78話 望まぬ戦い
「話が長いんだっつーの、もうちょっと簡潔に済まそうぜ」
現在の世の中の不評から始まって、出生と貴族のクズさ、人族主義の現状からの事件の概要。それから革命戦争を起こすだのなんだのきて仕舞いにレオン争奪戦……なんだそりゃ。
というか私としては子供の頃から魔術理論を知っていた風なお前の頭ん中の方が気になるんだがな。
「それもそうですね。ではもう一つ簡潔にお話を進めましょう。……あなたも俺達と一緒に世界を変えてみませんか?」
……ま、そういう誘いは来るとは思ったよ。あちらとしても"優秀"な人材は多い方がいいだろうしな。
「あなたはどうですか。今の世界は弱く、酷いと感じませんか」
「その節はあるな」
実際"魔"の知識は衰退し、酷い人種差別も違法な奴隷も盛り沢山だしな。
「同じこの世界を生きる者として、より良い方向へ変えて生きませんか。あなたほどの人物がいれば……」
「悪いが私は異世界人なのでこの世界の内情とかどーでもいいわ」
「なに?」
「……!」
「なんですって!?」
レオンを除く全員が驚きの表情に変わる。そういや言ってなかったからな。
「異世界人……なるほど、あなたのその力はそういった経緯があったからこそというわけか」
それだけじゃないけどな。
とにかく言葉にした通り、私としては今の世の中がどうなろうと知ったこっちゃない。とりあえず日本に戻れればいいだけだ、あと童貞も捨てたい。
「でもまぁお前は止めるけど」
せっかく特異点を調べられる環境が整いそうだというのに戦争なんて起きたらそれどころじゃなくなるだろ。
「あと、さっきから世界を変えるだの良くするだの理想をペラペラ語っちゃってくれたけど、やったこともない奴が何度も言うもんじゃないぞ。安く見える」
言葉はもっと大事に扱おうぜ。
「まるで自分が変えたことがあるような言い方ですね」
「さぁ、どうだろうな」
実際前世では色々やってきたけど、そこまで言う義理は私は持ち合わせていない。
「いいでしょう、あなたの答えはわかりました。さて、じゃあレオン君の方はどうだい」
「僕は……」
レオンが助けを求める表情でこちらを見る。まったく情けない顔しやがって、『まじゅつのかみさま』はこの程度じゃ顔色一つ変えないぞ。
「レオン、私に答えを求めるな。奴についていくにしろしないにしろ、判断するのはお前自身で決めなければならない。他人に左右されるな、ただ正しいと思う方へいけ」
私が言えるのはそれだけだ。
レオンは少し俯いて目を閉じた。そして決意したように顔を上げると、リオウ達へ向かい言い放つ。
「リオウ君……ごめん、僕は二人と一緒には戦えない。二人がやろうとしてることはきっと悪いことだ。そんなことをするために僕は魔導師になったんじゃない」
「……残念だよ、君の事は親友だと思っていたのに」
「親友だからこそ……止めるんだ」
苦悩の末、レオンは二人を止める側へついた。まだ迷いは見える……だがレオンも覚悟はあるようだ。
「レオンさん……」
奥にいるシリカが残念そうに俯く。それはただ自分達側についてもらえなかった残念さだけでなく、もっと個人的な感情のようだ。なんとなくエリーゼと火花散らしてるようにも見えるし……。
あー、私も複数の女の子に取り合いしてもらいたいなーちくしょう!
「さて、これ以上の話し合いはもう無意味のようだし、君達はここで身柄を拘束させてもらう。エリーゼは……除くけどね」
「……行って、オルちゃん」
「ガァウ!」
回復したオルトロスがシリカの命令でエリーゼ向かって襲い掛かってくる。
私達も考える時間を後にして臨戦態勢に入る。
「さぁ、とにかくここを切り抜けるぞ! 覚悟はいいな二人とも!」
「はい!」
「ええ!」
第二ラウンド……スタートだ!
オルトロスの鋭い牙がエリーゼへと襲い掛かる。
「させない!」
すかさずレオンがエリーゼの前に出て、その牙を黒棒で食い止める。
だがレオンの素の力ではオルトロスのパワーには耐えられないだろう。
今はエリーゼを狙い続けているためレオンに抵抗しないようになっているが……。
「レオンさん、ごめんなさい。オルちゃん、レオンさんを払いのけて!」
「グルァ!」
オルちゃんって……かわいい名前で呼ぶなぁ。しかしこれはいささかマズイか。
彼女の命令でもう一つの首がレオンを襲おうと迫りくる。エリーゼがまともに動けない状況でこの戦力差は……。
「なっ!? ぐぅ……!」
体制を崩されたレオンはそのままオルトロスの前足に払われてしまう。
やはりシリカがオルトロスを操っているのか。人工魔物命令を行うことができるのは基本的に一体に付き一人までだ。
魔物が生成される時に生命属性で調整して作るため、その人物の魔力でおこなう命令以外を聞くことはない。
「っと、考察してないで私も加勢だ! 『軟体捕縛』!」
「ガウゥ!?」
まずはねばねばスライムで動きを封じる。
「わたくしも加勢しますわ、『闇の束縛』!」
エリーゼが魔術を唱えると、下からからうぞうぞと黒い何かがオルトロスに纏わりついていく。まだ本調子じゃないだろうに無茶しやがって。
しかしエリーゼの魔術は最終的にどんどん上まで固まっていき、オルトロスの動きを封じるていく。
「いけない……オルちゃん、無力化!」
咆哮の指示……そりゃ当然そう来るよな。
どうする、魔術を強固にするために術式を追加するか? いや、今からでは焼け石に水だ。
「だったらこうだ! レオン、奴に向けて黒棒を突き出せ!」
「え……は、はい! こうですか? って何で……?」
起き上がったレオンが困惑しているが説明してる暇なんてないぜ。
「発射、『超重体撃』ォ!」
「『ガァ!』」「『グオォ!』」
『対魔力衝撃』の咆哮で拘束が消え去り、再び突撃しようとするオルトロス。
だが私はすでに無力化されない重力属性で弟子砲弾を打ち出してる!
「うわあああああ!? ど、どうなってるかわからないけど……く、食らえー!」
勢い良く打ち出されたレオンは黒棒を突き出しながらオルトロスへ飛んでいく。が……。
「ガウ」
ヒョイ
「ええ!? ……へぶっ!」
あっさりと避わされ、勢いを失ったレオンはそのまま地面へスライディング。
だが同時にオルトロスの勢いも止まった。咆哮もインターバル中なので絶好の攻撃チャンス到来だ!
「一気にいくぞ『炎弾』、からの第四術式まで展開! 『炸裂火炎旋風』!」
「ガァァアア!?」
私の魔術によって火だるまになるオルトロス。
この威力ならば奴が水属性を使おうとも威力はこちらが圧倒的に上であり、『対魔力衝撃』も高速で組まれる術式には意味を成さないだろう。
「やった、これなら」
「『湧き出る流水』!」
だが、私の魔術に対抗するかのように強力な水の魔術がオルトロスの足元から湧き上がってくる。
これは……リオウの魔術だな。
「ちっ! やっぱりただ傍観してるだけってこともないよな」
「当たり前だ、やるからにはこちらも全力でいく!」
このままでは私の魔術がかき消される、奴の魔術はそれほどのものなのか!
「だったら! さらに第五から第七まで術式展開、『蛇龍炎撃』!」
奴の魔術に対抗するため、さらに火力を上げ、範囲を広くし、形状を変えて流水をどんどん蒸発させていく。
「グゥゥン……」
オルトロスも火がついては鎮火の繰り返しで相当辛いようだ。
「このままだとこっちが押し負けるか……だったら、魔術構成追加、『激流葬』!」
ッ!? あの野郎、術式を追加しやがった!
急激に襲い来る激流に『蛇龍炎撃』の首が一本ずつやられていく。
「くっ……その技術をどこで学んだか聞くのは後にして……第八術式展開、『青き炎の制裁』!」
やられていた炎の首が中心へ収束し、今までとは比べ物にならないほどの熱量を持つ青い炎の球体を作り出す。
その暑さにレオンやエリーゼも少なからず被害を受けてきている。だが、今回はいつぞやの試合の時のように威力を抑えてなどいられない。
「なるほど、ならばこちらも! さらに魔術構成追加、いでよ『氷結と流水の巨人』!」
嘘だろ!? 今ので同時に術式を五つ近く組み込みやがった! 確信した、オルトロスよりもなによりも、一番やばいのはこいつだ。
何故かはわからないが、リオウは私の前世の……数千年前の"魔"の技術を知っている、それも幼少期から。生み出されたこの広間の天井まで届きそうな大きさの巨人は、絶対零度の如き冷気で空気すら凍りつかせる勢いで迫ってくる。
「リオウ・ラクシャラス……これほどまでの力を隠し持っていたなんて。レオン、わたくし達も火属性の魔術で援護を……」
「いや、それは無駄だ」
『青き炎の制裁』で抑えるまでしかできないほどの魔術に対しては二人では確実に力不足。
それに、すでに救出されたオルトロスにシリカが咆哮を放つ命令をするタイミングを狙っている。私の術は大丈夫だろうが二人の術はすぐにかき消されるだろう。
「大人しく凍るがいい。安心しろ、エリーゼ以外は後で助ける」
そしてエリーゼの氷付けは全国ネットで晒し者ってわけかい。やはりここは私がやるしかないようだな。
今の私にはちとキツイが……やるしかない!
「だっしゃあああ! 全開術式展開! 『青き炎の獰猛』!」
火属性の魔力回路が全開になり、焼き切れるほどに魔力が巡回しているのがわかる。
きっつい! でも収束術式じゃなければばこのまま維持できる!
青い炎は巨大な人のようなドラゴンのような形を作り巨人の進行を食い止め。その熱量は止まることなくことなく上昇していき、ついには氷の巨人を溶かし始めた。
「なに? これほどまでの力を……」
おそらくリオウもあれが限界だろう。
「『ガァ!』」
オルトロスが『対魔力衝撃』の咆哮を放つが、そんなものは全開術式の前では無意味に等しい。
このままパワー比べをすれば確実に私が勝つ、もってくれよ私の魔力!
「押し勝つのは無理か……しょうがない、作戦変更だ。じいや、迷宮の改変を」
『畏まりました』
なんだ? 今誰と話して……あれは通信石か!
「ッ! し、師匠、あれ!」
私が通信石に気づいた次の瞬間、迷宮の壁が凄い勢いで変形していく。
いきなりの変化に私も思わず体制を崩してしまい……。
「くそっ!」
私の魔力が途切れ『青き炎の獰猛』を保つための構成要素が霧散しがその力を失っていく。
だがリオウもすでに氷の巨人の魔術を解除して迷宮の変化に身を任せているためこちらに被害はないのが救いだな。
しかし……このままでは奴を逃がしてしまう。
「悪いがここは一旦引かせてもらう。次に会う時はまたいい返事をしてもらえることを期待しているよ。もっともここを出られたらの話だけどね」
「リオウ君、どうして! シリカちゃんもそれでいいの!」
「ごめんなさいレオンさん。私は兄さんの助けになりたい……でも、あなたのことはやっぱり……」
こうしてる間にも壁はどんどん閉じていき、やがて二人の姿は見えなくなる。
「逃げられましたか……レオン、ムゲンさん、ここにいてはわたくし達も危険ですわ。早く脱出を!」
「……そうだね。さあ師匠脱出口へ……ってどうしたんですか師匠!?」
「スマン……誰かおぶってくれないか」
強すぎる魔力回路への負担で体が動かん。せいぜい手足をパタパタすることしかできない。
「ワウウ(ご主人っていつも重要な時に動けなくなるっすよね)」
文句を言いながらも私を引きずろうと頑張っている犬だがピクリとも動かない。
「しょうがありませんわね。レオン、二人で運びますわよ!」
「うん、ほら師匠、しっかりしてください」
我ながら情けない姿なこって。
しかしあの状況を切り抜けるためには仕方がなかった。魔力ほぼゼロの状態で戻れるだろうか、緊急脱出装置を発動するぐらいはできそうだが。
「ああっ! そんな……」
レオンの絶望したような叫び声に顔を上げると、そこには私達が通ってきた道が変化した迷宮によって塞がれていた。
このままでは奴らの迷宮に閉じ込められることになる。
「くそっ、私の魔力はもうないし、どうしたら……」
ピロリン
……久々に聞いたなこの機械音。
私は残った力でポケットを弄りスマホを取り出す。その画面には、またもや素晴らしいタイミングで追加された新しいアプリ魔術があった。
[magical labyrinth]迷宮変化 消費魔力:変化させる形と規模に依存 スマホのカメラに写る範囲の地形を変化させる [map]と併用することで簡易的な変化も可能 ※迷宮内でのみ使用可能
しかも今回は露骨にピンポイントだ。だがまぁ、あるものは使わせてもらおうじゃないか。
はいポチッとな。
「まずはここの壁を撤去」
ガコンッ!
「うわっ!? 急に壁がなくなった」
中々面白いな。だが操作できるのは内蔵されてる魔力分だけか、チャージしといてよかった。
「次は[map]と併用して、緊急脱出装置のある所まで一気に道を繋げる」
「ど、どうなっていますの……?」
ガションガションと私達にとっ最適な道を作り出していく様に二人はポカーンとしている。
「ほれ、道ができたんだからさっさと歩く。もたもたしてるとまた向こうが迷宮を変えてくるかもしれないぞ」
[map]を見る限り、あちらが変化できる迷宮は自分達で制作した部分だけのようだな。
私の迷宮は出入り口を作るので精一杯だったってことだ。
(だがそこから考えてもやっぱりこのアプリはヤバイよなぁ……私の迷宮部分まで自在に操りやがる)
とにかく、今はそれよりも脱出だ。揺れ動く迷宮の道を通り、ようやく緊急脱出装置まで辿り着くことができた。
「起動させますね、えいっ」
レオンが壁に魔力を注入すると、この区画が切り離され上へと昇っていく。
「しかし、同じ相手に二度も引くなんて……屈辱ですわ」
「今回は仕方ない、命があるだけでも儲けもんだ。ギルドに戻ったらまた今後の対応を考えなくちゃな」
リオウは戦争を起こすと言っていた。以前から準備していたというし期限はそう長くないだろう。
チーン
そうこうしてる間に地上へ到着だ。
「今回も青い空へとご対面……ってなんじゃありゃ!?」
地上へ出た私達の目に入ってきたものは巨大な塔だった。ダンジョンの入り口からは少し離れた位置から生えるような形で地面から突き出している。
その光景に私達がポカーンとしていると、ダンジョンの入り口の方から誰かが走ってやってくる。
「君達! よかった、無事だったか!」
あれは、ギルドマスターのマステリオンだ。どうやら私達の魔力を感知して駆けつけたようだ。
「ギルドマスター、あの塔は一体なんなんですか?」
「ああ、あれは君達がダンジョンに潜ってから暫くしてからのことでね。地鳴りがしたと思ったら急に地中から飛び出してきたんだ。あの辺りの地下は迷宮が広がってる範囲だし、君達のことも心配になってね」
地鳴りと共に生えてきた……となるとやはりあれはリオウが迷宮を変化させたから出てきたものと考えた方がよさそうだな。
『ブッ……ザザ……あ、あー……コホン』
なんだ!? 塔の方からくぐもった大きな音が聞こえてきた。
『皆さんこんにちは、わたくしはシント王国の貴族であり魔導師の、ラクシャラス家の当主リオウと申します』
「リオウ君!? え、でも、これ、どこから」
あれだ、塔の中心に設置されている装置。以前闘技場の実況で使われていたものと同じ類のものだろう。
「リオウ・ラクシャラス、何故彼が?」
事情を知らないギルドマスターや他ギルド員、アホ貴族共もどういうことだと騒ぎ出す。
『おそらくこの場所には各ギルドの上層の者、そしてシントのクズ貴族共とそれの言いなりになる他地方のバカ共も集まっているでしょう』
「な、なんだと貴様!」
訳もわからずいきなり罵倒された貴族のおっさん達は子供のように怒り出す。
こんな奴らが国を支えていると思うとリオウの言い分もわからなくないとは思いたくもなるよな。
『さて、無駄な話はせずに単刀直入に言わせてもらおうか……俺はこの世界の腐った現状を打ち壊すため、シントの上層部へ革命を起こすことにした!』
そして、リオウは先程私達に話した内容を刻々と話し始めた。最初はなにかの冗談だと馬鹿にしていた貴族連中も話が進むにつれてどんどんと顔が青ざめていく。
『これは戦争だ! 俺達は腐った思想を掲げるシントの貴族と女神政権の者達を引きずりおろし、すべての者が平等に扱われる正しい世界へと導くのだ!』
もう戦争は始まってしまうのか、止める手段はないのかと各ギルドの上層員達は話し合う。
『だが、お前達に一つチャンスをやろう』
皆が慌てふためく中、聞こえてきたリオウの声に誰もが静まる。
チャンスとは一体……。
『今から三日間、この塔のダンジョンを昇りこの俺を打ち倒すことができたのなら、戦争は起こらない。だがもし三日を過ぎればその時点で宣戦布告しシントへと攻め込むだろう』
その言葉を最後に音声はぷっつりと途切れる。
なるほどね、大体読めてきたな。あいつの考えが……。
「三日……それまでに、リオウ君を止めれば……」
「すぐにギルドに本部へ連絡だ! 直ちに緊急のクエストを出せ! 内容は……『革命犯リオウの確保・又は討伐』だ!」
「え……」
討伐という言葉を聞いてレオンの顔が曇る。確かに優先されるのはリオウの身柄の確保だろうが、それができないのならやむなしというところだろう。
リオウは自らの死をも恐れずにこの革命を成そうとしている。だがレオンは、リオウを殺してでも止めたい……とは絶対に思わないだろう。
「このクエストの難易度は確実に最高難度を極める! よって受注できるのはゴールドランク以上とする! シルバー以下の者を連れて行くとしてもギルドが危険だと判断した場合には同行は許されないものとする!」
こうして私達の新たなクエストが始まった。
エリーゼにとって、自らの思想を貫くための戦い。
レオンにとって、親友を止めるための苦悩の戦い。
そして私にとって……過去の記憶から何かを伝えなくてはならない、そんな予感がする戦いへ……。




