4-35 レイレイ達の詰問。
-------N.A.Y.562年 8月18日 9時30分---------
深夜の襲撃を受けた、レイレイ達は神龍会へ向かって行った。
神龍会のアジトは、銅龍省と紅龍省の真下が縄張りらしい。
ユーやシャオイェンがいなかったら、レイレイはこのただひたすらに暗黙の魔宮に飲み込まれていたと思う。
ユグドシアル大陸や他の戦場での夜間行軍には慣れているが、ここは全く質の異なる暗闇だ。
いつどこで、襲撃を受けてもおかしくない中、ユーは神龍会の扉を潜る。
すぐに玄関だったが、粒子灯のスイッチがへこんでいて、血痕が拭いたような跡がある。
リビングで立っている老人にユーは声をかけた。
「程 建明老師様、無事でしたー?」
チェンジャンミンは、笑顔で玄関へと振り向いた。
老師の前にはソファーがあり、両手、両足にロープで巻き付けられている男性が二人座っていた。
「ほう、ユーか。とりあえず全員上がりなさい」
レイレイとシャオイェンはユーに続いて、ハイヒールと中国靴を玄関で脱いで、入った。
ユーは「よっこいしょ」という言葉と同時にリュックを置く。
老師を見下げて、ユーは腕を組んだ。
「老師様、一応聞きますけど、この二人……。片方は分かるんだけどね? もう一人は?」
「一人は、ロンという入会して経験の浅い者で、ドラゴンマフィアじゃ……。
そして、もう一人は。お前さんじゃったら知っているんじゃないかい?」
「黒龍会所属の、江 晓迪じゃない?」
レイレイの胸の中が、朱雀部隊の色みたいに朱に燃えさかる。
心臓が激しく脈打ち、怒りが抑えられない。
メイヨウを奪ったやつらは、許さないのだ。
彼女の瞳が赤く光り、即座に七星剣を鞘から抜いて、切っ先をその男の鷲鼻に近づける。
高速回転している粒子により、鷲鼻からたんぱく質を焦がす臭いがする。
「ギャース!!! あ、あ、あ、あ、あ熱いギャース!!!」
「あなた……私から逃げたヤツね? 私はね、一番大嫌いな言葉があるの……。敵前逃亡というやつよ? 傭兵だろうが、マフィアだろうが、それは変わらないわ……」
丸いサングラスをかけている鷲鼻の男は、恐怖と神経を焼く熱さで小刻みに震えていた。
「パーティカルロイド全開にして、塵よりも細かく刻んであげようかしら?」
「黒龍会の端くれでギャース!! 殺すなら、殺せギャース!!」
「じゃあ、あなたの鷲鼻からそぎ落としてあげようかしら? 私の七星剣は、戦車の装甲すら切断するわよ……」
シャオイェンが、レイレイの肩を叩く。
「別にそんな奴、殺してもいいですけど、レイレイ小隊長の手を煩わせるわけにはいけませんね?」
レイレイは、七星剣の切っ先を外し、鞘へとしまう。
「じゃ、交代する? ザコ殺したって戦果にならないしね……」
彼女は腰にぶら下げている、梅花双刀に両手をかけて、静かに鞘から抜く。
梅花双刀を構えると、右側にはレイレイの顔が写り、左側にはユーの色白で美人な顔が映し出される。
「ふふ、久々ですねぇ。詰問や拷問は嫌いじゃないですよ……」
鷲鼻の男には、おかっぱ頭の女の子がこの世とは思えない、彼女の口が裂けるように見えた。
「ふふふふふ!! 私の梅花双刀は、精密にありとあらゆるものを切れるのが得意技なのです!!」
「う、う、う、ギャーーーーーーーーーーーーーーース!!!」
鷲鼻の男に目掛けて、双刀をバツにふるう。
男の鼻から十字に切られた、赤い血があふれる。
サングラスが真っ二つになって、床に落下した。
そして、男は完全に気絶していた。
「あらあら、皮膚一枚ごときで気絶するなんて、何という簡単な拷問なのでしょうか?」
その様子を見ていた、黒髪長髪の「ロン」という男はせせら笑い始めた。
「ふふ、ふふふふふ!! ふあははははははははは!! てめぇら、お笑いだぜ!! 俺たちはな、あらゆる手段をもって目的を達成する!」
ユーは、切れ長のまつ毛を下ろし、ロンに顔を近づけた。
「ふーん、おねーさんにもちょっと分かんないな? あなた達の目的って裏九龍城国転覆じゃないの?」
「あひゃはははははは!! 裏九龍城国転覆? そんなちんけなもんじゃねーよ!!
この国がなぜこんなにも理不尽さが溢れているのか!!
この裏九龍城国がなぜ作られたのか?
なぜ、この国が国として成立しているのか? なぜ、龍王なんて奴がいるのか?
お前たちは全く知らねーんだもんな!!」
「へー、でもさ、ロンって言ったっけ? あんたはさ、ドラゴンテロリストなんでしょ? ちょっとは情報をはいたらどうなの?」
「いうわけねーだろ? ねーちゃんよお……。なんだったら、抱かしてくれたら考えるけどよお……」
「ま、あんたに抱かれるほど、安くないけどね、おねーさんは……。
チンヨウシェンシンの許しがなかったら、特製中華鍋で頭かち割ってあげるんだけどね?」
重い沈黙の中、壁にかかっている電話機の呼び鈴がこだまする。
5コールぐらい鳴ったところで、老師が受話器を取った。
「ふむ、なるほどなるほど……。わかった、伝えておくわい……」
ユーは老師に顔を向けた。
「老師様、どうしました?」
「赤いコート姿の女の姿が見つかったそうじゃ……。彼らの隠れ家も見つかったみたいじゃのう」
二人に視線を合わせて、静かにレイレイとシャオイェンはうなずいた。
「よし、じゃあ、そっちに行くわよ!! レイレイちゃんとシャオイェンちゃん!!」
「へへ、てめぇら、せいぜいあがくといいぜぇ……。そろそろどでかい花火の為の準備段階に入るぜ……」
「ホント、あんたの頭をかち割って覗いてみたいわ……」と、ユーは台詞を捨てて三人は玄関へ向かった。
程 建明老師
神龍会会長。暗黒式太極拳+酔八仙拳使い。
老人で、非常にマイペースに思えるが、いまだクンフーを修行している人。
非常に博学で、伊達に裏九龍城国にいたわけではなく、
彼の持つ暗黒太極拳と酔八仙拳との融合は、銀龍とは比べ物にならないくらい、
最大限の攻撃力を持っているクンフー。
主にカウンター攻撃が多く、その威力も絶大。
拳龍会とは仲が良くて、裏九龍城国の空調ダクトなどの情報などは全て知っている。
江 晓迪
黒龍会所属。
細身で銀龍よりも背の低い、男。
拳銃を一丁所持している。
ファリンの同人誌のファンで、エッチな本も見たことあり、それに魅了されたことがある。
なかなか、狡猾な所もあり、せこくて大きなものには必ずまかれるタイプ。
黒龍会からのし上がるのだったら、手段を選ばないが、結局は小物。
持っているクンフーは、蟷螂拳だが、朱雀部隊と比べると完成度はかなり低い。
くちぐせは、「ギャース」