の3
外が見えるほうの窓側の一番後ろ。そこが僕の席。
出席番号は「あり」で一番なのだ。席替えまではずっと一番前の席だった。
何かと先生の目につきやすいのだろう位置は
教材の片付けの雑用だったり、授業中に目があっただけで当てられたりと散々だった。
6月に入り、今学期初の席替えで一番後ろ-しかも窓際-を引き当てたときは、
嬉しくて小躍りしそうになったほどだ。
席に着いてカバンを置くと、
「どったのー?今日はギリギリだねー?」
間延びした声で話しかけてきたのは、隣の席の間宮 継だ。
彼を一言で表すなら、漢字ではなく平仮名で「のんき」というのがしっくりくる。
「うん、ちょっとね。学校にはいたんだけど、教室来る前にぶらぶらしてた」
「ほぉー?なんか面白いもんであったんかいなー?」
「いや、紫陽花が咲き始めてたくらいだったよ」
「もーそんな季節かー。もーちょっとしたら梅雨だなー。じめじめすんのやだなー
ん?どしたん?」
間宮と話しながら、僕の目線は梨園さんに向かっていた。
「いや、ちょっと‥ね。さっきぶつかってこかしちゃってさ。
怒らせちゃったみたいなんだよね」
「ほ~ん。すんっげぇ静かな子ってイメージだけどなー。怒らせたんだー。
何?転んだ拍子にラッキースケベでもしたの?」
「いやいやいや!そんなまさか!僕は転ばなかったし!」
「ケガさせちゃったとかー?」
「いやー‥わかんない。梨園さんは大丈夫って言ってたし、お互い様だって言ってくれたけど‥」
「じゃーいいじゃーん。怒るようなことなくない?あるあるの気のせいなんじゃなーい?」
「うん、まぁ僕の気のせいかもしれないんだけどね。ってそのあだ名はやめろって‥」
「いいじゃんあるあるー。俺のこともつむつむって呼んでいーんだよー?」
有村有輝には有るが二つだから「あるある」なんて、そんな安直なニックネーム。
呼ばれるのにはもう慣れたけど・・・僕はつむつむとは絶対に呼ばないかな。
間宮は気のせいだって言うけど、梨園さんのあの冷たかった感じは気のせいだったのかな。
なんか気になる。