最終回
私は走っている。
「ハァ…!ハァ…!!」
あの人が私を逃がしてくれた。
私に色を与えてくれた、あの恩人が助けてくれた。
でも、背後で音が響く。
黒い人間がよく持っていたアレの音だ。
私は引き返して、あの男を殺そうと思う。
でもそうする度に足が動かない。
戻れない。
だから私は走り続ける。
無我夢中で、少しでも遠くに。
こんなに走ったのは初めてだ。
足に枝が刺さって血が出る。
石につまづいて転ぶ。
「いたい…痛いよ……」
それでも私は歯を食いしばって再度走り出す。
生きるために、あの人が言っていた私にとって大切な人とやらに出会うために。
朝が来てもまた夜が来ても私は走り続ける。
草を食べて虫を食べて、飢えをしのぎながら。
私はあの人が好きだ。
あの人の笑顔が今でも脳裏に浮かぶ。
だからこそ、あの人のためにも、私は絶対に見つける。
私にとって大切な人に。
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赤いスーツの男、CEOが画面に映るディスプレイの前にストップとスペースレンジャーがいる。
スペースレンジャーは無くなった右腕の切断面を包帯で覆いふてくされた顔でいたが、ストップが恭しく画面に映っているCEOに頭を下げ始めたのを見て遅れて頭を下げる。
「我らが副会長様、此度の失態は誠に申し訳ございません
。我々の力が及ばない限りに…」
『あぁ、いいよいいよ。君たちは頑張ったのだから』
CEOに言われて頭を上げる二人。
彼らはある失態を犯した。
それは重要な能力者を研究施設からの脱走を許したことだ。
『あの少女は異常脳力の中でも異常。色の識別が出来ないのと引き換えに負の感情を向けた相手を『ダイヤモンドに変える』といった異常で貴重な脳力…あれを反政府組織に売ってしまえば戦況はひっくり返り、それと同時に資金源も手に入ってしまえば価値の混乱が起き、第三次の風潮を起こす引き金になるはずだ』
「はい、重々承知しております」
『今回の騒動で損失はでかいが、死んだ兵士達のお陰でダイヤの売り手がついた。損失もそれで補えるし、余りもある。今回の騒動でそれがハッキリと分かった。問題は手元に無いことだ』
CEOは画面内でシャーロック・ホームズ・ハンドの仕草をして彼らに睨みを効かせる。
『捕らえろ。保護する者は容赦なく殺してもいい。そちらの戦力でも十分だろうが、あの少女が何をするか分からない。こちらからも優秀な異常脳力者を何名か送るのでリストを確認しておけ』
「はい」
「りょ、了解しました」
『いいか、絶対に捕らえるんだぞ。これに失敗したら私は君たちを許さないからな』
凄みの効いた声にスペースレンジャーはビクリとするが、ストップは涼しい顔でそれを聞き入れた。
それを告げてからCEOは画面を閉じた。
暗くなるディスプレイの前でスペースレンジャーはホッとする。
本当のところ、彼はあの少女にはもう会いたくはなかった。
あちらから部下が送られてくるのであれば自分が現場に出る必要はない。
まだ手下もいる。
そう思っていたが、ストップはこちらを見て言ってきた。
最悪のセリフを。
「では全指揮権はここの施設の局長であるスペースレンジャー、貴方にしてもらいましょうか」
やられた。
ここには監視カメラもある。
証拠を取られた。
ここで拒否すればCEOから罰が下されるはず。
それが意味することは死だ。
「わ、分かった……俺が、お前らをこき使ってやる」
逃げ道を塞がれたスペースレンジャーは、悔しく思いながらも了解をとった。
それを見て、ストップは笑う。
「約束ですよ?」
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あれから何回目の夜だろう…。
もう疲れた、フラフラだ。
私はもう森を抜けて街の明かりが出る離れにいた。
痛い足を無理やり動かして人気のない建物に入り込む。
建物の地面は冷たくて、ハッキリとわかる人工物だ。
内部から人の声が聞こえてくる。
男の声。
しかも複数だ。
声のする場所に向かう。
一室だけ光がついていた。
あれから初めて出会う人間だ。
私は、そこに入って少し食べ物をもらおうと思い部屋のドアを開ける。
そこは、私が見たもの以上のサイケデリックな場所だった。




