第10話 調査開始
今回は区切りが悪く、短いです。ごめんなさい。
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夜が明け、陽が少し上った頃、グロリア達の活動は始まる。
「リアさん〜、おはようございます。朝っぱらから何処にいってたんすか」
宿から出てきた寝惚け眼のイヴォンがグロリアに挨拶をしてきた。旅の疲労が睡眠だけでは回復には至らなかったらしい。文官で日頃運動をしないため、体力不足だから仕方がないと言ったらそれまでなのだが。
時間からして朝食を取り終えたようだが、まだ脳味噌は覚醒に至っていないようだ。
両脇を歩くリュシアンとジェラルドにフラフラと歩いてはぶつかっている。
「ああ、宿屋の主人からの依頼でニコとロゼ姐さんとちょこっと森に熊狩りをしに行ってた」
「朝から活動的ですね〜」
「ほんとですよ、僕が朝が苦手なの分かって起こしにくるからタチが悪い」
グロリアの背後からニコラが不機嫌なことを取り繕わず、恨み言を垂れた。
「何を言ってる。今回の旅の間にお前の体質改善を目論んでいるだけだ。人聞きがわるいぞニコ」
「何処にそんな要素がありましたか」
「起床と共に熊狩りをして、それから食事に色々と混ぜたじゃないか」
「げっ、いつの間にか何かもられてたのかよ」
ニコラはグロリアから一歩距離を取った。
「大丈夫ですわぁ、ニコ坊や。全部体に良いものばかりですからぁ」
ロゼールがウフフと口に手をやり、微笑んだ。彼女は先程解体した熊を宿屋の主人に叩き売り終え、満面の笑みを浮かべている。
「いつの間にか『薬室の魔女』の実験台になっていたなんて…」
ニコはガクンと肩を落とした。
たった2日の付き合いであるが、ニコラの中でロゼールは逆らえない存在と認識されつつある。これは年の功ともいうべきかもしれない…と言ったら、ロゼールは「あらあら、年の功だなんてぇ。私はそこまで年じゃないわぁ」と言うのかもしれないが。
「リア様、用意が整いました。いつでも出発できますわ」
グロリアの専属侍女マリーは幌馬車に荷物を積み終え、馬車の整備を終えたみたいだ。彼女は献身的サポートでこの旅を支えている。こういった身の回りのことは、彼女がいるお陰でスムーズかつ快適さを保っている。
「マリ、準備をありがとう。じゃぁ、出発しよう!」
グロリア達は幌馬車に乗り込む。
今日から目指すはボーモン辺境伯のお屋敷の方向。
いざ出陣!と言わんばかりに、彼らは幌馬車を進めた。
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御者台にはニコラとリュシアンが座り、残りの面々で幌馬車の中で作戦会議を開催していた。
因みに御者台行きの人選は「主役ペアで目立っておけ!」とのグロリアからのお達しで決定した。グロリアの執念深さというべきか、戦略というべきかはグロリアのみぞ知る。
「ええ、今後の予定ですが、このまま辺境伯邸周辺の周りの村で講演しつつ、情報収集をしようかと思います」
「リアさん、下手に屋敷の周りに近づいては危険が高まりませんか」
「そうですね。でも、『虎穴に入らずんば、虎子を得ず』という古い言葉のように、ここは敢えて相手の懐に潜り込みましょう。しかし、それは全員ではありません」
「といいますと?」
「リュリュとニコとイヴは公演をしながら聞き込みをしてほしい。専ら辺境伯領や辺境伯とその娘に関する噂話をだ。理由は『次の公演の題材にならないか』みたいな所で聞くといい」
グロリアとジェラルドの会話にロゼールが質問をした。
「リアちゃん、連絡手段はどうするのぉ」
「あっ、それは予め用意してあるので大丈夫です」
グロリアは鞄をガサゴソと漁り、何かを取り出した。
「これです。リア様お手製の通信機!」
「「通信機?」」
ジェラルドとイヴォンの声が被った。
「雛形は母から貰ったものですが、これはそれを改良したものです。結構長時間使える便利ものです。使い方は簡単、このようにして……操作をすると通信先の通信機が光り、振動し、熱を発します」
「リアさん、それも魔法っすか?」
「魔法だね…多分」
「多分って…」
「一から作った訳ではないから、これをなんと分類すべきか私もわからない。ただ、安全性は確保されてる。安心しろ」
訝しむイヴォンにグロリアは胸を張る。イヴォンとジェラルドは繁々と手に取った通信機なるものを眺める。
「リアちゃん、私も見ていいかしらぁ」
「もちろんです」
ロゼールは手に取り、興味深そうに眺めまわす。一通り検分し終わるとグロリアに返し、大層機嫌良さ気に語りだす。
「面白いもの作るわねぇ。魔術の他にも何か使ってるみたいなのはわかるけど、それ以上は分からないわねぇ。帰ったら、一緒に研究したいわぁ」
「ジョセフは違うとは言ってましたが、やはりロゼ姐さんは魔術師なのですね」
「うーん、ちょっと違うのよねぇ。魔術師を『術式を組んで発動させる者』と定義するなら、私は完全にそうではないのよぉ。そうねぇ、魔法を『この世の不思議な出来事や力』と定義するなら、それを行使する女の私は『魔女』なのよ。だから、『魔女』と呼ぶのが適切なのよぉ。あっ、今のは秘密よぉ皆さん」
唇に人差し指を当て、ロゼールはウィンクを送る。
一同は心の中で、「機密事項をほいほい話すな!」とツッコミを入れたが、存在自体が機密事項さを感じさせるロゼールとグロリアが一行にいる時点どうしようもないのであった。
イヴォンに通信機を託したグロリアは、マリー、ロゼールそしてジェラルドを連れて幌馬車から降りて二手に分かれた。
降ろして貰った位置は辺境伯邸から程遠く且つ白の民の住むと言われる森の近くだった。
「やはり怪しい所から探りを入れるしかない……とは承知の上ですが、あまり気乗りのしない場所ですね」
ジェラルドは眼鏡を押し上げ溜息をついた。
「大丈夫だ、ジェラルド。お前は周辺の村への聞き込みを頼む予定だ。森への人の出入りを調べて欲しい」
「わかりました。では、リアさんは?」
「私は森の境界線ギリギリまで行ってみようと思う」
「お一人でですか?」
「いや、ロゼ姐さんについてきて頂こうかと思っている。……『薬室の魔女』殿の領分な気もするからな。あっ、安心しろ。ジェリーには護衛としてマリーを付ける」
ジェラルドは目を点にしてマリーを見つめた。
「腕は確かなので、安心して下さいませ」
マリーが温かにジェラルドに微笑むと、ジェラルドは少々頬を赤く染めた。
(マリーの女神様オーラに惚れたのか、ジェラルド!年上のお姉さまに守って貰いたい派なのか!?冷静沈着キャラが崩れているぞ!マリーに近づきたいなら、私を倒してからだ!)
グロリアは即座に視線でジェラルドを牽制した。ジェラルドは視線の意味を理解したのか、グロリアの意図的に放った殺気に恐れ戦いたのか、身震いをして、「調査、頑張ります」と直立不動で宣言した。そして、ジェラルドに通信機を預けるとそこから再び二手に分かれた。
こうして、本格的な調査は開始された。
数多の思惑の蠢く中、グロリア一行はそれぞれ歩みを進める。
たとえ目の前に何が立ちはだかろうとも。
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ある者は遠くから王城を見つめていた。
朝焼けの中、長い影が二つ伸びる。
「やられたな。後手に回るのはこれで二度目か。少年王も中々喰えない奴だ」
「如何なさいます、マスター?」
「これから彼方に向かう。用意をしろ」
「イエス、マイマスター」
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ある者は街中を歩き、機嫌良さ気に独り言を呟いていた。
「あの人たち、何処に行ったのかしら。もう一度、お会いしたいなぁ。そうだ、あの方に頼んで探して頂こうかしら」
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ある者達は遠くからグロリアとロゼールを見つめていた。
「ラン、近づいてるね」
「綺麗な魔力だ」
「再会の時だね」
「ロロ、会ったことのない場合は再会とは言わないと思う」
「ラン、細かいところは気にしちゃダメだよ」
「……」
「黙り込まないでよ、ロロ、もう早く会いに行くよ」
「ああ、勿論」
そうして、彼らはその場から姿を消した。