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86話 “女神”との接触


 出発から数日、ついに私達はシント王国へ到着した。

 大量の騎士に守られながら整備された道を進む旅路は実に快適なものだった。


「ここがシント王国か……」


 流石は世界で一番発展している国というところか。建物は綺麗に立て揃えられ、その景観な街並みはどこか清らかな雰囲気が漂うようだ。

 だが、私が感じた印象はそれだけではなく……。


「これだけ広大な街だいうのに、賑やかさがどこにも感じられないな……」


「ワウン(今まで寄った街はどこも人の明るい表情で溢れてたのに……ここはまるでお葬式っすね)」


 それは流石に言い過ぎだとは思うが、確かにここにはブルーメのような人々の賑やかさは無く、なんだか寂しい。


「ささ、こちらです」


 そんな街の中をスタスタと歩いて行く二人。その反応を見る限り、ここではこれが普通ということか。

 本拠地だからか流石に仮面もしてないしな。




 案内された先には、超巨大な王宮張りの建物がそびえ立つように建っていた。


「ここが女神様の住まう『女神の神殿』でございます。では参りましょうか」


 神殿でこの馬鹿デカさかよ。東〇ドーム何個分だよまったく……これじゃ第三大陸で見たお城の方が霞んで見えるようだぞ。


 とか私が考えてる間に二人は建物の中へ入っていく……もの凄く目立たない場所にある裏口のような場所から。


「なぜこんなところから入らないといけないんだ?」


 別に招待してるなら正面から堂々と入ればよかろうに。


「先日お話したように我々に与えられた任務は女神様直々の極秘任務。故に同じ女神政権の者であってもそのことは知り得ませんので」


 私の疑問をおっさんが説明してくれる。

 なるほどな、女神の任務はこの二人を含めた四人以外は知らない。なのに女神政権の人間しか入れないこの場所に部外者である私が堂々と入ればそりゃ大騒ぎになってしまう。

 しかし、それでは建物内で偶然バッタリ誰かと出くわしても結構問題になるんじゃないのか? とも疑問に思ったが、道中はなんともまぁスルスルと誰にも会わずに進んでいくじゃありませんか。


「この建物はいつもこんなに人がいないのか? 女神政権にはそれなりの規模の人間がいるはずだが」


 これらの情報は、主に貴族と関わりの深いエリーゼとシリカ、そして監獄の面会時にリオウから話を聞いていたから知り得たことだ。

 いつかこの連中と関わってしまった時のために仕入れていた知識だが、まさかこんなに早く使うことになるとはな。


「いえ、この建物には大勢の人間が毎日女神様のために働いておりますよ」


「この通路はこの『女神の神殿』内で唯一女神様とお会いすることができる謁見の間へ続く通路なんです。普通は女神様とお会いになることなんてとてもじゃないと出来ませんから」


 おっさんに続いて娘さんも説明してくれた。

 しかしまぁ、ここまで徹底して人を寄せ付けないか……自分の身の安全を考えてのことか、それとも別の意図でもあるのか。


「さぁ着きました。この奥に女神様がおられます。どうか無礼の無いように」


 それは約束できんな。私は詳しくも知らない相手に媚びへつらうような真似はしない。

 ま、女神がもし絶世の美女とかだったら私は自分を抑えられないかもな!


「ワウ(期待が大きいと裏切られた時のショックも大きいっすよ)」


 うるへい。毎度ながら私の考えを読むんじゃない。

 とにかく、ついに女神とのご対面だ。


「では、行きます」


 巨大な扉が開き、目の前にはこれでもかという程大きな部屋が現れた。

 そして階段の上、カーテンの先には誰かがそこに立っているのがそのシルエットでわかる。


(あれが……“女神”か)


 娘さんの言う通り、確かにシルエットではわかりづらいが背はそこまで高くないように見える。


「女神様! ご命令通り資料の者を連れてまいりました!」


「……ありがとうございます、この御方とはわたくしが話をしますので、あなた達は下がってください」


「畏まりました。ではムゲン殿、我々はここで」


 そう言って二人はこの場から立ち去っていく。

 さて、これで女神と一対一……プラス犬か。しかし、あの向こうにいるのは仮にも“七神王”の一角、油断してると痛い目を見るかもしれない。


「なぁ女神さんよ、なぜ私を呼んだんだ!」


 まずはこちらから先制……さぁどうくる?


「……」


 反応なし? そちらから呼んで呼びつけておきながらそれは酷くないか。


「何か用があるから呼び寄せたんじゃないのか! なんとか言ってみろ!」


「ワウワウ!(そうっす! 理由くらい話すっす! それに用があるならキチンと向き合って話し合うべきっす!)」


 いいぞ犬、もっと言ってやれ。


「……そうですね、確かにこちらの顔も見せずに話し合うというのは失礼でしたね」


 お、こちらの言い分を少しは聞き入れてくれるようだな。あれ? でも今の会話、なんだか違和感が……まぁいいか。

 しかし、ついに“女神”とご対面か……。


ゴクリ……


 私が息をのんだ次の瞬間、カーテンがゆっくりと開かれていき、その先から現れたのは……一人の少女だった。

 蒼い瞳にツーサイドアップにされた金色の長い髪は、その身に纏っている純白のドレスによく似合っている。

 しかし、思っていたよりも……かなり小さいな。顔立ちは整っているし、もの凄く可愛い! だが小さい。ミミ以上シリカ以下ってところか? 150もなさそうだ。

 だが彼女達と圧倒的に違うのは……。


「ワウ(ご主人、気持ちはわかるっすけど見過ぎっす)」


 私の視線は彼女のある一点に釘付けになっていた。美しいながらも幼いその外見からは考えられないほど大きな胸だ! いわゆるロリ巨乳というやつだな。


「ワウ~ン(あれ、でもあの子……)」


「どうした犬?」


「ワウン(ぼくあの子とどこかで会ったことがあるような気が……)」


 そんなはずないだろう。犬は私と出会う前は本当にただの野良犬だったし、この世界に飛ばされてからは常に私と行動を共にしていた。

 つまり犬が会ったことがある人物というのは私も会ったことがある人物に限られるはずだが……。


お久しぶりです(・・・・・・・)、ずっと……あなたに会える日を待っていました」


 何だと!? 久しぶり? どういうことだ、私は以前この少女に出会ったことがあるのか?

 いや、これほどの美少女を私が忘れるはずがない……ならどうして?


「君は……私と会ったことがあるのか?」


「ワウ(そもそも名前も知らないのに知り合いのように話されてもわけがわからないっすよね)」


「そうでしたね、あなたの言う通りです。あの時は時間もありませんでしたから、名乗るのを忘れていました」


 そう言ってこちらへと歩みはじめる。

 てかちょっと待て……? 今彼女は私の言葉に反応した訳じゃないように聞こえたんだが、まさか……。


「わたくしの名はセフィラフィリス。この世界の人々の"神"であり、あなたをこの世界に呼び寄せた者です」


 なん……だと。

 この世界に呼び寄せた……つまり、世界中で起こっている“特異点”はすべて彼女が?

 いや、新魔族と異世界人の特異点は若干違いがあるようだから一概にそうとは言えないか。


「あなたをこの世界に呼び寄せたのは大変申し訳なく思っています。ですがどうしても必要なのです、大いなる力を受け継ぐことができる異世界人達が」


 力? 受け継ぐ? どうもよく見るお約束な展開に突入しそうな言葉だな。

 だがついに私にも異世界転移のお約束展開が訪れてきたようだな。女神様から貰ったチートで魔王を倒して、最後には仲間になった女神様とゴールインってとこか。

 女神……セフィラも外見はまだ幼く見えるがこれでも神様というくらいだし年齢も見た目で判断してはいけないかもしれない。


 まぁそれは置いといて、さっきからずっと違和感があるんだが……。


「今この世界は侵略を受けています。それを救えるのは力を受け継ぎし勇者だけなのです」


 先程から彼女の視線の先にはどうにも私を捉えてないように見えるような気がするんだが……。

 そうしてる間にもセフィラは私達の下へ近づいてくる。


「勇者だと」


「ワウン!(ま、まさかそれが!)」


 犬がまさかといった感じの目でこちらを見る……が、私はなんだか凄く嫌な予感がするぞ。


「そう、ずっと待ちわびていたのです、勇者であるあなたを!」


 そう言って彼女はしゃがみこんで(・・・・・・・)手を取った……犬のな。


「ワウ!?(ってぼくっすか!?)」


 なんだか嫌な予感はしてたがそういうことかよ。やっぱり犬の言葉を理解していたんだな。

 どうにも私のことを気にしていないというか、無視していたように感じたのはこのせいか。


「てか本当に犬なのか!? 呼ばれたのは私じゃないのか!?」


 そりゃ資料には私だけじゃなくて犬も写ってたけどさ。……まずい、あまりの事態に私も少々冷静さを失っている。

 というかこの子にとって私はどういう扱いなんだよ。


「……はぁ」


 と思っていたらため息をつきながらこちらに向き直った。……凄く嫌そうな視線をこちらに向けながら。


「先ほどから何なんですかあなた? 私は勇者と話をしているんです、"御付の方"は口を挟まないでもらえますか」


「なぁ!?」

「ワブ!?(ブフッ!?)」


 こ、このヤロウ! 散々私を無視した挙句、こともあろうか私が犬の付き人扱いだと! むしろ犬の方が私の使い魔だっつーの。てか犬も吹き出してんじゃねぇ!


「むしろなんでここにいるの? あたしはこの世界の“女神”なのよ。あなたのような一般人がおいそれと会っていい存在じゃないことわかってる?」


 おい、いきなり自分の偉大さを語りだしやがったぞ。しかも口調が先ほどまでと違ってすっごいラフになってるし……もしかしてこっちが素か?


「それにこの話はあなたみたいな子供が聞いて理解できる話でもないから早く出て行ってください。あたしの姿を生で見れただけでも十分でしょ」


 て め ぇ だって見た目中○生かそれ以下だろうが!(胸は除く)


 ああクソッ! 言い返してやりたいが貴重な情報源との対話をここで終わらせるわけにはいかない。私の怒りのメーターはすでにMAXギリギリだというのに……。

 しかし私の話を聞かないこやつからどう話を聞き出したらいいのやら。


「ワウワウ(あのー、その人はぼくの一番信頼できる人っす。出ていく出てかないとかどうでもいいんでこっちの質問に答えてほしいっす)」


「え? そ、そうですか、勇者がそうおっしゃるなら……」


 なんだよその変わり身の速さは……。

 だがナイスだ犬よ、こいつは私の話は聞かないがお前の言葉なら聞き入れる。

 これで質問できる体制が整ったな。


「ワウン(とりあえずぼくから質問させてもらうっす)」


 おや、どうやら犬個人にもなにやら質問があるご様子。


「ワンワン?(言われてから気づいたんすけど、ぼく達が最初に会ったのって特異点に吸い込まれてから出てくる間っすか?)」


「ええ、そうですよ。しかし召喚場所がなぜかずれてしまい、話せる期間も短く、記憶にも何らかの弊害が出たのでしょう」


「おいおいなんだそれ? 私は知らんぞそんなこと」


 そもそも私と犬は同時に特異点に吸い込まれたはずなのに犬には何かが起きていたってことか?


「無関係の一般人は知らなくてもいいことです」


「ワウン(待ってほしいっす。ご主人はぼくが吸い込まれる時一緒に吸い込まれちゃったんす。だから無関係じゃないっす)」


「え?」


 犬の言葉に驚くセフィラ。おそらく今までになかったパターンなのだろう。

 むしろその召喚場所がずれたのは私が巻き込まれたからか?


「なら……まあいいでしょう、そこの凡人さんにはわからないだろうし……」


ブチッ……


 ……落ち着け、落ち着くんだ私。今は貴重な情報収集タイムなんだ。なんと言われようが決して逆上したりするな。


「えー……コホン。わたくしの力によって異世界から選ばれた者はこの世界へ到着する途中、わたくしがその者にしか扱えない特別な力を授けるのです。あなたはまだ覚醒していないようですが」


 特別な力……そんなものが本当に犬にあるのか?


「しかし異世界人……こいつは犬だが。なぜそんなものを与え、呼び寄せているんだ?」


「どうしてあなたの質問に答えないと……」


ブチッ……


「ワウウン(この人の質問はぼくの質問だと思ってほしいっす。だから答えるっす)」


「むぅ……わかりました」


 ふぅ……サンキュー犬。あのままだと私の中にある五本の堪忍袋の緒が全部切れるところだったぜ。

 私は寛大だからな、まだまだ大丈夫さ。


「今、この世界はある者達から侵略を受けているのは知っていますか?」


「ワウ……(侵略者……)」


 おそらくは新魔族のことだろう。

 しかし、『この世界は』という言い方が気になるな。


「まるで別の世界から侵略してきたような言い方だな」


「そうです、現在この世界で新魔族と呼ばれる者達は元々この世界の住民ではないのです! あなた方とはまた違う、別の世界からの侵略者……」


 やはりそうか。私が二千年生きた時代でまったく存在しなかった新魔族。前世の私の死後に別世界から侵略してきたのなら合点がいく。


「だが一つ疑問が残る。異世界人が召喚される道と新魔族の通り道、“特異点”が同じなのは何故だ?」


 セフィラは自分が犬をこの世界に呼んだと言った。特異点をこいつが操っているというなら、これはどういうことだ?


「それは……わたくしも奴らと同じ世界から来たからです」


「なんだって!?」


 つまり“女神”も私の死後に別世界からやって来た存在だったのか。そしてそこから現在の歴史が始まったってわけなら大体繋がるな。

 でも待てよ? ということは……。


「同じ世界ということは、お前も新魔族なのか?」


 サティ曰く、新魔族は長生きらしいしな。


「あたしをあんな穢れた奴らと一緒にしないで」


 私の言葉が気に障ったのか素に戻ったな。


「オホン……いいでしょう、話してあげます……わたくしの世界で起こったことから今までを」


 お、また口調が女神モードに戻ったな、疲れないかそれ。

 まぁ、とにかく話してくれるらしいからお茶でも啜りながらまったり聞かせてもらおうじゃないか。




修正しました(10章時点)


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