人称 私
誕生日 NAY545年7月21日
所属部隊 黒龍会
BWH 体重 87/55/85 60キログラム
黒龍会会長。
周辺の者からは「黒龍」と呼ばれている。
黒龍は勿論偽名で、組織名として使っている。
本名を知る者はウェンハイ一人のみ。
切れ長の瞳に、黒いスーツを着こなしている。
右目の下には涙ボクロがある。
ナイフの切れ味のように、カンが鋭く、どんな状況下でも諦めが悪い。
自身の目的のためだったら、色気も使うほど何でもあり。
演技力がもっともの武器で、相手をだますことに関しては相当なプロフェッショナル。