1-8 捕らえられた者達、変身!!
そして、鼓膜が突如叫んだ。
気づいた時には、爆発音が後方からしたということに気づくのに時間がかかった。
レイレイは、仲間が来たかと思い、後ろを振り向く。
しかし、そこにはもう一人の、オカマが走ってきた。
マグドガルは大きく手を振る。
「あらー、遅かったじゃない、グリーン!!」
その、オカマも白塗りの化け物で、いろいろな物資を持ってきたのだろうか、大男以上にでかいコンテナを引きづって、走りながら持ってきたのだ。
爆発音は、走るたびにコンテナが弾む音だった!!
「ごめんなさい、こいつを運ぶのに苦労しちゃったわよん」
緑色のメイド服? を着ていて、彼女もはちきれんばかりのメイド服だった。
この人たちに、文明の力という言葉はないのだろうか?
普通は、トラックなどを使用するが、全て人力でこなしている。
緑色の服を着た悪魔は、囚われた二人を見るたび、にたりと笑う。
「あんらー、ずるいわね、マリーン!! 見れば見るほどかわいい子達! 先取りしすぎよ!!」
グリーンも、マリーンと似たように二人に顔を寄せる。
そのたびに、ルェイジーは「アイヤー!!」と叫んでる。
「アイヤー!! 怖いアル!! もう一人も怖いアルー!!」
グリーンは、唇の端を吊り上げる。
満足の笑みだった。
「さあ、空、グリーン、彼女たちを美しくさせるわよ!!」
大男三人が、覆いかぶさるようにルェイジーとレイレイを囲む。
「さあ、三人で彼女たちを脱がせるわよ!!」
「勘弁してアルー!!」
グリーンは高速でテントを立てる。
テントの中で、空は超高速で、二人のチャイナドレスを脱がす。
マリーンは、コンテナの中からオイルを取り出す。
チャイナガールの二人は、あっという間に下着姿になる。
チャイナドレスがなければ、単なる女の子。
得意のクンフーも彼らに打ち込んでもまったくきかない。
まず、チャイナガールに指示を出す、マリーン。
「あんたたちには、美を教えてあげるわ……。タオルの上に、寝て頂戴ん」
そう無駄に色っぽい声色で、言葉を告げると、素早い動作で、最後の砦もすべて取っ払われた。
空が、まず二人分のタオルを敷く。
「さあ、あなた達、、、、。うつぶせになりなさぁあい!!」
なすがままに、あらわになった全身を、背中を見せる。
マリーンは、満足げに笑顔を溢れさせた。
「いい子ちゃんたちねぇ……。」
手にたっぷりとオイルを塗り、ごつい手で彼女たちの背中をなでる。
ルェイジーは、ひたすら足をばたつかせる。
「つ、つつ、冷たいアル!!」
「ごめんなさいねぇ、女の子はね、キレイにならなくちゃダメなの……。いい?キレイということは、超重要。それは、チカラなのよぉ」
説得力があるだかないだか、よくわからないが、そのまま説得され続ける。
そして、背中の次は、腕、脚と、お腹、腕、胸と施術が進む。
そのたびに、ルェイジーはレイレイの隣で叫び続けている。
「く、くすぐったいアル!!」
マリーンは、「メインディッシュ!!」と、叫び、彼女たちの四肢をすべて手で撫でまわし、マッサージした。
ルェイジーは、頭から湯気みたいなものが出ていて、全ての生気がとられたかのような顔をしていた。
「あうー、色々な意味で死んじゃうアルー」
レイレイも、そんな感じだたというか、今まで戦うことしか知らず、自身が女の子という意識がないことに気づいたのだ。
マリーンの施術が終わったら、今度は、暖かいお茶が差し出された。
ようやく、飲み物が出たのか、ルェイジーが高速反応する。
「あ!! 喉かわいたアル」と、すぐにお茶を何杯も飲んでいる。
グリーンは、ルェイジーが飲むたびにひたすらお茶を注ぐ。
「いいわよ、いくらでも飲んでちょうだい。美容と健康に良い、お茶よ。エバーマーグリーン特性の、独自ブレンドよぉ」
レイレイは、ゆっくりと口元にそのお茶を運ぶ。
彼女の、茶色い瞳が宝玉のように輝いた。
「こ、これは……。おいしい!!」
グリーンは、自慢げに笑う。
「でしょ? エバーマーグリーンスペシャル。いろいろな健康茶を、私なりにね、研究したのよん。最終的に落ち着いたブレンドがそれだったのよぉ。あ、ちなみに、あんたたちの好みに合うように、ウーロン茶も微妙に入れてるわよん」
付近にいたシェンリュに、レイレイは聞いた。
「こんなことされてたのね?」
シェンリュは、顔を赤らめる。
「う、うん……」
ルェイジーは、感激の目をよそに、ひたすらお茶を飲んでいる。
いつの間にか、お茶を飲みながら涙しているのだ。
「こんな、おいしいお茶飲んだの初めてアルー!! 泣いちゃうアルー!!」と、言いつつ泣きながら飲んでいるので、水分補給しながら脱水している。
「あ、あなた達……こんなことして、何が目的?」
グリーンは、笑顔から普通のこわもての真顔になる。
真の傭兵の顔になっていた。
「何のこと? これ、全て私たちの趣味よ。
女の子はね、物理的にも精神的にもきれいにならなくちゃいけないの。
そして、私たちはそのこだわりは、誰にも負けないわ!! 見てくれがどう? とか、気持ち悪いとか、怖いとか、そんなのは放っておけばいいのよおお!!」
レイレイは、不思議と何か涙が込み上げてきた。
「私、戦うことしか知らなくて……。麻痺していました……。
本当は九龍城国の普通の女の子たちみたいに、オシャレもしたかったし、ここで、戦い続けること、それが私の運命だと思ってました……」
青い空軍仕様のメイド服を着ている、空が重い口を開く。
「私も、そうだったのよ。戦いは全部麻痺させる。けどね、この世にいるガールズたちはもっと楽しまなきゃいけないのよ」
グリーンは、レイレイの二つ乗っているお団子頭をなでる。
「よしよし、わかるわぁ。その気持ち。
男ばっかりの世界で、こんな人生になったけれど、私たちの居場所は、ここだったのよ。
だからこそ、私たちはボスについていくのみ。ボスには恩をまだまだ返さなくちゃん……」
手を二つたたく音がする。
「そんな辛気臭いのは、やめなさいね!!」
マリーンが、手を二つほどたたいたのだ。
「さあ、あなた達、自由に服を選びなさい」
テント内で、いつの間にか全世界のきらびやかな服がハンガーにかかっている。
――――和洋折衷。
ありとあらゆる、貴族が来ていた様な服が全部揃っている。
レイレイは、アメリカの貴婦人風。
ルェイジーは、なぜか日本の和装、花魁を選んでいた。
マリーンが、両手を合わせる。
何か、動きがくねくねして気持ち悪いが、着こなしセンスの、教え方はレイレイよりも上なのは実感した。
「あらーん、可愛いーーーーーーーーー!!」
そして、そのまま椅子に座らせられる。
黒髪のオカマ、空にお化粧をさせられ、二人は完ぺきな淑女へと変貌していた。
空が、全身コーディネイト用の鏡を持ってくる。
レイレイは、その姿に感激する。
「これ、わたし?」
隣にいたルェイジーは、一周して脳が追い付かないらしく、てんぱっている。
「これ、誰アルかー? これ、わたしアルかー? わたし、こんなに奇麗じゃないアルよー」
完全に、現実逃避の言葉を放っている。
「これが、女というものよ。史上最強武器、美貌というアルテマウェポンよ!!」
そして、奥にあるテントの入り口から、ド派手な美女が入ってくる。
「あらー、遠くで見ていたけれど、ずいぶん見違えたじゃない? 子猫ちゃんたち?」
ルェイジーは、美しすぎる自分と、美しすぎる女性を見て、更に頭がこんがらがっているらしい。
「わたし、子猫じゃないアルよ?」
レイレイは、心を落ち着かせて冷静に答える。
「あ、あなたは……」
ごついオカマ達は一斉に敬礼をする。
「ボス、お疲れ様です!!」
レイレイは、距離をおいてみていたので、気づかなかったが、ボスといわれる女性が、誰かに似ていると試行錯誤した。
ずっと笑顔を絶やさない。
レイレイは、すぐに直立し、ハミルトンに敬礼をする。
「朱雀部隊隊長、リーレイレイと申します。今演習、お招きいただきありがとうございます」
綾は、胸元に手をかけ、レイレイの全身を眺める。
「うん、なかなか美的センスあるじゃない。
その服、私が小さいころに着ていたビジネスで使用していたドレスよ。まあ、男性で言うならスーツみたいなものね」
瞳を細くし、綾はグリーンに「お茶を頂戴」と指示を出す。
グリーンは、オカマで返事はせず、まるで軍人のような力強い声で応答する。
「ハッ!!只今!!」
グリーンは、すぐさまにテーブル、茶器を出し、豪勢なテーブルと椅子をセッティングした。
綾は、適温に用意された紅茶をゆっくりと、レイレイをなめわし眺めながら、飲む。
「演習がおわったら、ミツ群島でちょっとしたパーティーをやるの。あなたもパーティーに出てみない?」
「パーティー? なぜ、わたしなのですか?」
「あなただけじゃないわ。チャイナガールズ、全員よ……。
銀龍の教育は、戦いに関しては大分洗練されてるけれど、レディとしてはちょっとね……。
と、いうことで、あなた達にパーティーに出てほしいわけよ。銀龍は出たがらないから、この演習を通じて、あなた達が彼女を説得してほしいのよ」
レイレイは、うつむき加減に首を曲げる。
考えているのだ。この女性のタイプだと絶対何か裏がある。
そう考えているのだ。
綾は、テーブルの上に置いた、羽根つきの扇を手に取り、口元を隠す。
「あらあら可愛いわね、疑っちゃって。別に裏なんかないわ。こういう格好をできるのも若いうちよ。武器は最大限に生かさないとね」
綾は、更に説得を続ける。
「傭兵って、いつ死んでも良い、史上最悪のウェットワークよ。軍人よりもひどい扱いを受ける可能性が強いわ。
軍人は法律に守られるけれど、傭兵にそんな法律なんて整備さていない、非人道的なシステムよ。
捕虜になったら、正直あまり良い結末はない世界なのは分かってるわよね。
だからこそ、そんな困ってる人たちのために、少しでもこの世界を変えようと、私は十字聖教騎士団、貴族を抜けたわけよ。退屈でしょうがなかったしね。
まあ、たまに両親からは帰れって言われるけれど、好きにやらせてもらっているわ」
レイレイは、ほっぺたを指先でかきながら、綾の交渉に答える。
「まあ、ダメもとで、銀龍ターレンに言ってみますよ……。パーティーは、どんな人が来るのでしょうか?」
「オッケー、じゃあ、よろしく頼むわね。ちなみにだけど、お昼ごろから夜までみっちりやるからよろしく。あ、それと、ご飯はタダだから」
ルェイジーは、勢いよく紅茶を飲むのをやめ、高速でニュッと綾に顔を近づける。
「ご飯!! ボスさん、ご飯いっぱい食べられるアルネ!! 絶対に食べられるアルネ!!」
さすがの、綾もぐいぐい来るルェイジーにひいている。
「え、ええ。よほどのことがない限りは、約束するわ。あなた、面白い子ね」
レイレイは、ルェイジーの行動に苦笑いしかない。
「面白いというか、色気よりも食い気なんですよ。この子は、あはは……」
「ま、どのみち、今日が過ぎれば、あと4日、あなた達の良き訓練になることを祈るわ」
ハミルトンは、そう言い残し、椅子から立ち上がる。
ルェイジーは、「リーダーたち、今頃どこにいるアルかねぇ……」と、目をまん丸くして涙している。
「ま、マーメイ達だったら、大丈夫でしょ」