第3話 記憶
統括本部システム整備の仕事は、まともに就こうとなると狭き門のようだが、職業訓練としては人気で、受け入れ人数も多いらしい。とは言え、テルルもてっきり、統括本部の中に入れるのかと思っていたが、実際の訓練場所が別の建物だったのは少し残念なことだった。
テルルとしては、基幹システムの仕事には特に興味が無かった。それよりもテルルは、多かれ少なかれ、統括本部の内情を知りたいと考えていた。けれども、いざ職業訓練を受けてみると、論理回路やワークフロー実習といったことばかりで、肩透かしの内容だった。よく分からないが、大してやることは無さそうだ。
そんな中、職業訓練の最中に、斡旋所からクロムが訪ねてきた。訓練の状況を調べるためらしい。クロムは指導官としばらく話した後、テルルの訓練の様子を終業時間まで観察していた。
その日の帰り道、二人は久々に近況を話し合った。しかしやがて会話も途切れ、いつしかテルルはクロムの生活について、想像を巡らせていた。クロムはミスも多いかもしれないが、同年代の子供と比べればかなり優秀に見えた。そんなクロムを見ているうち、テルルは一つの記憶を辿り始めた。
「クロムは知らなかっただろうけど」
「何ですか?」
「俺の妹が、今本部にいるはずなんだよ」
「本当ですか!? すごいじゃないですか。幹部候補生ですよね?」
「……多分ね。妹の年はクロムと同じくらいで、名前はセレンって言うんだけど。優秀で、俺と3つも離れてるのに、基礎教育は俺よりも先に進んでたんだ。多少は羨んだこともあるけど、でも嬉しい気持ちの方が強くて」
クロムは黙って聞いていた。
「ある時、本部から人がやって来て、妹を候補生として招待しにきたんだ。親も喜んでたし、翌日にはもう、妹は本部に行ってしまったんだけど。それからずっと、忙しい毎日を送っているらしい」
「らしい、というと……?」
テルルは思わず、口をつぐんだ。
「もう最近、全然会っていないんだよ。よっぽどやりがいがあって楽しいんじゃないかな。俺は頭も良くないし、特にやりたいことも無いし。また会うのは、当分先かもね」
クロムは思わず、テルルの体を引き留めた。
「いや、頑張りましょう! それで、妹さんにまた会いましょう!」
クロムがあまりにも簡単に言うので、テルルはつい笑ってしまった。まだクロムは、テルルの気持ちがよく分かっていないようだった。けれども、その時のクロムの表情は、テルルが家に帰っても、夕飯を食べても、寝床についても、何故か忘れることが出来なかった。




