の2
見慣れた景色をぼーっと見るでもなく足を動かしていると学校に到着する。
いつもは始業のチャイムの鳴る10分前には教室の中にいて、
クラス内の友達と適当な雑談をしたり、本を読んだりして過ごす。
でも今日はいつもとは違い、
教室に行く前に学校内を適当に歩いてみようかな、とぶらぶらしていた。
それが間違いだったのだ。
いつもと違うことをしようとすると、大抵よくないことが起きる。
ジンクスなんかではないが、大抵そうなのだ。
今までがそうだったのだ、例に漏れず今日もそうなってしまった。
目的もなく中庭を歩き、校舎内に戻ろうと渡り廊下に向かう。
風よけの為に、大きめのシートが貼ってある渡り廊下だ。
ちょっと見にくいとは言え、気付かなかった僕が悪い。
中に入ろうと曲がった時だった。
ドンッ、と誰かにぶつかってしまった。
「・・・ぁ」
と、か細い声が漏れたのが聞こえた。
クラスメイトの梨園 霞がそこにいた。
彼女の体は軽く、僕にぶつかった衝撃で尻餅と両手をつく形で倒れてしまった。
「ご、ごめん!よく見てなくって!本当にごめん!!」
慌てて謝るが、内心はもっと慌てている。
(どどどどどどどどどうしよう!話したこともない女子とぶつかっちゃった!
やばい!キモいとかふざけんなとか言われるんだろうな・・・!とにかく平身低頭謝らなきゃ!!)
「大丈夫?!ケガしてない?本当ごめん!」
彼女は表情を変えずに、
右手を見て
左手を見て
静かに
「・・・大丈夫」
と、とても透き通っているが、どこか無機質な声色でそう言い立ち上がった。
(声カワイッ!いや、違うか。でもケガがないみたいで良かった)
「本当に?痛いとこない?ほんとごめん、梨園さん!僕の不注意だ」
「いえ、私も気づいていませんでした。お互い様ですね。では。」
また静かに、今度はハッキリとわかるくらい無機質にそう言い。
軽く会釈をして、梨園さんは校舎の中に入って行った。
(うっわー・・焦ったぁ・・・!大丈夫みたいだったけど、あの言い方・・・絶対怒ってるよなぁ・・・)
朝のHRの時間が迫ってはいたが急ぐ気にはなれず、
僕は少しだけゆっくり歩きながら教室に向かった。