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戦乙女と少年王  作者: うすい 京
第1章 戦場に帰るには賭けに勝たねばなりません!
6/14

第5話 二刀流の戦乙女

今回は少なめの4000字程度。

毎回5000字到達を目標にしているのですが、今回は区切り的な問題でこのぐらいに。

「銀髪の令嬢…ね」


「それだけでは何とも言いようがありませんが、彼女が領民達の前に姿を現した時期と『陛下のお言葉』の発表の時期が近いのです」


「『陛下のお言葉』とは何だ?」


「この度の戦の1年ほど前に大臣や主要な貴族に向けてのお言葉で、『1年後に美しい銀髪を持つものを王妃に迎える予定だ』との内容でした。その直後に辺境伯領でブランシュ嬢の姿がお目見えとなったわけです。白の民は血族以外と結婚することはないに等しいので、そう簡単に銀髪の人間が現れることは、不自然なのです」


「ボーモン辺境伯の狙いは娘を王妃にするという所だな…しかも実の娘ではないのかも知れないものをか。そうすると、辺境伯領の白の民の一族が関係している可能性が考えられるわけか」


「はい、金回りが良くなったのも、白の民が関係すれば納得が行くことが多いのです」


 ジェラルドの言葉にグロリアは首を傾げた。


「何故だ。白の民と金回りに何の関係がある」


 グロリアの様子を見てイヴォンが意外だとでも言うような表情で見る。


「グロリア様はお母上が白の民なのに知らないんですか?白の民と言ったら優秀な人材の集まりで、色んなことに精通していて、物事を動かして、新しい物を発明して世に送り出したりするから…金の回りが良くなるんすよ。莫大な金が動く時は大抵白の民が関わってるってのは、ここの国じゃ常識っす。白の民はこの国の宝っすよ」


「そうなのか、母はあまり白の民の事については話さなかったからな」


 グロリアは改めてカトレアとフローシアでの白の民の待遇の違いを実感した。

 カトレアでは白の民に手を出し、その報復にあったもの達から野蛮な下層生物と言われている。

 最も相手に力量も測れず、その価値も見出せないカトレアの者の方が愚かであることは言うまでもないのだが。


「我々が拾った情報は全て王都の酒場や遊戯場での噂なので、現地での情報が入っていません。やはり、現地に近い内に入った方が良いかと思います」


「分かった。では出発は5日後でどうだ。今日含めて5日で溜まっている全ての仕事を終わらせてしまおう」


 グロリアが腕まくりをして気合いを入れ始めると、3人の表情は一瞬にして真っ青になった。


「あの、グロリア様…どう頑張っても5日で終わる分量ではありませんよ…もしかして5連続完徹コースでしょうか」


 リュシアンは先ほどまで纏っていたキラキラとしたオーラが一気に消え、哀愁すら漂わせ始めた。

 リュシアンからすると女遊びでの徹夜は良いが、仕事で徹夜は苦痛でしかない。理由が「仕事が嫌いだから」ではなく、「自身の美しさが損なわれるから」という事をグロリアが知るのはもう少し後のことである。


「安心しろ、最終日には定時にきちんと上がれるようにする。私も仕事をするのだから、大丈夫だ。リュシアン、私を誰だと思っているーーー『万物に通じる戦乙女』だ。どんな戦場であれ、必ず仕事は完遂させるーーー皆の者ついて来い!」


 グロリアが尊大な笑みを浮かべ3人を見ると、3人とも仕方がないとでも言うように肩をすくめる。


「わかりました、仕事を完遂させましょう」

「グロリア様に負担をかけ過ぎないように頑張ります」

「ついて行くっす姐さん!」


 グロリアは満足気にその光景を見て、「よし、仕事を片付けるぞ!」と言い放った。



 ********



「まだまだ〜!持ち帰った分は全て終わらせる〜!」


 グロリアは一人自室で声を上げながらペンを高速で動かす。彼女はペンを両手に持ち、高速で動かす。一人で二倍の仕事がこなせる、というこの技が身についたのは、勿論カトレア軍部で武将をしていた時に身についたものである。

 グロリアだからこそ出来る技であって、常人ならば作業効率が落ちるものだ。

 現に昼間、イヴォンが挑戦しようとして開始3秒後には諦めていた。

「はぁーっ!」と意味もない掛け声を室内に響き渡らせていると、部屋のノックと共に「入るぞ」と声がかかった。

「どーぞ」と適当な返事をしながら、グロリアの視線は書類の上を見続けながら、手を動かす。

 部屋に入ってきた人間は呆れたようにグロリアを見た。


「初日から残業か?」


「はい。もう少しで終わるので、適当に寛いでいて下さい、アラン」


 アランはソファーに腰掛け、二刀流で書類を書き進めるグロリアを物珍し気に眺めていた。

 因みに、グロリアの自室には執務の出来る机がなかったため、急遽ジョセフに無理を言って、夕食を食べている間にいれてもらったのだ。


 数分も経たぬ内にグロリアから「終わったぁ〜」との声が発せられた。書類を纏めてカバンにしまうと、アランの向かいのソファーにボフッと崩れ込んだ。


「ご苦労様だ、グロリア」

「はい、ありがとうございます、アラン」


 先程まで書類から視線を上げていなかったため、グロリアはアランを初めて視界に入れた。

 昨日の夜はきちんとした格好をしていたアランだったが、今日は随分と楽な格好をしている。もしかしたら、今日は仕事が全て終わって、後は寝るだけなのだろうとグロリアは勝手に納得した。


「疲れている所悪いが、ボーモン辺境伯領にいくことについて話したいことがある。計画はジョセフから聞いている」


「その事ですが、変更点が有ります。5日後の出発を3日後にしようと思います。この調子なら思っていたよりも早く仕事が片付きそうなので」


「やはり、仕事も出来るのだなグロリアは」


「いえ、大したことではございません。ただ、明日から社交マナー講座が免除されることになりましたので、その分の時間を仕事に充てることが出来るのです」


 アランは目を見開いた。


「ジョセフからの合格が出たのか」


「はい。カトレアとフローシアのマナーは大体同じでしたので、問題ありませんでした」


「昨日は社交に自信がなさそうだったが、不得意ではなかったのだな」


 またもアランは驚いた様子で私を見る。


「ええ、様式美の違いが少々心配なだけでしたので。仕事の都合上、男としても女としても、テーブルマナーやダンスはこなして来ましたからね」


「男としても、女としてもーーーとは、どういうことだ?」


「武将として会に呼ばれる時は軍服姿なので、男性ともダンスはしましたが、寧ろお嬢様方とも踊る機会が多かったのです。他にも訳ありで諜報活動をする時は、仮面舞踏会では両方の性別を使いました」


 今となっては懐かしいものである、とグロリアは感慨深く思った。

 昔に思いを馳せていたが、アランがこの部屋に来た理由を思い出した。


「アラン、計画のことで何かあったのですよね」


「ああ、監査室は臨時の仕事の入らない部署だから、仕事さえ終わっていたら全員出払っていてもいいが、護衛は最低一人は連れていけ」


「やはりですか。文官だと戦闘不可能ですしね…私も大勢に囲まれたら、自分一人ならまだしも味方を傷一つ付けずに…というのは困難ですからね」


「一人なら大丈夫なのか…俺はお前の心配もしているんだかな……」


 アランは顔に手をやり、ため息をついた。


「まぁ、軍部と近衛騎士団の方には話は通してある。明日の朝、訓練場に顔を出して手合わせがてら護衛を見繕ってくるといい」


「ありがとうございます。これは腕がなりますね」


 グロリアのわくわくとした様子を察して、慌ててアランが忠告する。


「使い物にならなくするなよ!そこまで弱い奴が明日の手合わせに参加するとは思えないが、傷が付いたら護衛に連れていけなくなるからな!」


「大丈夫です。引き際は分かってますし、審判もいるでしょうから」


 目を輝かせ、「剣の手入れを朝にでもしないといけませんね」というグロリアに、もう何を言っても無駄だと悟ったアランは、ただ明日の手合わせが無事に終わることを祈るだけであった。


「要件は以上ですか」


 高揚した気持ちが前面に押し出されたグロリアにアランは「それだけだ」と答えた。


「では、扉までお見送りします」


 心からの笑みでアランを自然と追い出しにかかるがーーー


「何を言ってる。俺の寝所はここだ」


 グロリアは(たちま)ちフリーズする。心からの笑みも固まったままである。


「別に疚しい意味合いではない…隣で寝るだけだ」


 グロリアの素振りにアランは軽くショックを覚えるものの、鋼のメンタルで立ち直る。


「最近、ちょこまかとネズミが煩いから警備を固めるためにだ。お前の隣なら一番安全だろ」


 わたわたと慌てふためきながら説明をするアランを見て、グロリアのフリーズは解かれた。


「しかし、戦乙女(わたし)の隣でいいのですか。寝首を刈られるかもしれませんよ」


 悪戯をするかのような調子でグロリアはアランに笑いかける。しかし、内容は全く笑えないことにツッコミを入れる人間はここにはいない。

 むしろアランは真面目な表情でグロリアを見つめる。


「大丈夫だ。諜報部の方で、お前がカトレア側の手先でないことは洗ってある。それに、

 ーーー俺はお前を信頼している」


 熱っぽい蒼い瞳と少し低めに出された少年の声に、グロリアはたじろぐ。


「信頼して下さり、あ、ありがとうございます……アラン」


 居心地の悪さを覚えてグロリアは視線を落とす。

 その姿に満足したアランは、グロリアの手を取り、扉続きの隣の寝所に進む。

 引っ張られる様な形でグロリアついていくグロリアだが、ふと自分達以外の気配を感じ、気配の感じた方を見やる。

 するとそこには音もなく扉を開けたマリーがいた。どうやら部屋の灯りを落としに来たようだった。

 マリーと視線が合うと、マリーは何やら生暖かい視線を送ってきた。

 居た堪れなくなり、逃げる様にその場を後にした。

 音を立てず、気配なく部屋に侵入したマリーを見てーーーその道の本職の人なんだろうなと思うグロリアであった。



 この後、ベッドの上でグロリアの主張で領地分けがあり、真ん中にグロリアの剣を置くことで分離帯を作成したがーーー翌朝にはアランの寝相の悪さで何の意味も成していなかったのである。

次回は個人的にお待ちかねの手合わせ編。

戦乙女なのに、まだ暴れていないグロリアを思う存分無双させてやる!


追伸:タイトルの「二刀流の戦乙女」とはあくまでも(・・・・・)ペン二つ持ち(あとちょこっと、男装も女装?もいける)の意味でーーー


ーーー他意はありません!(;゜0゜)

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