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亜人公女物語 ~猫耳の公女、モノリス~  作者: mafork(真安 一)『人工衛星サニー』ほか書籍発売中!
第4章 帝都ヴィエナ

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4-30:光明

 砦の中には、千人を超える亜人達が詰めていた。

 野戦に敗れた末の、籠城の軍である。石壁の内側には、食い尽くした食べ物や、屠ってしまった家畜の骨が転がっていた。


 導かれるまま、亜人達は聖ゲール帝国という敵地に飛び込んだ。

 それは、矢のような行軍だった。放たれた直後は空を裂き飛んでいく。しかしひとたび速度が萎えれば、勢いを回復する術はない。尾羽を枯らし、地に落ちるだけだ。

 無理な行軍の代償を、彼らは今まさに支払っていた。


「打って出よう!」


 砦の一階には、軍議を行うための広場がある。

 鞭で打つような声が響き、やがて消えた。なだめるのは、しわがれた、年配の声である。


「もうしばし、待て。今野戦に持ち込んだとて、どのような成算があろう。羊のように死ぬだけだ」


 話し合いは、何度も同じ経過を辿っていた。すなわち、打って出るか、それとも状況の変化を待つか――その決断を、延々と引き延ばしていた。


「我々は、神官殿を信じている」


 軍議を仕切るのは、各氏族の長老達だ。

 大鷹(おおたか)族の長が、最も大勢で参集した者として、場を取り仕切っている。一族の特徴、目つきの鋭い『鷹顔』が場を睨んだ。


「マクシミリアン殿は、我々に退けと言った。それはこの場所で、状況の変化を待つと言うことだ」


 大鷹族の長は、消極策を推した。この案が、有力氏族の総意でもある。


「だが……!」


 苛立ちを募らせるのは、とりわけ若い亜人だ。

 神官の信奉者とも言うべき、白狼族のラシャが消えた。そのため、各氏族の若手が続々と軍議に参加するようになっていた。


「いつまでですか?」

「待つのだ……」


 大鷹族を始め、有力な氏族の長達は、泰然としている。まるで、何かを確信しているように。


「神官殿は、原初の精霊(イファ)を呼び出すと述べていた。それを、待つ」


 大鷹族の長は告げる。

 議事がいっせいに荒れ出した。


「それは、いったい何なのです!」

「神官は、死んだのではないですか!」


 次々と発言が起こり、とうてい収まりそうにない。

 軍議は、撤退戦の構図をそのまま持ち込んでいた。

 大鷹族を初めとする、有力な氏族は籠城を推している。他方、灰熊族や、山猫族などの比較的少数の氏族は、奇襲などの攻撃策を推していた。

 マクシミリアン神官との距離が、そのまま立場に反映されているのだ。


「ここは帝国の内側。いずれ大砲が持ち込まれるでしょう……!」


 長老達の顔に、一瞬、曇りが過ぎった。

 大砲。魔術を用いて、延焼する砲弾を撃ち出す、最新の設備だった。

 亜人学派は行軍に持ち込んではいない。帝国内でも導入は進んでいないようだ。

 それでも、いつまでも現れないというのは楽観が過ぎるだろう。城壁の内側に火を打ち込まれては、防戦は不可能だ。


「今は、待つのだ」


 縋るような言葉が、神官に頼った亜人学派の悲哀だった。元々、大陸を取り戻すための、細い糸だった。切れかけているとはいえ、もはや後戻りはできない。

 その時、地面が揺れた。


「なんだ」


 物見台から、報告が駆け下りてくる。亜人の目は、ぎらぎらと輝いていた。


「帝都から……」


 一同は言葉を待った。


「光が」


 軍議の参加者は、砦の三階へ駆け上がった。窓には、矢避けの鉄蓋がはまっている。その隙間から、すでにまばゆい光が部屋に差していた。

 鉄蓋が、外される。


「おお……!」


 おお、おお、とどよめきが砦の中へ広がった。

 帝都の方角に降臨したのは、猛烈な光だった。

 距離を置いて見ると、まるで光の大樹だ。

 大樹は地平線に根を下ろし、広げられた枝は天高く広がっている。枝の先端から、輝きが槍となって打ち出され、空の彼方へ消えていった。


「目が……!」


 暗い砦の中にいたせいか、目を押さえる亜人もいた。

 太陽がもう一つ現れたような明るさなのだ。


「見たか!」


 大鷹族の長は、快哉を上げた。

 小さな窓から離れると、長は部屋の奥へと進む。一段高い台座を、説法台のようにし、部屋中へ語りかけた。


「あれが我らが神話の始まりとなる、太古の精霊(イファ)よ!」


 長が振り上げた腕には、青い布が巻かれている。


「これこそ、神官殿の言う、精霊も、光の神も等しいという証明だ! 我々は探求し、正しい教えに辿り着いたのだ!」


 亜人の戦士達は、顔を見合わせていた。


「……大鷹族の長よ」


 ある亜人が、巨体を窮屈そうに押しやりながら、窓から離れた。

 牙猪(がい)族という大柄な亜人である。土木作業に強く、籠城で発言権を増していた。


「確認するが。貴殿らは、マクシミリアン殿からこのことを聞かされていたのだな?」


 大鷹族の長は、口元を引きつらせた。


「いかにも、そうだ」

「……撤退にあっさりと賛同した理由が、これで分かったわ。のう?」


 大柄な亜人は、部屋中を見渡す。

 長達の間で、つかの間の笑いが起きた。乾いた笑いは、砦の一室を不気味に満たす。


「さぁ、同胞よ。祈ろうではないか」


 奇蹟は、起きた。神官と、長老達に対する信頼は回復された。

 そうであれば、再び従うまでだ。


「祈る?」

「そうだ。皆で、あの光の柱に向かって、祈るのだ」


 大鷹族の長は、窓から見える光を指す。

 砦の周囲は、ゲール人が囲んでいる。大鷹族の長は、伸ばした指を下に向け、包囲の布陣をなぞるように動かした。


「敵陣を砕くように、とな。太古の精霊は、亜人の祈りを聞き届ける」


 亜人達は、すでに揃って祈るという聖教府の慣習を、受け容れている。祈りが精霊に向くとあっては、わずかにあった忌避感もない。


「さぁ、光の精霊よ」


 長は、亜人学派を先導した。


「我らの敵を、砕きたまえ」


 やがて、何百もの亜人の意思が、一つになった。


 敵を倒せ。

 俺たちの敵を殺してくれ。


 重いが重なった瞬間、大鷹族の長を始め、亜人達は不思議な感覚を得た。

 それは、波だ。

 一人一人の意思も願いも小さなものだが、全員が同時に祈ることで、大きな波となって帝都へ届いていく。


「あるいは、これが、奇蹟の原理か」


 亜人達の願いは、聞き届けられた。

 光の槍が、ゲール人の軍勢へと降り注いだ。砦の周囲で光が弾ける度に、悲鳴が上がる。砦の中には、驚いた軍馬のいななきが満ちた。

 大鷹族の長は叫んだ。


「なんという偉大な精霊術師(イファ・ルグエ)だろう! ここからの声も、届くとはな。いったい、誰なのか……」


 成功により、士気はさらに上がった。

 亜人達は一心に願う。


「我らに再び祖先の土地を……!」


 彼らは、それが誰よりも共存を願った少女であることを、知らない。



     ◆



「ラシャ!」


 帝都では、着々と状況が進行していた。

 崩れ落ちた聖堂で、白狼族のラシャは顔を上げる。島からの仲間が、彼を呼んでいた。極彩色の仮面を見ると、自分が島から出た白狼族であることを思い出す。


「なんだ」

「地下の亜人達だ。お前を探しているようだ」


 ほどなく、黒いローブを羽織った男達が、ラシャの前に現れた。


「客人よ。次の戦場にご案内いたす」


 ラシャは一瞬、眉をひそめた。ごく強い訛りがあった。

 ゲール語かと思ったが、古い亜人の言い回しが所々にあった。魔の島で長老の言葉に触れていなければ、とうてい、聞き取れなかっただろう。

 地下にこもっていた弊害かもしれない。


「案内だと?」


 ラシャが聞き返すと、彼らは頷いた。

 黒いローブの隙間から、皺に覆われた顔を見えた。褐色の肌だが、ラシャに比べると相当に色あせている。

 彼らのローブは、地下の亜人の証という以上に、歪な風体を人目から隠すためのものらしい。


「このうえ、まだ戦場があるのか?」

「はい。無念ですが、我々だけでは、十分ではありません」


 聞けば、地下の亜人も一枚岩ではないらしい。地鼠族といった、中心部から遠い氏族は、とっくに離反しているということだった。


「あちらになる」


 ローブの目線は、聖堂の奥へ向かっていた。そこは、マクシミリアンの裁判が行われていた棟へ続く廊下だった。

 少なくとも、天井が崩れたこちらで戦うわけではないらしい。


「承知した。で、場所は隣か」

「はい。鐘楼のある鐘です」


 ラシャは思わず聞き返した。


「……鐘楼だと? 聖教府の、鐘のことか。どうしてそんなものを」


 理由を聞こうとした時、ラシャは反射的に身構えていた。

 崩れた聖堂に、影が動いた。

 警戒したが、現れたのはやせ細った老人だった。よろよろと歩み寄ってくるのは、怪我をしているというよりは、心の虚脱のようだ。


「……あ、亜人、か」


 法衣は、地と土埃に穢されきっている。帽子はすでに失われていた。だがそれは、紛れもなく高位の聖職者だった。


「なぜ、こんなことを」


 老人は、黒いローブの群れへ問いかけた。


「奇跡のために、探求をする。より優れた奇跡のために。そのために、協力するはずだろう?」


 ラシャは素早く推測した。

 地下の亜人達は、聖教府の上層部ともつながりがあったと思われた。


(あるいは、互いに不可侵であり続けたか……)


 地下の亜人について、ラシャもまだ詳しいことは聞いていない。

 しかしその連絡は、厳に秘されていたはずだ。でなければ、フリューゲル家の次女がとっくに何かしらを暴いていたはずだ。


「どうして、裏切った」

「最も重大な探求は、実現した。我々が望む、光の精霊は降臨した。互いに盟約を結ぶ意味は、もうないだろう」

「これがか!」


 老いた聖職者は悲鳴を上げた。


「聖堂を崩したではないか! あれでは、まるで、災害だ!」


 亜人はせせら笑う。亜人にしては、異様に白い頬が不気味に歪んだ。


「違う。違う。誰かが、そう祈ったのだ。あれは願いを聞いただけだよ」


 亜人達はラシャに向き直ると、次の戦場へ歩いて行く。老いさらばえた聖職者など、もはや興味はないのだろう。


(今は、命令通りにやるだけだ)


 ラシャはそう自分に言い聞かせた。

 光の矢が向かっていった南の方角が、少しだけ気になった。それは故郷の島の方角である。



     ◆



 大聖堂から焼き出された人々が、聖教府の島に溜まっていた。

 まずは家に帰ろうとする人もいれば、島内の教会を目指す人もいる。帝都から逃げようと荷物をまとめる家族もあれば、反対に中心部へ戻る人もいる。はぐれた家族を探す声が、あちこちで起こっていた。

 秩序を失った人の流れは、都市の交通を麻痺させていた。


「なんだと」


 アクセルが、呻く。具足を震わせて、常の大声をこらえていた。


「モノリスが、地下に? 本当か」


 混乱は、フリューゲル家も同様だった。

 地鼠族のテオドールと、家令のヘルマンが公女の消息を告げる。宮廷の方角に現れた光の柱を思えば、絶望的な報告だった。


「……お兄様は?」


 フランシスカが、青い顔で問うた。

 ヘルマンが跪いた姿勢のまま、告げる。


「共にいらっしゃるはずです」


 次女はよろめいた。末っ子と兄を、同時に失ったようなものだろう。

 斜めになった帽子もそのままに、橋の欄干でかろうじて崩れるのを持ちこたえる。


「申し訳ありません。我々が、ついていながら……」


 ヘルマンとテオドールに、アクセルは首を振った。

 跪いた二人に歩み寄ると、無言で肩を叩く。


「よい。報告がなければ、我々は状況を知ることさえできなかった」


 長兄として、今は立たねばならなかった。

 俺はするべきことを知っている。

 周囲にそう示すことは、総大将の習慣だ。


「俺の部下は、寄れ」


 アクセルは早速、部下に指示を飛ばす。モノが潜った場所を頼りに、地下の中枢へと通じる別の道を見つけ出すためだった。古い水路を元にした、地下空間の見取り図はすでに用意してある。


「……地下の亜人が、予想を超えていた」


 イザベラが悔いた。顎に手を当てるが、その肩は震えている。


「こんなに危険な連中だったとはね」


 アクセルは顎を引き、同意を示した。

 存在も分かっていた。神官とのつながりも分かっていた。実際、手がかりを集め、接触を図ろうとしている矢先だった。

 的を外したのは、その攻撃性だ。

 十数年、地下にいた。そうした事実から、直接的な暴力や、攻撃性は大きくないと判断していた。事実として、フリューゲル家は神官が率いてきた亜人の軍勢の方を、より大きな脅威として対応していた。

 力が無いからこそ、神官や亜人の軍勢に頼ったのだと、思い込んでいた節がある。

 しかし現実は、どうだろうか。

 彼らは神官と連動し、帝都に無類の破壊を振りまいた。今ではフリューゲル家さえどうしようもない、巨大な光の柱を出現させている。


「……それにしても、あれは、なんだ」


 アクセルは光の柱を見詰めた。


「マナを、感じます」


 フランシスカがぽつりと言った。考えることで、必死に心を平静に戻そうとしているようだ。


「マナだと?」

「はい。奇蹟なのかは、判然としませんが」

「うむ、オットー……いや、いないのだったな」


 こういう時に分析をするのが、魔術師の次男だったが、彼もまた安否が知れない。


「これまでか」


 不意に、静かな声が過ぎった。立ち上がったのは、老境に入った男だった。

 聖ゲール帝国皇帝、ヴィルヘルム五世である。戦いでローブを失っているが、飾りボタンと金刺繍で彩られた内着は、下手な具足よりも見栄えがする。


「どちらへ?」


 アクセルが問うた。皇帝の後ろには、十数名の兵と、貴族達が続いている。

 皇帝は帝都に秩序を取り戻せる、数少ない一人かもしれなかった。


「陛下だ」


 避難し、陣へ逃れてきた人々の間から、そんな声が漏れる。


「宮へ戻る」

「馬鹿な」


 アクセルは目をむき、図らずも言葉を返していた。


「光の、根拠地ですが」

「それがなんだ。余は、地下の亜人をずっと知っていた。今さら地下で何かが起ころうと、慌てる心づもりはない」


 皇帝は兵や貴族を連れて、陣を去った。疲れたような無関心が、その背にへばりついている。

 皇帝は、フリューゲル家にだけ聞こえるように、囁いていった。


「恩恵の、代償だ。これで滅びるのであれば、滅びればよいのだ」


 アクセルは拳を握る。

 皇帝が去ったことで、陣にはいい知れない不安が漂い始める。見捨てられた、と市民ならば考えるだろう。


「……モノリス」


 イザベラが高い光の柱を見上げた。ぎゅっと結んだ唇は、困難に耐える美しさだった。

 フランシスカも錫杖を揺らして、近づいてくる。


「正直なところ、ここまでの混乱も、戦力も、想定していません。どうすればいいのか……」


 うつむき、フランシスカが言った。

 陣の中には、アクセルが率いてきた騎士の他、大鷹族の戦士や、避難してきた住民も混ざっている。光の柱のせいで、本来は影になる場所ですら、白日の光に晒されている。

 人智を超えた現象に、誰もが言葉を無くしていた。


(いや)


 今までと違うとすれば、もう一つ。

 普段なら元気を与えてくれる少女も、この場にはいない。

 フリューゲル家は、何度もあの明るさに救われていたのだろう。


「戦場の言葉に、こういうものがある」


 アクセルは言った。


「こちらが苦しい時は、敵もまた苦しい」


 長兄は陣を見渡す。火を吐くような声で、叫んだ。


「諦めるな!」


 公女もきっと、そう言うだろう。

 イザベラは頷く。フランシスカも、錫杖を揺らした。


「失ったなら、取り戻す。姿が見えぬなら、探し出すのだ」


 檄を飛ばした時、伝令がやってきた。大聖堂の方角からだった。

 アクセル達が防衛を諦めた大聖堂は、何度か光の槍をかすめられ、天井が崩れ落ちている。


「……まだ、中で戦っている者がいるだと?」

「はい。帝都の防衛隊がおります。奇蹟を使う神官も中に詰めていますので」


 聖堂は、いくつかの棟に分けられている。天井が崩れた棟の隣は、鐘楼を持つ、最も背が高い建物だった。

 援軍を送りたかったが、道に市民が屯し、おまけに神出鬼没の亜人が相手とあっては、陣形の把握もままならない。


「状況を整理するには、見た方が早い。あちらの建屋へ行くぞ」


 アクセルは手近な建物に入った。すでに住民は避難しているのか、鍵が開け放たれている。

 他の家族もついてきた。


「……妙ですね」


 急な階段を上りながら、フランシスカが呟いた。運動不足が祟ってか、もう息を切らせている。


「なぜ、大聖堂を、占拠しようというのでしょう」

「最も、防衛に優れた場所だからだろう。宮廷は、もはや城とは言えん」

「です、けれど……」


 建物の三階にたどり着くと、食器や着替えが散乱していた。よほど慌てて逃げたらしい。

 窓は聖教府の大聖堂を、斜めに見る位置だった。正面の天井は所々崩れているが、その裏にある高い塔には、目だった損害はない。かろうじて光の槍が直撃しなかったのだろう。


「ふぅん? 煙が上がっているわね」


 イザベラが目を細めた。

 鐘楼を備えた塔は、根元から煙を上げていた。


「聖堂が……!」


 フランシスカの悲鳴を、長女は制した。


「落ち着いて。木造でもないし、大したことにはならないわよ」


 耳を澄ますと、戦いがまだ続いているのが分かる。


「火は上に向かう。精霊術か? いずれにせよ、塔の上の敵をいぶり出すつもりであろうな」

「……本当に、聖堂を占拠するつもりなのね」


 イザベラが首を傾げた。


「ある種の丘や、高台と同じだな。これは聖堂の取り合いになるぞ」


 アクセルが言うと、イザベラが別方向から意見を述べた。


「……でも、確かに妙ね。モノリスを奪還するだけが目的なら、あんなに頑張ることはない。聖堂に拘るのは、どうしてかしら」

「あの光以外に、拠点を作る、というのはどうだ?」

「それが必要とも思えませんが」


 アクセルの言葉を、フランシスカが否定した。

 家族は一様に、敵の攻撃を思案する。何かの目的があって、まず聖堂を狙ったはずだった。


「鐘楼……かも、しれません」


 思索をしていたフランシスカが、はっとした。指を一つ立てる。


「鐘は、奇蹟の発動に必須のものです」


 フランシスカが言った。


「なにか、我々が鐘を使うことで、脅威に感じさせる何かがあるのかもしれません」


 イザベラとアクセルが、顔を見合わせた。


「聖女よ。何か、とは分かるか?」

「そこまでは。ですが、あの光の柱は、奇跡に関係がある気がするのです」


 ――光の神が現れ、闇を払った。


 フランシスカがその伝承を口ずさむ。何度も語ったからだろう、見事な語り口だった。


「……その線で行くか。オットーがおらん、王太子殿下から、宮廷魔術師を呼ぼう」


 微かな希望を賭けて、軍議が開かれることになった。こうしている間にも、時間は過ぎていく。

 すぐに具体的な手を打てない自分を、アクセルは歯がゆく思った。

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