4-27 ギャース、ギャース!! と、叫ぶ男。
-------N.A.Y.562年 8月16日 銀龍たちと同時刻---------
レイレイとシャオイェン、メイヨウは裏九龍城国周辺の賑やかさを楽しんでいた。
闇市場だが、色々な物が売っている。
小物から、コピー品であろうジャンクパーツ、パーティカルロイドに対応しているのか分からないが、怪しい中国兵器まで売っている。
パーティカルロイドコアらしきものも売っているのだ。
レイレイはメイヨウの手をつなぎながら歩いている。
そして、右側面にある化粧品を売っている屋台で、足を止めた。
「ねえねえ、シャオイェン、コピー品かもしれないけれど、お化粧まで売っているよ!!」
「レイレイさん、それもいいですが、私はこのピアスなんかいいかと思いますよ」
「あなた、ボーイッシュな割にはそういう小物集めるの好きよね?」
「知っていますか? 男子はこのギャップ萌えに、萌えるのですよ」と、シャオイェンは胸をはって、レイレイの横に立つ。
「はいはい、アンタはかわいいかわいい……」
シャオイェンは、頬を膨らませた。
「もう、レイレイさんは、そうやって私をあしらう……」
レイレイは、様々な化粧品を見ながら、選んでいた。
ついでに小物も売っている。
シャオイェンが好みそうな花柄のピアスから、更には翡翠をぶら下げるようなピアスなどなど、
様々なピアスが売っている。
その中で、耳に穴を開けなくてもすみそうな耳飾りを選ぶ。
中国では伝統工芸である、中国結という赤い紐を編んで色々なものを作ることができる。
最もシンプルな物をレイレイは選んだ。
売店にいるおばちゃんに話しかける。
「おばちゃん、これ、いくらぐらいなの?」
「500クーロンドルだよ」
「買ったわ、ちょうだい?」
売店のおばちゃんに100クーロンドルを5枚渡す。
レイレイはメイヨウにしゃがみこんだ。
「メイヨウちゃん、耳かして?」
「レイレイ様、でもわたしは……」
レイレイは、笑顔になる。
「いいから、いいから!!」
メイヨウに中国結で作られたピアスを両耳につける。
オーソドックスなタイプの、紐がいくつにもまとまっているやつだが、メイヨウにはすごく似合う。
「あなたも、チャイナガールズの一員よ!! 遠慮はいらないんだからね」と、レイレイとメイヨウは再び手を繋いだ。
その並びの所で、突如行き通っている人々がざわつき始めた。
そして、遠くの方で火薬の破裂音が響く。
――銃声だ。
レイレイの目の前に強制的に「警告」と描かれたウィンドウが開き、地図が開いた。
そこは、銀龍が待機している場所だ。
銀龍からの、緊急招集命令が入ったのだ。
レイレイは、シャオイェンと視線を合わせる。
「シャオイェン、銀龍の所に行くよ!!」
「はい、了解であります、レイレイ小隊長!!」
銀龍の所へ向かおうとしたら、混乱して交差する人々の中から、黒服の男たちが、掻き分けてレイレイの前へと立ちはだかる。
黒服の男たちの真ん中に、特に目立つ男が一人いた。
トレンチコートに、丸いサングラスをしていて、鷲っ鼻だ。
「ギャース!! ギャース!! お前たちチャイナガールズ、ギャースね!!!」
レイレイは警戒しながら、ベルトからぶら下げている七星剣を鞘から抜いた。
「そうよ、それがどうかしたの?」
「ボスからの命令ギャース!! 貴様らの邪魔するでギャース!!」
黒服たちはざっと15名ほどだ。
見るからにヤバそうなので、他の住人たちは交互に逃げていく。
奥の方では阿鼻叫喚の声が続く。
屋台が立ち並んでいるが、あっという間に周辺の人々がいなくなった。
「ったく、本当に飽きさせない所ね、裏九龍城国も!! シャオイェン!!」
「はい、レイレイ小隊長!!!」と、シャオイェンもベルトにぶら下げてある梅花双刀を両手で振り回し、構える。
「ギャース、ギャース!! 拳銃を構えるギャース!!!」
15名の黒服たちが銃口を三人へ一勢に向ける。
全員で15発。
相手との距離は約30メーター。
スマートコンタクトレンズがAIを介して、相手のとの距離を計測してくれる。
レイレイはメイヨウの右手を強く握った。
「大丈夫よ、メイヨウちゃん。私が守るから!!!」
レイレイは瞼を落とし、深呼吸をさせ、気を整える。
レイレイとシャオイェンは同時に叫んだ。
「パーティカルロイド起動!! 気功ユニットオン!!!」と、同時に黒服たちはトリガーを一斉に引いた。
銃口から火花が走り、硝煙が立ち込める。
薄青いハニカム構造のバリアが全てレイレイたちを保護し、あらぬ方向へ弾丸は走っていく。
レイレイは細い左腕で、メイヨウに腰を回す。
「メイヨウちゃん、お腹に力を入れて!!」
「はい、かしこまりました、レイレイ様!!」
レイレイは尋常ではないスピードで、拳銃を構えている男の腕を五人分、一気に薙いだ。
五本分の炭酸飲料の蓋を抜くように、左手から一瞬にして血が噴き出す。
残りの10人はシャオイェンに向けられていた。
が、3人はレイレイへと流れるように向ける。
だが、黒服達はトリガーを引いたつもりだったが、既に左手は地面へと落ちていた。
血だまりの中から、レイレイは「シャオイェン!! 行くわよ!!」と、ハイヒールの先で、こなれた足つきで器用に拳銃を蹴り上げ、シャオイェンへと拳銃を三つほど向かわせる。
「分かりました!!」
シャオイェンはそのまま拳銃三つをまとめてバツ字切りにさせる。
黒服達はマガジンを変えようとしたとき、何かが爆ぜた。
クラッカーを食らったような衝撃が、黒服達に襲い掛かる。
弾けた弾丸は全てシャオイェンの薄青いバリアが守ってくれている。
7名全員は一気に倒れた。
黒服達は右足をおさえて倒れこんでいる者や、爆ぜた弾丸により頭に命中して倒れている者、
更には左腕が貫通し、おさえこんだままうめき声をあげている者。
わずか10分足らずで制圧した。
「レイレイ小隊長、我に害なしです」
「了解、シャオイェン!!」
あまりにも、速すぎるので鷲鼻の男は呆気にとられていた。
「ギ、ギャース……」
レイレイは、左腕のメイヨウを解放させ、手をつなぎなおす。
「ギャースじゃないわよ。傭兵チャイナガールズを舐めないでちょうだい!!」
相手と視線をそらさずシャオイェンの名前を言う。
「メイヨウちゃんの手を持って?」
シャオイェンは刀を一本だけベルトにぶら下げて、メイヨウの小さな手を握った。
金色に輝いている七星剣の柄を、レイレイは両手に添える。
「さてと……色々と話したいことがあるわ?」
「ギャース!!」
男はトレンチコートを揺らし、クンフーを構えた。
「ふーん、どういうクンフーかは知らないけれど……スピードスターの私に挑戦状をたたきつけるなんて、面白いわ!!」
――その時だ。
先ほどの住民たちの阿鼻叫喚が聞こえていた奥で、黒服の男たちが吹っ飛ぶさまが、見えた。
遠くから黒服が吹っ飛んで、こちらへ差し迫ってくる。
「え? どういうこと?」
レイレイとシャオイェンは軽く後方へ跳躍し、黒服がバウンドしてきたので、レイレイは黒服を蹴り飛ばす。
黒服は10メーター先で、仰向けになって気絶している。
100メーターほど奥の方で、ルェイジーの大声が聞こえた。
「アイヤーーーーーーー!!! お、な、か、空いた、アルネーーーーーーーーー!!!」
レイレイは苦笑いしながら、後方のシャオイェンに確認する。
「やばいです、レイレイ小隊長!!」
「なによ?」
「ルェイジーさんが暴走しました。恐らく外壁の上部に逃げた方がよろしいかと」
「マジで!?」
「本当です」
「クソ、覚えておけ、ギャース!!!」と、鷲鼻で丸いサングラスの男はジャンプしてコンクリート上部の屋根へと逃げた。
「何あれ、ザコいセリフね……。シャオイェン、巻き込まれないうちに逃げるわよ!!!」
「アイアイサー、レイレイ小隊長!!」
シャオイェンは戦闘時の空間把握能力が高い。
剣で銃の弾丸を弾くという芸当ができるわけなのだ。
レイレイにとっても大変助かっている。
シャオイェンは「こっちです!!」と、横に広いコンクリート製の横に広い階段を駆け上る。
レイレイもメイヨウを担ぎあげて、それに続く。
全員、無事に階段を登り終えた。
さすがの朱雀部隊小隊長でも息がきれる。
「ふー、ようやくついたわね」
見下ろすと、綺麗に輝いていたネオンが次々と消えていく。
ルェイジーが歩くたびに、粒子灯で光っているネオンが崩れていくのだ。
「ひっさびさにみたわね、ルェイジーちゃんの暴走」
「ええ、ご飯食べられなさすぎた時は、すんごく大変でした……」
「で、何でああなっているの……?」
シャオイェンは両手を水平にあげて、肩をすくめた。
「さあ?」
レイレイは笑顔で、メイヨウを見下げる。
「メイヨウちゃん、あんな風になっちゃいけないからね?」
メイヨウも苦笑いをさせていた。
「銀龍様からお聞きしましたが、ルェイジーさんがあのような事になったときは、すごいことだったそうです。
銀龍様のチャイナドレスもボロボロだったきおくがあります……」
「あー、任務は大勝利で終えたんだけどね……それ以上の被害はルェイジーちゃんのがほとんどだったのよね」
シャオイェンは緊張していたこともあるのだろう。
中国服の腰の帯で手汗を拭いた。
「ルェイジーさんの真の恐ろしさは、あの飢餓感にあると思います。彼女の身体の中はどうやら私達とは次元が違うようですね」
「そうね……あの破壊力はマーメイねーさんをも凌ぐと言われているわ……」
「ま、こういう時はパーティカルロイドが切れるのを待つか、ルェイジーさんが泣き止むのを待つか……」
「あ、誰かやられたみたいね」
遠くの方で、屋台に使用していただろう木片やら、レンガ造りの教会が巻き上がり、地鳴りがして辺りは静寂になった。
そして、市場全体を見渡している右横から声がした。
先ほどとは違う男が、丸いサングラスで、革ジャンパーを着ている。
右胸には黒光りする黒龍会のバッヂだ。
そして、赤いコートの女性が、二人の横に立ちはだかる。
「よう、これはこれは……有名人のチャイナガールズじゃーないですかー……」
レイレイはすぐに七星剣を構える。が、赤いコートの女性が、瞬時にしてメイヨウを奪い去っていく。
レイレイは、一瞬すぎて、何が起こったのか理解不能だった。
メイヨウはじたばたしているが、幼く非力な彼女には無理な事だ。
サングラスの男はすぐさま、折り畳みナイフを取り出し、メイヨウに近づける。
「いいかい、俺は事を荒げたくはない。それに、幼い子供にも手をかけたくはない。いいか? そのまま黙っていろよ? 行くぞレイリン!!!」
男が叫んだ瞬間、レイリンという女性は男の左腕をつかんだ瞬間、消えた。
「メイヨウちゃん!!!」
レイレイは涙をためて、彼女を追いかけようとしたが、シャオイェンは彼女を止めた。
「小隊長、落ち着いてください!!! あの素早さは異常です!!! 何かトリックがあるかもしれませんが、我々の完敗です!!」
「ちょっと待ってよ!! メイヨウちゃんは私が守らないと!!! ターレンにも皆にも顔向けできないわ!!!」
「ダメです、小隊長!! 服部半蔵鷺沼もいますし、単独行動は私が許しません!!!」
「でも、でもぉおお!!!」
「いいですか、小隊長。冷静になってください。恐らくですが、彼らの目的はメイヨウちゃんに危害を加える事ではないのは間違いないです。
危害を加えるとしたら、あの赤いコートの女性が彼女を既にとどめを刺しています!!
そして、逆に毒ガスコマンダー鷺沼は、メイヨウちゃんも狙っていました。まだマシですし、安全です」
レイレイは、無言になり七星剣を静かに鞘にしまい込んだ。
そして、下唇をかみしめた。
「私のミスだわ……」
今までの喧騒が嘘のように、闇市場は閑散と静まり返っていた。
シャオイェンは銀龍に報告している。
だが、今のレイレイにはその声が遠のいて、聞こえたのだった。
江 晓迪
黒龍会所属。
細身で銀龍よりも背の低い、男。
拳銃を一丁所持している。
ファリンの同人誌のファンで、エッチな本も見たことあり、それに魅了されたことがある。
なかなか、狡猾な所もあり、せこくて大きなものには必ずまかれるタイプ。
黒龍会からのし上がるのだったら、手段を選ばないが、結局は小物。
持っているクンフーは、蟷螂拳だが、朱雀部隊と比べると完成度はかなり低い。
くちぐせは、「ギャース」