83.5話 魔導学校の怪談
4章前に閑話です
-エリーゼのその後-
「やはり今回の相手も大したことありませんでしたわね」
リオウの革命騒動未遂から数日……世間では未だ事件の内容についてあることないことが飛び交う頃、わたくしは以前のような魔導師の生活へ戻りました。
……いえ、以前のようなと言うのは少々語弊がありますわね。
「流石リーゼだね。あれだけの数を一瞬で倒しちゃった」
「ですけどちょっと一人よがりすぎる気がします。折角のパーティーなんですからもう少しチームワークというのを考えてください」
事件の前とはまったく違う新しいパーティー構成……わたくしとレオン、そしてシリカ・ラクシャラス。
以前まではあの子達|(取り巻き三人組)を後ろで攻撃させながらわたくしが前に出て敵を仕留めるというやり方でしたのですが……。
「わたくしはわたくしの一番戦いやすい方法で戦っているだけですわ。あなたこそ特殊属性の魔術が得意なのだからもっとこちらのサポートをするべきではなくて?」
「そういう意味ではありません! それにサポートと言ってもエリーゼさんが動き回るからこちらの攻撃タイミングがわからなくなるんですよ!」
「ガウー!」
シリカと共に足元にいるオルトロスまでわたくしに文句があるようですわね。
大きくなれなくなったオルトロスは現在はわたくし達の寮に住みついて番犬のような役割を与えられている……結構優秀ですのよ。
「とにかく、いつまでもそんな一人よがりな戦い方では足元をすくわれますよ。以前オルちゃんにやられた時みたいに……」
「む……言ってくれますわね」
思い出されるのはダンジョンにおいてオルトロスにやられたあの時のこと。あの敗北は今でも苦い記憶としてわたくしの記憶に残っている……。
「ガウン」
オルトロスが勝ち誇った顔でこちらを見てきますわね。
ですが……。
「ふん、それも以前までの話ですわ。今のわたくしならたとえそのオルトロスが本来の姿であっても遅れを取ることはありませんし」
「その油断がチーム全体を危険に晒すかもしれないということです!」
「ふ、二人共落ち着いてよ。まだまだ連携が上手くいかないだろうってことは師匠にも言われたし、少しづつお互いのことを知っていけばいいだろうって」
「……ふん、まぁいいですわ」
レオンに救われましたわね。このパーティーで行きたいと言い出したのはレオンですし、わたくしとしても断る理由はなかったからいいのですけれど……。
シリカ・ラクシャラス、やはりわたくしとこの子は馬が合いませんわね。以前から……それこそこの子の入学当時から気に入らないことが多かった。力があるのにそれをひけらかそうとしないのも、兄の後ろでウジウジしてるのもそう。
ですが、いざという時の度胸のある決断力やレオンに対する想いは目を見張るものがありますわ。
ま、わたくしのライバルとしてはまだまだ成長途中というところね。
「えーっと……それにしても、最近は戦闘系の任務ばかり受けてるよね。今度はちょっと趣向を変えた任務を受けてみない。息抜きにもなるかもしれないし」
まったく、話題を変えるのがヘタですわね。
ですがレオンの言い分ももっとも……このパーティーに馴れる意味でも戦闘系を受け続けてきましたが、たまには別のものでもいいですわね。
「では魔法薬に使う薬草集めのクエストでも受けますか? それならお弁当を作って軽くピクニック気分で行けますよ」
「それもいいね。そういえば学生時代にもシリカちゃんにお弁当作ってもらった時期があったよね」
……マズいですわね。
あの子、何気ないレオンの提案からわたくしが出来ない料理という自分の得意分野でレオンに接近するつもりね。
「ふん、そんなお遊び気分で魔導師の仕事が務まるとでも思っているの? 仮にもわたくしとシリカはシルバーランクの魔導師ですのよ、薬草採取なんて受ければ笑いものになるだけよ」
「む、ならエリーゼさんは何かいい提案があるんですか」
う、そうきましたか……。
どうしましょう、わたくしが受けるクエストといえば大体が戦闘系……かといって採取系を選択すればシリカの思う壺。
こうなったら……。
「えっと、リーゼ、無理しないでも……」
「あなた達はこのまま寮へお戻りなさい! わたくしはこれからギルドへ向かい相応しいクエストを受注しておきますわ。任務完了報告もこちらでやっておくので心配なさらずに」
「え、ちょっと、リーゼ!?」
これ以上この場にいればボロが出かねませんわ。早くなんとかしなければ……。
さて、ギルドの受付に到着ですわ。どうにかしてあの子に活躍の場を与えない戦闘系以外のクエストを探さないと。
「ということで何かないかしら、マレルさん?」
「いきなりすぎるよエリーゼちゃん」
しかし、常に戦闘系の依頼をこなしてきたわたくしにのどかな場所以外の採取依頼は斡旋されませんでした。
このままではいけない……でもどうすれば。ダンジョンにしても中では戦闘の可能性がないわけではないので条件に当てはまりませんし……。
「あ、エリーゼ様! お久しぶりです」
「今までご迷惑をおかけいたしました」
わたくしが悩んでいると、後ろからわたくしに挨拶してくる慣れ親しんだ声々が聞こえてきました。
「あら、あなた達は……」
後ろを振り向くと、そこには以前までわたくしとパーティーを組んでいた中流貴族の魔導師達が元気そうな姿で立っていました。ダンジョンでオルトロスに襲われた後、あれから寝たきりの生活だったようですが。
「どうやら体の方はもう大丈夫のようね」
「はい! おかげさまでこの通りですわ!」
「この前の事件のことも聞きましたわ。愚か者のリオウの暴走を見事食い止めたと!」
そういえばあの事件、表向きで中央大陸で顔が利くわたくしがゴールドランクの魔導師と共に解決したことになっているんでしたわね。
レオンに関してはギルド内では噂になっていますがそこ止まり。
「これであの田舎者の落ちこぼれもエリーゼ様には敵わないことを思い知らされたでしょう」
「わたくし達も今まで以上にエリーゼ様の力になれるよう務めますわ」
この子達、そういえばあれから先のこと何も知らないのよね。
「……あなた達、そこに座りなさい」
「え? 一体どういう……」
「いいから座りなさい」
わたくしは彼女達が知らないあの事件の本当の詳細、そしてレオン達との今の状況も事細かく伝えました。
「いい、話したようにわたくしはレオン達と行動を共にすることを決めましたわ」
その宣言に皆鳩が豆鉄砲を食ったような表情でこちらを見ている。けれど、なんとか状況を飲み込んだようね。
「わ、わかりました。エリーゼ様がそうおっしゃるなら……」
「もうあの落ちこ……レオン様を貶めるようなことはしません」
これで大丈夫ね……後は。
「あなた、先ほどからあまり喋らないけどどうしたの?」
そう先ほどから辺りをキョロキョロして心ここにあらずといったよう。ダンジョンの中で最後まで意識があった子ね、どうしたのかしら?
「あ、あの、エリーゼ様。あの人は……あの時私達を助けてくれたあの人はご一緒ではないのですか?」
「あの人?」
「えっと……外から来たゴールドランクの」
ああ、ムゲンさんのことね。彼とは最近わたくし達と共に行動することはありませんわね。
一人で行動することが多いようですし。
「さぁ? それにここにいてもあなた達には会おうとしないと思いますわよ」
「え、どうして?」
「あの人はあなた達のことは好みではないとおっしゃってましたから」
「そ、そんな……」
どうしたのかしら、がっくりと項垂れて? まぁそんなことはどうでもいいわ、今は彼女達からも何かいい任務がないか聞き出さないと。
「え? 戦闘系でも採取系でもないクエスト……ですか?」
「やはり無いかしらね……」
今回はシリカに華を持たせるしかないかしらね……。
「あ、いえ、そういえば最近ギルドの学舎の方である噂が……」
「その話、詳しく聞かせてちょうだい!」
彼女から聞いた内容は、戦闘系でも採取系でもない特殊な依頼。これなら遠出もしないからお弁当という彼女の得意分野を使わせないですみますわ。
ですが……これは……。
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-レオンのその後-
と、いうわけで急きょ決まったのが。
「魔導師ギルド学舎で最近噂になっている謎の怪奇音の調査……ですか」
「ええ、ギルド内の問題を解決することもわたくし達魔導師の立派な努めですから」
今回の調査は、この魔導師ギルドの学舎にまつわる不思議な出来事や奇怪な現象、それの正体を確かめることだ。
昔からこの学舎には全部で六つの根も葉もない噂の怪奇現象が多々確認されている。そこに最近新たに加わって七不思議となったらしく、今回はその調査というわけだ。
「あの子達から聞いた話では校舎の東館、今ではほとんど使う者がいなくなった空き部屋付近から今まで聞いたこともないような奇怪な音がする……という話ですわ」
「それにしても、夜の校舎って不気味だね」
校舎に入ると、中には外から差し込む薄い月明かりだけが廊下を照らしている。
その通路の先には光が届かず暗くなっている曲がり道、本当に何かでそうで怖いな。
「はぁ、師匠~……なんでついてきてくれないんですか~」
最近は師匠とあまり行動を共にしていない。どうやら師匠は師匠で忙しいようで、ギルド内にある大図書館で本を借りてはどこかで研究に勤しんでるようだ。
今日だって……。
『息抜き任務? あ~……別に私のことは気にせず行って来い。こっちはこっちで忙しいから』
と言ってまたそそくさと何処かへ出かけてしまった。
「うう、怖いです……」
「あら、別にまだ何か起きたわけではないでしょう。この程度で怖がるなんて魔導師としての精神がまだまだな証拠ですわね」
ふふん、と勝ち誇ったような表情のリーゼ。まったく、こういった意地悪なとこは変わんないなぁ。
ガタンッ!
「きゃあ!」
わわ! 突然大きな音がしてびっくりしたと思ったらシリカちゃんが急に抱きついてきた。
僕も怖いけど、自分より怖がってる人を見るとちょっと落ち着くな。
「ご、ごめんなさいレオンさん。……もう少し、このままでもいいですか?」
「え! う、うん、いいよ」
僕の腕を掴みながら涙を浮かべた上目遣いにちょっとドキッとしちゃった。
……あ、あれ、なんだろう? リーゼの視線が痛いような。
(くっ、完全に油断してましたわ。まさかそんな方法でレオンとの距離を縮めるなんて!)
「かくなる上は……」
「え、ちょ、リーゼ!?」
なんとリーゼまで僕の空いている方の腕にくっついてきた!?
「レオン、わたくしも怖いので少しの間このままでいさせてもらいますわ」
そういえば師匠が言ってたなぁ……『あいつらはこれからお互いを意識しあってどんどんお前にアピールしてくるぞ』って。
僕としても二人の気持ちは嬉しいけど、今はとにかく早く故郷へ胸張って帰れる魔導師になりたいからなぁ……。
「ちょっとエリーゼさん! 魔導師としての精神はどうしたんですか!」
「あら、何のことかしら?」
「なっ、なんなんですか! あなたはいつもそうやって他人を馬鹿にして……」
わわ! 考え事してる間にどんどんヒートアップしてきてる。
ま、マズい……このままだとまた喧嘩になっちゃう。どうにかして止めないと。
「ふ、二人共、ここはひとまず落ち着いて……」
チュイイイイイン! ガガガガガ!
「「「!?」」」
その音に僕らは同時に振り向いた。
「い、今の音は……」
「ああ! こ、ここはもう東館です! 私達いつの間にか例の怪奇音の場所までたどり着いてしまっていたんですね」
腕を通してシリカちゃんの手がガクガク震えてるのがわかる。
そんなに怖……ん? あれ、なんだろう、逆の腕からも震えが伝わって……。
「い、今の……音。そ、そんなの……お、オバケなんて不確定なものいるわけありませんわ……」
そ、そんな……いつも堂々として自信満々なリーゼが怯えてる!?
ど、どうしよう、ここは素直に帰った方がいいのかな。でも一度受けた依頼を何の成果もなしで帰るのは……。
ギュイイイイン! ドリドリ! ガンッガンッ!
「きゃあ!」
「い、一体どこから聞こえてきますの!?」
進んでいくと段々音が大きくなっていく。
ここだ……この扉の奥。このまま手ぶらで帰ることはできない、けれど二人は萎縮してまともに動けなくなっている。
ここは、僕がやるしかないだろう。
「れ、レオン、開けるんですの!?」
「危険です! もしも本当に未知の存在がいたりしたら」
「大丈夫、何があっても二人のことは僕が守るから」
「「レオン(さん)」」
僕は意を決してその扉を開く。
そして、その先に見えたものは……!
チュイイイ……
「ん? あれ、レオン達か? 何やってんだこんな時間に」
……それはこちらのセリフです師匠。あろうことかそこにいたのは僕の魔導師としての師匠である無神限ことムゲンさんだった。
「えーっと……師匠、なんでこんな所に?」
「あれ、言ってなかったか? ここは先日から私の研究室になったんだ」
初耳です。というか……。
「師匠、それはなんですか?」
「ああこれか。これは私が作った道具で魔力を込めると」
チュイイイイイン!
棒状の物体の先がクルクルと回り出す。あれか、さっきから聞いたこともないような奇怪な音を出していたものは。
てことは、七つめの不思議の正体は……師匠ってこと?
あれ? いつの間にか僕の腕から重さが消えて……二人共ゆらゆらと師匠の方へ向かっていってる。
「いやぁ昼に実験してたらここからでもウルサイって学生から苦情がきてな。それで仕方なく夜にいろいろと製作を続けて……ってちょ、待て!? どうしたお前ら……グホォ! ゲフゥ!」
ドカバキボコスカ!
そんなこんなで過ぎていく僕の魔導師としての日常。
いつか村に帰ったら謝って、それから見せてあげるんだ、これが今の僕だって。
カロフ兄に殴られるのは、かなり怖いけどね……。
~to be continued~
3章はこれにて終了です
次回からは4章スタートになります
修正しました(10章時点)




