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84話 呼び出し

第4章開始です!



「まったくあいつらめ……ボコスカ殴りやがって」


「ワウン(まぁ噂になるほど自重しなかったご主人も悪いっすよ)」


 リオウの革命宣言騒動から一月近い日数が過ぎ、ブルーメの街も大分落ち着きを取り戻してきた今日の昼下がり。私は買い物のために犬と共に街を散策していた。

 目的の店を見つけ、その中へと入っていくと。


「いらっしゃ……おう、あんちゃんか。最近よく来るな」


「また探しものだ、店の物を見せてくれ」


 ここはブルーメの街にある武具屋だ。店主のアレックスはこの道30年のベテランで、各方面に顔が利くおかげか面白いものが入荷してることもしばしば。


「お前さんは本当に変なものばかり注文してくるからこっちも大変だぜ。この前だって形状変化材質で造られたおもしろ鎧の左腕部分だけくれとか言いやがるしよ」


 あれか。店主のオヤジもネタとして置いてた『相手の武器やスタイルに合わせて自在に形状変化! どんな敵にもこれ一着!』という謳い文句の鎧。

 実際は形状を変えるのにも面倒くさい魔術式を流さなくてはいけない上、変形は遅いし変化後はサイズが合わなくなり、きつかったりブカブカになってしまう欠陥品だ。


 まぁ素材としては面白いものだから使い方を間違えなければ悪いものじゃないんだがな。


「それで、今日は何を探しに来たんだ?」


 オヤジが話を戻してくる。そうだな、そろそろ本題に入るか。


「魔導銃のコアにあたる部分を持ってこれるか? できないなら本体でもいい、こっちでバラすから。あ、あとなるべく色んな種類のものを用意してくれ」


「まったく、またよくわからねぇ注文を……。まぁいい、ちょっと待ってな。たしか魔導銃は奥に……」




 それからしばらく待つと、店の奥からオヤジが台車を引っ張ってきた。


「ほれ、ご注文の品だ」


「サンキュおっちゃん。どれどれ……ほうほう、いろいろ種類があるな」


 指定したコアそのままのものや全体がそのまま残っているものまで。

 しかし大量に欲しいわけでもないので、出来の良い物を幾つか拝借させてもらう。


「こいつらを頼む。請求はいつも通りギルドへ頼んでおいてくれ」


 ふっふっふ、以前までの私なら明日のご飯のお金もないほどひもじい生活でこんなものを買う余裕さえなかった……。

 だが! 今の私は魔導師ギルドの最高位、ゴールドランクという立場に身を置いている。こんな買い物も研究経費として使い放題ウッハウハってわけよ。


「いつもよくこんだけ高価な物を買っていくなぁ……。聞いたところお前さんそんなに外に出てないらしいが、この街で研究してるだけでギルドにすげぇ貢献してるってことだろ」


「ん?」


 あれ? なんだって、貢献?

 確かに私は近頃街の外へは出ず、与えられた研究所で溜まっていた素材等の実験やギルドの資料館から持ちだした各所で起きた“特異点”の調査記録などを読み漁っていただけだが。


「また来てくれよ~」


 買い物を済ませた後、私と犬はその足でギルドへ戻る。


「なぁ犬、どう思う?」


 途中、先程のオヤジの言葉を思い出し疑問を犬に投げかける。


「ワウ? ワウワウ(ギルドへの貢献のことっすか? そりゃ立場はあっても何もしない人間に援助しようとは思わないんじゃないっすかね)」


「やっぱそうだよな。ここ一ヶ月近くは街に缶詰状態だったし……やはり私もレオン達と共にクエストにでも行くべきだったか」


 最近あいつらはよく三人でチームワークの研究をしながらクエストで町の外へ出ている。邪魔するのも悪いと思いついて行かなかったが……くそう、レオンめ。


「ワウ……(またひがみっすか……)」


 ちょっとぐらい羨ましがってもいいじゃないか。この世界へ戻ってきてからカロフ、レイ、レオンとラノベやギャルゲでありそうな展開を私は横でサポートキャラになってるだけ……。

 前世でもそんな光景は何度も見てきた、ガロウズとミレイユの一件とか。

 だから私にもそろそろ……な? 夢の中でガロウズにも応援してもらったし。……そういえばあの時もう一つ何か頼まれたような気がしたが。


「まぁいいか、とにかく今はギルドの貢献度についてだ。本部へ行けば何か話を聞けるだろう」


 ガロウズの頼み事もまたいつか思い出すだろうと考えながらギルドへ帰路を進んでいくのだった。




「あ、ムゲン君いらっしゃい。今日はどうしたの」


 ギルドの受付に入るといつもの様にマレルが出迎えてくれた。どうだろう、マレルはギルドの貢献度について知ってるかな?


「そういえばねムゲン君……」


「ん? なんだマレ……はっ!」


 突然背後に気配を感じて飛び退く、そこにいたのは……。


「お前は……ジオか!」


「おう、久しぶりだな。まさか本当にゴールドランクになっちまってるとは驚いたぜ。それに、ほかにもいろいろと活躍してるらしいな」


 一ヶ月近くぶりだろうか、ジオは第二大陸を彷徨っていたいた私をこの魔導師ギルドへと勧誘してくれた一人だ。

 二人がいなければ私は今ここにはいなかっただろう。


「久しぶり、今日はイレーヌは一緒じゃないのか?」


 私をギルドへ誘ってくれたもう一人の人物。ジオと共に任務へ出ていたイレーヌの姿が見えない。


「ああ、あいつなら」


「先……輩! 待ってくださいよ! 歩くの早すぎです!」


 お、いないと思ったらジオに置いて行かれてたのか。

 この様子だとあまり進展はしてなさそうだな……不憫な。


「もう、先輩ってばいつも一人で先に……ってムゲンさん!?」


「よっ、久しぶり」


「はい、お久しぶりです。お話聞いてますよ、凄いですね」


 どうやら最近のこちらの状況も何処かから聞いてるようだな。まぁその情報源には心当たりがあるからな……目の前に。


「ん、どしたのムゲン君?」


 まぁそんなことはどうでもいい。だが二人がここへ帰ってきているのはちょうどいいな、積もる話と一緒にいくつか質問させてもらおう。


「マレル、今日も依頼はなしだ。二人共、食堂にいこうぜ、今日は私が奢ってやるから」


「相変わらず強引だな」


「いいじゃないですか先輩。ムゲンさんのお話も聞きたいですし」


 そんなわけで食堂へレッツラゴーだ。




「奢るっつっても激安定食かよ」


 頼んだのはこの食堂でレオンとよく食べたあの定食だ。最近は寮でフィオさんとじぃやさんのご飯が美味しくてあまり来ていなかったが、たまに無性に食べたくなるんだよな。


「美味いからいいだろ」


「ったく、ゴールドランクだってのにけち臭ぇな。待遇だって俺らよか大分優遇されてんだろ?」


「先輩、あまりそういったひがみはよくありませんよ。後でこちらが悲しくなるだけです」


 ぐっ……イレーヌよ、その言葉は私によく効く。

 とにかく、そんなことは今は置いといてだ……せっかくジオから待遇の話が出たんだ、いろいろ質問させてもらうか。


 私は武具屋で感じた疑問を二人に話してみると。


「つまり……どの程度ギルドへの貢献をサボると信頼を失うか、ということですね」


 身も蓋もない言い方だがそういうことだな。


「はは、面白れぇな。最高ランクをちゃちゃっと手に入れたと思ったらいきなりラクする方法を探してんのか。その考えは嫌いじゃないぜ」


「別にそういう訳でじゃないんだがな……」


 ギルドの益にならないような研究をしてもこの立場を失うのは今の私にとってはマイナスだ。

 特異点の研究にゴールドランクの魔導師というのは行動範囲において申し分ない力を発揮する。


「でもムゲンさんならまだまだ大丈夫だと思いますよ。以前の事件で信頼は熱いと思いますし、数日に一回クエストを受けるか簡単な研究レポートを提出すれば……」


「……」


「もしかして……どっちもやってません?」


 YES I AM! ……って言ってる場合じゃなくて。

 数日に一回か……なんも報告しないで一月近く経ってるけど大丈夫か? 今からバンバン依頼を受けて汚名返上するべきかそれとも……。


「ま、他にも方法はあるがオススメはしねぇよ。ここでのんびり暮らす分にはな」


「他の方法?」


 ジオのこの言い方、何か一発で挽回できる方法があるのか?


「先輩が言うほど面倒でもありませんよ。今私達が行ってるような長期の任務を受けて遠出することです」


 長期の任務……そうか、遠出するなら日数は必然的に多くなる。任務の報告は最終的に帰ってきた際にちょちょいとまとめたものを提出すればいいのだ。

 うーむ、それもありか……。


「そういえば、今更だが二人がここに戻ってるってことは、はぐれ魔導師を勧誘するって依頼は終わったのか?」


「ええ……まだ残っていた二つの内の一つだけですけど」


 たしか第四大陸、『チャトゥヴァル』まで行ってきたんだっけ?

 ブルーメは中央大陸でも東に位置する街、第四大陸には対岸の西北西の位置にある港町を目指さなければならない。

 そこから第四大陸まで船を使うとなると……軽く半月はかかるはずだ。往復で一月は見積もってもいいだろう。


「私がお前達を見送ったのが一月と数日だったろ。かなり早いな……そんなにすんなり見つかったのか?」


「ま、俺達も旅の途中で段々と相手の魔力を見て実力を判断できるようになってきたからな」


 そう、二人は副ギルドマスターのディガンから『相手の実力を見極める目』を鍛えあげさせるために今の任務に出ている。順調に成果はあがっているということか。

 だが、それにしても腑に落ちない点はある。


「第四大陸は第二大陸と同じぐらいの大きさの大陸だ。それに地形の複雑さで言えば第四大陸の方が高い。それなのにたった数日で見つけられるものなのか?」


「はい、実はその人その地域の大国ではかなり有名な方でして……。すぐに見つかった……までは良かったのですが」


 なんだ? イレーヌの喋り方が少々困惑してるような風になってきたぞ?


「はんっ! あんなヤローをギルドに入れる価値なんざねぇからとっとと帰ってきただけだよ」


「あんなヤロー?」


 なんだなんだ? ジオの奴えらくご立腹のようだな。

 話から察するに、探しに行ってすぐに見つかったのはいいが、どうやらそいつと何か一悶着あったらしいな。


「たしかにそいつの実力は見ただけで強ぇのはわかった。だがなんだあいつは! 後ろに何人も女をはべらせやがって。しかも『俺はこの国の勇者だ、残念だが君達とは行けないよ……』だと! てめぇみたいな奴はこっちから願い下げだっつーの!」


 荒れてんなー。だがわかる……その怒りは私にもわかるぞジオ。

 女をはべらせてそれでいて勇者だなんて、どこのハーレム主人公だよ。


「しかも! 挙句の果てにあの野郎は逆にこっちからイレーヌを引き抜こうとしやがった!」


「は?」


 引き抜くって……どゆこと?


「えっと……その勇者さんが私に『そんな冴えない男とつまらない仕事をしてるより、俺と一緒にこの国で華やかに暮らさないか』と言ってきて……」


 ……なんだろう、私は会ってもないのにその男に対して段々ムカついてきたぞ。こりゃジオが怒るのも納得だな。

 まぁ、イレーヌはジオのことが好きだろうし、そんな誘いには当然乗らないだろう。


「それで、そこからどうしたんだ?」


「ああ、そこまで聞いた俺は『こいつは駄目だ』と判断してさっさとイレーヌを連れてここに戻ってきたってわけだ。まったく、イレーヌがあんな奴の言葉に動揺するから引っ張ってくるのも大変だったぜ」


「あ、あの時は……ありがとうございました、先輩」


 お? これは二人の仲が少しづつ進展してるってことか。

 困惑するイレーヌの手を引いて男から引き離すなんて意外とジオもイレーヌのこと想ってるんじゃないのか。


「ま、イレーヌは前に好きなやつがいるって俺に話してたしな。それを知っててあんな色ボケ野郎とあれ以上近づけんのはよくないと思ったからな」


「は、はい……。そうですね、先輩……」


 ちょ……なんじゃそら!

 イレーヌが以前に好きな人がいると話していたのはまぁいい。だがそれを聞いときながらずぅ~っと一緒にいて気づかないジオもどうなんだよ!


「なんだムゲン、その目は……」


 先ほどのイレーヌの声のトーンが低かったのはジオに対して自身の気持ちがまったく伝わってないからだったんだな。

 はぁ、もういいや。何度もこんなラノベみたいな状況を見てきて流石にツッコむのも疲れてきたからなぁ。


「あ、先輩、そろそろ時間が……」


「ん? そうか、もうそんな時間か」


 イレーヌが暗くなった外を見たと思ったら急に二人とも慌てはじめたぞ。


「一体どうしたんだ?」


「先程も言ったように私達の任務はまだ終わっていません。次は第一大陸まで行かなくてはなりませんから」


「出発は明日だからな、今日の内にまた旅の支度を済ませとかねぇとな」


 相変わらずせわしない二人だな。


「それに、最近シント王国の貴族どもがここらをうろついてるって話じゃねぇか。あまり鉢合わせたくもないしな」


「そうか……そうだな」


 リオウの事件が過ぎ去り、時間が経った今でもシントの貴族や調査員のような連中をギルド内部で見かけることがある。

 一体何が目的なんだか……。


「あ、あの、先輩。私はそんなに気にしてないですから……」


「別にそんなんじゃねぇよ。俺があの連中と会いたくないだけだ……ほら行くぞ。じゃあなムゲン、今度はもっといいもん食わせろよ」


「待ってください先輩! あ、ではムゲンさん、これで失礼いたします」


 照れ隠しのようにそそくさとこの場から退散するジオとその後を慌てて追うイレーヌ。

 たしかイレーヌは元々シント王国の貴族の娘なんだっけか。そいつらと鉢合わせしないようジオが出発時間を早めたってとこか。


「まったく、なんでああも不器用なんだろうね」


「ワウ(でもあの二人ならなんの心配もなさそうっすね)」


 そうだな、今はすれ違っててもだんだんその距離は近づいてるようだ。

 はぁ、そういう存在が私にもいればなぁ……。


「ま、ここでウダウダ言ってても仕方ないか。よし、研究室に戻るぞ犬。オヤジの店で買ったパーツで最終調整だ」


「ワフ(了解っす)」






「ふむふむ、第四大陸には特異点から現れた異世界の品物が多く保管されている……ん?」


ガラッ!


「師匠、大変です!」


 翌日、学舎の研究室でまったりと資料を読んでいた私の下にレオンが慌てて入ってきた。


「どうしたレオン? そんなに慌てて、とりあえずこれでも飲んで落ち着け」


 息を切らしたレオンに水を飲ませ落ち着かせよう。


「それで? 一体何があったんだ」


「はい……シント王国の貴族や調査員がまだギルド内にいることは師匠も知ってますよね」


 それは私も知っている。ジオ達もそいつらとの接触を避けるために今日の朝にはもう出発したからな。


「そいつらが何か問題でも起こしたのか?」


「ギルドにとっては問題……と言うほどでもありません。でも僕達には重要です。なんでも彼らは師匠を出せと言ってきてるんですから」


「私を?」


 どういうことだ? シントの連中とはリオウの事件の説明の際にちょろっと顔を合わせたことがあるくらいだが、別段特別なことは何も起こっていない。

 しかもあの時は私よりもギルドマスターとエリーゼがメインで話し合いをし、逆に私は目立たない存在だったはずだ。

 レオンもその時居合わせているのでわかっているだろうからこんなに慌ててるんだろう。


「今はギルドマスターが押さえてくれてますけど……あの人達結構強引で」


「あの事件から日数も経っているのになぜ今更私を……そいつらの所属とかはわかるか」


 どんな状況でもまずは情報だ。敵を知り己を知る、これが冷静に物事を進める第一歩だ。


「はい、どうも彼らはシント王国に存在する最高機関……“女神政権”の一員だってシリカちゃんが言ってました。前にリオウ君と一緒に見たことがあるって」


 “女神政権”! この世界の歴史の起源である、七神王の一角“女神”を崇拝し、世界の動きの大部分を担っているあの……。

 そんな奴らが私になんの用だ。


「どうしますか師匠、僕はなんとなく危ない予感がするんですが……」


 たしかに……以前リオウにも“女神”に気をつけるよう言われたが……。だが一度は会ってみたい存在ではある、そいつは私の知らないすべてを知っているかもしれない。

 もしかしたら、特異点のことも何か新しい情報が得られる可能性もゼロではないかもしれないのだから。


 “女神政権”の奴らと会うだけで本命まで会えるかどうかはわからないが、会ってみる価値はあるかもしれない。


「向こうがどんな思惑かはわからないが、乗ってやろうじゃないか。行くぞ犬! レオン、案内してくれ」


「ワウン?(ボクお留守番してちゃ駄目っすかねぇ?)」


 駄目に決まってんだろ。

 私は研究室内からいくつかの荷物を持ち準備完了だ。


「では師匠、こっちです」


 レオンも意気揚々と案内を開始する……が。


「あ、ちょっと寄りたいところあるからそこ行ってからな」


ズコッ!


 あ、レオンがこけた。


「し、師匠~。雰囲気が台無しじゃないですか」


「はっはっは、スマンスマン」


 ま、これから何が起こるかわからないし、準備はもっと入念にやっておかないとな!




修正しました(10章時点)


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