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67話 魔導師の街


 次の日、私達は『巨人の爪痕』を抜けた先の町で一泊し英気を養うこととした。その町からは馬車を使うことができたので、馬車に乗ってゆったり移動。

 そして、ついに中央大陸東部で最も栄えている都市『ブルーメ』に到着した。


「おお、ここがブルーメか。なんというか……凄いな」


 中央大陸の東部地方に存在する首都『ブルーメ』。巨大な城門ついにその場へ足を踏み入れた私が最初に見た光景はこの世界に来てからかつてないほどの賑わいだった。


「ほれ、止まってないでサッサと行くぞ」


 ジオに急かされ歩みを進める。

 まったく、もう少し鑑賞させてもらってもいいじゃないか。


「いやー、凄いなここは。大きいだけでなく道が入り組んでいてまるで迷路だ」


「そうですね、私も初めて来た時は迷っちゃって。でも、そんな時先輩が声をかけてくれたんです」


 ほほう、それはなんともベタな出会いを……。


「お前……よくそんなこと覚えてんな」


「忘れられませんよ、あの後ギルドに行った後も何かと先輩と一緒でしたし」


「ふん、その度に面倒くさいことが起きてこっちはいい迷惑……」


ダンダンダン!


「って何やってんだお前、壁なんて叩いて?」


 うるせえ! もういいよそういうどこかで見たようなパターンの恋愛は! 私がしたくてもできないようなイベントをなんでどいつもこいつも涼しい顔して起してるんだよ!

 しかも等の本人達はあーだこーだとうだうだしやがって、もう付き合えよお前ら!


「ワフゥ(ご主人……哀れっす)」


 くっ、そんな目でこっちを見るな犬。いいだろう……私も(精神は)大人だ、ひとまず冷静になろうじゃないか。


「ふぅ……すまんな、ちょっとハエがうるさかったもんで」


「は、はぁ……。と、とにかく急ぎましょうか、ムゲンさんも待ちきれないようですし」


 どうやらイレーヌは私が早くギルドに行きたいのに無駄話をしてしまった、と思ってしまったようだ。


「いや、別に急かしてるわけじゃないんだ。私としてももう少しこの辺の店も見て回りたいかなと思っていたし」


 街がでかいということは当然店も比例して大きいものが増える。実際今私達が歩いているメインストリートのような道にはあれやこれやと所狭しと店が立ち並んでいる。


「んなもんギルド行った後にいくらでも見れるだろ。魔導師になりゃあ値段だってまけてくれる店も多いし」


「まぁまぁ、ちょっとだけいいじゃないか」


 少しだけ道を逸れて近場の店を覗いてみる。


「いらっしゃいあんちゃん、うちのはどれも一級品だよ」


 私が店に入ると店主の親父がずいっっと寄ってきた。

 店内に並べられているのは様々な種類の剣や盾、鎧などが陳列されている。ということは……。


「ここは武器屋か」


「おう、旅の前にはこの『アレックスの武器屋』で身支度を整えるのが正解だぜ。しかしあんちゃん体細いな~、そんなんで武器振るえんのか?」


「いや、私は魔導師だからあまり重い武器は必要ないんだが」


「なんだ、魔導師さまだったのかい。杖や法衣なら別の店の方が品ぞろえがいいぜ」


 なんとなくで入った店だが、気さくな店主だ。あくまで自分の店の商品を売り付ける輩と違ってキチンとアドバイスしてくれる。

 お、よく見ると店頭に商人ギルドのマークが見えるな。あれは、以前第二大陸のルーベンス商会がつけていたのと同じものだ。


「おっさん“大商人”なのかよ」


「ま、この道30年こつこつやってだけどな。それよりお前は冷やかしに来ただけなのか?」


「ああすまん、ちょっと見てみたかっただけ……おや?」


 店の中にちょっと気になる武器を発見。この黒い鉄棒はもしや……。


「ん、そいつが気になるのか? お目が高いな、そいつは建制ギルドが最近開発した槍なんだが、ちょっと特殊な素材を使っていてお前さんみたいな……」


「そのようだな。なるほど、今の職人にもここまで加工できるほどの者がいるのか」


「って、なにぃー!?」


 私が槍を持ってまじまじと調べている姿を見ておっさんは驚愕していた。

 よし、構造も大体把握したし元の所に戻しておくか。


「よっと」


ドズン!


 槍を置いた場所が若干へこむ、おっさんはまだ信じられないといった感じでこちらを見ていた。


「お、お前一体……」


「おい、いつまでいる気だ。さっさと行くぞー」


 店の入り口からジオの急かす声が聞こえてくる。ちょっとのところがそこそこ居座ってしまったからな。


「すまんジオ、今行く。じゃあなおっさん、いいもの見せてもらったよ」


 そのままおっさんはポカンとした表情で私を見送っていた。




「中々面白かったな」


「ワンワン?(ところでご主人、あの店主はどうしてあんなに驚いてたんすか?)」


「まぁあの槍を私がいともたやすく持ち上げていたからだろうな」


 店主が説明したようにあの槍には特殊な材質が使われている。

 通称“魔隕石グラビティストーン”……これも地球ではまずお目にかかれない鉱石だな。


 この鉱石はマナを溜めこむ性質を持つ。そして溜めこんだマナの総量に比例して鉱石の重量が増え、硬くなっていくというとても不思議なものだ。

 “反魔力物質アンチマジックマテリアル”ほどではないがこの世界では貴重な鉱石の一つにあたるものだな。

 ただ、この鉱石は溜めこむだけで放出する機能はまるでない。昔、誰もがこの鉱石の使い道を探ろうと躍起になってはいたが、どうしても見つからず出来たのはただただ硬くて重~い武器だけ。


「ワウ? ワウン(それ使える人いたんすか? あ、でもご主人はさっき軽々持ち上げてたっすね)」


「そう、この物質は選ばれた者のみが使える伝説の鉱石……などでは決してなく、ただ中に内蔵されてる魔力と波長を合わせただけだ」


 そう言ってしまうと簡単なように聞こえてしまうが、実はそんなに簡単じゃない。この鉱石と波長を合わせるにはある属性を使えなければならないからな……。まぁこの話はまた今度でもいいだろう。

 それよりも街だ、さっきから辺りを見ているが色々と気になることも多い。


「ふむふむ、よく見ると先ほどから人属以外の種族もちらほら見かけるな」


 亜人…私にとっての獣人や鳥人、ドワーフもいるな。

 おっ、よく見るとエルフっぽい人もイレーヌ達と似たような格好をして歩いているな。


「この街……というより魔導師ギルドは様々な種族を受け入れていますからね。各所から魔導師になりたいという人は後を絶ちませんよ」


「それに人属以外はギルド内にある魔導師養成学院の入学費なんかが諸々半額だからな」


 なにっ!? そんなサービスがあったのか。でも私は人族だから関係な……あれ、異世界人ってどこに分類されるのだろうか? うーん、体の構造的に人属と変わらないのかな。

 しかし、逆に考えるとそれだけ今の世の中では人属以外はあまりいい立ち位置にはいないということだ。


「まぁつまりは、魔導師ギルドには様々な種族が魔導を高めるために集う素晴らしい場所なんだな」


 私は期待を膨らませながら二人の方へ向き直る。

 だが、ジオはなぜかあまりいい顔をしていない、一体どうして?


「ま、それでも大金持って押し寄せてくる見栄っ張りな貴族の輩の方が多いけどな……」


「先輩……」


 ……そうか、この世界では自分の子に“魔導師”という箔をつけることがよくあるという話は聞いたことがある。

 そのせいで傲慢な貴族の子供が他人を見下したり、魔導師になれなかった親がギルドに文句を言いに来たりと問題は多いとのこと。


「ジオは貴族が嫌いなのか?」


「全面的に嫌いってわけじゃない。ただ、時々無性に腹の立つ輩がいる時に嫌な気持ちになるだけさ。自分の非や、実力の無さを認めず威張り腐ってる野郎共がな」


「……」


 ジオのいらつきに対してイレーヌがなんとなく萎縮してるように見える、気のせいか?


「……悪りぃイレーヌ。お前がいる前でこんな話しちまって」


「いいんです先輩、私あの家のことはもう気にしてませんから……」


 えっと、なんだか話が私にわからない方向に進んでいる気がする。


「あっ、ごめんなさい、ムゲンさんにはわからないでしたね。実は私、貴族の家の出でして……。でも親の反対を押し切って夢だった魔導師になったんです」


 ふむ、そのせいで家から縁を切られたということか。


「私の家はこの中央大陸の三大国の一つ、『シント王国』にある強固な人族主義派の貴族だったので……」


「シント王国の上層部はそのほとんどが人族主義派の牙城とも言えるとこだ。だから色んな種族が入り交じるこの街のことを毛嫌いしてる連中が多いんだよ」


 人族主義派の国『シント王国』か……。

 この世界に来てから何回かその名前は聞いたことがあったな。


「とにかく、こんな話はもうお終いだ。ほれ、もう魔導師ギルドは目前だぜ」


 ジオの指差す先、そこにはまるでお城と見間違うかのように巨大な建物があった。まだそこそこ距離はあるというのにここからでもその広大さがわかる。さらにそれだけではない、これは……。


「凄いな、敷地内のあちこちから魔力の反応がするぞ」


 まるで前世に戻った気分だ。なんだかオラ無性にワクワクしてきたぞ!


「ふふ、嬉しそうですねムゲンさん」


 おっと、顔に出てしまったか。だが仕方ないだろう、この懐かしい感覚をまた味わうことができたのだから。

 こういった感覚は日本では味わえないからな、そこはこの世界に飛ばされて良かったと思えるところだ。


「それじゃあ中に入るぜ。中は広くてちょっと入り組んでる場所もあるからな、はぐれないよう気をつけろよ」


 ついに“魔導師ギルド”へと足を踏み入れる。

 この場所を私が元の世界へ戻るための足がかりにしてやるさ!






 ギルド内部は広い、とにかく広い。一番手前の施設、新人から熟練の魔導師達がここで仕事をもらい、研究の開始や、別地方や大陸に向かっていく。依頼の斡旋場というところだな。

 そして窓口には可愛い受付嬢! よし、まずは一人ひとりチェックだ……おや、あそこの受付嬢がこちらを見ているぞ。

 まさか、目と目が合う瞬間好きだと……。


「ジオ、イレーヌ、お帰りなさい!」


 うん、そっちだよな。


「はい、ただいまですマレルさん」


「こっちは相変わらず変わりないようだな」


 マレルと呼ばれた受付嬢と仲よさげに話す二人。

 うーん、こうやって見てると私も早く友人を作って和気あいあいと話をしたいものだ。


「もしかしてその子が例のはぐれ魔導師くん? ……あれ、でも確かエルフの少年だって言ってなかったっけ?」


「そいつはいるにはいたらしいんだが、こいつの話を聞く限り引き抜きは無理そうだ。で、代わりに連れてきたのがこいつって訳だ」


 そんな仕方なく連れてきたみたいな言い方しなくてもいいだろ。


「でも、ムゲンさんも相当な使い手ですよ。私も負かされましたし」


「ええ!? イレーヌを! にわかには信じられないわね……」


 疑いの眼差しでこちらを見るマレル。イヤン、そんなに見つめないで恥ずかちい。


「とにかく、上にはすでに通信石で伝えてある」


「じゃあディガンさんのとこ? うわー、いきなりあの人と顔合わせだなんてツイてないね君」


 アハハ……と、苦笑いを浮かべるマレル。

 それにジオとイレーヌも顔は笑っているがあまり乗り気ではないようだ。


「なんだ? そんなにヤバイ奴なのか」


「ディガンさんはこの魔導師ギルド事実上のナンバー2で凄腕の魔導師なんです」


「豪快な性格で気さくな人だけど、自由奔放でやりたいことをやる、つまらないことはやらない。趣味は気に入らない奴を潰すこと」


 いいのか? そんな奴がナンバー2で……。


「ま、それでも実力は折り紙つきだからな。強化と防御の魔術が得意で単騎で接近しながら近距離で魔術をぶっ放す常識外れな戦い方をする」


 ん? なんだ、急に親近感が湧いてきたぞ。

 でも常識外れか、まぁ普通そうだよな……実は前世でも超近接で戦う奴は多くなかった。進んで敵の的になりたい輩なんてそうそういないからな。


「つー訳で今からその人のとこに行く。印象を悪くしないよう気をつけろよ」


「それでマレルさん、ディガンさんは今どちらに?」


「うーん、わかんない。今日はギルド内にいるってのはわかるんだけど……。誰かディガンさんがどこにいるか知ってるー?」


 その言葉に受付にいた全員が首をぶんぶんと横に振る。誰も居場所把握してないんかい! 自由な奴だなそいつ……。


「あっ、あの人なら学舎の方でお酒飲んでましたよ」


 お、ナイスだ通りすがりの魔導師くん。

 しかし真っ昼間から酒か……うーむ、なんだろう、だんだん他人とは思えなくなってきた。


「まったく、なんであの人は学舎なんかで飲んでるんだか。とにかく行くぞ」






 ところ変わってここは魔導師ギルド学舎。

 この場所はまだギルドに魔導師と認められていない者、いわゆる見習い魔導師達が“魔導”を学び高めていくために設立された、まさに“魔導師養成学校”とも呼ぶべき場所だ。

 今まさに校庭のような広場で同じ服を着た大勢の少年少女達が魔術の練習を行っていた。


「あ、ディガンさんいました!」


 そんな中、広場の端で安楽椅子に座りながらゆったりとした姿勢で酒を飲む初老の男がいた。くそ、あの酒凄く美味そうだ……。

 ジオよりもがっしりとした体格に髪の毛まで延びた髭はまるでライオンのたてがみのようだ。


「ん? おお、ジオにイレーヌか! やっと戻ったのか、遅かったな」


「遅かったな……じゃねぇよ。あんたこんなところで何やってんだよ」


「見ての通り学徒達の練習風景を肴に酒を飲んでいるだけだ。一生懸命な生徒達の姿は見ていて飽きんものだ、ガッハッハ!」


 椅子から立ち上がりおおらかに笑う。なんというか、これだけで大物って感じの雰囲気が漂ってるなぁ。


「お、その小僧がお前の報告にあった代わりのはぐれ魔導師か!」


 さっきから代わり代わりって……そう何度も言われるとなんだか私が弱いように言われてるみたいで気分がよくないぞ。


「どうも、魔導師ギルドのナンバー2さん。“代わり”にやってきた無神限ことムゲンだ。だが代わりといっても私の実力をそこらのはぐれ魔導師と一緒にしないでもらいたい」


「ほう……」


 この男は強い、見ただけでわかる。体から感じられる魔力は強く洗練されている。総量もすさまじい、今この場にいる誰よりも多い……無論、この私よりも。

 てかこいつ七皇凶魔とタメ張れるんじゃね? 凄ぇな。


「えっと、それでどうでしょうディガンさん? ムゲンさんをギルドへ加入させるのは……」


「別にかまわんぞ」


 軽っ! 即決かよ。


「いやディガンさん、決断早すぎないすか!? もう少し実力を見るための試験とかないんすか?」


「はぁ……お前ら、それだからまだシルバー止まりなんだよ。せっかくオレがお前らの目を養わせるために勧誘の仕事を与えてやってるっていうのに」


「え、それってどういうことですか?」


 なるほどね……。このおっさん、その豪快そうな見た目とは裏腹になかなか考えてんだな。


「どうやらそっちの小僧はわかってるみたいだな。あと失礼なことも考えてるだろ」


 感も鋭いようだ……。


「ど、どういうことなんですか?」


「どういうこともなにも、こいつの魔力を見れば相当の実力者ってのがわかる。ま、お前らよりかは数段上だな。それにあったすぐそばからオレの魔力を見て実力を判断できるくらいだしな。お前らもこのぐらいは出来るようになってほしいもんだが……」


 つまり、二人に勧誘をさせていたのは他人の魔力を見る目を養わせるためということだ。こう見えて意外と結構部下思いな奴なんだな。


「それで、私はギルドに加入できるということだが。ランクは一体どうなるんだ? 私の実力はわかってくれていると思うが」


 少なくとも二人よりは強いということはシルバーランクは確実かなー。


「いや、全部オレが決められるって訳じゃないからな。まずはブロンズ、それも最初の30日はこの学舎で講義を受け、最後に簡単な試験がある。まぁ試験の方はオレの権限でなしでもいいが」


 ええー、なにその会社の研修期間みたいなの。


「私としてはさっさとランクを上げて自由な研究をやりたくてここへ来たんだ。もっと手っ取り早い方法はないのか?」


「オレは別にかまわんのだが……ギルドとしては、勧誘したはぐれ魔導師には一度ギルドのやり方を教える、というのが決まっている。オレも面倒臭いと思うんだが、ギルドマスターの奴がうるさくてな」


 うーむ、ささっとランクを上げて早く“特異点”の研究を進めたかったのに。

 だが仕方ないか、時間はかかるがディガンに実力はわかってもらえてる……私のスピード出世は約束されてるようなものだ。


「ま、いいか。魔導師ギルドの授業も少々気にはなるし、ここは素直に受け入れ……」



「うわあああああ!?」



 えっ! なに!? 突然校庭の方から悲鳴が聞こえてきたぞ。

 超えの聞こえた方へ視線を向けると、どうやら後からやってきた魔導師が私と同い年くらいの少年の生徒と争い始めたらしい。


「あいつは……!」


「ジオ、知ってる奴なのか?」


「ああ、貴族出の魔導師で結構な魔術の使い手だが……ああやって一般から出てきた生徒やランクの低い魔導師に突っかかっては酷いいやがらせを行う最低野郎だ」


「そのせいでギルドを抜けていく人も何人かいたんです……」


 何て野郎だ。あ、そうこうしてるうちにあの野郎がまた生徒に対して魔術を使おうとしてやがる!


「させるか!」


「あっ! ムゲンさん!」


「ガッハッハ! あいつ、やはり中々面白い奴のようだな」




 私が到着する寸前、争いはかなりヒートアップしていた。

 いや、戦う能力の乏しい生徒にとっては争いというよりただの虐待にすぎないだろう。


「ぐ、うう……」


「ふん、貴様のような落第生がいつまでも居座っているとギルドの品位が下がるのだよ! 身の程を知ってとっとと故郷へ帰れ!」


 今度はブン、と杖を振って殴りかかる。だがそんなことはこの私がさせるかってんだ。


「やめろゴラァ!」


ドゴォ!


「ゴフゥ!? な、なんだ?」


 腹部に一発蹴りをドーン!


「弱いものイジメはその辺にしておいてもらおうか。誰にでも魔術を学ぶ権利はある、あんたの理屈で勝手に決めるんじゃねえよ」


「な、何者だ貴様! この僕を名門貴族ハグリード家の二男でありギルド屈指の実力者、シュナイダー・ハグリードであると知ってのことか」


 横っ腹を抑えながらがさごそと出したギルドカードを見せてくる。ランクはシルバー、星もかなり溜まっているな。

 だが、まぁ……。


「知らん! お前がどこのだれであろうとこんな状況を見過ごすことなどできん!」


 よく見ればこいつの後ろにも何人か取り巻きのような小物魔導師が数人。よってたかってリンチにしやがって、私はこういう輩が大っ嫌いだ!


「おいムゲン! 一人で突っ走るな」


「大丈夫、きみ? しっかりして」


 後からやってきたジオとイレーヌが被害を受けた生徒の介抱をしてくれてる。

 そこまで酷い怪我ではないようだ、よかった。


「おやおや、誰かと思えば木偶の坊のジオに貴族の地位を捨てた愚かなイレーヌのコンビか……」


「シュナイダー、テメェなんでこんなことを!」


 今にも飛びかかりそうなジオだが、イレーヌがそれを抑止する。

 あまりカッとなっては相手の思うつぼだからな。


「なに、君らも知ってるだろ? そこの庶民の落第生は何度も試験を落ちているというのに諦め悪くいつまでもここに居座っている。そういったら突っかかってきてねぇ……僕はちょっと反撃しただけだよ」


 こいつ、なんて白々しい。どう見てもこいつがイジメていただけなのに、周りはこいつを恐れて口を出そうとはしない。


「君達がいるってことはそいつはどっかから連れてきたはぐれ魔導師ってとこか。まったく、新人教育くらいしなよ」


「教育が必要なのはむしろ貴様の方だと思うがな」


「なんだとこのガキ!」


 いいぜ、こっちはいつでも戦闘準備万端だ。たとえ問題行為として魔導師ギルドに入れなくなったとしても、そのせいであの少年が酷い目にあうのは見ていられない。


「ふん! どうやら俺を本気で怒らせたようだな。覚悟しろ身の程知らずが!」


「上等! こちとら貴様程度に……」


「やめんか貴様らああああああああああああ!!」


 うおお!? ものすごく馬鹿デカイ声……これは、ディガンか。

 早くも怒られてここを去らねばならないかもな。


「お前ら、そんなに暴れたいならオレが最高の舞台をセッティングしてやる!」


 って止めるんじゃないんかい! しかしそれならばこちらとしても願ったり叶ったりだ。

 このいけ好かない三流魔導師を倒して私の実力を認めさせられるからな。


「これはこれはディガンさん、お久しぶりです。ところで、そろそろあなたにも僕のゴールドランク昇格を認めてもらいたいのですが? あなたの一声があれば流石にあのギルドマスターも承認してくれるでしょうし」


 こいつ、こちらのことなどもうどーでもいいといった感じでディガンに媚びを売り始めた。


「え、やだ。オレお前嫌いだし」


 こっちはこっちでハッキリ言うねぇ。うん、やはりこの男とはかなりウマが合いそうだ。


「ぐ……」


 スッパリ言い切られたシュナイダーくん。

 やーいザマーミロ。


「だが、チャンスをやろう!」


「おお! 本当ですか!」


 チラッと、ディガンの視線が私を見る……なるほど、なんとなくだが私にはディガンの考えがわかったぞ。

 それなら私も望むところだ。


「今より二日後、この小僧と貴様が魔術決闘を行い、勝った方にゴールドランクに昇格する権利を与えてやろう!」




修正しました(10章時点)


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