4-30 チンヨウとシャオディ
-------N.A.Y.562年 8月17日 2時33分---------
ルェイジーの暴走後、銀龍、金龍、ルェイジー、レイレイは完全にバラバラになった。
銀龍と金龍は、チンヨウに教えてもらった闇市場内のホテルがなんとか機能していたため、そこへ泊った。
レイレイ達は、ユーの五爪龍会のアジトへ。
そして、ルェイジー達は、神龍会のアジトで宿泊した。
ルェイジーは、上半身ブラジャー姿、クマさんパンティの下着姿のまま、大きくいびきをかいて大股を広げて寝ていた。
健康的な右太ももを掻きながら「ルェイジー、チャーハンもう食べられないアルネ……」と、寝言を呟いている。
その隣の部屋では、チャオが寝ている。
「うーん、もう、おっぱいはいやだ……」と、言いながら寝ていた。
チンヨウは、黒い中国服のままソファーの上で寝ている。
いつでも、戦闘態勢に移行するためだ。
チャンジャンミンは、深夜だというのにお茶を飲んでいた。
緑色の中国服ではなく、白い中国服を着ている。
神龍会の者は、白い中国服に、右胸に龍の模様が刻印されているのが本当の正式な格好だ。
白く長い髭を撫でながら、暖かくしたウーロン茶をすすっている。
「ほほう、たまにはこういうのもいいものじゃ……」
老人は完全にくつろいでいるところで、どでかい破砕音とともに、扉もろとも男性が吹っ飛できた。
「ほほう、なにごとじゃのう……」
チンヨウはすぐさまソファーから飛び起きる。
アパートの鉄製の扉と一緒に、白い中国服の男がかべに寄りかかるように倒れていた。
「おい、大丈夫か? ロン!! 返事をしろ!!」
ロンといわれる男は、口を開いた。
「ぐ、チンヨウシェンシン、黒龍会のやつらが……」
「立てるか?」
「すいません……」
狭い入口からリビングへ移動。
ロンという男をソファーへ横にさせる。
「ぐ、卑怯な……」と、男は気絶をした。
丸いサングラスに、鷲鼻の、トレンチコートを着ている男が入ってくる。
「ギャース!! 神龍会邪魔でギャース!!」
寝ていたチャオは飛び起き、勢いよく扉を開けた。
リングへ向かおうとした黒服一名が扉に顔面を強打。
左側のリビングでしゃがみ込んでいるチンヨウに叫ぶ。
「大丈夫か!! チンヨウさん!!!」
「私は、いい!! 黒龍会の襲撃だ!!」
チャオが扉を閉じると、すぐさま右横にいる黒服達が拳銃を構えた。
瞬間、チャオは顔を強打している男の顔面を膝で蹴り上げる。
黒服のサングラスが粉々になり、めり込む。
「チャオ、電気を消せ!!」と、チンヨウがチャオに指示を出す。
チャオは、同時にもう一人の黒服に顔面回し蹴りをかます。
スイッチと男の身体がサンドイッチになり、パーティカルロイド粒子灯全てが消える。
スイッチは壁へとめり込み、玄関のスイッチは完全に故障した。
チャオは、順繰りに入ってくる黒服達の銃弾を全てバク転でかわす。
ゆっくりと老人は椅子から立ち上がり、腰を落とし両手を広げ、優雅に銀龍と一緒の太極拳の構えをさせた。
「ひさびさ、動くかのう……」
バク転をしながらかわしていくチャオを背景に、チンヨウとシャオディは暗闇の中、お互いに構えている。
その構えは、お互いに蟷螂拳だ。
「ギャース!! ギャース、貴様ら邪魔でギャース!! 表も裏も全部ひっくり返してやるでギャース!!!」
「ふん、貴様らの考えなど所詮そんなもの。国を転覆させることも愚かしいが……シャオディよ、貴様のクンフー見せてみろ!!」
黒服二名ほどは、チンヨウに銃口を向ける。その瞬間、二人の両腕が突如折れた。
二人は同時に叫ぶ。
「りょううでがああああああぁああ!!!」
闇夜の中、白い髭を撫でながら老人が華麗に、二人の両腕を折ったのだ。
両腕は無残にも関節をもう一つ増やし、重力に負けて垂れ下がっている。
だが、黒服二名は何とかして立ち上がった。
「ほほう、よくもまあ立ち上がるもんじゃの……わしの暗黒太極拳を思い知るがよい……」
そして、再び老人は闇の中に溶け込む。
黒服二名は、突如喉元に鋭い痛みが走り、絶命した。
「太極拳といってものう、わしの主に使っている拳は、酔手じゃ……。
よくある、酔八仙拳とも言われている拳法との合わせ技じゃ……。
ここを通ってみい、命はないと思えばいいじゃの……」
黒服達は、次々と入ろうとするが、老人の盃を握る拳によって、喉元の骨を折られていく。
五人目の黒服が入ったときには、チャオが固く握られた拳、方拳を相手の顔面へとめり込ませる。
男は壁へと吹っ飛び、気絶する。
チンヨウは、暗がりの中、シャオディと突きと拳の捌き合いをしている。
突き手がチンヨウを襲う。
チンヨウは粒子灯もない中、その鋭い突きをいなしたり、かわしていたりしている。
裏九龍城国の人々は、地上にいる住民たちよりも動体視力、特に暗闇に関しては非常に目が良いのだ。
「ふん、完成度は低いが、まあまあ誉めてやろう。だが!!」
単調なシャオディの動きに対し、チンヨウは突如両足でジャンプし、伸ばして蹴っ飛ばした。
その蹴りは、シャオディの胸に当たり、銀龍との戦闘により砕かれた肋骨へと靴底が食い込む。
「ギャース!!」
何とか後ろへと跳躍しながら逃げたので、チンヨウの一撃は免れたものの、トレンチコートの内側から拳銃を取り出した。
シャオディの後ろには冷蔵庫がある。
「ほほう、拳銃か。我々も所持しているが、本当に良いのか?」
チンヨウは深呼吸をさせ「ふー」と息を吐きつつ、気の巡りを意識させる。
自身の身体から何かが沸き上がる。
「来い!! 黒龍会のシャオディよ!!!」
シャオディが、暗闇の中、銃口でチンヨウを狙う。
チンヨウは右側から円を描くように、シャオディへ接近。
拳銃を打ち続けるが、全て外れる。
チンヨウはシャオディの拳銃を握りしめた。
シャオディはトリガーに力を入れるが、入れることができない。
拳銃の構造を知っていなければ、このような芸当などは不可能だ。
そして、チンヨウは拳銃を奪い、地面へ落ちた拳銃を蹴って相手から離した。
拳銃はロンが横たわっているソファーへ転がる。
シャオディは鋭い突きを右へ左へと出す。
チンヨウはすぐに手首をつかみ、突如冷蔵を開け、無理くりシャオディを蹴り飛ばし、冷蔵庫へ。
チンヨウは容赦なく、冷蔵庫の扉へ回し蹴り。
シャオディは冷蔵庫と扉に挟まれて、叫ぶ。
「ギャアアアアアアース!!!!」
チンヨウはさらに、シャオディの顔に向けて頭突きをめり込ませる。
相手との距離は完全にゼロ距離だ。
チンヨウは、今までため込んだ拳への気を、一気に放出すさせる。
「貴様、私の拳法を食らうがよい!! 超速ワインインチパンチ!!(超快速的一英寸拳打)」
シャオディの胸元に向けて、ゆっくりと右の掌の中指をあてる。
銀龍との戦闘により負傷した、胸の固いギプスにチンヨウの鋭い中指が触れる。
同時にチンヨウは拳を握り、右足から腰にかけて一気に力を解放した。
威力は突き抜け、シャオディの胸元のギプスが完全に砕けた。
力の勢いはとどまらず、そのまま冷蔵庫の扉が外れ、そのまま後ろのコンロへと吹っ飛んだ。
「ギャーーーーーーーーーーース!!」
シャオディは、動きたくても動くことは出来ずコンロの下で、そのまま気絶した。
チンヨウは、入り口の方へと顔を向ける。
ルェイジーの入っている部屋の扉が見える。
「ルェイジー君は大丈夫か!!」
・九龍城国の貨幣通貨について。
九龍ドルと呼ばれている。
これは、香港ドルと一緒の感覚で使用されている。
見かけは普通の紙や金貨ではあるが、実は超高性能GPSが搭載されていて、一発で金の動きが分かるようになっている。
そして、偽造防止にもつながっている。
そのため、ドラゴンマフィアなどはデジタルの仮想通貨での取引が大半で、それを偽造していたりしている。
結局、数値の羅列の為、バレずに企業をハッキングしてしまえば、デジタル仮想通貨の偽造も不可能ではないということを示している。
NAY562年頃の仮想通貨市場は、紙幣という概念がかなり弱まっている世界で、誰でもすぐに全世界と取引可能になっている。
しかし、その分、デジタルデータの貸し借りは、想像以上に借りたものは返すという世界が広まっていて、現在の端末でコピーしたら
そのままという世界ではなくなっている。
むしろ、何かのデジタルコンテンツを借りたら、その代わりに何かのデジタルデータを渡すのが流儀となっている。