表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

衝撃。

かなり時間がかかりましたが、次話の投稿させて頂きます。

※前話年齢の部分少し修正しました。

宜しくお願い致します。

突如現れた魔獣に襲われたクロだったが、フィンという猫人族により助けられた。

そしてフィンの登場から少し遅れ、元飼い猫のミクだと名乗る猫人族と出会い、猫人族の国へと歩を進めていると、目前の大きな門の方から数人が走ってくる。

「あのひとたちはなんにゃ?」

「・・・門番ですわ」

教えてくれるミクは何やら気まずそうな表情を浮かべていた。

クロは不思議そうに感じたが、一つの事に気が付いた。

それはクロにとって問題になり得ること。

門があり、門番がいると言うことは中に入るのに許可が必要な可能性がある事に。

元居た世界では入国するのにパスポートが必要だった。

パスポートが存在するかは分からないが、それに似た物が必要ではないのか。

スクナとビコナからはミクからの招待状があると言っていた。

だから自分は招かれてここに来た。

・・・はず。

招待されたのならば問題なく中に入れて貰えると思っていた。

しかし、ミクの様子からすると入国拒否もあり得るのかもしれない。

血の気が引いていく感じがした。

門番が近付き、こちらに向けて口が開かれようとしている。

クロの心中は穏やかではない。

穏やかでいられるはずがない。

一体何を言われるのか身構えていると、

「姫様!護衛も付けずに外に出てはならないと言っているではないですか!」

「え?・・・あれ?・・・ってひめにゃ!?」

「え、えぇ・・・一応そうですわ・・・」

落ち着かないクロには目もくれず、数人の門番がミクに大声で物申す。

「んんっ!!あら?護衛ならここにフィンがいるじゃない」

対して彼女は居心地が悪そうにしていたが、直ぐに取り繕い悪びれる様子もなく答えた。

門番に目を向けると門番も引く気配はない。

「お言葉ですが姫様!姫様が門を抜けられる時、フィン様がご一緒ではなかったではないですか!」

正論だ。

クロ達がフィンと出会った後にミクがやってきたのに間違いはない。

「それは・・・」

ミクも自覚しているのか言葉が詰まっている。

彼女が飼い猫だったミクかは未だ不明だが、自分を迎えに来てくれた相手が困っているのなら手助けしたい。

しかし、門番の言い分も分かる。

それに外部から来た者として無暗に口を挟むのわけにもいかない。

「フィ、フィンが悪いのよ!」

どうすべきか悩んでいる間にミクは言い訳を思い付いたようだ。

でも何故フィンが悪いのだろうか。

クロには分からない。

「なぜわしが!?」

フィンも自分が悪い理由を理解出来ていないみたいだ。

「あら?貴方は(わたくし)の護衛が仕事ではなくて?そんな貴方が私の側を勝手に離れて良いのかしら?」

「そうですね。いくらフィン様の察知能力が高く、我々より先に魔獣に気が付き、それを討伐する為とは言え、門番である我らがいる以上、フィン様が出られる必要はなかったはずです!」

「むっ・・・いつの間にか矛先がわしに・・・。確かにお嬢の言う通り・・・じゃが!わしの感じた気配が異様であってじゃな・・・お主らの手に余る可能性があったわけじゃし・・・もしお主らに何かあったらいかんじゃろ!?」

「御気持ちは大変うれしく思います」

「そうじゃろ!そうじゃろ!!」

「ですが!我々も覚悟のうえで門番をやらせて頂いております!フィン様は我が国には必要不可欠なお方です。勝手な行動は控えてください!」

「そうよそうよ!」

「姫様もです!!今回の件はリンゼクス王とフォン様にご報告させて頂きます!!」

「ま、待ちなさい!か、考え直すのよ!!」

「ま、不味いんじゃぁ・・・し、師匠はマジで不味いんじゃぁぁぁ・・・」

門番はご立腹でミクとフィンが抗議するも聞き入れようとしない。

この状況がしばらく続きそうだと感じ、クロは傍観を決め一歩引くと背中に柔らかい感触がして振り向く。

後ろにはスクナとビコナがおり、ミク達のやり取りに興味がないようでクロの頭と尻尾を撫で始めていた。

またですかにゃぁ。と内心ではそう思っているが、最初に比べれば抵抗がなくなっているのも事実。

むしろ妙な安心感がある気さえしている。

クロ達が和んでいるのに反し、未だに言い合いは続いている。


「ハァ・・・いつまで待たせるかもね・・・」

「だよね。我とビコナは良いとして、疲れているクロを放置するのは頂けないんだよね」

和みモードから一転。

更に待たされた事により。スクナとビコナは遂に痺れを切らしてしまった。

「ぼ、ぼくはだいじょうぶですにゃっ」

疲れていないわけではないが、話しがまとまらない内に部外者が割って入りたくないのだ。

「そうですわよねっ!誠に申し訳ございません玄斗様っ!スクナ様とビコナ様の言う通りでしたわっ!お客様をこんな場所でお待たせするのは良くないですわよねっ!ねっ!フィン、貴方もそう思うわよね?」

「じゃな!わしとしたことが客人にこの対応は無礼じゃったわ!お主らもそう思うじゃろ?」

クロの気遣いとは裏腹に、ミク達はこの機を逃すまいとスクナ達に乗り始めた。

門番が深いため息をつく。

「分かりました・・・姫様、一応念のため確認しますが、この方々をお通ししても問題ないんですよね?」

二人の言い分も確かだと思い、これ以上の追及は一先ず諦めることにしたようだ。

ミクの知り合いだからか確認の仕方が雑な気もするが、これでようやく入れるとクロは秘かに安堵していた。

のだが・・・

「貴方!玄斗様達を疑ってますの!?」

言い方が気に入らなかったのかミクが声を荒げる。

門番にとってこちらは見ず知らずの相手。

いくら何でも素通りさせることは出来ないだろう。

門番の判断としては正しいのである。

「いえ、姫様は魔術にお強いので、洗脳系統の魔術を受ける可能性は考え難いのですが、私共もこれが仕事ですので・・・」

「・・・そうですわね。ごめんなさい・・・大きな声を出して。えぇ、問題ないわ。この方々を招いたのは私ですわ。身元もちゃんと保証します。何より・・・命の恩人ですもの」

「命の・・・!?そうでしたか・・・そうとは知らず・・・無礼をお許し下さい!」

「ぶ、ぶれいだにゃんて!もんばんさんはとうぜんのことをしただけにゃっ!あ、あたまをあげてくださいにゃっ!」

大人に頭を下げられるのは苦手だ。

それに恩人とは言うが、見て見ぬふりをしたら後悔する。

もう後悔はしたくなかった。

助けたのは自分の為でもある。

だから恩を感じる必要はない。

「クロが困ってるかもね」

「問題ないならさっさと入れるんだよね」

「あ!はい!そうですよね。どうぞ!お通り下さい!」

「あ、ありがとうですにゃっ!」

ようやくこの世界に来て初めての入国である。

すると一瞬ミクの体が光ったように見えた。

「さぁ玄斗様!こちらですわっ!」

「う、うん・・・にゃ」

目の錯覚だと思い、クロは門番に一礼して歩を進める。

門をくぐるとそこには多くの猫人族がいた。

勿論人だけではなく、店が立ち並び賑わっている。

何より目立つのは大きなお城だ。

「改めましてようこそ玄斗様、ここが(わたくし)達猫人族の住まう国!『フェレス・レ・グヌム』ですわ!」

城に目を奪われいていると、丁度城を背にした状態でミクが両手を広げ誇らしげに紹介してきた。

「にゃーすごくかっきあるにゃー!!」

クロにとってこの世界に来て初めての国。

自ずと舞い上がってしまうのも止む無いこと。

歩けども歩けども今まで誰かに出会うこともなく、広がるのは大自然しかなかったのだから。

「クロお腹空いてないかもね?あそこに魚の塩焼きっぽいのがあるかもね」

「でもおかねなんてないですにゃー」

「ふっふっふ!我らが無一文で旅をするはずないんだよね!」

ずっと森を歩いていたのにお金があるとは変な話だ。

自分が寝ている時にどこか立ち寄っていた可能性は無きにしも非ず。

しかしもしそうだとしたら起こして連れていって欲しかった。

「にゃぁ~・・・」

「クロ?ご機嫌斜めかもね?」

事実だから違うと言えない。

置いていかれて拗ねるなんて。

懐かしい気持ち。

こんな気持ちなることはもうないと思っていた。

体も精神も幼くなっているのは分かってはいたが、どんなことで心が動くかは皆目見当が付かない。

「はぁーにゃぁ~・・・」

「今度はため息なんだよね!?空腹!?空腹がクロをそうさせているんだよね!?ならこのお金でお腹いっぱい食べさせてあげるんだよね!!」

「まるで自分のお金みたいに言ってるけど、それミネクルヴィアが招待状と一緒に渡してくれたお金かもね」

なるほど。

だからお金を持っていたわけだ。

クロは置いていかれたわけじゃなくて少しホッとしていた。

「あれってミネクルヴィアからの貢物だよね?」

「違うかもね。クロ宛の招待状と一緒に入っていたからクロの物かもね。そもそもミネクルヴィアは余とスクナが来るとは思ってなかったかもね。だからさっきあんな反応してたかもね」

「あー・・・そうだよねー。我らを見て驚いてんだよねー。うん!クロ!我らに構わず好きなものを食べるんだよねっ!!」

はいこれ!と渡されたお金はずっしりと重みがあった。

この体で持って歩くには大変そうだなーっとクロが思いつつ、落とさないようしっかりと受け取った。

不意にスクナからくぅ~と可愛い音が聞こえてくる。

「えー・・・・かもね。このタイミングでお腹を鳴らすのかもね」

呆れた顔でビコナはスクナに視線を向ける。

「いや~これはさっき力を使ったからだよねー多分。神だった頃ならまだしも、今の我ら燃費悪すぎだよね~。なはは~」

「・・・うん。それは認めざるを得ないかもね」

ビコナもそう感じているようで頷いている。

クロは思い出す。以前二人が言っていたことを。

神の身であった頃は食べる事は趣味みたいなものだと。

エネルギーを得る為に行うことではなかったと。

今のこの二人はクロ同様に食べなければ生きていけないのである。

しかし、食べるためにはお金が必要。

この手元にあるお金を使えばスクナのお腹も満たすことが出来るだろう。

ただ・・・

「えっと、もらっていいのかにゃ?」

正直こちらの金銭については分からない。

だが重みからしてそれなりに入っていると思われる。

それを受け取るのは正直気が引けてしまう。

お金の重みを感じつつ、クロはミクに確認する。

「勿論良いに決まっておりますわ!ですがお金ですものね。もし玄斗様がお気になさるならあちらで良くして頂いたお礼と思ってくださいませ!」

「うんっ!わかったにゃっ!ミクほんとうにありがとうにゃー!!」

最悪返すことも考えていたが、ミクの好意を無下にするのは悪いので素直に受け取ることにした。

「スクナさま!ビコナさま!いっしょになにかたべませんかにゃ?」

「良いんだよね!?」

「もちろんですにゃ!」

一人で食べるなんてそもそもクロの頭にはなかった。

元神だとしてもクロにとってはもう二人とも家族同然に思っているのだから。

何を食べようか迷っていると、ミクが名物料理を是非と言うのでそれを食べることにした。

余談ではあるが、お金はクロが落とす危険性を感じた為、スクナが管理することとなった。


「ところでふたつきになってたことがあるにゃー」

「なんでしょうか!私がお答え出来る事でしたら何でも聞いてくださいませ!」

質問されたのが嬉しかったのかミクはキラキラと目を輝かせてグイグイと顔を近づけてくる。

「ち、ちかいにゃ・・・えっとミクはおひめさまなのにこうしてふつうにまちのなかをあるいていていいのかにゃ?」

立場的にそう簡単に出歩いていいはずはない。

それは先程の門番との会話でも十分理解できた。

なら何故平然と出歩いていられるのか。

「それはですね・・・魔術を使っているからですの」

民を騙しているみたいで好ましい方法ではないのですが・・・と付け加え、申し訳なさそう表情を見ると罪悪感があるようだ。

それ程ミクは民を想っていることでもあり、クロは少しそれが嬉しく思えた。

「玄斗様はこの様に民を騙す人は・・・嫌です・・・か?」

クロが反応しなかった為、不安そうな視線を送ってくる。

「だますのはたしかによくないことにゃ。でもミクはあくいがあるわけでも、ましてやだましてわるいことをしようとしているわけではないにゃ?」

「誓ってあり得ませんわっ!」

「ならいいんじゃにゃいかにゃ!」

「そう・・・でしょうか?」

「うんっ!それにもしおひめさまがまちをあるいているなんてしられたら・・・おおさわぎになりかねないにゃっ!」

出来得る限り笑顔で答える。

正直良いか悪いかは分からないが、魔法を使わず街を歩くことは姫であるミクには難しいことのはず。

それこそ多くの護衛を付け、前もって街に来ることを民に告げる必要があるかもしれない。

きっとミクは窮屈な生活を送っているに違いない。

物語のお姫様は大抵そんな感じがする。

と、勝手に想像し気休め程度になればとクロは答えたのだ。

更に罪の意識がある相手にこれ以上何が言えようか。

何も言えまい。

しかしもう一つはどうやって聞くべきか、

ミクの浮かない表情から、クロは聞くタイミングを伺う。

「あ、あの玄斗様っ。もう一つお気になさっていることとは?」

すると、ミクの方から聞いて来る。

何処か余所余所しい感じがするのは質問内容によって、クロに失望されるかもしれないと言いう恐怖の表れであろう。

「うんっ、えっとまじゅつってなんにゃ?」

何度となく出てきたワード。

気にならない方がおかしいだろう。

「魔術・・・ですの?」

ミクは魔術について聞かれるとは思わず、反応が少し遅れ聞き返してしまったようだ。

「そうにゃっ!」

失望されるかもという恐怖心とは裏腹に、当の本人はミクの気持ちに気付くことなく質問をしてきた。

それもそのはず。

先の質問後の沈黙でミクは少なからずマイナスの印象を与えたと思っているのに対して、クロは一切そう思っていなかったのだから。

「なんじゃ?魔術を知らんのか?珍しいのぉ~」

「あ、あはは~にゃー。あ、あとでせつめいしますにゃっ。それでまじゅつについておしえてもらえるかにゃ?」

フィンには別の世界から来たことは話していなかったのを思い出した。

仮に話してフィンは信じるだろうかと思ったが、何となく信じてくれる気がした。

だから後でちゃんと説明することにした。

「確かにあの世界にはありませんものね・・・玄斗様が馴染みがないのも仕方がないことでしたわ。んんっ、この世界には魔素と呼ばれるものが存在しますの」

「まそにゃ?」

「えぇ、玄斗様の居た世界で言うところの酸素と同じですわ」

「さんそ・・・なるほどにゃー」

学生時代に授業で習ったのことを思い出す。

生きていくのに必要不可欠であり、目に見えないがそこに存在するもの。

「つまりまそはげんそのいっしゅなんだにゃ?」

「その通りですわ!流石玄斗様っ!魔素は酸素と同じように空気中を漂っていますの。そして魔術を使う者は魔素を見ることが出来、その魔素を消費することで魔術を使えるんですわ」

「えっ!?みえるにゃ!?」

ミクの説明からクロはファンタジーの世界に出てくる魔術と同じと思った矢先、見えるとは思いもせず驚きを隠しきれなかった。

更に詳しく聞くと、魔素は粒子のように小さい粒でその粒を結合して魔術を扱う。

そして魔素には属性があり、属性は色によって異なる。

火属性なら赤、水属性なら青といった感じで見えるみたいだ。

今現在確認されている属性を全部扱える者は居らず、ほとんどの人は1種類から2種類ほどしか見えないらしい。

当然望んだ属性の魔術を使いたくても、その魔素が見えなければ使えない。

見えないものを消費することは出来ないのだ。

ここで新に疑問が浮上する。

「ミクがいまつかっているまじゅつとか、もんばんさんがいっていたまじゅつはどうやってつかうにゃ?」

「それは属性を組み合わせる方法。魔素に特殊なものを混ぜ変化させる方法がありますの」

単純に魔素を用いて魔術を使う他に、魔道具など別の何かを利用して様々な魔術を使うことが出来るらしい。

最後にミクはこう言って締め括った。

魔術は奥深く、極めることは不可能なものだと。

「じゃがお嬢はええじゃろ。わしは魔術はからっきしダメじゃからのぉ」

「フィンさんはつかえないにゃ?」

ミクの説明を聞いていて薄々感じてはいたが、どうやら皆が皆魔術を使えるわけではないらしい。

「そもそもわしみたいに獣の血が濃い獣人は魔素が見えても魔術を使えんのじゃ」

同じ獣人でも違いがあるのはミクとフィンの容姿からしても一目瞭然。

理由は人と獣の血が混ざっているからである。

だからどちらかに寄ってしまう。

違いは見た目だけではなく、人の血が濃い獣人は知に長け、獣の血が濃い獣人は身体能力に長けているようだ。

「でもまそはみえているんですにゃー?」

「そうじゃな。じゃから獣の血が濃い獣人で魔素が見える者は魔術が使えん代わりに魔素を取り込めるんじゃ。魔術と違ってほとんど戦闘向きじゃから使い道はかなり限られるんじゃけどのぉ~」

例えば魔術なら食材を焼くことも衣服を洗う事も街灯をつけることも可能である。

しかし魔素を取り込んで戦闘以外で出来ることは精々肉体強化して重量のある物を運ぶことくらいだとフィンは歎く。

「それにじゃな・・・魔素を取り込むのは結構しんどいんじゃよ。肉体強化なら体を鍛えればある程度ええんじゃが・・・こんな風にのぉ!!」

軽く息を吸い力を籠める仕草をすると、フィンの筋肉が少し盛り上がった。

まるでバンプアップをした後のように思えた。

「ふぅ。こんな感じじゃな。因みにじゃが肉体強化する場合の魔素は無色透明に近いんじゃ」

「その魔素は私たち魔術を使う者には見えないんですのよ」

これも血の濃さによる違いのようだ。

「それにしてもクロ坊はええリアクションするのぉ~!よしっ!せっかくじゃから属性付与の方も見せてやろう!属性付与じゃがー」

「えっ!?あっ、はいにゃ!」

クロ坊と呼ばれたリアクションを取る間もなく、フィンは話を始めてしまった。

「こっちは肉体強化以上に負荷がかかるんじゃよ。そうじゃなー街中でやるべきじゃないんじゃが・・・まー軽く見せる程度なら問題ないじゃろ」

そう言ってフィンは人差しに炎を出して見せた。

「私が炎を出す場合はこうなりますわ」

次いでミクもの指からもゆらゆらと炎が出る。

「クロ坊よ違いが分かるかのぉ?」

パッと見では二人に違いは見られない。

だがよくよく観察してみると、

「ん!?わかったにゃっ!ミクはほのおとゆびとのあいだにすきまがあるにゃっ!フィンさんはゆびからほのおがでているにゃっ!」

「正解じゃ!体内に取り込み放出するとこうなるんじゃよ。じゃから使い勝手が悪いんじゃ」

炎を消すと尚分かりやすく、フィンの指は軽く火傷しているようだがミクにはそれが見られない。

そんなことより気掛かりなのは・・・

「ゆ、ゆびはだいじょうぶですかにゃ?」

違いを見せる為だからと言え、火傷されるとは想定していなかった。

アタフタしているとフィンはほれっ。と炎を出した指をクロの目の前に持ってくる。

「あれ・・・にゃ?」

気のせいでなければ火傷の跡が薄くなっているように見える。

「幸いわしら獣の血が濃い獣人は体も丈夫じゃし治癒力も免疫力も高いからのぉ」

「で、でも・・・」

「これ位問題ないわい!子どもに心配される程わしはひ弱じゃないわいっ!じゃから気にするんでない!ガハハハッ!!」

ポンポンとクロの頭に手を乗せ豪快に笑う。

「はいですにゃっ!」

これ以上失礼だと考えクロは大きく返事をしてみせた。


「一応確認するけど目的地はあの城でいいんだよね?」

「はいっ!これでも姫ですのでっ!」

何処へ歩いているか告げられておらず、話しながら歩いていたので場所を知らされはいなかった。

だが、やはりあの場所へと向かっていたようだ。

「にゃーそれにしてもなんだかみたことがあるようなふうけいだにゃ~」

具体的には分からないが目に付く一つ一つが過去の記憶引っ掛かる。

クロ自身実際に行ったことはないが、映像などで見たことがある様々な風景がこの国は合わさっている。クロはそんな気がしているのだ。

「そう感じるのも仕方がないんだよね」

「どういうことですにゃ?」

「世界の創りが似ているんだよね。だから繋がりがあるんだよね」

「ここに来られたことにも関係しているのかもねー」

「・・・・」

ここに来る前の事。

自分が死んだときの事を思い出しゾッとしてしまう。

繋がりが無ければ魔獣は現れなかったかもしれない。

魔獣に出会わなければあの日事故は起きなかったかもしれない。

今はこうして二度目の人生を歩み始めた。

だが死が迫る感覚は覚えている。

あの時の事を忘れることは出来ないのだ。

「クロ?」

「・・・は、はいですにゃ!?」

「どうかしたんだよね?」

「顔色が良くないかもね」

「にゃ、にゃんでもにゃいですよ!?だ、だいじょうぶですにゃ!」

「本当かもね?」

そう言いながらクロの顔を覗き込んでくる。

「はいですにゃ!」

この場をどう脱するか必死に考えを巡らせる。

「二人とばかり話していないで(わたし)ともお話してください!あっ!それよりも早くお体を休ませなければなりませんね!さあさあ!我が家へ急いで向かいましょう!ついて来てください!」

「わっ、わわっ!?」

スクナとビコナから声を掛けられ、慌てていたクロは急に手を引かれる。

少々体勢を崩すもミクによって支えられる。

驚きはしたが、考え事をしていたクロにとっては助けられる形となり内心ほっとしていた。

「大丈夫ですよ」

「えっ!?」

手を放し案内する為か前を歩き始めたミクに囁かれたのだ。

「?どうかなされましたか玄斗様?」

「う、うぅん・・・にゃ」

手を引き囁いてきたミクに対して違和感を感じたが、彼女が振り返った時にはその違和感は消えていたのである。

違和感の正体が気になったが、何事もなかったかのように平然と歩いているのを見る限り、クロは自分の勘違いだったと深く考えることを止めた。


「到着ですわっ!皆様お疲れ様ですわ!」

「にゃー、ちかくでみるとほんとーにおおきいにゃー」

門をくぐってから2時間近くかかってしまい、もう日が沈んでしまった。

「このまま入ると止められてしまいますので魔術を解かなければなりませんわね。・・・えいっ!」

「・・・なにがかわったにゃ?」

気の抜けるような可愛らしい声がして門で見た時と同じように光がした。

しかし、ミクに変化は見られない。

故に魔術が解けたのか分からない。

「変わっとらんぞ?」

「へ?・・・にゃ」

使っていた魔術を解いたのではなかったのだろうか。

クロが疑問に思っていると、

「ご説明致しますわ!」

そう言いミクは発動した術について説明を始める。

ミクが使っていた魔術は発動の際、ミクである事を認識している状態であればその者には効果が出ず、発動中でもミクが自分の正体を明かせば効果は解けるらしい。

あくまで術が発動した後に出会った者に対してのみ効力を発揮するようだ。

「では私について来てくださいませっ!」

「おねがいするにゃー」

城内に入ってからはミクの後ろについて行く。

すれ違う人々はミクとフィンを目にすると深々と頭を下げる。

どうやらこの城の使用人であるのだろう。

疑っていたわけではないが、ミクが姫なのは間違いないようだ。

「それにしても無駄に部屋が多いかもね」

「ですにゃ~!」

「クロ?心ここにあらずなんだよねー」

「そ、そんなことないですにゃぁ!?」

図星である。

仕方がないだろう。

クロにとって城に入るのは初めての経験。

ワクワクドキドキしてしまう。

部屋は多くあり、何があるのか気になる。

探検したい!

クロの頭は今その事で頭が一杯である。

走り出したい気持ちを何とか堪えるも、キョロキョロと見渡してしまうのは止められない。

「ミネクルヴィアー」

「ビコナ様、如何なさいましたか?」

「後でクロに城内を案内して上げて欲しいかもね」

「す、スクナさま!?ぼ、ぼくはべつに・・・にゃぁ~・・・」

「うふふ、畏まりましたわ!お父様に御紹介が終わりましたら回りましょうか!」

「にゃぁー・・・あ、ありがとうにゃ~」

見抜かれたことと自分の子どもっぽさが恥ずかしくなり思わず赤面してしまう。

以降クロは赤くなった顔を隠すように下を向いて歩き続けた。


「お父様お母様、ミネクルヴィアですわ。お客様をお連れしたのですが、入ってもよろしいでしょうか」

「・・・・入れ」

短く低い声が返ってくる。

「失礼致しますわ。ただいま帰りましたお父様。あら?お母様はいらっしゃらないのですね」

「・・・・うむ」

威風堂々。

まさに王と呼ばれるに相応しい圧倒的存在感を放っている。

年はいくつくらいだろうか。

「これクロ坊!王の御前(おんまえ)じゃぞ!!」

まじまじと見ているとフィンに小突かれて事の重大さに気付く。

「ごごごごごめんなさいにゃ!ああああ!こここのにゃっていうのはそのふざけているわけではなくて・・・あのその・・にゃぁ~・・・」

「よい。落ち着いて名を申してみよ」

「偉そうかもね」

「実際偉いんじゃからな!?」

「まず自分が名乗るんだよー」

「何故小娘らが偉そうにしておるんじゃ!?」

「くっくっくっ・・・フィン、良いのだ」

「お、王!?」

「スクナ様にビコナ様、お久しぶりです。今一度こうしてお会い出来るとは思いも寄りませんでした。18年振りでしょうか?」

王様と二人は知り合いのようだ。

今の会話からしてミクがこの世界に来た時に会ったのだろう。

「覚えてないんだよね」

「ミネクルヴィアの年が18ならそうかもね」

「ならば間違いありません。自分の娘の年を間違えたりはしませんので。さて、少年よ私の名はリンゼクス。この国の王をしている者だ。名を聞かせて貰えるか?」

「ぼ、ぼくは・・・」

名前を言うだけなのに上手く言えない。

ミクは姫であっても飼い猫であったので畏まる必要はなかったが、今目の前に居るのは一国の王である。

緊張しない方がおかしい状況なのだ。

「玄斗様ですわ!」

「ほぅ・・・玄斗君・・・か」

名乗れずにいるとミクが横から口を出して来た。

しかも前の名前で。

「い、いちおういまはクロですにゃ・・・」

玄斗と呼ばれるのが嫌なわけではない。

だが新たに生を受け、新たにクロと名を貰った。

ならば今の名を伝えなければ失礼だろう。

そう思いクロは訂正したのである。

「承知した。・・・クロ君、あちらの世界で娘の命を救ってくれたこと感謝する」

「すくっただなんて・・・と、とんでもないですにゃ!・・・ってあれ?おうさまは・・・しっているんですにゃ?」

「無論だ。娘が事あるごとに君の話をするからな。それだけではないが・・・兎も角よく来たクロ君。遠方より来た娘の命の恩人を無下には扱わん。君を歓迎しよう」

「あ、ありがとうございますにゃ!」

王の許しを得ることが出来た。

これで一先ず安心だとクロはホッと胸をなでおろす。


「そうだ、フィン」

「なんでしょうか」

「フォンが探していたぞ」

「・・・・し、失礼しますじゃ!」

肉体強化をした素振りはなかった。

だが今のフィンは肉体強化をしたかの如く猛スピードで部屋から出て行ってしまった。

思わずクロは唖然とした表情で扉を見つめる。

「ではクロ君。君はこれからどうする?行く当てもないのならこの国に住んではどうかね?」

何事もなかったかのようにリンゼクスは会話を始めてきた。

つまりフィンは放っておいて良いのだろう。

今から追い付く筈もないのでフィンには悪いがクロはリンゼクスの方へ向く。

「えーっと・・・スクナさまビコナさまぼくはどうすればいいのですかにゃ?」

自分一人の事ではない。

ここまで二人と一緒に来た。

ならば二人に判断を任せるしかない。

とは言え、特にこの世界に来た目的があるわけではないので有り難い申し出でなのは間違いない。

二人に聞いたはいいが、断る理由もないだろうと思い、クロは此処に住むだろうと考えていた。

「住まないんだよね」

「クロは余達と旅に出るべきかもね」

だが二人の出した答えは違った。

「?なんでですかにゃ」

「それは・・・言えないんだよね」

「うん。言えないかもね」

前にも同じ事があった気がする。

あれは確か死後の世界でだ。

二人はこの世界に行くことを勧めてくれた。

その時も言えないと言われた。

言えない理由。ここに来た理由。

しつこく問えば答えてくれるだろうか。

辛そうな二人の表情を見る限り不可能だろう。

二人が答えられない以上知る術はない。

疑念を抱いているわけではない。

何か考えがあってのことだろう。

それを知りたい。知らないといけない気がする。

だから誰か教えて欲しい!心の中で懇願するも伝わるはずもない。

沈黙がその場を包み込まれる。

その静寂をある人物が破る。

「クロさん、二人の言う通り旅に出る方がよろしいですよ」

「・・・ミクなのかにゃ?」

口調が違う。

声色が違う。

呼び方が違う。

雰囲気が違う。

今喋っているのはミクではない気がする。

それは先程の違和感を感じた時と同じ雰囲気を纏っている。

「ふふ」

「!?・・・まさか!?」

自分の娘に対しての反応ではない。

ではここに居るのは一体何者なのだろうか。

実はミクは何かしらの魔術にかかっていたのでは。

魔術に詳しくないクロの警戒心が高まる。

「クロさん、そんなに警戒しないでください。それとこんばんはリンゼクス」

「はっ!お会い出来て光栄です!」

王でありながら深く頭を下げるリンゼクスを見てクロは不思議に思う。

見た目ミクなのが更に違和感を感じさせる。

「お二人も久しいですね」

「久しぶりって程じゃないかもね。たった4年くらいかもね」

「貴女達に合わせたつもりでしたが、ふふ、そうなっても感覚は以前と変わらずですか」

「そう簡単に変わらないんだよね。それより・・・なんでここにいるんだよね」

「知っているでしょ?ミネクルヴィアは特別なんですよ」

「・・・勝手に出てきたわけじゃないんだよね?」

「失礼ですねー。そんなことしませんよ!ちゃんと合意のうえです!」

何の話をしているの全くこの状況についていけない。

呆然と眺めているとバッチリ目が合ってしまった。

「あら、ごめんなさい!たった4年でも懐かしく思えてしまってつい話してしまいました。改めて、初めましてクロさん。(わたし)はテトと申します。以後お見知りおきを」

「はじめ・・・ましてにゃ?ミク・・・じゃなくてテト・・・さんですかにゃ?」

「えぇ。混乱するのも仕方がありませんね」

確かに混乱している。

再会して間もないが、先程まで一緒に居たミクの容姿はそのままだが違いが多すぎるのだから。

「テトはこれでも一応神かもね」

「多分そうなんだよねー」

「正真正銘の神ですよ!本当にまったくもぉ。んんっ、今はミネクルヴィアの体を少し借りてこうして挨拶と・・・貴方に伝えることがあって参りました」

テトと名乗るこの人が神であっても二度目ともなれば驚く程のことではない。

今はそれより何を伝えに来たのかだ。

テトとは初対面の為、話の流れからして旅立つ理由であろう。

それに伴い、何か重要な事を伝えに来たのだろう。

そう考えたクロは、聞き逃さぬよう真剣な眼差しでジッとテトを見つめ言葉を待つ。

テトは聞く態勢が出来たと察し、ゆっくりと口を開き始める。

「----------ます」













「・・・・・・・・・・え?」

今何と言った?

この神様は今一体何と言ったんだ?

クロは困惑する。

「?どうしましたか?聞き取れませんでしたか?ならもう一度言いましょう」

聞き取れなかったわけではない。

理解が追いつかないのだ。

何を告げられるかそれ相応の覚悟をしていたつもりだ。

だが耳にした言葉は予想を遥かに上回っていた。

その内容があまりにも・・・

あまりにも・・・クロにとって・・・信じ難い言葉。
















「クロさん、貴方の家族はこの世界にいます」














再び伝えられたその言葉に頭を思い切り殴られたような強い衝撃を受ける。

信じたい気持ちと信じられない気持ち。

それだけじゃない。

様々な感情が渦巻いている。

「・・・・あ・・・れ・・・?」

頭の中で処理しきれない。

体に力が入らない。

「クロ!?」

糸が切れた傀儡のようにその場に崩れ落ちる。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

遅筆ではありますが、不定期ながら細々と続けていきます。

ご感想、誤字脱字やご指摘等々、何かありましたら宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ