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生まれる世界を間違えた  作者: 南樹
第一話
5/7

の5

「なんでしょうか?」


と前から抑揚のない静かな声がする。こちらを振り向いて止まっている梨園さんがいた。

考え事をしてたせいで無意識のうちに歩幅が普通になり追いついてしまっていたのだ。


「え?あ、う。」


なんだ、「え、あ、う」って母音しか発音できないのか。

しかも右手は情けなくガチョーンのままだ。

まさか梨園さんのほうから話しかけられるとは思っていなかったので動揺して固まってしまう。


「特に用はなかったのでしょうか。失礼しました。では。」


「・・・あ!」


だから母音しか発音できないのか。どうなってるんだ僕の発声器官は。


「・・・なんでしょうか」


無機質な声だ。やっぱり怒っているんだろうな。

そりゃそうか。早朝からぶつかって転ばされて帰りにはストーカーもどきだよ。

しかも右手はまだ固まってて情けないポーズだし、もう恥ずかしくて泣きそう。


「いや、あの、その!」


やっと母音以外が発音できた。落ち着け、落ち着くんだ。

そう、クールになれ。有村有輝(ありむらゆうき)


「そう!今朝のこと!謝りたくて!」


「今朝のこと」


梨園さんは確かめるように、静かに繰り返して言った。


「うん、そう!今日ずっと、悪かったなーって思ってて!」


「そうですか。お互い様だと言いましたが」


「いや、でも僕のほうが絶対悪いから!改めて、ごめんなさい!」


「はい、わかりました。こちらこそすみませんでした。」


抑揚のない声でそう言われる。

‥やっぱり怒ってるよね。

同級生に帰り道に後ろから着いてこられて振り向いたらガチョーンだもんね。不審だよね。

不審者ですよね。事案発生ですよね。本当にすみませんでした。


「怒ってる‥よね?」


「・・・。いえ、怒っていません」


考えるようにほんの少し俯いて、

静かに、抑揚なく、無機質に

彼女はそう答えた。


「本当に、怒っていません。お話はそれだけでしょうか。では。」


なんでこの子すぐ帰ろうとするの?!僕そんなに気持ち悪かったかな?!

そうですよね、気持ちわるいよね!くっそ、もうヤケクソだ!


「あー!そうだ!本当に怒ってないならさ、一緒に帰らない?

 方向同じみたいだし、またちょっと離れて歩くのも気まずいし‥ね?」


何言ってるんだ僕は。意味がわからない。これが支離滅裂というやつだろうか。

確かに今歩いている道はしばらくは大きな一本道だが、なぜそれで一緒に帰るということになるのか。

あぁもう、本当に気持ち悪い。ダメだ、これ終わった。詰んだ。

明日には僕は「有村(ありむら)っていうか無村(なしむら)だよね」とか噂されてるんだ。

無村(なしむら)キモ輝(きもき)とか呼ばれてるんだ。なんだよキモ輝くって。意味わかんないよ。


「はい、いいですよ」


いいんかーーーい!!!!

‥って、あれ?

相変わらず感情が感じられない抑揚のなさだけど、本当に怒ってないのかな?

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