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69話 弟子1号!


「いやいや、いきなり弟子と言われてもねぇ」


「お願いします! あなたのような凄い魔導師から教われば落ちこぼれの僕だってきっとなれると思うんです」


 むむ、こやつ見る目があるな。しかしどうするか……私としては今更こいつを見捨てるのは忍びない。かといって私には今ゴールドランクに上がるためにやらないといけないこともあるようだし……。


「そうだ、いいことを思いついたよ」


 なんだ? マステリオンが突然思いついたように声を挙げる。


「ムゲン君、キミがゴールドランクへ昇格するための試験を思いついたよ。そこの見習いくんを見事試験に合格させられたら私もきみを認めよう!」


 な、なんだってー! ……いやまぁ別にそこまで驚くほどのことでもないけどな。


「いいのか、そんなことで?」


 私の魔術理論を広められるし一石二鳥じゃないか。人に教えることは前世でもやっていたし、ケルケイオンの補助があればそれこそ鬼に金棒だ。


「人にものを教えるというのは上に立つ者として重要なことだよ。それに、そこの見習いくんの噂は私もよく耳にする。普通は一回でも試験に落ちたら皆諦めて帰っていくというのに彼はまだ留まっている」


「……」


 その言葉に俯いてぐっと苦い顔をする落ちこぼれくん。この様子からすると自分でもわかってはいるのだろう、だがそれでも諦めない。


「よしいいだろう。こいつを一人前の魔導師にすれば文句は無いということだな」


「本当ですか! ありがとうございま……」


「ただし、期限は一週間とする!」


「ええっ!?」


 む、期限を設けてきたか。確かに一週間と言われると凄く厳しく感じるが、いくら落ちこぼれだろうとまったく魔力を扱えないわけじゃないだろう。

 なに、私にかかればいくらでもやりようはあ……。


「そんな、無茶です! 僕は先月試験に落ちたばかりでまだ何も変わってないんですよ!」


「そうだな、キミは今までの試験で筆記だけは常に上位点だった、それに免じて筆記はなしにしてあげよう」


「それでも、せめて一ヶ月……いや半年は!」


「ごちゃごちゃうっさい!」


ゴン!


 ケルケイオンで一発ポカリと叩いてテンパッてる少年を止める。

 そんなに心配しなくてもちゃんと魔導師になれるよう指導してやるっての。……反応がないな。


「おーい、大丈夫……って気絶してら」


 おそらく意識が戻ってすぐにここへ駆けつけたため意識がもう限界だったのだろう。仕方ない、引きずって行くか。


「こいつの住んでる場所はどこなんだ」


「ギルド内の端っこにある最安寮だね」


「がはは! 頑張って教えて来い。オレ達もゴールドランクの席を空けて待ってるぞ!」


 笑うディガンと苦労が絶えないマステリオン。二人はそのままギルドに戻って行き、残されたのは私とこの少年と犬だけだ。


「ワウ(で、どうするんすかご主人)」


「とりあえずこいつの部屋に行く。話はそれからだな、『重力浮遊グラビテイション』」


 重力魔術で少年を浮かばせて運びやすくする。流石にそのまま引きずっていくのは骨が折れるからな。




 闘技場を後にし、ギルド内部で浮いている少年を掴みながら歩いてるのを何度も驚かれながら進んでいく。そしてギルドの奥、木々に囲まれた魔導師達が賑わう場所とはちょっと離れた場所に小さな小屋を見つけた。


「うわ、ボロ……」


「ワン(今にも崩れそうっすね)」


 聞いた話によるとこのオンボロは長年入居者がおらず、手入れも行き届いてなかったためこのような形になってしまったらしい。数年前取り壊す予定だったが、この少年がどうしてもと言うので残っている。

 中には2、3人ほど住めると言われたが私にはどう見ても一人用にしか見えない。


「う……ううん。あれ、ここは僕の住んでる寮……。ってことはさっきまでのことは全部夢……」


「お、起きたか」


「じゃなかった! というか何、どうなってるのこの状況!?」


 まぁ起きていきなり空中に逆さ吊りになって自分の住処にいたらそりゃ驚くわな。とりあえず魔術を解除し少年を下ろしてやろう。


「さて、私達に設けられた期間は一週間。やれることをすべて行いお前を一人前の魔導師に仕立て上げる! いいな、えーっと……」


「あ、僕はレオンといいます。そちらはムゲンさん……でよろしいですか?」


「いや、これからは私のことを師匠と呼べレオンよ」


「は、はい師匠」


「声が小さぁーい!」


「はい、師匠!」


 よし、なんだか巨○の星のテーマが聞こえてきそうな雰囲気になってきたぞ。まず目指すは学内ナンバーワン見習い魔導師だ!


「ワウ……(なんすかこの寸劇……)」


 だからこういうのはノリが大事なんだよノリが。……しかし何だろう? 何か忘れているような気がするんだが……まぁ思い出せないならいいか。

 それよりも今は……。


「ではレオン、早速だがお前の魔術を見せてみろ! 一番でかいやつだぞ!」


「わかりました! 焼け付く炎よ、辺りを燃え上がらせよ『炎弩砲フレイムバースト』」


ボウッ


 こ、これは……この魔術の威力は……驚くほど弱い!

 なんだこの魔術、火力は低いし形も歪、範囲も定まってないせいで後ろにいる私にまで飛び火してきそうだ。


「ど、どうですか師匠」


 しかもレオンめっちゃしんどそうだし。これはイメージ力が全然固まってないな。それなのに術を無理やり維持しようとすればそりゃ辛いは、無駄に魔力を消費するだけだからな。しかし魔力量はそれなりのものだ、こうして魔力を使っていく過程で最大量が鍛え上げられたってとこか。


バアン!


「うわあ!」


 レオンの魔力が乱れた途端、魔術は爆発し霧散してしまった。


「いつも……こうなんです。何度やっても上手くいかずに失敗ばかり。やっぱり僕には魔術の才能がないから……」


「アホか」


ボコッ


「いたっ! 何するんですか師匠」


「自分の無力さ、無知さを才能のせいにするんじゃない。そもそも才能なんてものは努力のちょっとした手助けにしかならん」


「でも、僕はいくら努力してもこんなんで……」


「努力の仕方が悪い、それだけだ」


 身も蓋もない言い方だがこれが事実だ。しかし言い換えればキチンと努力すればまだまだ伸びるということに他ならない。


「まず先ほどのお前の火の魔術だが、イメージがしっかりできていない。普段何を考えて魔術を使っている?」


「えっと、教科書に載ってる呪文を参考に魔力を加えて……」


「あー、駄目だそりゃ」


 そりゃ出るもんもでねぇわ。


「いいか、魔術とはイメージだ。自分の魔力をマナを通して属性へアクセス。そこから選択した属性に合うイメージを明確にすることが魔導師としての第一歩だ」


 詠唱というものは所詮扱う者がイメージをしやすいように言葉で表すものにすぎない。そんな私の講義をレオンは感心した風に聞いている。


「凄いです、学舎の授業では聞いたこともないようなことばかりです」


「ま、私の魔術式はちょっと特殊だからな。よしレオン、今の内容を意識しながら様々な魔術を試してみるんだ」


「はい、やってみます師匠!」


 まずはレオンの得意属性を見極める。そうすればこれからのカリキュラム作りも円滑に行うことが出来る。




 それから数時間後……。結論から言おう、全部駄目だった。


「うう、やっぱり僕には才能がなかったんだ……」


「うーむ、こんなはずではなかったんだがな」


 以前レイと試したのと同様に、レオンにも自然属性の五つ、さらに特殊属性の三つをそれぞれ試したんだが。確かに前よりは安定した……したが威力はお世辞にもどれも及第点と言えるようなものはなく、これでは試験に合格どころの話ではない。


「ごめんなさい師匠、僕のせいであなたまで……」


「すぐ誤ったり諦めたりするのはお前の悪い癖だな。可能性なんていくらでもある。とりあえず今は次の手段だ、後ろを向け」


「後ろですか? はい……」


「あ、それブスッとな」


 レオンの頭にケルケイオンを突き刺す。これで何も変わらなかったら一週間で一人前の魔導師になるのは難しいかもな。


「ぎゃあああ!? あ、頭に何か刺さって! 痛く……ない!?」


 久しぶりだなこの反応、第三大陸でカロフにやって以来か。……ん? やっぱり何か忘れている気がする。なんだっけ? もうここまで出掛かってるような……。


『解析完了』


 おっと、終わったようだな。うーん、やっぱり思い出せないからまた今度でいいか。

 それよりも解析内容をチェックしなければ。


「どれどれ……なに!?」


「ど、どうしたんですか師匠? 何かあったんですか?」


 これは……こんなケースは前世でもそうそう無かったものだな。旧時代ではケルケイオンも所持していなかったからな、気づくのに大分遅れたが、今回なら。


「レオン、一つ質問していいか」


「え? はぁ、勿論どうぞ」


「木からリンゴが落ちることを疑問に思ったことはあるか?」


 変な質問に思われるかもしれないが、この質問はレオンの将来を変えるかもしれない重大なものだ。


「ありますよ。村にいた皆はなんで気にならないんだろうって思ったこともあります」


 ここまではよし、次だ。


「それはいつ頃、なぜ気になるようになった」


「そうですね……8、9才の頃飛んで行った帽子を取ろうとしたら木から落ちちゃって。そこからなんで落ちるんだろうとか考えるようになりました。……そういえばその頃から魔術が使えるようになったんだっけ」


 これはもう確定と言わざるを得ないな。今までに無い稀も稀、超レアケースと言ってもいい。しかし、結局才能なんてものは自分がそれに気づくことでしか発揮されることはない。こいつは金の卵だ、だが孵化するための条件が整っていなかっただけなんだ。


「明日まで待っててください、本物の魔術ってものを教えてあげますよ……」


「え、どうしたんですか師匠、いきなりかしこまったりして?」


「ワフ(またご主人の変なスイッチが入ったみたいっすね)」


 うるへい。

 とにかく今日出来ることはほとんどなくなった。私は早速あそこへ向かわなければ。


「今日の修行はこれで終わりだ。明日からはビシバシいくから覚悟しとけ!」


「はい、師匠!」


 こいつは日本に帰る前に将来有望な弟子を育てることとなりそうだな。




 さて、私は明日の修行のために必要なあるものを買いに行かなければ。もうすっかり夜だ、まだ開いてるといいんだが。


「確かこの辺だったよな……お、あったあった」


「ワウ(あれ、ここって前に来た武器屋さんっすよね)」


 そう、目の前にあるのは私がこの街に来て初めて覗いた店だ。店内にほとんど人の姿はない。もう閉店してしまったのか?


「ん? おう、あんちゃんじゃねえか!」


 と思ったら店の奥から店主のオヤジさんが出てきた。


「おうおう見たぜ今日の試合。凄ぇじゃねえか、これでゴールドランクの魔導師さまなんだろ?」


「いや、それはまだちょっと……」


「ちげぇのかい?」


 まぁその辺の説明は面倒くさいから今度でいいだろう。

 それよりも。


「まだ店は開いてるか?」


「本当はもう店じまいなんだが……まぁガッポリ儲けさせてもらったから特別に入っていいぜ」


 儲かった? ……ああ、そういうことか。確かあの闘技場では賭け事も行われていたな。そこでオヤジさんは無名の新人である私の大穴を賭けていたとうことだろう。


「しっかしなんでまた俺の店に? お前さんほどの魔導師が俺の店で何を買うってんだ?」


「ああ、以前見せてもらったあのアレが欲しくなってな。まだ置いてあるか?」


「あれか、ちょっと待ってな」


 そう言って店の奥に引っ込んだ後、頼んだあの重くて黒い槍をガラガラと台車のようなものに乗せて持ってきた。


「これ重いわ高いわ真っ黒で見た目が良くないわで不評だったんだよ。強度は最強なんだけどな」


 そりゃこれを性質無視してブンブン振り回せるやつなんて、それこそ屈強な龍族や『獣深化』した亜人くらいなものだろうしな。ま、私はこの程度の魔力操作なら息をするように出来るのでヒョイと持ち上げられるけどな。


「で、いくらだ」


 ちなみにお金に関しては問題ない。今回の試験の資金援助として結構な額を支給されたからな。


「また軽々と持ち上げて……流石魔導師ってとこか。さて値段だが、この槍は特別な素材を使ってるからちょいとお高いんだが、在庫処分になりそうだったしかなりおまけしてゴニョゴニョ……」


「ゴニョゴニョ……おお、そんな値段でいいのか」


「その代わりまた寄ってくれよ」


「そこは入荷する物によるさ、ではこれは貰っていくぞ」


 金を支払い黒棒を担いで外へ出て、私のいくべき場所は……。戻るか? あのオンボロ寮に……。金はあるのだからこのまま以前泊まっていた高級宿屋へ行けなくもないが。


「いや、弟子の環境に合わせてやれないでなにが師匠だ」


 本番は明日から、カリキュラムはばっちりだ。後はレオンのやる気しだいだな。

 それにしても、なんだろう? なにか大事なことを忘れてるような気がするんだよなぁ……。






カンカンカン!


「う、うわ! なんだ!?」


「さぁさぁ朝だ! 特訓だ! その前にメシだ!」


 修行本開始一日目、リア方式で目覚めの合図。

 早寝早起きは健康の基本。健康な体には質のいい魔力が生まれる……ような気がする。


「し、師匠、早いですね」


 とりあえず腹が減っているので、さっさとレオンを起こして一緒に飯を食べに行きたかったのだ。


「というわけでレオン、食堂に案内してくれ」


「は、はい、わかりました」


 あせあせと狭い部屋の中で着替えを済ます。数分もしない内に食堂へ到着。他にも早い奴らがちらほらと見えるな。


「さて、何にするレオン」


 まずは食生活をチェックだ。


「あ、僕はいいです……お金ないんで」


「なに、じゃあいつもは何食べてんだ?」


 私の質問にレオンは答えづらそうに俯く。


「僕のことは気にしないでいいですから、どうぞ食べてください」


「だが食べないと力が出ないだろう。ここは私が出してやるから選べ」


「いえ、いいんです。これ以上迷惑をかけられません」


 頑なに私のおごりを受けようとしないレオン。意地でも私に払わせたくないようだ。……こちらもなんだか段々腹が立ってきたぞ、もうなにがなんでも食わしてやる!


「おばちゃん、安くて沢山食べれる定食二つお願いだ!」


「え? し、師匠!」


 慌てふためくレオン、だがもう頼んでしまったものはしょうがない。この勢いはもう誰にも止められないぞ!


「はいお待ち!」


 ドドンとお盆が二つ、その上には大盛りの食事が乗っかっていた。結構豪勢だがこれで一つ20ルードという安さ。


「ほら行くぞレオン」


「あ、ま、待ってください師匠!」


 そんな私達の様子を見ながら端の方でヒソヒソと話す者達がいる。大抵はレオンへの批判だな……ま、そんなもの気にしたところで面倒くさいだけだ。


「うし、いただきます! ガツガツムシュムシャモグモグ!」


 うめぇ! なんと実はこの定食、主食が米なのだ。日本の米とは若干違うがとにかく米だ。

 この世界で米が普及し始めたのもやはり勇者の影響が強いらしい。ま、日本人なら当然だな。

 しかし、あまり好んで食べる人は少ないようだ、そのおかげで安くておかわり自由なのは今の私にとっていいことだがな。


「あ~、これで醤油や味噌汁、梅干なんかもあったら最高なんだけどな」


「……」


 私が楽しく食事をしている目の前、レオンは未だに食事に手をつけず暗い顔で俯いていた。


「師匠……やっぱり僕は……」


 ここまできてまーだうだうだ言ってんのかこいつは。


「レオン、これは師匠命令だ、食え」


「で、でも……」


「いいからとっとと食えい!」


 私の強い押しに負け、少しづつご飯を食べ進めるレオン。すると、その顔から突然ボロボロと涙がこぼれだした。


「う、どう……して」


 こいつの過去になにがあったのかなんて私にはわからない。だが、この涙を見ればどれだけ辛く苦しい思いをしてきたかはわかる。


「泣きたい時は我慢するな、思いっきり泣けばいい。心配するな、必ず私がお前を一人前以上の魔導師にしてやるさ」


「ばび! ……ズズ、よろびぐおべがいじまふ!」


 さぁ、これを食ったら特訓開始だ、ン熱血指導でガンガンいくぜ!




修正しました(10章時点)


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