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56話 揺らぐ心 後編


「ムゲン!?」


「精霊の結界を越えられたの!? ていうかいつからそこに!?」


「ん? リアが事情を話し終えてレイがヒートアップしてた頃にはもういたぞ」


 結界を抜けたのはいいが、集落の場所がわからなかったので少し焦った。

 まぁ[map]を使ってみたら集落の位置もバッチリ表示されていたのでそこからは楽だったがな。便利すぎだろこの機能。

 んで、やっと辿り着いていざ話しかけようと思ったらレイが騒ぎ出したもんでタイミングを逃してしまった。まぁレイと親父さんが話してるのを見たらレイが怒るのもなんとなくわかる気がするけどな。


 で、その親父さんは今現在こちらを姿を確認して警戒してるな。


「人族……か? まさか結界を越えてくるとはな」


 親父さんが構えると周囲のエルフ達も臨戦態勢に入る。おやおや、どうやらあまり歓迎されてない様子……ま、それも当然だろうけどな。


「待ってお父様! 皆、彼は敵じゃない! 私の仲間だから心配しないで!」


 必死に語りかけるリア、だが警戒は解かれない。この集落の者達は以前被害にあった者もいるのだろう、もしくは親しい間柄の人物あたりか。

 それに『エルフ族狩り』なんて話を聞いちゃ信用しろと言う方が難しいだろう。


 どうしたものか。私だって戦いたくはないし、ここは……。


「お兄ちゃーーーん!!」


「え? ゴフゥ!」


 ぐおお、考えこんでいたから油断した。

 脇にきた、脇に……。


「ふふ、何やってるのよ、ムゲン君」


 思わず吹き出すリア、周囲を見ると警戒は薄まっていた。今のであんまり危険な奴と思われなくなったんだろう……結果オーライだな。

 あとは一人警戒をまだ解いていないあの人だが。


「お父様……」


「ふむ、まぁいいだろう。信用した訳ではないが話ぐらいは聞こう」


 どうやら最後の関門も突破できたみたいだ。

 私もミミを下ろし親父さんの方へ向き直る。


「はじめまして、外の者よ。私の名はゼノ・アンブラル、この集落の族長を務めている」


「はじめまして族長殿。私は無神限、気軽にムゲンと呼んでくれ」


「それで、私に話があるのではないのか?」


 あらら、こちらとしては友好的に話したいのにあちらさんにはそんなつもりはないようだ。


「話が直球だな。ま、私が言いたいことは大体レイが喋ってくれたんだけどな」


「俺が?」


「それは、なぜ戦おうとしないのか……ということか? それならば聞いていたはずだ、これが祖先から伝わるエルフ族のあり方だからだ」


 エルフ族のあり方……ねぇ。


「誰が戻したんだか……。ま、エルフにも色々いたからなぁ」


「何をぶつぶつ言っている?」


「なぁ、あんたら……いや、エルフ族は本当に変わろうとしないのか?」


「その通りだ、このまま変わらず過ごしていけば変わらぬ平和が続く」


 その言葉に集落の者達も頷く。リアも、なんだか表情が暗い、レイは……ムカついてんなこりゃ、わかりやすいこって。


 似たようなことが、前世にもあった。この大陸に降り立っていつか見た前世の夢……。この状況はまるでその夢の続きのようだ。


「お前達は変わらない……それでもいいんだろう。だけど、周りは、世界は、変わるぞ」


 その言葉で周囲に沈黙が訪れる。


「いくらお前達が変わらないことを選んでも周囲は変わり続けていく。それがエルフよりも短命な種族だとしてもその意志が新たな変化を生むだろう……」


「たとえ、そうだとしても、我々は今まで通りの生活を守り通せば……」


「だがその守りは常に変化していく周囲に対応できるか?」


「なに?」


 そう、その守りがいくら強固でもいつかは攻略法を見つけられるか、それより強い力が生み出され破られるだろう。そうなってしまえばその守りはもう役に立たない、簡単に破られてしまうのだから。


「世界は勝手に変わっていく。だったら変わるべきは自分達じゃないのか?」


「ムゲン……」


 周囲のエルフ達もざわつき始めた、私の話に困惑しているようだ。


「ま、あくまでこれは私の考えだ。だけど一度は考えてみてほしい、見えてる恐怖に脅えながらいつまでも過ごすのか。それとも見えない変化に立ち向かい希望を探すか」


 あとは彼らしだいだ、私から言えることはもうない。

 そして……。


「ふぅ、少しのつもりが結構喋ってしまったな。そろそろ帰ろう、早くしないと日が暮れてしまう」


 リア達の方へ振り返り集落を後にしようとする。


「あ、ムゲン君。ちょっと待ってもらっていいかな」


「ん? ああ、久しぶりの帰省だもんな、流石にこのまま帰るのは……」


「ううん、違うの」


 およ、違うのか。積もる話もあると思ったんだがな?

 リアはそのまま私の横を抜けて父親の元へ向かっていく。その瞳には、先程までの暗い雰囲気はなくいつもの輝きがあった。


「お父様、私はここには残りません。あの場所には……“紅の盗賊団”には私を必要としてくれる人達がいるから。たとえ明日がわからなくても、恐れず立ち向かっていきたいから」


 強い意志で言い放つ。

 リアの言葉は、父にも恐れず変わってほしい、私はそんな風に感じた。


「……お前がそう言うのなら、私は止めはせん」


 だが、その思いは届かなかったようだ。

 リアは少し残念そうにこちらへ戻ってくる。


「おまたせ。じゃ、いこっか」


 それでもリアは笑顔だった。もう彼らと会うことはないかもしれない……そんな選択をした上、父親の心に思いが届かなかったのに。


「変わっていくことを恐れない……か。俺も恐れずやってみるか……」


 レイの中でも何か変わったみたいだな。

 その手にはサティへのプレゼントが握られていた。


「お兄ちゃん、帰ろ!」


 こうして、私達はエルフの集落を後にした。それぞれの思いを胸に秘めて。


 ……だがこの時の私達は思いもしなかった。数時間後にあんな悲劇が起こるなんて。




 私達がアジトに戻った時にはもう日が暮れていた。中ではそろそろ対領主に志願した奴がサティの元に集ってる頃だろう。

 最初は渋っていた団員達だが、あいつらならきっと一緒に戦ってくれるだろう。なんだかんだいって皆サティのことが好きだからな。


 まぁ一番サティのことが好きな奴は言うまでもないな。

 よし、ここで最終作戦だ。仲間と指揮の上がっているであろうサティを連れ出してレイに告白させる。


「本当に大丈夫なのか?」


 不安そうな顔でこちらを見るレイ。


「大丈夫よ、きっと上手くいくわ」


 私と一緒にウキウキなリア。

 リアの言う通り、この月夜の下で「この戦いが終わったら俺とつき合ってくれ」なんて言われたらきっとイチコロだろ!え、それ死亡フラグだろって?

 大丈夫だって! きっと折れるさ!


「てな訳で早速サティを連れてくるか」


「あ、待て! まだ心の準備が……」


 知らん!

 私達はレイの静止も聞かず、一目散にアジトに入っていく。後ろからレイの声が聞こえるような気もするが気のせいだろう。


 とりあえずは皆にただいまを……ん? 何か違和感が。


「あれ? 見張りの人がいない。いつもは二人以上配置されてるはずなのに……」


 リアがいつもとは違うアジトの変化に気づく。

 私は嫌な予感がし、すぐさま魔力感知を始める。


「ッ! これは……!」


 異変はすぐに気づいた。奥の広間にいる数人の魔力が乱れている。

 それに広間に他とは比べ物にならない強大な魔力が二つ……これは一体?


「クッ! 考えてる暇はない! 走るぞ!」


 私達は急ぎ広間へ向かう。途中、片方の魔力が強まるのを感じ、それに対抗するようにもう片方も魔力が強まる。

 そして……。


ドゴオオオオオン!!!


 激しい爆音と共にアジトが揺れる。

 広間に着くと、そこには前が見えないほどの水蒸気が充満していた。


「これは一体……」


 やがて水蒸気が晴れ、視界が良好になる。だが、私の目に映るその状況は驚くべきものだった。

 いや、この場にいる人間すべてがこの状況に声も出なくなっているのだろう……。


 天井に開いた穴から見えるのは、この間私とレイを追い詰めた新魔族……七皇凶魔リヴィアサンがそこにいた。

 そしてそれと対峙しているのは……。


「サティ。あ、あなた、それは一体……」


 サティといつも一緒だったリアでさえ驚愕している。


 その姿は、私達が知るものとは全く異なっていた。頭部からは大きな双角が渦を巻いていて、髪は翼のように燃え上がり、その腰からは大きな尻尾が生えていた……。

 それは、私とレイが地下で助けられた時に見た彼女のシルエットと同じだった。


「リア、ムゲン、帰ってたの……か」


 その表情に笑顔はない。あるのは敵に向ける怒りの表情だけだ。

 一体、これはどういうことなんだ……。






 それは、ムゲン達が帰ってくる少し前のことだった。


 静まり返った広間の中心。アタシは今回の作戦についてきてくれる団員を待っていた。

 もしかしたら誰も来ないかもしれない。それでもいい、それなら一人ででもやってやる。それが、アタシの罪滅ぼしになるなら……。


「時間か……」


 日が落ち始めた、これから日が落ちきるまで待つ。

 誰も来る気配はない。やはりこんな無茶な作戦についてくる奴なんていないか。

 そう思っていると……。


「おい、早く行けよ」

「そう言うお前が先に行けっつーの」


「ん?」


 広間の出入り口からボソボソと声が聞こえる。よく見ると、何人もの団員がモジモジしながらこちらをちらちら覗いていた。


「ちょっと男共! こんなとこでウジウジしてないで行くならさっさと行きな!」


 そんな声と、ドンッと何かを蹴り上げるような音がしたと思うと、隠れたいた団員達が一気に流れ込んできた。


「お前ら、何してんだ?」


「え、えっと……お頭、俺ら」


 またモジモジし始める、正直ちょっとキモいぞお前ら。


「ああもうこいつらは! 団長、私達は皆今回の作戦に参加するためにきたんです!」


 女性団員が威勢のいい声で言い放つ。

 辺りを見るとそこには戦闘員全員が私の目の前に立っていた。


「お前ら……」


 嬉しさで涙が出そうになる。危険だって言ってるのに、こいつらは。


「皆お頭のことが好きなんですよ。だから一緒に戦いましょう!」


「ありがとう皆……アタシは、これで……」



「これで……何なんだい?」



「!?」


 団員の声じゃない!

 上から聞こえる、けどこの声の主を……私は知っている。


「やあ、久しぶりだね。元気してた?」


「なんで……お前が、ここに」


 アタシは奴を知っている。新魔族の中でも特に強い力を持った最高位の精鋭……“七皇凶魔”。その一角である"嫉妬"を司る人物が奴……リヴィアサンだ。


「あれ? 反応薄いなー。折角の再会なんだからもっと喜ぼうよ」


「貴様!」


 くそっ! 駄目だ、感情をぶつけたいのは山々だがこんな所で戦ったら皆が無事じゃすまない。


「おいおいテメェ! いきなり俺らのアジトに乗り込んで来やがって。何様だオイ!」


 団員の一人が侵入者であるリヴィを挑発する。

 マズい! やめさせないと!


「やめろお前ら! ここはアタシに任せて下がって……」


「そうそう、何割り込んできてんの? 死ねよゴミクズが」


「え!?」


 しまった! そう思った瞬間にはもう遅い。

 リヴィの乗っている水の球体、そこから高速で伸びる触手のような棘が体を貫いていた。


「ぐっ、がはっ……。い、一体、何が……!?」


 まだ意識がある、どうやら致命傷は避けれたみたいだ。

 だが……。


「ありゃ? 死んでないや。うーん面倒くさい、全部まとめて吹っ飛ばしちゃお」


 リヴィの魔力が高まる。

 あんなもの撃たれたら、皆は……。


「ふふ、死んじゃえ」


「やめろおおおおおおおお!!!」


ドゴオオオオオン!!!


 そしてアタシは使ってしまった、団員の前では絶対に使わないと決めていたこの姿を……。






 皆が困惑する中、私はなんとか冷静にこの状況を分析していた。

 この状況から察するに、作戦に志願しようと皆が集まった所にどうしてかリヴィが現れる。そのまま戦闘になったのもわかる……だが、サティのあの姿は。


「サティ……あなた、その姿は一体」


 リアが半分方針状態でサティに話しかける。


「やめろ、見るな! 見ないでくれ……」


 その姿とは裏腹に弱気な態度を見せるサティ。私には……なんとなくだが察しがついてしまった。


「アハハ! なになに、皆知らないの? じゃあ特別にボクが教えてあげるよ!」


 楽しげな笑い声と共にリヴィが上空からスッーっと降りてくる。

 この状況はマズい、早くリヴィを止めなければ。


「おい! 今の爆音は何だ! 一体何があった!?」


 マズい、レイがやって来てしまった。でもこんな異常事態じゃそりゃ来るよな普通。

 今はレイにとって最悪な状況だというのに!


「お、まだ来るんだ。ナイスタイミングだね! じゃあ言うよ……」


「レイ、来るな!」


 必死に呼び止めるが、すでにレイは広間に到着してしまった。


「これは一体……なっ!? 貴様はリヴィアサン! それに、サティ、お前一体……」


 もう、全てが遅かった。


「ジャンジャジャ~ン。今明かされる衝撃の真実! なんとそこにいる彼女こそ我らが新魔族の一員であり、最高位“七皇凶魔”が一角、"憤怒"のサティアン その人だったのです!」


 誰もがその衝撃的な発言の前に絶句する。


……カチャン


 そんな中、乾いた音が一つ。

 音の方向には放心しながら佇む一人の少年……レイがいた。その足元にはレイがサティのために選んだ大事なプレゼントが力なく転がっていた……。





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