目的地までは試練の連続。
翌朝、
「さー!起きるんだよね!出発するんだよねー!!」
「にゃぁ!?」
スクナの大声でクロは飛び起きる。
すぐさまビコナは驚いているクロを抱き寄せ落ち着かせる。
「ん~・・・」
安心したクロは心地よさそうにウトウトし始める。
それを見てビコナは安堵の表情を浮かべるが、次の瞬間には驚かせた張本人を睨みつけていた。
「毎朝毎朝うるさいかもね。起こすにしてももっと静かに起こすように言ってるかもね・・・」
「フフ、こうした方が直ぐ起きるのは知ってるんだよね!我は賢いんだよね!」
得意気な表情を浮かべているスクナ。
益々ビコナの機嫌が悪くなるが、気にする素振りを一切見せない。
「んん~・・・おふたりともどうかしましたか~?」
「おはようクロ。何でもないかもね」
「クロおはよう!いい天気だよね!」
二度目の眠りから覚めたクロを見てビコナの機嫌は回復の兆しをみせる。
「んにゃぁ~おはようございます~ビコナさま~スクナさま~」
「まだ眠いかもね?近くの水場で顔洗いに行くかもね」
「はい、ビコナさまっ!えっと・・・そのまえにおろしてもらえませんか?」
「・・・・」
「ビコナさま?」
「・・・・わかったかもね」
ビコナは渋々クロをおろす。
地に足を付けたクロはググッと体を伸ばす。
「わっ!?ビ、ビコナさま!?」
「はっ!余は何を・・・」
急に抱き着かれて驚いているクロの反応でビコナは我に返る。
どうやら無意識だったようだ。
それ程ビコナにとってクロのその仕草は魅力的だった。
故に尚も抱き着いたまま離れる様子はなさそうである。
「我も!我も一緒に行くんだよね!」
「ちっ・・・」
「舌打ち!?今舌打ちしたんだよね!?」
ビコナにとって至福の一時であった。
それを邪魔されたのだから舌打ちの一つや二つされても仕方がないだろう。
「してないかもね。さぁ行くよクロ」
「はーい」
「ちょっ!?絶対したんだよね!」
「良いからスクナも早くするかもね」
「絶対したんだよねーー!!」
スクナの叫びをビコナはまるで起こして来た時のお返しとばかり無視して進んでいく。
朝から慌ただしいやり取りをしていたが、水場に着くと皆落ち着いて顔を洗い始める。
「スッキリかもねー」
「ぷはーーー!うんうん!気分爽快だよね!!」
「ふにゃ~・・・うーん・・・」
そんな二人とは裏腹にクロは顔に付いた水を無我夢中で拭う。
「スクナはもう少し静かにするかもね」
「ごめんごめん!」
「はぁ・・・」
「ビコナさまだいじょうぶですか?・・・むむ・・・」
溜息つくビコナを気にかけつつも付着した水が気になるクロは拭うのは止めない。
「大丈夫かもね。ほら、こっちおいでクロ。いつもみたいにしっかり拭いてあげるかもね」
見かねて声をかける。
「す、すみませんっ!その・・・ありがとうございますっ」
「いい、クロが風邪引いたら嫌だから」
ビコナはクロの顔を丁寧に優しく拭き取り始める。
クロは秘かにこうされるのを好いている。
ビコナの拭き取り術は職人技と言っても過言ではない。
と、クロは思っていたりもする。
「ビコナばっかりずるいんだよねー!」
うっとりと気持ちよさそうにしているクロをみてスクナは自分もしたいとせがむ。
「忘れたかもね?スクナは力が入り過ぎててクロが痛がるからダメかもね」
「もー!わかってるんだよねー!でもちょっとくらいやらせくれてもいいんだよね!」
「ダメ」
「けちー!」
「じ、じぶんはべつにいいですよ?」
このままでは言い合い(スクナが駄々をこねてビコナが聞く耳を持たなくなり、しばらくそれが続く)になることを懸念した決断である。
「いいの!?」
「は、はいっ!」
とは言ったものの、本心ではスクナにやってもらうのならビコナにやってもらいたいと思っている。
何故ならビコナが言った様に以前スクナにやってもらった際、割と荒っぽくやられたことがある。
本人に悪気がない為、断り辛く、ビコナが止めなければ多分交代でやられていただろう。
それに比べれば偶にやってもらう位我慢出来る。
「じゃーもう一回顔洗うんだよね!」
「え!?ちょ、ちょっとまってください!できればきょうは・・・その・・・じぶんこのからだになってからみずはにがてなので・・・」
思い立ったが吉日とは言うが正直勘弁して欲しい。
スクナはガッカリするだろうがここは素直に伝えることにした。
「あー・・・うん。わかったんだよね!じゃー明日は我の番だよね!ビコナもそれで良いんだよね?」
「・・・ふんっ」
思いの外スクナの物分かりがよく安心するクロであったが、ビコナは明日も自分がやるつもりだった為少し不満気である。
「かおもあらいおわりましたしスクナさまもビコナさまもいきましょっ!」
やるべきことは済んだので長居は無用。
早々に立ち去る為二人の手を引く。
「そうだよねー目的地までまだあるし。よし!頑張るんだよね!」
「まだってどのくらいですか?」
「ビコナどのくらいだっけ?」
「多分あと500kmかもね」
「!?」
「クロそんな顔してどうかしたかもね?」
「い、いえ・・・まだ500kmも・・・あるんですね・・・」
産まれてからどれ程の距離をスクナとビコナが歩いたか定かではないが、自身が歩けるようになってからはおよそ半年近くは歩いている。
であれば、そろそろ目的地に着いても良いはずだ。
「あれ?」
そこでクロはふと考える。
「どうしたんだよね?」
「あ、あのっ!いまさらですけどっ!じぶん、もくてきちがどこなのかもこのせかいについてもよくしらないんですけど・・・」
「あっ・・・」
「・・・忘れてたかもね」
「わすれてたんですか・・・」
「いやー、まさかこんな形で生まれ変わると思ってなかったんだよねー」
「そうなんですか?」
死後の世界で自分以外にこの世界に来ている人もいるらしい。
だからクロは自分がこうして生まれ変わったのなら他の人もそうだと思っていた。
「我らはここに送る事が出来てもその後は詳しくは知らないんだよね」
「かもね。余達の役割は死者の魂を導くことかもね」
「後は前も話したけど死期が分かるくらいだよね。でもこの世界に送った者は魂が変化するから分からなくなるんだよ」
「だからどうなったか追おうにも不可能かもね」
「そうですか・・・」
少し残念でもあった。
もし同じ様にここに来ている人が居れば会いたいと思った。
「あの、それでもくてきちとこのせかいについておしえていただいてもいいですか?」
残念ではあるが、会える可能性がゼロではない。
なら悲観必要もないだろう。
今は知るべきことを知る。
それが優先すべき事である。
クロはそう考えたのだ。
「そうだよね。それじゃー簡単に説明するんだよね」
「お願いしますっ」
「まずこの世界についてだよね。ここは子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥、そして猫。この十三の種族が十三支族と言われてるんだよね。十三の獣人と聖獣が魔獣から護っている世界。それが十三支界だよね」
「ねこはいませんけど、じゅうにしにてますね」
「うん、クロが居た世界は猫を除く十二支だよね」
「あととらってねこかですよね?どうちがうんですか?」
「詳しい話は行ったときに聞けばいいんだよね!」
「それって・・・」
「これから猫人族のところに行くかもね」
目的地は猫人族の住む場所。
そしてクロを招待したのは猫人族の誰かと言うことだ。
もしかしたら自分が猫人族として生まれ変わったのとも関係しているのかもしれない。
色々と聞くのはその時にすることにした。
「さてと、十三支界についてまだ話すことがあるんだよね」
「はいっ!お願いしますっ!」
「よろしい!ではでは聞くと良いんだよね!十三支界はさっきも言ったけど十三支族によって守護されているんだけど、別に十三の種族皆が皆仲良しこよしーってわけではないんだよね」
「なんでなかよくしないんですか?」
「クロの居た世界の人もそうだよね?」
「・・・はい」
「でも魔獣に関しては十三支会議って代表者が集まって対策会議は行ってるかもね」
「そっ!その点については共通の問題だから協力的になるんだよね」
「一応他種族同士で貿易とかはしてるみたいかもね。だから種族によっては手と手を取り合ってるところも勿論あるかもね。逆に争い合うところもあるかもね。そこはこっちもあっちも変わらないってことかもね」
人種が違えば考えも違う。
環境が違えば生き方も違う。
これが現実。
どこであってもきっと変わらないこと。
普通は成長に伴って世の中を知っていく。
しかし今は体と心は幼いが、生きてきた記憶はそのまま。
全てではないが授業で歴史を学んだ。
自国ではないが物騒なニュースを見たこともある。
ここはどうだろうか。
まだ分からないことが多い。
まだ知らないことが多い。
そんな自分は世界に居る。
「・・・・っ」
不安に襲われる。
体が震えてしまう。
「クーロっ!」
「うわっ!?」
スクナが飛びつく。
「大丈夫かもね。クロは何があっても余が護るから」
ビコナがゆっくりと包み込む。
「うんうん!我とビコナが居るから安心するんだよね!」
「スクナさま・・・ビコナさま・・・ありがとうございますっ」
目頭が熱くなる。
少し恥ずかしさはあるが抱き返す。
クロは二人がいて良かったと心底思う。
まだ護られるだけだが、いつの日か二人を護れるような存在になりたいと心に誓うのであった。
数分後、気持ちが落ち着いてきた。
「よしっ!クロも元気出て来たみたいだし出発だよね!」
「はいっ!・・・・で、でもできればてをつないだままなのは・・・」
「ダメ。躓いて怪我したら大変かもね」
「だ、だいじょうぶですよ!」
「ダメ」
「諦めるんだよね」
「はぃぃ・・・わかりましたぁ・・・」
観念して目的へとそのまま歩を進める。
数刻が過ぎたころ、ある疑問が浮かぶ。
「ところでここってどこのしゅぞくのりょうちなんですか?」
先の話では十三支族それぞれ領地のようなものがあるとのこと。
しかし、半年以上歩いていたが誰とも出会っていない。
いくら何でもおかしい。
「・・・・実はここら辺って割と危険なんだよねー」
「きけん?それってねこびとぞくいがいのりょうちだからですか?」
再び身震いしてしまう。
「他種族の領地の方が安全だったかもね」
「で、ではどこの・・・?」
他の領地ではないのなら一体どこの領地なのだろうか。
「何処の領地でもないんだよね。強いて言うならー魔獣?」
「まままままままじゅうですか!?だだだだいじょうぶなんですか!?」
予想だにしない者の住処だったようだ。
これにはクロも動揺を隠せない。
「気配は何となくわかるから遭遇しないように注意してるし大丈夫かもね」
うろたえるクロの頭にスクナは心配ないと言う。
「だよねー。どっかの領地なら目的まで向かうのにこんなに時間かからないんだよね」
「で、でもまじゅうですよね・・・?それにここはじゅうさんしぞくがとうちしてるんじゃなかったんですか?」
「そのはずなんだよねー。魔獣が存在しててもこんなことになってるなんて思ってなかったんだよね」
「どうやら余とスクナが知ってた頃とは変わってるかもね」
「そこら辺のことも猫人族から聞く必要があるんだよね」
芳しくない状況なのではと思うものの、二人の表情からは深刻さが感じられない。
「何にしても今は安全第一で向かうかもね」
「勿論だよね。クロ、もし魔獣が出てきても我とビコナでどうにかするから安心するんだよね」
「・・・は、はい。でもむりはしないでください」
自分も何か手伝うと言いたいのをグッと堪える。
情けないがこの体ではきっと役に立たないだろう。
現状は二人に頼る他ないのだから。
そして更に月日は流れ、
「あそこがねこびとぞくのすんでいるばしょですか?」
幸いにも魔獣に遭遇せずに猫人族の領地に辿り着く事が出来た。
「そうだよね」
「ならはやくはりましょうっ!」
目的地は目と鼻の先、聞きたいことが山ほどあるのだから。
故にクロは急いで門へと向かおうと駆けようとした時、
「ちょっと待つかもねー」
「んにゃ!?」
親猫が小猫にやるように、ビコナに首根っこを掴まれてしまう。
「入る前にやることがあるんだよね」
「そ、そうなんですか?そうとはしらずにすみません・・・」
「分かればいいかもね」
「だよね」
「やることってなんですか?あとおろしてもらえませんか?」
宙に浮いたままでは落ち着いて話も聞けない。
「仕方がないかもねー」
ゆっくりとおろしてもらい、クロは二人の話を聞こうと見つめる。
「クロは猫人族だからそのまま入っても問題だろうけど、我とビコナは人の姿をしてるから多分入れないんだよね」
「ど、どうするんですか!?」
「だからーこうするかもねー」
二人の体が光に包まれる。
やがて光の中から二人は姿を現す。
「・・・」
その姿を見てクロは思わず言葉を失ってしまう。
「これで問題ないんだよね!」
「かもねー」
「ね、ねこみみにねこしっぽ・・・!?」
「だよね!」
「これでクロとお揃いかもね」
二人は猫人族となっていた。
スクナは髪色と同じ淡いピンクの丸みを帯びた猫耳と尻尾。
ビコナは髪色と同じ淡い紫の垂れた猫耳と尻尾。
「びっくりです・・・まさかスクナさまもビコナさまもねこぞくになるなんて・・・」
「郷に入っては郷に従えったやつかもね」
それは違うのではとツッコミを我慢してスルーすることにした。
「スクナさまもビコナさまもそんなことができたんですね!」
「今の我らじゃ何度も出来ることじゃないんだよね。それにしてもビコナは属性過多になってるんだよね!まさか眼鏡属性まで狙ってたりするんだよね!?」
「それはスクナの唯一の個性だから心配しなくても取ったりしないかもね」
「唯一は酷いんだよね!?」
「そうかもね。スクナには貧・・・なんでもないかもね」
「そうだよね!我にはこのぺったんこ・・・じゃなかったビコナにはないスレンダーなボデーがあるんだよね!」
「・・・スクナがそれでいいなら余は別に良いかもね」
「あ、あははー。で、でもこれではいれるんですよね!それじゃーいきましょう!」
リアクションの取り辛い話題は回避すべし。
関わらないのが吉。
クロは逃げる様に目的地へ向かうことにした。
「待つんだよね!」
「またですか!?」
今度はスクナに掴まれてしまう。
「最重要事項が残ってるかもね」
「さ、さいじゅうようじこう・・・」
クロの頭の中では猫人族に接する際の注意点や礼儀作法、いやそれ以上のことだろうかと身構えてしまう。
「それは・・・」
「そ、それは・・・?」
生唾を飲む。
「これを付けることと一人称を僕って言うことだよね!」
スクナはどこからか鈴の付いた首輪を勢いよく掲げる。
「そして何より語尾ににゃんを付けるかもね!」
ビコナのテンションが珍しく高くなる。
「・・・・・・いまなんていいました?」
ツッコミどころが満載だがそれすらしないで聞き返す。
「なんていいました?」
間髪を容れずに真顔で聞き返す。
「ク、クロ?目が怖いんだよね・・・」
「な、何がそうさせてるのか分からないかもね・・・」
「じぶんはしんけんにいろいろかんがえました。それなのにおふたりがふざけたことをいうからです!!!」
「い、至って真面目なんだよね!」
「どこがですか!」
「待って待って!ちゃんと説明するんだよね!まずこの首輪は御守りみたいなものなんだよね!元神のご加護があるんだよね!」
「そ、そうなんですか?」
「それに今のクロの容姿で自分は!なんて言ったら変だよね!しかも我らはこの世界に元々居たわけじゃないから無駄に怪しまれるのは避けるべきだよね!だから年相応に僕って言うのがベストなんだよね!」
「た、たしかにいちりありますね・・・」
首輪には意外な効果があり、一人称についても納得出来る。
首輪に関しても一人称に関しても、多分語尾についても自分のことを想ってだろう。
知らなかったとは言え、大声を出したことを反省し謝ろうと口を開こうとしたが、
「まっ、語尾については完璧ビコナの趣味なんだよね」
「ビコナさまぁぁぁあ!!!!!」
つい再び大声を出してしまう。
「お、落ち着くかもね!」
「じぶんはなにかおかんがえがあるからかと・・・ねこぞくはごびににゃんをつけているのかとおもったのに・・・なんですかそのりゆうは!」
「だ、だってその方が可愛い・・・かもね!」
「おわすれですか!じぶんはこんななりですがこころはこうこうせいなんですからね!」
もっと言えば十三支界に来て4年経っているのだからトータルで考えれば20近くまで生きていることになる。
ただこの世界での4年は換算するには値しないので結局の16でしかない。
「でもクロ偶ににゃーって言うんだよね」
「それはむいしきです!いしきてきにやるはずないじゃないですかっ!」
「無意識なら良いかもね?」
「よ、よくはないですよ!でも、むいしきだからしかたないじゃないですか!・・・はぁ・・・はぁ・・・」
大声出すことが久々過ぎて息切れを起こす。
更には体力が未熟なのも拍車をかけている。
「大丈夫?これでも飲んで息を整えるんだよね!」
「あっ、すみません・・・ありがとうございますっ」
手渡された飲み物を口に含んでいると、何やらにやけるスクナの顔が目についた。
「どうかしましたかにゃ?・・・にゃ!?」
「フフフ!大成功なんだよね!!」
「にゃにしたんですか!」
「ありゃ?語尾ににゃかにゃんって付く薬だと思ったけどそうじゃないみたいだよねー」
「これはこれで良いかもね。スクナぐっじょぶ!」
「ぐっじょぶじゃないにゃああああ!!!」
まさかの四度目の叫び。
まんまとスクナに嵌められて肩を落とすクロ。
「にゃんでこんなのもってたんですかにゃ・・・・?」
「クロが産まれてから今日まで頑張って作ったんだよね!」
「完成に間に合って良かったかもねー」
心は高校男子、にゃーにゃー言うことになろうとはクロは夢にも思っていなかった。
「よくにゃいですよぉ~・・・いいえ、もうにゃんでもいいです・・・スクナさま、くびわかしてくださいにゃ」
「我が付けてあげるんだよね!」
「・・・ありがとうございますにゃぁ・・・」
スクナの方に首を向け、首輪をつけてもらう。
チリチリンと鈴の音が今のクロには癒しの音に思えた。
「クロ・・・怒ってるかもね?・・・ごめんなさい」
垂れている耳がこれでもかって程に垂れて見える。
そんな姿に罪悪を感じないはずがない。
「い、いえ!でもできればこれっきりにしてほしいですにゃ」
「わかったかもね。もう無理強いはしないかもね」
「おねがいしますにゃっ。それじゃこんどこそいきますにゃ!しゅっぱつにゃーー!!!」
「クロなんかやけくそになってるんだよね」
こうでもしないと精神的に耐えられないことを察して欲しいと内心思い、出来れば触れずにそっとして欲しいとも思っていたりもするクロであった。
「待つかもね」
「これいじょうはかんべんしてほしいにゃぁ!」
羞恥心は全開マックス。
もし次に今よりも過激な要望が出れば流石に精神が崩壊しかねない。
「クロ、静かに。・・・誰か来るかもね」
要望ではないことにホッと胸をなでおろす。
しかし安心するのはまだ早い。
ここが猫人族の領地なのだからその誰かは多分猫人族だろう。
ともすれば、対応を誤れば招待してくれた人に会えなくなるかもしれない。
ここは慎重になるべきところだ。
クロは気を引き締め、こちらに向かって来る人物を待つ。
「・・・・ら・・・・に・・・・・じゃ!!!」
遠くから必死に何か伝えようとしている。
「スクナさまビコナさま、あのひとはにゃにをあんなにゃにあわててるんですかにゃ?」
微かにだが声が聞こえてくる。
ハッキリと聞き取れないのは距離が離れすぎているせいだろう。
「ここからだと何言ってるかわからないんだよね。あっちに行くんだよね!」
「スクナさま?」
「捕まるかもねー」
「ビコナさ・・・ま!?」
一瞬の出来事だった。
まるでジェットコースターに乗った時の様な空を切る感覚を肌で受ける。
「おぉ!?やるのぉ小娘!っとと、そんなことより主らぁ!こんなところでなにをしておったのじゃ!!・・・むむ?見慣れん顔じゃな?野良か?今時珍しいのぉ」
「ね、ねこがお・・・ですにゃ!?」
男は猫が顔をしており、水色と白が猫耳と猫尻尾であった。
「わしは猫人族なのじゃから当たり前じゃろう。猫人族が他の種族の顔をして居ったら変じゃろうが。何を戯けたことを言っておる」
クロからしてみれば猫顔で言葉を喋るし、二足歩行もしているのはとても不思議なものだった。
「スクナさまっ、ビコナさまっ!このせかいのひとってみんなあのようなかおをしているのですかにゃ?」
「確か男はあんな感じのもいて、女は我らのような人顔をしているんだよね」
クロにとっては違和感しかないが、この世界では獣顔は珍しくはないのだろう。
「おうおう!コソコソヒソヒソと何やら訳の分からぬ話をしおって。失礼じゃぞ!」
「スクナみたいにお喋りでうるさいかもね」
「我ってそう思われてたんだよね!?」
「元気な小娘どもじゃのぉー」
「小娘とは失礼なんだよね!そっちこそ見た目若造のくせに喋り方がじじくさいんだよね!」
見た感じ二十歳くらいの男性だが元神からすれば若造なのは間違いではないだろう。
「なんじゃと!?」
「あ、あの・・・けんかはしにゃいでくださいにゃ・・・」
「おうおうなんじゃ幼女!わしを馬鹿にしておるのか!?」
「そ、そんなつもりは・・・あ、あとじぶん・・・じゃなくてぼくはおとこですにゃ・・・」
馬鹿にしてると思われても仕方がない。
自身もそう思うのだから。
「うちのクロをいじめるなら容赦しないかもね」
「徹底的にねじ伏せるんだよね」
「お、おふたりともおちついてくださいにゃっ!」
今にも殴りかかろうとする二人を必死で抑える。
「ほほぅ、血気盛んな小娘どもじゃのぉ。主らの相手をするのも面白そうじゃ。・・・いや、それどころじゃなかったのぉ。早うわしの後ろに下がれい!!!奴が近くにおるはずじゃ!・・・・む?おかしいのぉ・・・確かに気配を感じたんじゃが」
「この爺造何を言って・・・!?ビコナ!」
「爺造とはなんじゃ!わしをそのようによう分からん造語で呼ぶとは礼儀の知らぬ小娘じゃ!!」
「クロ、余から離れたらダメ」
「は、はいにゃっ!」
「わしを無視するんじゃない!」
クロは二人の只ならぬ雰囲気を察知して大人しくいう事を聞いた次の瞬間、
「グオオオオオオオ!!!」
「やはり居ったか!」
「にゃ、にゃんですかあれ!?」
地鳴りと共に黒い靄を纏った獣が目の前に現れたのだ。
「魔獣だよね」
「あ、あれが・・・ですかにゃ・・・」
その姿は一角と鋭い爪と牙を持っていてまるでサイのように見える。
ただ知っているサイの様に四足歩行ではなく二足歩行をしているのには流石に違和感を感じてしまう。
「先手必勝!主らはわしが仕留めるのをそこで見ておれ!!!」
言うや否や魔獣目掛けて走り出す。
と同時に魔獣も迎え撃とうと動き出す。
「クロ、余たちの後ろに隠れるかもね」
「早くするんだよね!」
「は、はいにゃっ!」
指示に従い急いで実行に移す。
「ふにゃ!?」
今まで体験したことのない衝撃波が目の前で起こる。
どうやらあの男と魔獣が衝突したようだ。
「あ、あの人だいじょぶですかにゃ?」
これ程の激突であれば安否が気になるのも無理はない。
「仕事だろうし大丈夫かもねー」
「見てろって言うんだから見てればいいんだよね」
スクナとビコナにとってこの男がどうなろうと知ったことではない。
クロさえよければいい。
二人は本気でそう思っているのだから。
「で、でも・・・」
「心配しなくても平気かもね。爺造はそこそこの手練れみたいかもねー」
「元神と言え、我らの威圧に物おじしない程度には。だよね」
高みの見物と決め込んで手を出す気はさらさらないようだ。
クロとしては二人が協力すればもっと安全に倒せるはずと思うものの、二人が危ない目に遭うのも嫌だ。
何とも複雑な心境である。
「突進することだけしか能がないのかのぉ?」
「グオオオオオオオ!!」
「ハッ!!ちーとはわしを楽しませてくれんかのぉ!」
クロの心配も余所に獰猛な笑みを浮かべ、心底戦いを楽しむ者の顔をしていた。
「はぁ・・・あの爺造は阿呆なのかもねー」
攻撃を避けるでもなくいなすでもなく受ける。
真っ向からぶつかる男にビコナはため息をつく。
「だよね。直線的な動きしかしない相手にわざわざ付き合うなんてただのお馬鹿なんだよね」
「おうらああああああああああああああああああ!!!!」
魔獣の角を掴み砲丸投げをするかのが如く投げ飛ばし、男は魔獣を追いかけ森へと消えていく。
「脳筋」
綺麗に二人の声が重なる。
クロもそれには同意せざるを得ない。
「これで仕舞じゃぁぁ!!!!」
男の声と轟音が森に響き渡る。
「おわったん・・・ですかにゃ?」
「おう!もう少し骨のある奴じゃったら楽しめたんじゃけどのぉ。小娘共も無事じゃったからええか」
まるで猟師が狩りを終えた時の様に魔獣の首を担いで男が戻ってきた。
「この爺造・・・小娘小娘ってしつこいんだよね!因みに我はスクナだよね!」
「余はビコナかもね」
「ぼ、ぼくはクロですっ。よ、よろしくおねがいしますっ」
「爺造と言うでない!わしはまだ23じゃ!っとと、名乗られておいて名乗り返さないのは礼儀に反するのぉ。わしの名はフィンじゃ」
この男はフィンというらしい。
二歳を真に受ければクロより年下になってしまうが、これは猫の年齢、つまり人で言うところの二十三くらいだろう。
「ふっ、そうだよね。我とビコナからしたら赤子と変わらないんだよね!」
「なんじゃと!?」
「余は小娘だから分からないかもね。ねっ、クロ」
「え?ぼ、ぼくにきかれても・・・こ、こまりますにゃ」
「クロは余のことをおばあちゃんだと思ってるの?」
「い、いえ!そんなことはにゃです・・・その・・・あの・・・もうしあげにくですけど・・・おねえさんみたいで・・・か、かわいいとおもいまにゃっ」
「スクナ!今聞いた!?クロが余を可愛いって言ったんだよね!クロは余の魅力にメロメロなんだよね!」
「せいせい!この裏切り者!嬉しいのは分かるけど口調がおかしいんだよね!我の真似をするんじゃないんだよね!って言うか羨ましんだよね羨ましんだよね!クロ!我にも言うんだよね!」
せがんでくるスクナにNOと言えるわけもなく、
「え、えっと・・・スクナさまもかわいいですにゃっ・・・もう!はずかしいからやめてほしいですにゃ!」
羞恥心で顔を赤らめつつもクロは今回止む無く言うが、金輪際止めて欲しいと切に願う。
「ふっ、言わせてるのと自主的に言うのとじゃ全然違うかもね!」
「ぐぬぬ・・・!!」
「じゃがしいのぉこ娘ども!そしてわしを無視するでない!」
「そ、そうですにゃっ!あの、フィンさんっ!たすけてくださってありがとうございますにゃ」
「ほほぉ!クロと言ったのぉ?ふざけた喋り方はしておるが、ちゃんと礼節を弁えておるとは感心じゃ!」
好き好んでこんな喋り方をしているわけではないと目で訴えるもフィンに伝わるわけもない。
「して、クロよ」
「なんですかにゃ?」
「主、その珍妙な尻尾はなんじゃ?」
「あ・・・これはですにゃ~・・・」
すっかり頭から抜け落ちていたが、クロの尾は二つ。
対してフィンは当然一つ。
フィンに出会うまで猫人族は二又の可能性があると思っていた。
が、結果猫人族の尻尾が一つであることはこれで証明された。
つまりクロは異質なのである。
「爺造気にする必要ないんだよね!」
「尻尾が一つだろうと二つだろうと変わりはないかもね」
スクナとビコナが割って入る。
「そうじゃな。さして気にすることでもなかろぉ。・・・じゃからわしを爺造と呼ぶでない!」
拍子抜けする程あっさりと引き下がる。
「え・・・あ、あの・・・」
「なんじゃ?」
他者と違えばそれだけで忌み嫌われることがある。
そして場合によっては迫害もあり得る。
クロ自身、親を失った小学時代の短い間だが、そういう事をされた経験があるのだ。
だからこそフィンから尻尾の事について聞かれた時は、その事が頭をよぎった。
しかしフィンは気にしないと言った。
「あ、ありがとうございますにゃ」
「礼は先程言っておったじゃろ」
「それとはべつですにゃ!その・・・きにしないといっていただけて・・・うれしかったですにゃ・・・」
一人ぼっちは辛かった。
他者と違うのは辛かった。
必死に耐えるのは辛かった。
あんな思いはもうしたくなかった。
「男なら泣くじゃない!ほれ見ろ!わしの片耳欠けておるじゃろう?主はこれを気にするのかのぉ?」
フィンは欠けている耳をしゃがんでクロに見せてくる。
「そんなことありませんにゃ!」
「ならわしと主は同じじゃな!」
そう言ってフィンは豪快に笑う。
まだ会って間もないが、クロが彼の人柄の良さを感じたのは言うまでもないだろう。
「して、クロよ。主らはこんなところでなにをしていたんじゃ?」
魔獣のせいで質問の答えが聞けていなかった為、同じ質問を投げかけられる。
「ごしょうたいされたのできましたにゃ」
「招待?誰からのじゃ」
「・・・だれからですかにゃ?」
クロも誰からか知らない。
よってスクナとビコナに答えを求めるしかない。
「あの子なんだよね」
「あのこ・・・?」
指さす方向に目を向けると、
「玄斗様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うにゃ!!!???」
「お会いしたかったですわ!玄斗様!!・・・あら?少し御変わりになられました?」
いきなり抱擁をしてきたこの人がクロを招待した人物であるのは明白。
何故ならクロではなく、玄斗と呼んだのから。
「お嬢!何をしているんじゃ!」
「そうだよね!クロを早く離すんだよね!」
「解放するかもね」
「はっ!スクナ様にビコナ様までいらしたのですか!?」
この様子、どうやらクロしか見えていなかったようだ。
「余達は好きで付いてきたかもね。それに余達が居たら何か不味いかもね?」
「い、いえ!?滅相もございません!」
フィンには効果はなかったようだが、元神の威圧は本物らしい。
「良いから早く離すんだよね」
「は、はい!つい気持ちが昂ってしまいまして・・・。私としたことがすみません!」
クロをゆっくりと離して少し距離を取る。
「あ、あなたはだれですかにゃ?」
猫耳と猫尻尾は言うまでもなく、幼さが残るものの、品のある顔立ちをしており、髪型はショートとロングの中間くらい薄い茶色である。
しかし、クロは記憶を辿ってもこの少女に見覚えはない。
「この姿では分かりませんよね。私はミネクルヴィア。玄斗様に命を救われた・・・ミクですわ!」
「ミ、ミク!?にゃんでミクが!?」
何と送り主は以前保護し、事故で行方不明になったはずのミクであった。
「スクナ様とビコナ様にお聞きになっていないのですか?」
「他の神との契約で情報に制限がかかってるんだよね」
「割といい加減ではあるかもね。でも、誰がどの世界から来て何処に行ったのかは話せなかったかもね」
「ミネクルヴィアも招待状に名前を書けなかったはずだよね」
「道理で幾度書いても消えたわけですのね」
「スクナさまとビコナさまがぼくにいえなかったのもそういうことだったですにゃ」
クロは二人が隠そうとしていたわけではないことを知り少し安堵する。
だが知りたいこと、聞きたいことがまた増えてしまった。
「それにしてもよくミクはぼくのことわかったにゃ」
一つ一つそれらを解消すべく、ミクに質問することにした。
「あぁ・・・玄斗様お可愛いですわ!そのにゃって言うのがもうたまらなく愛おしいですわぁ!!」
「す、すとっぷにゃ!しつもんにまずこたえてほしいにゃ!ミクのしってるぼくのすがたとはかわってるにゃ、うまれかわりはたましいもへんかするってきいたにゃ!それなのにぼくとわかるのはへんにゃ!」
「確かにお姿も変わっておられます。魂については私では分かりかねますが・・・」
「じゃあなんでにゃ?」
「匂いですわ!」
「・・・スクナさまービコナさまー、ミクがわけわからないこといってるにゃ」
匂いで分かるなんて馬鹿げているにも程がある。
クロが呆れるのも無理はない。
「変態なんだよね」
「余だってそれ位造作もないかもね」
「変態がここにもいたんだよね!?」
「変態ではありませんわ!愛ですわ!」
「もうへんたいでもあいでもなんでいいにゃ・・・」
「玄斗様!?そんな残念な子を見るような眼を向けないでくださいませ!」
「でもにおいをかいでぼくだとわかったんだよにゃ?」
「いえ・・・実は一瞬、ほんの一瞬ですが玄斗様の匂いが変だったので困惑はしました」
「そうにゃの?」
「ですが、私が玄斗様の匂いを間違えるはずはありませんわ!」
「・・・・」
「あぁ、またその様な眼差しを!?」
呆れて物も言えないとはまさにこのことだろう。
「お嬢」
「なんですの?」
「お嬢が呼ばれた相手なのはわかったんじゃが、また魔獣が出るかもしれん。一先ず中に案内したほうがええと思うんじゃが」
「それもそうですわね。玄斗様!それにスクナ様とビコナ様、長旅でお疲れでしたでしょう?中で一度疲れを取ってくださいまし。お話はそれから致しましょう」
クロ達はミクに導かれ猫人族の住まう領地へと足を踏み入れるのであった。
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