の1
鳥の声が聞こえる。
意識は目覚め始めているが、起きたくない。
この夢なのか現なのかハッキリしないまどろみの時間こそが至福なのだ。
(・・・あと5分・・・いや10分・・)
寝返りを打ちながら、時刻を確認しようと携帯を手探りで探す。意地でも目は開けない。
しかしどこを探っても携帯が見つからない。
仕方がない、目を開けて確認することにしよう。
目を開けると、そこは家のベッドの上ではなかった。
というか屋外。
(なに?なんで僕こんなとこで寝て・・・あぁ、夢か。)
たまにあるのだ。妙にリアルな夢が。
夢の中で寝てても意味がないし、体を起こし周りを見渡す。
「まぁ夢ならその内醒めるだろ。とりあえずどうしよっかな・・ぁ!」
芝生みたいな草の上で寝ていたようだ。周りには木が沢山ある。林か何かの中なのかな?
そして隣には、猫みたいに丸まって眠っている梨園さんの姿があった。
(うわー、今日ちょっと絡んだからって夢に出てくるとかなんか恥ずかしいな・・。
・・まぁ夢だしいいか。)
「梨園さん、起きてよ。梨園さん?」
起きない。
どうしようかな。
別に放っといてもいいんだろうけど、夢の中だからと言って特にやりたいこともないしな。
それにしても本当にリアルな夢だ。
いつもの夢なら、夢の中の自分が勝手に行動して場面が変わっていくのに
僕はしっかりと意識があって、考えることができる。
これが明晰夢ってやつなのかな?
「・・・ん」
どうしようかと思案を巡らせていると、隣から声がした。
「あ、起きた?」
「・・・。ここは」
梨園さんも周囲を見回している。うわーリアル。
「わかんない。まぁほっといてどっか行くのも後味悪かったし起きてくれてよかったよ」
「そうですか。私達は帰っている途中でしたが、いつの間にこんなところに来たのでしょうか」
ん?何言ってるんだろ。
だってこれは僕の夢で・・・あれ?そういえば僕はいつ家に帰った?
いや、夢の中で記憶が曖昧なのなんてよくあることじゃないか。
「不思議だよねー。まぁ適当に歩いてれば知ってるとこに行けるはずだよ。
というわけで、ここから移動しよ?」
「そうなのですか。わかりました。」
僕と彼女は立ち上がり、その場を離れることにした。
「いやーそれにしても不思議だなぁ。ここどこなんだろうね。
僕はこんなとこ来たことないし、なんでこんなとこにいたんだろう」
「そうなんですか。・・・ではなぜ、歩いていれば知っている道に出られると?」
「んー、まぁそーゆーもんだからね」
「そうなのですか。」
こんなやり取りを一度して、しばらく歩いたが一向に道に出ることはなかった。
妙だ。おかしい。リアルすぎる。
汗をかいているという感覚も、肌着が汗でへばりついている感触も、
ほんのりとした疲労感も。どれもこれもがリアルすぎる。
もしかして、これは・・・夢ではないのでは・・・?