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ヴァルメリア伝説  作者: 紫乃
第一章 白と黒の境界線
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1-3 高貴な彼が求めたもの

遅れて申し訳ありませんでした。

綺羅々(キラキラ)と、ランタンの灯りを反射して眩く輝く銀髪。

身体をすっぽりとマントで覆い、怪しさ満点の男性。

彼は驚いたことに、この大陸で最も高貴な血統であると敬われ続けている“│正統なる血族ヴァルメリア”の人間だった。

ピノスは、あまりの事態に言葉も出ない。


「自己紹介をしておこうかな」


そう言って、この国でも最も尊いとされる一族の男性はにこやかに笑う。

何か言おうとするも、やはりピノスは口がぱくぱくして言葉が出ない。


「私の名前はフィリップ。フィリップ・ヴァン・ヴァルメリア。

既に理解していると思うけれど、“正統なる血族ヴァルメリア”に名を連ねている。

なんでまたこんな所でと言うと、この店のオーナーは昔、僕の教育係だったのさ」


ね、っと目の前の銀髪の男、フィリップはウィンクをした。

案外、気さくな性格をしているのかもしれない。

驚きのあまり己を喪失させていたピノスも、少しずつ己を取り戻し始めた。


「さて、とりあえず色々と説明してあげないと、かな?

いまもまだ混乱してるみたいだし、今回の件について君に話しても問題ない範囲で教えるとしようか。

なにか質問があれば、とりあえず後でまとめて聞くからね」


そう言うと、フィリップはごそごそとマントのなかに手を突っ込み、懐を漁る。

よいしょという言葉にあわせて、彼は懐から4つ折りに畳まれた分厚い紙を通り越した。

羊皮紙ではなく、おそらく製紙されたララントの紙であろう。

羊毛業が盛んな大陸東南部では羊皮紙を一般的に用いられる。

しかし、大陸中央部などの高官が用いる書物には丈夫で破れにくく、それでいて滑らかな肌触りの鳥糸紙が使われる。

ララントは大陸中央西部の休火山地帯に生息する極彩色の巨鳥であり、巣を作る際に彼らが体内で生成する粘糸を乾燥させて強固な棲処を造ることで有名である。

軽く、燃えづらく、丈夫で、滑らか。

入手も困難であることと相まり、やたらと高級なものだ。

よって、富を蓄えている帝国の高官が、重要書類を作成するために主に使われているという。

これまた、一般民のピノスでは消費はあろうことかお目にかかることも稀な代物である。

畳まれた分厚いララントの紙、通称鳥糸紙をフィリップが捲ると、テーブルを覆う程度の大きさに広げられた。


「まずはじめに、説明することとして、私の現在の状況を説明しよう。

今回、私が騎士訓練生の最終試験に匿名で参加していたことには理由がある。

その一つ目として、この地図を見てもらいたい。

あ、この地図はちょっとした高価で貴重なものだから汚さないようにね」


ピノスは、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。

最も高貴な一族が高価だというものだ、何かあれば弁償では済むまい。

両の手を太ももの上でぎゅっと握り締め、固唾を呑んで話を聞く。


「ここが、ヴァルメリア大陸の中央部、いま僕たちがいる帝都だね。

君は騎士の国出身だったね?

ということは、帝都のある中央から東南にいけば、君が住んでいた国があるってわけだ。

注目して欲しいのは、騎士の国とは反対側、帝都からみて西側だね。

こっちには、宗教都市サマがある。わかるね?」


ピノスはブンブンと頷く。

緊張して強ばった顔をみて、そんなに緊張しなくてもいいよとフィリップが笑う。


「サマから、ここの帝都まで結ぶ道がね、どうも整備が不十分でね。

そろそろ綺麗にしたいんだけど、ここらへんには危険な生物がたくさんいる。

そこで、現ヴァルメリアの第一皇位継承者たるこのフィリップが、交通の要道の配備を行おうと思ってね。

父の騎士団から人を借りて、整備中に治安維持を行うつもりなんだ。

私はその治安維持の指揮をとって、要道の整備には道造りの職人たちにお任せってわけ。

危険生物やら、ならず者がでたら、バッサバッサと斬ってやるんだ、こうちょちょいのちょいとね」


そう言って身振り手振りで可笑しく話すフィリプの調子に、ピノスも頬が緩む。

その様子をみてまたニコリとフィリップが微笑むと、話を続ける。


「そんなわけで、一大事業に勤しむにあたって、身の回りの世話をしてくれる人の話が持ち上がってね。

洗濯とか食事とか、そのへんは女中に頼むことになってるからいいんだけど、雑務がね・・・。

いや、可能であれば全部自分でやりたいんだけれども、上に立つ人間は周りを動かせ!って父がうるさくて・・・。

そういう次第で、私はいま、自分の右腕代わりになって動いてくれる人材を探してるわけ。

そこで、君の出番さ」


ビシっと音が鳴りそうなキレのいい動きで指を指される。


「騎士訓練生から一人、今後も僕の身の回りで頑張ってくれる新人をと思ってね。

何者にも染まってない。

まだ何者にも至っていない。

将来有望な、そんな期待の新人くんを、ね。

選んだ基準なんて簡単さ。

僕が、こういう人がいいな、って思った基準で選んでるからね」


ニコニコと笑顔で説明され、はたとピノスは気づいた。

いま思えば、あの怪しさ満点の家門プロフィール。

おそらく、あれでふるいにかけたのだろう。


「最近の騎士訓練生、ひいては騎士たちはね。

ちょっと、特権意識っていうのかな、自意識が強いんだよね。

それでいて自己評価を高めるどころか、高すぎて意固地になる人間まで現れる始末。

それが悪いとは断ずることは、私にはできないけれども、少なくとも私に合わないものでね。

それで、自分にあった騎士を持ちたいと思ったんだ。

新しいことに挑戦する気概と、家族や大事な人を守る意思を持つであるかどうかを試したんだ」


「家族や大事な人を、守る意思・・・」


そこで、初めてピノスは口を開いたのだった。


「そう。

君のことは大よそ調べがついている。

というより、騎士訓練生全員の、かな。

どこの家門か、とか。

どういう騎士を目指している、だとか。

そういった個人個人に対する訓練所の教官のつけた評価があってね。

それを、無理をいって事前に見せてもらっているんだ。

この子がきたらいいなーとか、この子はちょっとやだなーとか。

そういうのを、あらかじめ把握しておいたんだ」


恐ろしく真剣なことだ、とピノスは思った。

騎士訓練生一人一人を把握しておくだなんて、同じ訓練を受けていたピノスでさえ把握しきれていない。


「実は、君が待ち合わせでこの店の前に立っているのを、遠くから観察してたんだ。

その時に、もう一度君の個人情報を見直していてね。

本当によかったよ。

君が来てくれて。

僕も、君みたいな純粋に家族を想える人に来て欲しいなって思っていたんだ。

そう」


そして、フィリップは静かに席から立ち上がった。

マントを翻すように両手を広げ、熱く語りだす。


「そして驚くことに、君一人だけがここに現れた。

そう、君だけなんだ。

たとえ偽りであろうとも、僕を選んでくれたのは!」


目は輝くように、表情は満開の花のように。

両手を広げ、喜色満面でフィリップは滔々と言う。


「君が来てくれて、本当によかった!」


銀の長髪が、彼の言葉の熱意を伝えるように、揺れていた。

息を乱し、興奮げに語る彼の言葉に、ピノスは胸を打たれた。

そして、自然と笑みが浮かび、そして涙した。

ピノスにとって、母以外では初めてだったのだ。


外見ではなく、内面で人に認め、そして求められたことが。

国・都市などの説明については順次していく予定です。


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