57話 サティの過去
今回はレイ視点から始まります
「なん……だって?」
アジトへの襲撃、あの時の新魔族、サティの姿、負傷した仲間、サティへのプレゼントを落としてしまった、エルフ族狩り、なぜリヴィがここに、同朋の復讐、サティへの告白、地下の人々を助ける、父親との別れ、ぐ……!
頭の中で様々な思考が浮かんでは消え、もはや何が何だかわからない。
「いやー、しっかし今までどこで何してるのか心配だったんだよ、連絡もつかないしさ。でも、この間領主の屋敷にかすかに残っていた炎の魔力を調べたらすぐに君のだってわかったからここらを飛び回って探したんだよ」
「ッ! 白々しいことを!」
サティがリヴィに対して切りかかる。その姿はまるで炎を纏った悪魔のよう……。
俺はその姿を恐ろしくも美しいと思いながらただただ見てることしかできない。
「おおっと! 危ないなぁもう。昔馴染みになんてことするのさサティアン! でも、その様子じゃまだ全快ってわけじゃなさそうだね」
「黙りなリヴィ! アタシが力の大半を失ったのはお前の策略のせいだろ!」
「いやだなあ……あれは事故、事故だったんだよ」
もう止めてほしい。サティがリヴィと話せば話すほど、リヴィの話の信憑性が増してくるような気がするようで……。
俺がこうして放心している間にも二人の小競り合いは続く。ムゲンは二人の戦いの余波を防ぐのに精いっぱいだ。サティが攻め、リヴィがそれを受け流す。
炎と水、対照的な力を扱う二人の力はほぼ互角……いや、若干リヴィの方が余裕があるように見える。
そんな戦いの最中、リヴィが辺りをちらっと見渡す。そして、ニヤリと笑う……何かいいことでも思いついたかのように。
「いやー、しかし君にしてはいい案を思いついたよねぇ……」
「何のことだ!」
「何って? この奴隷共のことだよ」
リヴィはサティのおお振りを避け高く上昇する。
そしてここにいる全員を見て言い放つ。
「君の力は怒りだ、他者の怒りを吸収して自らの力を回復できる! 奴隷共は怒りがたっぷり詰まってるからねぇ。さらにその怒りを取り除いてやったことで自分を信頼する便利な兵を増やすこともできる。まさに一石二鳥じゃん!」
リヴィのその言葉に団員達がざわつく。
「ち、違う……アタシは、そんなつもりじゃ。リア、ムゲン……」
しかし、強く否定はしない。それはなぜか……嫌だ、俺はもうここにいたくない。
もう、この場所に……。
「ッ! レイ、待ってくれ! アタシは……」
気づいた時にはもう走り出していた、何も聞こえない、何も聞きたくない。
俺にできることは一目散に走るだけ。俺は、俺は、どこに行けばいい……。
「くそっ! やっぱり嫌な予感というのは当たるものだな!」
サティの攻撃が止むと同時に戦いの余波も収まる。流石にあのレベルの戦いともなるとその余波だけですさまじいものがあるな。今の私ではどうにか皆に被害が及ばないようにするのが精いっぱいだ。
しかしサティが新魔族……それも七皇凶魔の一角だったとは。その事実に団員の皆や長年付き添ったリアですらも動揺している。先程のリヴィのセリフ、サティは自らの力を取り戻すために団の皆を利用していた……と。
"色欲"、"嫉妬"、"憤怒"……これらを見るに、現代世界で言う七大罪がモチーフってとこだろうか。その中でサティは"憤怒"……怒りを司る。
もし本当にサティが他人の怒りを利用して力を回復できるというなら違法奴隷というのはまさにうってつけの存在だろう。理不尽な仕打ちに溜まっていく怒り……それを解放し思いっきり吐き出させてやれば。
「いやー、しかしよかったよ。ぶつかりあいになる前に君とこうやって話し合えてさ」
リヴィはこちら側の動揺などお構いなしにそのままの調子で喋り続ける。
「どういうことだリヴィ!」
「君の狙いは今回領主達が計画していた『エルフ族狩り』に自分の部隊をぶつけ、そこから発せられる沢山の怒りのパワーで完全復活しようってことだろう?」
「なっ! そ、そんなこと……」
「でも、考えなかったことはないだろう?」
あいつ、ないことないことよくもまぁペラペラと出てきやがる。
だがマズいな、今の言葉で団員の皆が明らかにサティに対する疑惑が生まれてしまった。
「お頭、まさか」
「本当に、俺達を利用して…」
「ち、違う……アタシは、ただ……」
サティからも覇気が消えていく。だがそんな彼女とは逆にリヴィはニヤリと顔を歪ませ語りだしていく。
「でももうそんなことする必要はないよ。ボクのとこにくれば怒りを溜めた魔導鎧用のエサが沢山いるからね。そいつらからたっぷりエネルギーを吸い取ればいいよ」
地下にいた違法奴隷の人達のことか!
人を餌呼ばわりしやがって。
「そうだ、ついでにそこにいる奴らも魔導鎧の餌にしようよ。そしたらもっと質のいい怒りのエネルギーが出るんじゃないかな。フルパワーのボクらがいればこの大陸は手にしたも同然だ!」
皆の顔がさらなる不安の色に変わっていく。そんなことはないと信じていても心のどこかで裏切られるかも知れないと感じている。
「でもそこの魔導師君以外あんまいい魔力を持ってる奴はいないねぇ……。おや?」
リヴィはこちらを見たあと何かに気づいたかのように視線を横にずらす。
そこには……。
「かなり高い魔力反応……そこのエルフさん? いや、君は普通だ……ってことは、その後ろで隠れているお譲ちゃんか!」
リヴィがミミの存在に気づくとこちらに向かい急降下してくる。
狙いはミミ、他の人達は全員動揺状態なのでまともに対応できるのは私だけだ。
だが場所が場所なだけに大技は使えないか。
「くっ! させるか、『雷反盾』!」
即興で雷の壁を出現させる。
この盾は触れたものに電撃を浴びせ返すものなのだが……。
「アハハ! 無駄無駄ァ! 『水の鉤爪』!」
水の爪を装備したリヴィの腕が私の魔術とぶつかる。
「ぐうう!」
こちらは先程までの余波の防御で力を大分使ってしまっていた。向こうも消費しているはずだが……まだここまで力の差があるか!
バギャン!
盾に魔力を注いでもその寿命が数秒伸びただけにすぎず、抵抗虚しく破壊されてしまった。
「ム、ムゲンく……きゃあ!」
リヴィの腕はそのまま伸び、リアを押しのけるとミミを掴んで急上昇する。
「三日後の『エルフ族狩り』に向けて最新の魔導鎧の餌をどうしようか悩んでいたけど……これはいい拾い物をしたなぁ」
「うええええん!」
「ミミ!」
「ミミちゃん!」
そのまま飛び去って行くつもりか! させるかっ!
ケルケイオンのブーストで魔力は若干回復した、もう一発いける!
「『岩石鎖』!」
広間の壁という壁から石でできたチェーンを生み出す。
これでミミだけでも掴めれば!
「だから無駄だよん。『流水膜』」
チェーンがリヴィを覆った水の魔術に触れると ズルン と滑るように通り過ぎ捕えることができない。
その間にもどんどん上昇していき、ついにはチェーンが届かない場所に……。
「今日はこの辺で帰らせてもらうよ。じゃあねサティアン、いい返事を期待してるよ~」
「待て、リヴィ! ミミを、ミミを返してくれ! ミミいいいいい!」
まるで嵐の過ぎ去ったような静寂が広間を包む。この場にいるのは、足元から崩れへたり込んでいるサティと疑惑の思いが渦巻く団員達だけ。
サティはもういつもの姿に戻っていた。だがここにいる全員が見てしまったサティの本当の姿。新魔族としての姿が真実であったことが頭から焼き付いて離れない……。
「ごめん、皆」
サティが話し出す……顔を上げず、でも申し訳なさそうに。
「アタシは、新魔族だ……今まで隠しててごめん。それに、あいつが言ったこともあながち間違いじゃない」
皆声が出せないでいた。
「で、でも! サティは私達を助けてくれた! 今までだって色んな人を助けたりしたじゃない!」
リアが前に出て言い放つ。
しかしそれでも皆の表情は暗い。
「それでも、騙していたのは事実だ……。アタシは出ていくことにする、予定していた領主への襲撃も一人でやることにするからさ」
そう言いながら足を出口の方へ向かわせる。
その途中、キラリと光る小さな首飾り……レイのプレゼントの前で足を止める。それを拾いあげ、彼女は宣言した。
「今日で……“紅の盗賊団”は……解散だ」
「待て、サティ」
「ムゲン、リア……」
アジトを出てすぐのところで私とリアがサティに追いつく。
「リア、今まで迷惑かけてごめん、それももう終わりだから。ムゲンもごめんな、魔導師ギルドに入るまで面倒みてやるって言ったのに……」
「そんなことはどうでもいい」
そんな話は二の次だ、今はもっと聞きたいことがある。
「あと、ミミは必ず助けるから。力さえ解放すればアタシ一人でもなんとか戦えるだろ」
「違う、だからそういうことを聞きたいんじゃない」
「私は、あの時のサティを見て……少し、怖かった。だけど、もう大丈夫。だって五年間も一緒にいたのよ、どんなことでも受け入れるわ」
リアの瞳はまっすぐサティを見つめていた、以前父親と対話した時のようにしっかりとした意思を持って話している。
「だから、全部教えてほしいの、サティのこと」
「リア……」
サティは私達を交互に見ると、観念したかのようにストンとその場に座った。
「わかったよ、そのかわりちょっと長くなるからな」
私達もその場に座り話を聞く態勢になる。
そして、何かを決心したかのような顔をしてサティは話し始めていく。
「あんまり自分の過去は人には言いたくないんだけどな」
「私だって話したことあるんだからこれでおあいこでしょ?」
「むぅ、まぁいい。アタシが生まれたのは、えっと……今から500年とちょっとくらい前だったかな。第六大陸でな」
「ご、500!?」
その数字にリアが驚愕する。まぁエルフ族だって普通の平均寿命は300歳前後だからな。私は2000年生きた記憶があるからそんなに驚かなかったが……。
「そんなに驚くなよ、新魔族は寿命もまちまちなんだから。見ろ、ムゲンはそんなに驚いてないぞ」
「まぁその可能性も考えてはいたからな。私としては寿命よりもこの世界で生まれたことの方が驚きだな、新魔族は皆別世界からやってきたものだと思っていたから」
「あー、そういう認識が強いのか。そういうのは本当に古参な奴だけで今はほとんどがこっちで生まれてるよ」
「なるほどな、続けてくれ」
「おう。昔のアタシは……とにかく戦っていた。人族、というかこの世界の人間が嫌いだったから。“七皇凶魔”の一角"暴食"の下でね……最古参の新魔族の一人さ」
ふむふむ、そいつの下で戦っていたってことは同じ七皇凶魔であっても一応の上下関係は存在してるんだな。
「沢山の人を傷つけた…。でも500年前に魔王と呼ばれていた七皇凶魔、“強欲”のマーモンが勇者に倒されてから新魔族は勢いを失ってね。故郷では一人血の気の多い人が今も戦い続けてるけど、勢いづく人族達に優位に立つことはできなかった……。アタシはそれとは別口で戦って七皇を目指して、いろいろあって今に至るってわけさ」
そういえば今は第六大陸に押し込められ進行を抑えられてるって聞いたな。しかし勇者に倒された魔王ってのも七皇凶魔だったのか。つまり新しい“強欲”がいなければ残りは六人ということになる。
「そんな中、五年前に七皇主体である作戦が立てられた。極秘裏に作られていた転移装置で先に他の大陸を支配し勢力を伸ばそうって。んで、それに賛同したのがアタシとリヴィと"色欲"の三人だったわけさ」
五年前……なるほどな。そして“色欲”……アリスティウスか。
残る七皇のうち、確か一人はどっかの大国と戦い続けてるってのを聞いたが、あとの一人はどうしたんだろうな?
「“色欲”は一人部下を連れて第三大陸へ。アタシとリヴィはこの大陸へ。そん時におかしいと思うべきだったね、あいつがアタシのことを罠に嵌めようとしていることに」
確かに、“七皇凶魔”は一人でも強い力を持つ、わざわざ同じ場所を攻めるのは効率が悪い。
「なんで仲間割れなんか……」
「あいつはアタシのことが気に入らなかったらしいんだよ。えっと、実はアタシって新魔族と人族のハーフだから……そんな奴が七皇にいるのが嫌だったんだろうね」
なに!? は、ハーフ! そんなのもいるのか……初耳だぞ。
「それでリヴィは転移装置にちょっと細工してたらしくてね。転移の時に大ダメージ……力の大半を失って転移場所もずれた。もう死ぬかもしれない…そんな時優しい手がアタシに触れたんだ」
その言葉と同時にサティの顔が暗くなる。一体何が……。
「その子は、奴隷だった。その子は主人に黙って毎日毎日アタシが回復するまで助けてくれてね。でもある日それが飼い主にばれたらしくて……次の日、その子の無残な姿がアタシの前に投げ出された」
「酷い……」
「アタシはそいつらを追いかけて怒りのあまりに剣を振るった。その時ちょうど違法奴隷商人も一緒だったらしくてね。馬車の中には……」
じっとリアの方を見つめる。まさか、その時にいた違法奴隷というのが。
「私と出会った、あの時の……」
「そう、そしてその時の解放された皆の喜ぶ顔を見て思ったんだ。彼らにはこんなにも温もりに溢れていたんだな……って」
「サティ……」
「だけどアタシは沢山の人を殺した、中にはあの子のように心優しい人もいたかもしれないのに……。だから決めたんだ、これからはあの子のような人を助けようって……新魔族としての力を使わずにね。それでアタシの罪が消えるわけじゃないけど」
それで立ち上がったのが“紅の盗賊団”か。普通とは違う特殊な盗賊だから何か事情があるとは思っていたが……まさかこんな理由だったとは。
「でも、もうそれもお終いさ」
話し終えると同時にサティはスッと立ち上がり私達に背を向ける。そして、手に握っていたレイのプレゼントをしまい歩き出す。
「待ってよサティ! 私も」
「駄目だ、アタシのケジメはアタシがつける。じゃあね二人共」
サティの魔力が高まっていく。この感じは……先程の!
「はっ!」
「うおっ!?」
「きゃあ!?」
サティは新魔族の姿になると、もの凄い勢いで跳び、ものの数秒で見えなくなってしまう。
私達はその光景をただ見ていることしかできなかった……だけで終わってたまるか! あんな話を聞かされて黙ってられる私じゃないぞ!
「リア、一つ頼まれてくれるか?」
「え?」
言うだけ言わせてハイさよならなんてさせるかよ! どんな事態も諦めないのが私の信条だ!
「さて、私もいっちょやるとしますか!」




