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1/4

選択して始まる。

初投稿作品です。

楽しんで頂ければ幸いです!

※一部修正しました。

衝撃を感じる。

地を滑る。

体中に激しい痛みが走る。

聞こえてくる悲鳴。

周りの人たちが何か叫んでいる。

少年は地に倒れたまま自身の状況を掴めないでいる。

周りに無事であることを告げようとするも声が出せない。

ならばと体を動かそうとするが思うようにいかない。

意識が保てていれば間違いなく絶望感を味わっていただろう。

だが少年は絶望することはなかった。

何故なら追い打ちをかけるが如く、激しい睡魔に襲われたからである。

思考能力は著しく低下し、現状を把握することは困難を極めた。

この睡魔に抗うことは出来ないと少年は悟った。

ならばもう全て委ねるしかない。

そう思い瞼をゆっくりと閉じた。


「---て---だ-ね!」

「しゅ---か-ね」

声がする。

誰とも分からぬ聞き覚えのない二つの声が。

未だ頭が覚醒していない少年はその声が途切れ途切れにしか聞こえていない。

「---点--だよね!!」

「終--か-ねー」

次第に目が覚め、声は徐々に聞こえてくる。

寝惚け眼をこすりながら声に耳を傾ける。

「終点なんだよね!!」

「終点かもねー」

「しゅう・・・てん?・・・終点!?え!?あっ!すみませんすぐ起きます!!」

ハッキリと聞こえてきた声は終点を告る。

少年は自分が公共の交通機関を利用していた記憶はなかったが、その言葉で完全に目が覚めた。

声の主に謝りながら急いで体を起こす。

そこには楽し気に手を叩いている黒髪ロングで細身の眼鏡少女と、その隣にジッと少年を見つめている黒髪ツインテールにポニーテールにアホ毛、そしてスタイルも良い何ともてんこ盛りな属性を持った少女が居たのである。

「おー!本当にこれで起きるとは思なかったんだよね!」

「あながち終点で間違いないかもねー」

容姿からして少年と同い年と思われる。

だがそれにしては大人びており、どこか不思議な雰囲気を帯びていた。

当然少年が疑問に思うことは一つ。

一体この少女たちは誰なのかということである。

「君は今我が誰だって思ったんだよね?」

「余が誰かって思ったかもねー」

「は、はぁ・・・」

得意げな表情を浮かべる少女たちに対して少年は気の抜けた返事しか出来なかった。

「フフフ!聞いて驚くと良いんだよね!我はスクナ!我は神なんだよね!!!」

「余はビコナー。同じく神かもねー。あとスクナと余は姉妹かもね」

「かもねじゃなくて姉妹なんだよね。我が姉でビコナが妹なんだよね」

姉妹がどうのこうのの件は正直耳に入っていない。

何故ならサラッととんでもないことを口にしたからである。

「はぁ・・・神様・・・神・・・・様?神様ですか!?す、すみません!!知らずに失礼な態度を!!」

一瞬少年の思考は停止状態となったがスクナととビコナの言葉を頭の中で反芻し驚きをあらわにする。

普通なら何を言っているのかと思うところだろう。

しかし、少年には神様と名乗るスクナとビコナが嘘をついている様に感じ取れなかった。

だからきっと神様なのだろうと素直に受け止めてしまったのだ。

そうなると次に疑問に思えることは何故自分の前に現れたのかである。

何か自分がやったのかと考えるも思い当たる節がなかった。

だがこうして現れたのだからきっと過ちを犯したのだろうと少年の顔は見る見る青ざめていく。

「うん、驚けって言ったけど驚きすぎだよね!」

「うん、慌てすぎでもあるかもねー」

スクナとビコナは少年をジロジロと見ながら周りをゆっくりと回る。

「す、すみません」

「別に気にしないで欲しいかもねー」

「だよね。いやーそれにしてもまさか直ぐに信じてもらえるとは思ってなかったんだよねー。何でかな?」

何故と聞かれて困惑するも少年は正直に答えることにした。

「う、嘘をついているように思えなかったので。すみません」

「我が言うのもなんだけどもう少し疑う心を持ったほうが良いと思うんだよね」

「すみません・・・」

直感的に信用してしまったが、確かにスクナの言うことはもっともだと少年は思った。

「中々の謝り癖してるかもね」

「すみま・・・」

言われて直ぐにまた謝罪しようとした時、少年の唇にスクナとビコナは人差し指が軽く触れる。

「ストップ!ストップ!!これ以上謝られるとこっちが申し訳なくなってくるんだよね!」

「止まるかもねー」

少年はそんなこと女子にやられた経験がない為困惑する。

しかも相手は神様だから余計にどう反応して良いのか分からないでいる。

「ありゃ、ちょっと困ってるみたいだよね。その表情中々可愛いんだよね!」

「うん、割と可愛いかもねー」

可愛いだなんて言われたら余計どうしたらいいのか分からず、未だ唇に触れたまま指の感触とで頭の中が真っ白になる。

「フフフ!その困り顔をもっと見ていたいけど、そろそろ本題に入るんだよね」

神様の意外なSっ気に戸惑いつつ、本題が気になるのは当然のことだろう。

「うん、まずここについて話をするかもねー」

急展開が続いたせいで考える間もなかった。

少し落ち着いた少年はあたりを見回してみるがそこは見知らぬ場所であった。

「一体ここはどこなんですか?」

「ここは死後の世界ってやつだよね」

「し・・・ご・・・・?」

思いもよらない言葉で再び頭の中が真っ白になる。

死後の世界と言われれば誰だってそうなるであろう。

「うん、何があったか思い出せない?」

スクナからの言葉で少しずつ目が覚める前の記憶を思い出そうと試みる。

そう、ここに来る前のことを・・・


いつも通り授業が終わり放課後の教室は騒がしくなる。

「なぁどっか寄っていかねー?」

「おう!行く行くー!獣士は・・・バイトだから無理だよな。んじゃーなー!」

「ごめん、また明日」

友人の誘いを断るのは心苦しい。

だが致し方ないことなのだ。

ほぼ毎日アルバイトに勤しんでいるのだから。

獣士玄斗(じゅうしくろと)

高校一年生、現在一人暮らしをしている。

玄斗の家は4人家族であり、父の獣士黄牙(じゅうしこうが)と母の朱璃(あかり)、姉の白奈(しろな)それと保護猫のミクがいた。

獣士家は獣士流と呼ばれる格闘術を先祖代々継承している。

獣士流を絶やさぬ為に父である黄牙は道場を営んでいた。

だが獣士流は実践的な武術であった為、戦がない現代にはそぐわない武術。

その為、黄牙は時代に合わせる形で現代に広めることにした。

今では護身術として広がりつつある。

しかし今はその父はいない。

いや、父だけじゃない。

母も姉も・・・猫のミクすらも。

何故いないのか。

それは玄斗が小学校六年の林間学校の日、事故に遭い行方不明になってしまったからである。

事故の現場には原型を留めていない車のみ見つかりっており、何があったのかは未だ判明していない。

分かっていることは黄牙が朱璃と白奈、そしてミクを連れて知人の道場を訪ねた帰り道で事故に遭ったと言う事だけだ。

そして玄斗は一人になった。

家族を失ってから高校に入学するまでは父方の弟である獣士蒼威(じゅうしあおい)の世話になっていた。

住んでいた家は残していても辛いので売却に出して貰い、道場に関しては黄牙の道場に勤めていた蒼威が継いだ。

蒼威としてはゆくゆくは玄斗に道場を継がせたいと思っているのだが、頑なに拒まれている。

家も道場も捨て、嫌なもの辛いもの見たくないものを捨て去った情けない男。

玄斗は自分をそう思っているのである。

蒼威はそんな事微塵も思うことはなく、玄斗を受け止めようと努めていた。

それを玄斗は理解している。

だが一歩踏み込めないでいた。

何故なら他人である自分がいつまでも蒼威の家に居座って良いと思っていないからだ。

そして何より蒼威の家族構成は玄斗の家に似ていた。

その失った温かみを目の当たりにするのがたまらなく辛かった。

だから玄斗は義務教育を終えたら一人暮らしをしようと心に決めていた。

当然一人暮らしをするにはお金が必要になる。

ならば高校に入らず就職するしかないだろう。

短絡的ではあるが小学校六年や中学位の幼さではそこに至るのは仕方がないことだろう。

密かに情報収集を行い計画を立てていたが、呆気なく蒼威にバレてしまう。

当然こっぴどく叱られたが、引くわけにはいかなかった為猛反発した。

蒼威は何か気に障ることをしたのかなど問うてきた時は流石に罪悪感を感じざるを得なかった。

玄斗はそんなことはないと否定し、感謝していることを伝え更には自分の気持ちも吐き出した。

蒼威はそれを理解したが高校は通うべきだと言い、高校卒業までは一緒に暮らさないかと提案した。

だが玄斗にはそれに耐えられない気がしていた。

ならばとお互いの妥協点として中学二年まで気持ちが変わらなければ高校は一人暮らしをすることになった。

結果気持ちは変わらず、色々な条件付きではあるがこうして一人暮らしをしている。

無論初めは高校で一人暮らしは不安もあった。

けれど家族の温かみに触れ続けるのに比べればなんてことはない。

因みに条件と言うのは週一回は必ず蒼威達に会うこと、三食キチンと食べること、アルバイトをするにしても無理をしなこと、困ったことがあれば必ず言うこと、などなど。

今まで良くしてくれたのに迷惑をかけるわけにはいかない為、出された条件を破るつもりは毛頭ない。

だから今日も学校が終わり条件を守りながらアルバイトをしている。

そして何の問題もなく本日のアルバイトが終わり、原動機付自転車で自宅に帰宅する。

ちゃんと法定速度を守り、当然車間も守り、しっかり信号も確認し、あと数キロ走れば家に着く・・・はずだった。

そう・・・玄斗が家に着くことはなかったのである。

最後の信号が青になり、歩行者などを通過する際突如黒い影が現れた。

ブレーキが間に合わないと悟り、止むを得ずハンドルをきって回避するも何かにぶつかり意識を失った。

これがあの時の出来事である。


鮮明にとまではいかないが事故が起きたことは思い出した。

が、自分の身に起きたことを受け止めきれないでいた。

スクナとビコナはそんな玄斗を見つめるだけで何も言わない。

玄斗は二柱に視線を向けることなく虚空を見つめていた。

やがて、静寂は破られる。

「そうですか・・・自分は死んだん・・・ですか」

やっとのことで出せた言葉だったがそれでも実感はわかなかった。

「んー、正確に言うと死んではなくて、瀕死状態なんだけどね」

「え?ど、どういうことですか?」

スクナの言葉に驚きを隠せない。

当然だ死後の世界と言っていたので死んだとばかり思っていたのだから。

「息を引きとる前に連れてきたんだよね」

「なんで・・・そんなこと・・・を?」

「色々理由はあるかもね」

「でも強いて言うなら君が巻き込まれたからなんだよね」

「巻き込まれた・・・?」

確かに黒い影が現れそれを避けようとしたのだから巻き込まれたのはあながち間違いではない。

しかし、スクナの言う巻き込まれたとは意味合いが違う気がした。

「うん、何かが飛び出してくる可能性も君はちゃんと考慮して模範的な安全運手をしていていた。だから本来あの日あの場所であのような事が起きるはずはなかったんだよね」

「お言葉ですが神様、例え飛び出してくるかもしれない。なんて頭で考えてても、実際に起きて対処が出来なかったから自分はこうなったんじゃなんですか?」

「普通の飛び出しなら周囲の確認を怠らなかった君は気付いてブレーキが間に合っただろうし、間に合わなくてもあのスピードじゃ余程の事がない限り多分死に瀕するまでの大怪我ではなかったかもね」

「ビコナ、思うって言い方は違うんだよね。ならなかったんだよね」

「どうしてそう断言出来るんですか?」

常識的に考えれば生死が分かるはずはない。

「断言できるのは我がここの神様で死期が何となーくわかるからなんだよね」

神は常識に囚われないのだよね!と胸を張るスクナ。

それを見たビコナが鼻で笑ってるのは見ないことにした。

つまり死後の世界があってそこの神様がいる。

であれば分かってもおかしくないだろう。と言う事らしい。

神様が言うのなら間違いないだろうと納得することにした。

「だから普通じゃなかった・・・ってことですか?あの時出てきたのってただの猫ですよね?」

「ちゃんと猫を視認出来てたなんて凄いかもね」

「いえ、一瞬目に入ったフォルムがそれ以外思い当たらなかったもので」

「うんうん!猫猫!でも、君が言った通り一瞬で判断出来たのは素直に凄いんだよね!・・・・・・本当に一瞬だったのに」

「・・・?どういうことですか?」

「君も言ったよね?一瞬だって」

「・・・はい」

飛び出して来たのではない。

猫が一瞬にして現れたのだ。

「今君が思った通りなんだよね!」

「うん、そんな突如として現れたのに対して無理矢理回避行動をとれば流石に無事ってわけにはいかないかもね」

「うん、でも原因はそれじゃないんだよね」

「それじゃない・・・?飛び出した猫を避けて電柱か何かにぶつかったですよね?」

「飛び出したのは猫。でもぶつかったのは別だよね」

違う?

確かに何に当たったか記憶は定かではない。

けどあの場で当たるとしたら電柱くらいしか心当たりがなかった。

だから電柱だと。

それ以外は考え付かなかった。

しかしそうではないらしい。

では一体何に?

その疑問にビコナが答える。

「君がぶつかったのは黒い影かもね」

だが疑問は更なる疑問を呼ぶだけだった。

「黒い影は・・・猫なんじゃ・・・?」

そう思っていた。

でも本当に?

黒い影が猫だと思っていたがスクナとビコナの言葉を聞いて段々と怪しく思えてくる。

「君が今疑問に感じた通りかもね」

「あ、あの・・・なら黒い影の正体は一体・・・」

「それは魔獣だよね」

「なん・・・ですか・・・それ・・・」

死後の世界、神・・・更には魔獣。

一体何度驚けばよいのか。

ここまで全て本当のことと信じている玄斗の頭は既にパンク状態。

気が狂ってもおかしくない。

これが嘘だと、夢だと思えばどんなに楽か。

それでも理性を失わずにいられるのはここが死後の世界だからだろう。

「で、でも自分には黒い影にしか見えませんでした・・・」

黒い影であって生き物には見えなかった。

「君の居た世界には存在しない生物だからかもね」

「うん、魔獣(アレ)を認識出来るのはあっちの世界の者だけだよね。勿論神である我とビコナは別なんだよね」

「そ、それって別の世界があるってことですか!?」

今度は別世界である。

「そこまで驚くことでもないかもね」

「うん、死後の世界があって余達神がいる時点で今更だよね」

御尤もである。

「話を戻すと君の前に時空の歪みが発生しちゃったからかもね」

「その歪みから異世界・・・正しくは十三支界ってところだよね」

「十三支界は十三の領地があってそれぞれの代表者、あるいは領主、あるいは王が統べている世界かもね」

「とりあえず十三支界についてはそんな世界だって思ってくれればいいんだよね」

「は、はぁ・・・」

ビコナがそう言うのでそうすることにした。

「説明を続けるんだよね。十三支界の魔獣が歪のせいで現れた。君はその魔獣と衝突したんだよね」

「それで君は死に瀕したから余達がここに連れてきたかもね」

それがここに来た真相らしい。

「時空の歪みってそんな簡単に発生する者なんですか?」

「そもそも普通は発生するものじゃないかもね」

「えっ?そうなんですか?」

「うん、君の居た世界と十三支界が干渉し合わない様に神がいるんだよね」

「質問ばかりで申し訳ないんですけど、神様って他にもいるんですか?」

「勿論かもね。ま、沢山いるけどそれぞれ役割があるし得意不得意なことは違うかもね」

「ま、君の国には八百万の神がいるくらいだから当たり前だよね」

他の国と合わせたらどれ程神が居るのか自分たちも把握していないと言う。

それで良いのだろうか。

「さ、さーてと!君が不思議に思ってるよね!だから何故干渉しちゃったか教えて上げるんだよね!」

玄斗が訝しげな視線を送るのに気付いたスクナは誤魔化すように説明を続けようとする。

「んんっ!まず魔獣についてだけなんだよね!魔獣は世界に害なす存在なんだよね!・・・それはもう世界のバランスを崩しかねない程に」

「き、危険なんですね・・・」

「そうなんだよね。しかも魔獣を討伐する際に魔獣が強ければ強いほどあらゆる場所に影響を及ぼすんだよね」

「だから今回も強力な魔獣が現れてそれを討伐する時に君の世界にも影響が起きたのかもね。そして歪が現れた」

「さっきも言ったけど本来はそんなことが起きない様に担当の神がいるんだよね。仮に現れても即座に対応するために」

極々稀なケースだけど可能性はゼロじゃないからね。と付け加えるスクナの表情には陰りがあった。

どうしたのか聞こうとしたが、

「今回も担当の神はその歪を瞬時に対応したかもね」

それをさせる間もなくビコナが話を続ける。

きっと触れて良い所ではないのだろうと察し、玄斗は黙って聞くことにした。

「けど今回の歪は一ヶ所だけじゃなかったんだよね。しかも想定外の事に魔獣(ソレ)は神の目を欺いたんだよね・・・。まったく、本当に想定外だったんだよね」

唇を噛みしめている姿を見ると出し抜かれたことが悔しかったことがよく分かる。

「直ぐに魔獣(ソレ)の対処を行ったかもね。・・・けど・・・ごめんなさい」

「は、はい!?ど、どうしたんですか急に!!」

「急でもないんだよね。我らのせいで君はここに来る羽目になったんだから謝るべきなんだよね。本当にごめんね」

「あ、頭をあげてください!神様たちのせいじゃないですから!」

突然スクナとビコナが謝罪する。

神々に頭を下げられるなんてあり得ない状況に玄斗が慌てふためくのも無理はない。

「うん、君は命の危機に瀕したの優しいかもね」

「うん、本当だよね。そこで!君に二つの選択肢を与えるんだよね!」

「選択肢ですか?」

「うん。選択肢①ここに十三支界からの招待状があるかもね」

「十三支界・・・からですか?」

「そうなんだよね。君に会いたがっている者から是非って届いているんだよね」

「十三支界ってところに知り合いなんて心当たりないんですけど。あとこういう事って結構あるんですか?」

「こういうこと?どういうことか分からないんだよね」

スクナがコテンと小首をかしげる。

隣にいるビコナも同様にしている。

流石姉妹だと思いつつ補足することにした。

「つまりですね、異世界から招待されたり死んだあと異世界に行くことになったりです」

「まずそういうことはないんだよね」

「え?」

「一応前例はあるかもね。でも君に言ったかもね。君の世界と十三支界は干渉し合わないようにしているって」

「あ・・・」

確かに言っていた。

「バランスは大事なんだよね。おいそれと簡単にあっちとこっちを繋ぐのは互いにとって良くないんだよね」

「じゃ、じゃぁ自分はその招待に応じない方がいいんじゃ・・・」

干渉し合わないほうが良いのなら、そうすべきではないだろう。

そう考えるのは普通の事だ。

「今回はあっちの世界からの干渉で君は命を落としかけている。だからあっちに行っても問題はないかもね」

「もう既にあっちに触れたから影響はほぼないんだよね」

「そういうもんなんですか・・・」

「そういうもんなんだよね」

納得仕切れないが神が言うならそうなんだろうと無理矢理納得することにした。

「今のが選択肢①かもね」

「そして選択肢②!・・・君の世界に戻ることだよね」

「も、戻れるんですか!?」

もう一つの選択肢はこのまま死ぬことだと勝手に思ったいた為、そんな選択肢があるとは考えすら持たなかった。

故にこんなリアクションを取ってしまうのは無理もない。

「うん、今回はなんとかギリギリこちらに連れてくることが出来たんだよね。だから例外的にこのまま君の居た世界に戻すことも可能ではあるんだよね」

「で、出来るんですか!?」

まだ信じられないとばかりの表情を浮かべる。

「あのまま息絶えてたら流石に無理だったかもね」

「うん、今回はあちらの世界のせいで君の死期が狂っちゃったからそれを正すのは可能なんだよね」

俄かに信じられないがここまで言うのだから多分可能なのだろう。

まだおじさん達への恩を返せていない。

なら元の世界を選ぶべきだ。

「自分は元の世界に・・・」

戻してください。その一言が出ない。

そうすべきなのに。

それで良いはずなのに。

言えない。

言い切れない。

「ねぇ」

「は、はい!なんでしょうか!」

言い淀んでいるとスクナが声をかけてくる。

「君が自分の世界を選べないのは恩人が居てもそれ以上に辛いんだよね?」

「・・・」

見抜かれていた。

たとえ自分を受けて入れてくれて想ってくれている人たちが居たとしても・・・それでも一人だと感じてしまう。

玄斗があちらを選べないのはそういう事なのだ。

「ねぇー」

「す、すみません!どっちを選ぶかですよね!じ、自分は・・・」

「そんな状態で決めても後悔するかもねー。だから少し落ち着くかもねー」

解を求められたと思い急いで答えようとするもビコナに頭を撫でられる。

「え・・・あ、はい・・・すみません」

その撫で方があまりにも優しく、玄斗は母の事を思い出し少し涙ぐんでしまう。

だがそれも束の間であった。

「君には先に言っておくことがあるかもね」

「言っておくこと・・・」

先程と違う雰囲気と真剣な眼差しに思わず身構える。

「君が十三支界を選んだとしても・・・辛いことはあるかもね」

異世界で幸福を願ったわけではない。

だが期待してしまった。夢見てしまった。辛いことのない世界を。

しかしそんな世界は存在しない。当然だ。

それどころかもう一つの選択肢である異世界には魔獣が居る。

ならばやはり元居た世界に戻るべきだろう。

そう考えていると、

「それでも君は行くほうが良いかもね。・・・ううん、行くべきだよ」

「ビコナの言う通りだよね。君は行くべきなんだよ」

「なんで・・・ですか?理由を教えてもらえませんか?」

「ごめんね。今は言えないんだよね」

「伝えるべきなのは分かってるかもね。でも、ごめんなさい。それは出来ないかもね」

「あ、謝らないでください!」

スクナとビコナがそこまで言う理由が知りたかったが言えない事情があるようだ。

であれば深く追及するわけにもいかない。

スクナとビコナが申し訳なさそうに顔を見て玄斗は決意する。

「えっと・・・・・・自分は・・・」

そして玄斗は解を出す。

今後を決める大きな選択の解を・・・


4年後---

「すごいけしきですねーーー!!」

大自然を駆け回る男児が一人。

「うん、感動し過ぎだよね」

「うん、興奮し過ぎかもね」

それを見守る二人の少女。

「クロ、そろそろ行くんだよね」

「クロ、こっちに来るかもね」

「すみませんっ!いまいきますっ」

とてとてぴょこぴょこと少女たちの元へいく男児。

男児はクロと呼ばれている。

そう、獣士玄斗であった少年だ。

玄斗は自分の世界ではなく異世界を・・・十三支界を選んだのだ。

十三支界(ここ)にきていくつか変化があった。

その内の一つは16の肉体ではなく、新たに生を受け4年、今は幼き体となっている。

そして獣士玄斗ではなくクロとなった。

「あの・・・スクナさまもビコナさまも・・・よかったんですか?」

「また言ってるかもね。気にする必要ないかもね」

「だよね。それに我らが神であることを捨てて一緒に来たのは我らがしたかったからだからクロのせいじゃないんだよね」

神ではない。

二つ目はこの世界に来るために二人は神でなくなったこと。

これを初めて聞かされた時余りにも衝撃的であり、精神的にも幼くなったってしまったクロは泣き続けた。

だから二人がこうして異世界に来て大丈夫かと心配するのは致し方がないことである。

「でもですね・・・」

「良いんだよね!」

「ちゃんとここに来る前に余らの代わりに役割を果たせる神に後を頼んだから安心するかもね」

二人がそう言うものの、クロは未だ罪悪感に囚われている。

「まったく・・・我はこのモフモフの耳が触れれば十分なんだよね!」

「余はこのフカフカの尻尾が触れれば十分かもねー」

「お、おふたりともあまりさわらないでくださいっ。くすぐったいんですからっ!」

そして三つ目の変化・・・クロの体は人に限りなく近いが人ではなく、玄色の猫耳と猫尻尾が生えているからだ。

更に不思議なことに何故か尾が二つある。

つまり今のクロは獣人・・・細かく分類すると猫人となったのだ。

スクナ曰く、この世界は獣人による世界なんだよね。らしい。

そうとは知らなかったクロにとって幼くなったこと以上の変化であった。

「んー、このモフモフ癖になるんだよね!」

「フカフカ~」

耳と尻尾を触られると言う感覚は未だに慣れない。

クロは知っている。

抵抗しても意味がないことを。

因みにスクナとビコナには獣耳と尻尾は付いていない。

ビコナ曰く、元神だからかもね。らしい。

割と適当な感じはするがクロは元神ならそれもあり得るのだろうと納得したのである。

「ふぅ・・・本当はもっと堪能したいけどそろそろ行かないといけないんだよね」

「そうですよね。じぶんがごしょうたいじょうをいただいてからよねんたってるんですし」

「でももっとしたかったかもね。残念かもね」

「もー!なにいってるんですか!もうおくりぬしのかたはまちぼうけしてるはずですよ!おふたりともはやくはやく!」

大きく早く尻尾を振り二人を急かす。

「慌てても仕方ないんだよね。それに産まれたばかりのクロを直ぐに連れ回すことは流石に出来なかったんだよね」

「だから仕方がないかもね」

「そ、そうですよね・・・すみません」

しょぼんと尻尾をダランと下がる。

「よしよし。クロは何も悪くないかもね」

「そうそう。だから元気出すんだよね!」

再びクロの耳やら尻尾やら体中を撫で始める二人。

「にゃー!わかりました!もうげんきになりました!!だからもうなでないでくださいーーー!!」

抵抗空しく好き放題触られ続け、そのまま夜が更け結局この日は送り主の元へ向かわず野営となった。

元神である二人の少女に振り回される男児。

この先何が待ち受けているかは誰にもわからない。

そんな三人による異世界での旅がこうして始まる。

如何でしたでしょうか。

誤字脱字やご指摘等々、何かありましたら宜しくお願い致します。

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